7 Nov
2017

SPCの謎を解く

補充的保護証明書制度は現在、欧州の知財状勢の中で重要な側面となっているが、欧州司法裁判所が下した判決は明確性に欠けると批判され、実務家に答えよりも多くの疑問をもたらしている

充的保護証明書(Supplementary Protection Certificate:SPC)制度は1992年に施行されて以後、欧州の知財をめぐる状況において極めて重要な側面を構成するようになっている。しかし、各国の特許裁判所は多くのSPC訴訟を欧州司法裁判所(ECJ)に付託し、ECJの判決それ自体が明確性に欠けるとして批判を浴びている。こうしたなか、業界や実務家は、このニッチだが非常に重要な知財法の分野に関して、時として答えを得る以上に多くの疑問を抱いている。その結果、知的財産分野の中でも、SPCは今もなお頻繁に誤解を受ける領域となっている。

本章では、すでにこの分野に関心を持つ人には復習を、SPCを知らない人には基本知識を提供するために、SPCの背景と原則のほか関連する判例法について説明し、商業的な観点からSPCを捉える。

SPCとは何か

SPCは生物医薬品および農薬の特許権者に付与される独立した知財権で、当該特許によって保護される製品の保護期間を延長する。SPCは、欧州レベルではEU規則、特にEU SPC規則(469/2009)によって管理されている。各国の裁判所は、SPC規則の重要原則に関する問題が絡む訴訟についてはECJに付託しなければならない。

保護期間の延長は、規制で必須とされるプロセスによって新製品の上市が遅れた場合の、イノベーターへの補償を目的としている。販売承認という形で規制当局からの認可を取得するという要件がSPC 制度の柱である。当局は、試験から得られたデータを評価して、その製品が安全かつ有効であることが確認された場合にのみ販売承認を付与する。そのため、販売承認の取得は費用と時間のかかるプロセスとなり、製品の上市が遅れることになる。

この遅れのために、特許権者(あるいはそのライセンシー)にとって開発費やイノベーションの利益を回収できる期間が大幅に短くなることが頻繁に起こる。SPC制度が導入された目的は、この遅れによって生じる金銭的損失について発明者を補償することである。

SPCの期間とは何か

SPCによって付与される保護延長期間の長さは、SPC規則に定めるルールにより決定され、シアトル・ジェネティクス事件における最近のECJ判決においても、それが中心的論点であった。

そのルールによれば、特許期間満了後さらに最大5年の独占的保護が認められる。この年数の算定では、特許出願日から欧州連合における最初の販売承認日までの年数から5年を差し引き、年数の上限は最大5年である。この措置の意図は、SPCによって付与される追加期間として、製品が販売承認を得た時点から起算して全体で最高15年の独占期間を特許権者に認めることにあった。

シアトル・ジェネティクス事件以前は、次のうちどちらを用いてSPC期間の長さを計算するのかが不明確であった。

関連する販売承認の通知日、または

販売承認の決定日。

ECJは通知日を用いるのが正しいと判示した。これで、シアトル・ジェネティクスのSPC期間は5日間延びた。

「小児用医薬品に係る延長」が適用された場合、SPC期間をさらに6カ月延長することが可能となる。この延長は小児用医薬品の開発を促進し、報奨を与えることを目的としており、小児臨床試験計画が規制当局の満足できる形で完了した場合に認められる。オーファンドラッグ(希少疾病医薬品)ではこの追加期間を利用することはできないが、代わりに独占販売期間がさらに2年間延長される。

SPCの取得方法

SPCは国内の権利であるため、それぞれ自国の特許庁にSPCを申請しなければならない。この点は、欧州特許庁(EPO)に一括出願すれば、出願書類に記載された欧州諸国で特許が付与される欧州特許とは異なる。

SPC取得の基本要件はSPC規則第3条に次のように定められている。

(a) 製品が有効な基本特許により保護されている

(b) 製品を医薬品として上市する有効な承認が付与されている

(c) 製品はまだSPCの対象になっていない

(d) (b)で言及した承認は、製品を医薬品として上市する最初の承認でなければならない

これらのうち最も議論を呼んだのは間違いなく第3条(a)項であり、最も多くの訴訟の原因となった。SPC規則の定義によれば、「製品」とは医薬品の有効成分または有効成分の組み合わせのことである。「医薬品」とは人間または動物の疾病の治療または予防のために提供される薬物または薬物の組み合わせを意味する。しかしながらECJは、製品は多数の有効成分のうちの1つ(「唯一の有効成分」と対立している)であってもよいとする判決を下した。したがって、販売承認が組み合わせを対象としている場合でも、単一の製品(すなわち、有効成分)についてSPCを取得することができることになる。

SPC規則の下で製品が特許により保護されているか 否かの判定にはどんなテストが使用されるか

これについては、製品が特許により保護されているか否かを1つの単純なテストで評価することはできない。答えは、特許の性質(製品、製造法または機能的クレーム)、開示の範囲、クレームにおける明示的・黙示的な記載内容、発明概念によって異なる。

このトピックに関しては多くの付託がなされているにもかかわらず、ECJの答えは不明確である。一言で言えば、ECJは、合剤を対象とする基本特許のクレームにおいて製品が「特定、明記または言及されて」いなければならないと述べている。しかしながら、これがすべてのシナリオに当てはまる普遍的なテストであるかどうかは、決して明確ではない。

ECJはイーライリリー対HGS事件では、クレームにおいて有効成分がその名称で言及されていなくても、対象となる有効成分と「そのクレームが黙示的だが必然的かつ具体的に関連して」いれば、原則としてSPCが認められる可能性があると述べて一定のガイダンスを示した。英国の裁判所はこのECJのガイダンスに基づき、機能によってのみ製品を特定したクレームに基づいてSPCが認められる可能性を排除することを拒絶した。

しかし、まだ次のような多くの疑問が残る。

「特定、明記または言及されている」とは具体的に何を意味するのか。

マーカッシュ形式のクレーム(すなわち、製品が一般的な化学式に含まれることによってのみ特定される場合)はどうなのか。

製品が、ターゲットへの結合場所または結合方法のみによって定義される(すなわち、どんな数の分子でもターゲットに結合されることになる)特許はどうなのか。それらのすべてが「特定」されたことになるのか。

革新的貢献の範囲は考慮されるべきなのか。

この領域に、答えの出ていない疑問がまだ沢山ある。今後、各国の裁判所からECJへの付託が増えるとともに、これらの問題が明確化され、確実性が高まることが期待できる。

SPCの保護範囲とはなにか

SPCによる保護は特許と販売承認の両方により決定される。

販売承認は、製品が販売承認の対象である医薬品の有効成分でなければならないという意味で、製品が何かを決定付ける。特許もSPCの範囲を限定する。例えば、特許が製品の製造方法のみを保護する場合、SPCは、製品それ自体ではなく、特定の製品の特許方法のみを保護する。そのため、特許と販売承認の両方がSPCの保護範囲の限定に作用する。

しかしながら、SPCの保護範囲に入る製品は、ノバルティス対アクタビス事件においてECJが確証したように、単剤または他の有効成分との組み合わせのいずれで表記されていても保護される。

特定の医薬品について幾つのSPCが与えられるか

SPC制度では、原則として特定の製品について1つのSPCが特許権者に与えられる。特許権者は、どの特許を選択すべきか、および製品をどのように定義すべきかについて注意深く検討しなければならない。

特定の状況では、特許権者は1つの製品について複数のSPCを取得できることがある。例えば、2つの有効成分の組み合わせで構成される製品にSPCが与えられたとする。このSPCは競合する合剤に対する保護を提供する。特許権者が後にこの有効成分の1つ(単剤)のみについて特許を付与された場合、理論的にはこの単剤の製品について第2のSPCを取得することが可能である。この第2のSPCは、単剤または合剤のいずれであれ、当該有効成分を含む競合品の上市を阻止することができる。

しかしながら、最初に単剤のSPCを申請した場合、合剤については、すでに単剤のSPCによって保護されているため、第2のSPCを取得することはできない。

特許権者は、同時に販売承認の取得者ではない場合でもSPCを取得できるか

特許権者が製品の販売承認を受けておらず、特許権者と販売承認の取得者の間に商業上の結び付きがない場合はどうなるか。その場合、特許権者は第三者の販売承認に基づいてSPCを申請することはできるのか。

英国の裁判所はイーライリリー対HGS事件において、特許権者が第三者の販売承認に基づいてSPCを取得できない理由は原則として存在しないと判示した。そして、SPC規則の目的は製品の商業化だけでなく研究開発全般の促進にあると指摘した。

申請書に名称を記載する製品は有効成分でなければならないか、あるいは有効成分と補強成分の組み合わせでもよいのか

このトピックについては多数の事案がECJに付託されている。それらの事案は、主要な有効成分の効果を高めたり、徐放を補助する他の化合物が、併せて投与されるケースである。ECJの判決は明瞭であった。すなわち、追加的な成分それ自体が治療効果を持たない場合、有効成分とはみなされず、その組み合わせについてSPCは付与されない、とされた。

この判決を裏返して言えば、他の成分は、何らかの活性効果があれば、有効成分とみなされることになる(たとえ、当該物質がその活性効果のために医薬品に配合されたのではなくても)。

「市場販売」とは何を意味するか

特に著名なECJの判決の1つ(ニューリム事件)において、獣医治療の用途ではあるものの、かつて認可されて市場販売された有効成分と同じ製品にSPCが与えられ、欧州連合内で上市されたことがある。一見すると、この判決はSPC規則第3条(d)項に真っ向から矛盾するように見える。

重要なのは、この事案には2つの別個の特許と2つの販売承認が絡んでいるという点である。一組は最初の獣医用途であり、もう一組は人体用の「第2の医療用途」である。ECJはこのSPCを認めるにあたり、当局は製品、対象となる特許および販売承認の間に関連性があるか否かを検討しなければならないと判示した。かかる関連性が存在しない場合、最初の用途の製品が対象となる特許によって保護されていなかったとすれば、かつて認可された製品は最初の販売承認の対象とはならない可能性がある。かつて認可された有効成分が新たな特許方法で使用され、かつその特許が最初の用途をカバーしていなかった場合、第2の用途に係る販売承認は当該製品の最初の販売承認と言うことができる。したがって、SPCを付与することができる。

この判決は、科学的研究開発が報奨されることを可能にしたため、製薬会社から歓迎された。確かにこの判決によって、有効成分がずっと以前の(無関係の)販売承認の対象だった場合でも、特許権者が第2の医療用途に基づいてSPCを申請することができるようになった。

マイナスの期間のSPCとは何か

いわゆる「マイナスの期間のSPC」とは、SPCの保護期間が特許の存続期間終了前に満了するSPCをいう。一見すると、このSPCは無意味のように思える。なぜ、特許自体が満了する前に失効するSPCを申請するのか。

この答えは、小児用医薬品に係る延長として付与される可能性のある追加保護期間にある。たとえ特許が満了する前6カ月以内にSPCが失効するとしても、6カ月の追加期間が与えられるのであればSPCを取得する価値がある。特に、その製品が商業的に大きな成功を収めている場合にそう言える。ECJはこのアプローチを認めている。

SPCは統一特許裁判所の管轄下に置かれることに なるのか

SPCは、欧州特許に基づいて申請された場合、統一特許裁判所(UPC)の管轄となる。ただし、そのSPC(またはSPCの申請が係属中の場合、対象となる欧州特許)が、最低7年間適用される移行措置に基づき「オプトアウト(適用除外)」された場合を除く。国内特許に基づく(つまり、各国の特許庁によって付与された)SPCは、UPCの管轄外となる。

ブレグジットは英国におけるSPCの保護にどんな影響を与えるか

SPCはEU法およびEUの裁判所であるECJの管轄となる。英国は最近、国民投票でEU離脱を決定した。このブレグジットの後、SPCを管轄するEU法や裁判所判決が自動的に英国のSPCに適用されることはなくなる。そのため、生物医薬品および農薬の特許を引き続き保護するには、代替的な英国のSPC制度を導入する必要がある。英国経済にとってこれらの業種が重要であることを考慮すると、イノベーターを保護するために強固な制度が導入されることはまず間違いない。

英国は、SPCに関するECJの判決を含め、現行SPC法および判例を丸ごと採用するかもしれない。現行SPC法を反映する法令を導入したうえで、将来的に英国の判事が司法解釈を加える可能性もある。あるいは、この機会を捉えて、英国のSPCとするためにSPC法を再起草し明確化することにより、EUで適用されるSPC法令やSPC制度の欠点とみなされる多数の事項に対処しようとする可能性さえある。しかしながら、英国における将来のSPC制度の正確な形は、英国がEUを離脱した後、EUとの間でどのような関係を選択するかに左右されることになろう。

ブレグジットは、他のEU加盟国の特許庁が付与したSPCの保護範囲には影響しない。

結論

SPCが売上保護の点で、およびジェネリック企業に対する効果的な抑止手段として、いずれにとっても極めて有用であることに疑いの余地はない。各国の裁判所は引き続き事案をECJに付託しているため、この分野の法律は進化し続けるであろう。

したがって、企業にとってこの分野の最新動向に常に精通し、保有特許の収益性を最大化するSPCを取得・行使するための強固な戦略を導入することが必須である。その戦略は、法務、商業および規制の各部門からの意見を取り入れて策定すべきである。その際、SPCの存続期間終了が近づく時期に訴訟が起こされる可能性を視野に入れ、可能な限りしっかりとしたSPC保護の取得を目指すべきである。

マイク・ギルバート (Mike Gilbert) パートナー [email protected]

マイク・ギルバートはマークス・アンド・クラークの知財弁護士でパートナー。同特許事務所の医薬品・生命工学関連業務を統括し、生命科学の特許弁護士として著名である。特許裁判所、控訴院、知的財産企業裁判所における訴訟、および最高裁判所における数件の申し立てでクライアントに助言を行ってきた。また、米国や欧州連合の知財専門家と協力して複数管轄区域で多数の技術特許紛争の調整に当たる。補充的保護証明書(SPC)の分野の専門家とみなされており、SPC申請や権利執行戦略について頻繁にクライアントに助言を提供している。

ルーク・ヒル(Luke Hill) アソシエイト [email protected]

ルーク・ヒルはマークス・アンド・クラークの知財弁護士でアソシエイト。特に生命科学セクターにおける特許訴訟を中心に、多種多様な知財問題についてクライアントに助言を提供し、英国の知財専門裁判所、控訴院および欧州司法裁判所においてクライアントを代理する。ジェネリック医薬品の早期発売を阻止するEU全体の運動において主要な多国籍製薬会社に助言を行うなど、抗争的なSPCの問題に深い経験を有する。

ウィル・ジェームズ (Will James) パートナー [email protected]

ウィル・ジェームズはマークス・アンド・クラークの知財弁護士でパートナー。生命工学、医薬品および農薬セクターにおける特許やSPCの問題に関する助言を特に専門とする。英国のすべての裁判所における知財訴訟を直接経験し、上位の裁判所の弁論権を持つ事務弁護士(solicitor advocate)および高等法院における法廷弁護士として活動。欧州連合全域における複数管轄区域の特許紛争の調整役を務めることも多い。商業上の知財問題についても助言を行う。

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