営業秘密文化を構築する

従来の知財世界の外で起こる事象が相まって営業秘密の認知度を高めてきたが、企業もその顧問弁護士も概してこれを主体的に扱う方法を知らない。

業秘密は知財世界の未知の国である。先進的な営業秘密保護の探索がちょうど始まったばかりで、多くの企業が営業秘密文化の発展に向け、初めの一歩を踏み出している。

企業の営業秘密文化をどう始めればよいかについて皆目見当がつかなくても驚くなかれ。あなたもあなたのお気に入りの知財弁護士も、その方法を大学で学んではいないのだから。営業秘密は、従来の知的財産のうち未だ十分に発達していない最後の領域であり、結果として実際の実務経験を持つ専門家は一握りしかいないのである。

本稿では、営業秘密がこれほど重要になってきている理由と、あなたの会社で営業秘密文化を始めるにはどうすればいいかについて説明する。

それほど秘密ではない営業秘密保護の状況

知財の専門職に就く者は、ほぼ誰もが営業秘密の重要性を認めているものの、その保護どころか営業秘密のリストを作ることすらほとんどしていない。これではまるで自宅の屋根裏部屋にレンブラントがあるのを知っているが、それを鑑定してもらったり、保険を掛けたり、或いはネズミや鳥から保護することすらしようとしないようなものである。

あらゆる種類の企業の幹部らが、自社ビジネスにとっての営業秘密の重要性を認識しながら、実は自社がどのくらい営業秘密を保有し、どれが重要であり、そのいずれがどのように保護されているかを会社でも全く把握していないということを内々には認めている。その同じ幹部は、自社が様々なベンチャー事業において第三者からどのくらい営業秘密を受け取っており、これをどれくらい十分保護し、協力関係が終わればこれをわざわざ返却や破壊までしているかどうかを全く知らないという状況も、きまり悪げに認めるだろう。

ほとんどの知財専門家は、営業秘密の重要性は認めているものの、顧客に対し、盗まれた営業秘密についての訴訟以上の営業秘密関連サービスは提供していない。全ての企業が営業秘密を持つにもかかわらず、この分野は大抵の法律事務所にとって利益になる仕事ではないようであるが、これは、競合相手もやはり営業秘密に関する提供サービスを持たないため、仕事を奪われることがないからである。ロースクールで営業秘密保護を学んだ者はいないので、法律事務所は営業秘密業務グループをどこに置けばいいかについて無知のままである。営業秘密は必ずしも技術的発明に根差していないため、そうした業務グループを特許部門内に設置するのは明らかにそぐわない。そのため、法律事務所では、どうすればいいか他の人が解決法を編み出してくれること、それを真似できることを期待して、営業秘密の問題を集団的に先送りにしているのである。

営業秘密の地図の穴はそこに留まらない。米連邦訴訟サービスのPACERには、特許(830)や著作権(820)、商標(840)と違い、営業秘密訴訟を追跡するための特定コードがない。学界は、経済学者から法律学者まで、営業秘密を測るベンチマークを持たない。我々著者は最近、このテーマの学術論文の執筆を始めようと営業秘密データを必死に探しているが、まず行わなければならない基本的データの収集の量に嫌気がさしたという何人もの著名な研究者と話をした。

しかし、営業秘密の氷河が溶け始めた兆候がある。今はポタポタと落ちる滴りかもしれないが、今後数年の間にこれが激流になることはほぼ間違いない。

世界的な営業秘密法の強化

昨年1年の間に、米国と欧州連合の両方で、営業秘密保護を拡大する新法が承認された。バラク・オバマ前米大統領が、2016年5月11日、営業秘密保護法に署名して成立させた一方、欧州連合は、2016年6月8日、EU指令2016/943号を承認した。こうした新しい営業秘密法は、大抵が既存の法規に手を加えたものである。今までより著しく強固な保護を提供するものではないかもしれないが、営業秘密の保護により真剣に取り組める環境を生み出す一助となる。

他の国々も自国の営業秘密法の近代化を始めている。例えば中国は、不正競争防止法を改訂する努力を進めているが、これには営業秘密の不正利用を抑制する規定が含まれている。

企業は、外国の裁判所における営業秘密訴訟に参加する可能性に常に直面してきた。しかし、営業秘密法改正の本気度が増せば、企業が海外で自社の弁護をせざるを得なくなる機会が増える。最近可決された米国の営業秘密保護法は影響範囲が広く、実のところ、米国企業にとって懸念されるのと同様に欧州や中国、日本企業にとっても大きな懸念となっているほどである。こうした影響は営業秘密保護法を米連邦組織犯罪法と結び付けたことによって範囲が拡大した。

これまでのところ、ドイツ、イギリス、カナダおよび中国の企業が、被告または原告として、既に米裁判所に出廷している。同法に基づく最初の訴訟の1つが、モンサントの研究者を相手取って行われたもので、この研究者は、中国の新たな雇い主のために営業秘密を盗んだとして告訴された(モンサント社 対 チェン、事件4:16-cv-876号(ミズーリ州東部地区地裁))。

営業秘密と変化する税法

2007年と2008年の世界金融危機に促され、世界の各国政府は、歳入増加の手段としてタックスヘイブンの閉鎖を検討した。世界の経済大国35ヶ国が加盟する機関である経済協力開発機構(OECD)は、多国籍企業が利用する租税回避スキームを封鎖するための一連の共通規制案を起草する任務を引き受けた。

このOECDの税源浸食及び利益移転ガイドラインは、企業間のライセンス契約において真の独立企業間交渉を要求しており、多国籍企業の知財実務の多くの分野に影響する。OECDが「百年で最も重大な国際税法規の書き換え」と説明するこの新規則には、高税率の国から低税率の国へと利益が移転するのを阻止し、企業が所得を生む場所について透明であることを強制する15の勧告が含まれている。

今や各国法に取り入れられつつあるこのガイドラインは、知財実務の他の領域よりも営業秘密に影響する可能性が高い。多国籍企業がその子会社間で共有する営業秘密をかなり具体的に特定することを義務付けているからである。したがって、企業が税務当局に対し自社の営業秘密を重要なものとして特定しなかった場合、その後、そうした企業秘密の盗難について訴えることが困難になるかもしれないし、またその逆も然りである。

つまり、ガイドラインの会計上の要件だけでも、営業秘密保護を近代化するに十分であるかもしれないのである。

営業秘密とは、大まかな輪郭しかわかっていない、大部分が未知の領域である。

画像:トム・ユーイング

そもそも営業秘密とは何か?

営業秘密とは、公然と知られていないか他人が容易に解明し得ない製法、実践、工程、設計、機器、原型、手法またはデータ編集で、それによって企業が競合他社に対する経済的優位性を得ることができるものである。営業秘密は知財ポートフォリオのクラウンジュエル(最重要資産)であると主張する者もいるだろう。

営業秘密の範囲は実質的に無制限である。販売方法、流通方法、消費者プロフィール、マーケティングプラン、サプライヤーリスト、顧客詳細情報、製造工程などが含まれる。営業秘密は、失敗した実験の結果などの消極的ノウハウも保護することができる。

従って、営業秘密とは次のような情報である。

  • 関連ビジネス界や大衆に公然と知られていない
  • その所有者に経済的利益をもたらす - これは情報そのものの価値だけでなく、それが公然と知られていないという事実に明確に由来するものでなければならない
  • その秘密を保つためにその所有者が合理的な措置を講じている - 何が「合理的」かは個々の状況による。

営業秘密は、当該情報が秘密のままである限り継続する。第三者が当該情報を独自に創造した場合は、秘密情報の商業的価値は消滅し得る。

長所

営業秘密は政府の承認や登録の必要がない。但し、行政、技術または法律上の障壁に関連して、企業が自社の営業秘密を保護するために利用するコストが生じる場合がある。

たとえ特許が発行されていなくても公開情報となる特許出願とは異なり、営業秘密保護は公開が義務付けられていない。

20年しか存続しない特許と違い、営業秘密保護には期間制限がない。

付与されるまで数年かかる場合もある特許と違って、営業秘密は直ちに効力を発揮する。

積極的な管理がもたらす利益

自社の貴重な営業秘密を積極的に管理する企業は、これを無視する競合他社に対し著しく優位に立つ。企業秘密の積極的管理プロセスを始める方法を説明する前に、これらの利点のいくつかについて検討する。

営業秘密に気を配らずにいると、企業とその法律専門家の両方にとって悲惨なことになる可能性がある。我々が知っているある著名な多国籍企業は、発明について特許委員会が特許、却下、公表または営業秘密として維持の4つの意思決定を行っている。ところが、特許委員会が営業秘密の選択肢を選んだ場合、その先のプロセスは存在しなかった。何も行われなかったのである。この状態は、取締役会において法務担当役員が偶然この慣行(またはその欠如)を明かすまで何年も続いた。当然、この知らせの受けはよくなかった。

あなたはおそらく、営業秘密に気を配らないことを決定した法務担当役員にはなりたくないだろう。なぜなら、会社が重要な営業秘密を失ったことに気付いた時に、あなたはおそらくこれについて質問されるであろうから。何かを営業秘密として保護するという決定は、旅の終わりではなく、始まりに過ぎない。

窃盗による損失を軽減する

米連邦捜査局(FBI)は、「会社人間:アメリカの営業秘密を守る(The Company Man: Protecting Americas Trade Secrets)」という映画を制作している。これはYouTubeで見ることができ、企業が自社の営業秘密を積極的に管理すべき理由について説明するものである。

映画は、営業秘密として保護される新種のガラス絶縁製品を持つアイオワの小企業の物語である。この会社の製品がある外国政府の目に留まり、その製品を製造するために必要な情報を何としても入手しようと、2名のエージェントが送り込まれてくる。

外国人エージェントは、どの従業員がこの貴重な秘密にアクセスできるのかを見つけ出す。彼らがターゲットとしたエンジニアの一人は、キャリアに不満を感じており、金銭的困難に直面していた。外国人エージェントは、彼に営業秘密を引き渡す見返りとしてかなりの大金を提示する。エンジニアは、彼らの提案を真剣に検討した後に、この計画を会社の上級マネージャーらに報告することを決心する。

しかし、積極的な営業秘密管理が行われていれば、会社はさらに安全となっていたであろう。このエンジニアがこれほど道徳的ではなかった場合、営業秘密管理ツールが彼の良心、或いはその欠如を補う役目を果たしたかもしれない。この会社の法務担当役員が会社周辺をウロウロしている外国人エージェントに気付いた時、彼女は、営業秘密メタデータを調べてどの従業員がこれら重要資産にアクセスできたかを見ることができたはずである。エンジニアが外国人エージェントのアプローチを受けたことを明らかにした後、法務担当役員は再度営業秘密メタデータを調べ、これらの重要な営業秘密にアクセスできたその他の従業員らに具体的な指示を出すこともできたであろう。最後に、営業秘密の積極的管理をしていれば、会社は、自社の営業秘密をピースごとに分解し、外国人エージェントの逮捕前に彼らに示された興味をそそるピースでは会社の重要な営業秘密の全体像がわからないようにしておくこともできた可能性もある。

FBI 捜査官は、営業秘密を盗んだと疑われる従業員を会社が直ちに解雇することに驚きを表明していた。FBIは、会社は解雇するのではなく従業員を監視下に置き、その行動の全貌が究明できるようにすることを推奨している。営業秘密の積極的管理システムはそうしたモニタリングをサポートするが、これは企業が営業秘密泥棒の攻撃を受けた時に損害を制限するのに役立つからである、

サイバーセキュリティ

営業秘密の積極的管理は、特別な保護に値する情報を特定することにより、企業のサイバーセキュリティを促進することができる。サイバーセキュリティの努力の多くは、全てのファイル - 食堂のメニューやソフトボール・チームの名簿から顧客リスト、製品ロードマップ、製造秘密まで - を等しく保護することに向けられている。

一方で、サイバーセキュリティ会社は顧客に対し、企業の営業秘密データを要求し始めた。最も機密度の高いファイルに特別な保護を向けることができるようにするためである。しかし残念ながら多くの会社は営業秘密の積極的管理を行っていないため、自社の最も貴重な営業秘密を提供できずにいる。以下の例は、サイバーセキュリティ会社が考えていることを説明するのに役立つかもしれない。

2人の牧場主がいて、いずれも貴重な家畜を保護する必要があると仮定しよう。1人目は自分の地所全体を囲むフェンスを建設する。フェンスは古く、そのうち穴開いたり隙間ができ始めたりする。牧場の作業員たちは、全ての修理には対応できない。馬がふらふらと出て行ってしまったり盗まれたりする。この1人目の牧場主は、「父はこうしていたし、その父もまた以前そうしていた」ので、セキュリティをフェンスのみに託すことに固執する。

2人目の牧場主も、自分の地所全体を囲むフェンスを持つ。しかし、彼はフェンスの限界を知っているので、追加の措置を講じる。自分の家畜の群れを分析し、馬のほとんどは格別貴重ではなく、ケンタッキーダービーで優勝した2頭にほぼ全ての価値があることに注目する。牧場主は、この2頭のケンタッキーダービー優勝馬を、運動させていない時は納屋に入れて守り、コヨーテや馬泥棒が現れた時に備えて武器を持った牧場作業員も近くに配置するようにすべきだと結論付ける。

サイバーセキュリティ会社は、顧客が話してくれない限り、どのファイルが特別な保護を要するケンタッキーダービー優勝馬であるかわからない。企業が自社の営業秘密を積極的に管理していれば、保護を強化するために貴重なメタデータをサイバーセキュリティ専門家に提供することができる。

オープンイノベーションと従業員の移動性

オープンイノベーションと従業員の移動性が高まる時代にあって、営業秘密管理には巧妙さと柔軟性が必要である。

オープンイノベーションとは、企業が自社の製品ラインアップを向上させるために、社内と社外の両方のアイデアや市場化経路を利用する業務提携のパラダイムである。つまり、企業が他の企業と協力するのである。

これには多くの利点がある一方、このパラダイムは、知的財産に関しては特別な注意を必要とする。オープンイノベーションは、特許取得と営業秘密保護の両方に影響を及ぼす可能性がある。営業秘密管理ツールは、会社のどの営業秘密が外部と共有され、他社から受け取ったのはどれで、提携相手と共同で創造したものはどれかを追跡することができる。

多くの会社は、自社が他社から受け取った営業秘密を追跡するための正式なシステムを持っていない。知り合いのある小売業者は、様々な企業から試作品や図面を受け取っている。この小売業者の下級管理職らはこの情報を秘密に保つ必要があることを知っているが、体系的にこれを追跡しておらず、上級管理職はそのプロセスをほとんど把握できていない。この危険な状況は、積極的な営業秘密管理によって解決できるであろう。

製造業者との情報共有

多くの企業が、第三者に製造を委託している。こうした関係では、企業はあらゆる種類の情報を製造業者と共有する必要があるが、その多くが営業秘密で構成されている。

一部の多国籍企業は、第三者に渡した情報を体系的に追跡していない。企業が共有している情報を追跡できなければ、自社の営業秘密の管理など望むべくもない。我々は、そのセキュリティの基本的形態は、契約書の中の非常に大まかな言葉で表された記述でできているのだろうと疑っている。我々はまた、多くの企業では、製造協力会社に渡した情報に「秘密」の表示すらつけていないのではないかとも疑っている。こうした状況は、積極的な営業秘密管理によって容易に是正できるであろう。

従業員の移動性

従業員のジョー・ブロッグスが退職するとき、人事部は一般に、営業秘密を含む数々の事項に関連する非常に一般的な合意書に署名するよう要請する。

しかし、会社が営業秘密管理システムを採用すれば、「ブロッグス」の名でメタデータを検索し、彼がアクセスしたことが分かっている会社の営業秘密を見つけることができる。その結果、会社は、ジョーにこうした営業秘密に関して特別なカウンセリングを行ったり追加の合意書を提供したりすることができる。ブロッグスが、彼の保有するその営業秘密に関心を持つかもしれない競合他社で働く予定であることを会社が知っていれば、会社は、その新たな雇い主に接触するなど追加の措置を取ることもできる。

The centuries-old trade secret practices of Carthusian monks can be readily adapted for the modern era

Picture: Tom Ewing

営業秘密文化を一歩一歩確立する

カルトジオ修道会の僧は、シャトリュージュ酒の作り方を300年にわたって秘密にしてきたが、彼らは確立された営業秘密文化を有している。どの時点においても、その有名なリキュールを製造する秘密の製法を知る僧は2名に限られていたのである。現代の営業秘密保護は、この僧らが何世紀にもわたって行ってきたことをスケールアップしたもので、現在のテクノロジー企業にももちろん達成可能なものである。

営業秘密文化の確立は、面倒で仰々しい管理の実施であるべきではない。法務担当役員の中には、営業秘密の新たな現実に直面すると、全ての営業秘密を分類して登録するのは手がかかりすぎて非現実的だと明言する者もある。

まさにそのとおりである。ゆえに我々はこれを推奨しない。

営業秘密の無管理状態から完全な管理へと一夜にして変更するのは、大抵の企業にとっては災難でしかない。さらに、そうした方法では、組織学習の機会や各企業の独自の文化への微調整システムを無視することになる。

単に貴重な情報の秘密を守ると決定するだけでは十分ではない。営業秘密管理とは、こうした貴重な資産の管理に必要な方針、手順、制度、教育、ガバナンスである。企業は、改良の機会を十分に備えた一連の合理的な段階を踏んで営業秘密文化に向かって進むべきである。

第一段階

営業秘密文化を確立するには、まず一つの領域から始めて手法を確立し、それから他の職域へと拡大する。どこから始めるかを決めるに当たっては、いくつかの良い選択肢があるが、選択は当該企業のニーズ次第である。

ある事業ユニットから始めてもいいし、特定の製品ラインやそのR&D研究所、マーケティング部門または製造機能から始めてもいいだろう。特に貴重な営業秘密を有すると考えられている部署があれば、そこから始めてもいいかもしれない。

或いは、特定の種類やカテゴリーの営業秘密から始めることも可能である。例えば、オープンイノベーションや委託製造の高まりを考えると、第三者と共有されている営業秘密 -これは最も貴重なものである場合が多い - を数え上げることもできるであろう。

営業秘密メタデータを追跡する

メタデータなしに営業秘密を管理することは事実上不可能である。しかし我々の経験によると、いったん適切な質の高いメタデータが集められれば、企業にとって自社の営業秘密の追跡はずっと容易になる。

「メタデータ」とは、他のデータに関する情報を記述し、提供するデータである。営業秘密メタデータは、営業秘密そのものではなく、営業秘密に関する単なるデータである。営業秘密に関する基本的情報が要約されていて、営業秘密の検索や管理がずっと容易となる。

最高幹部は企業において営業秘密メタデータへのアクセスにより利益を享受する者に含まれるが、営業秘密が一般に企業の最も価値ある資産の一つであることを考えると、このことは驚くに当たらない。そうしたメタデータを(サイバーセキュリティの問題を考えると)ITおよびセキュリティ部門、(営業秘密に関連する従業員問題を考えると)人事部、(営業秘密に関連する財務および税務上の問題を考えると)財務・会計部門、(営業秘密の多くが共有されることを考えると)調達・購買部門と共有することも有益となり得るだろう。

例えば、営業秘密メタデータには以下のものが含まれる。

  • 営業秘密の名称又は表題
  • 創出日
  • 創出者
  • 物理的ロケーション
  • 法律上の所有者
  • 管理責任者
  • 営業秘密の種類(技術、経営、プロセスまたは財務等)
  • アクセス資格を持つ者
  • 企業にとっての重要性
  • 実施されている保護メカニズム
  • 第三者と共有されているか否か

我々著者は、営業秘密と関連づけることのできるメタデータを100個以上特定しており、今後もこのリストに有益なデータ要素を追加していく。

変わりつつある営業秘密の世界に直面して、訴訟関係者の中には、自社の営業秘密について情報を持ちすぎると訴訟中に損害を被る可能性があるから企業はこれをすべきでないと主張する者もいる。企業が追跡する営業秘密メタデータには関連のある質の高い情報が含まれるべきであるものの、著者は、営業秘密がある場所では重要だが別の場所ではそうではないと主張する戦略はもはや機能しないのではないかと思っている。特に、新たに再構築された営業秘密のための法的枠組みは、過去に訴訟関係者が試みてきた法廷での滑稽な態度について前ほど受容的ではないようである。今後は、ある営業秘密は重要か重要でないかのどちらかである。企業が特許出願や意匠登録、商標出願書類を慎重に練り上げるのと同様に、営業秘密戦略の実行においてもスキルとプロ意識を発揮すべきである。

FBI制作の映画「The Company Man」より

営業秘密管理システム

営業秘密管理システムは、企業がその営業秘密メタデータを追跡し、記録されている各営業秘密の適切な保護水準に関する経営幹部による決定を支援することによって、自社の営業秘密プロセスを管理するのに役立つ。システムには、ある営業秘密について組織内の誰が責任を負い、その保護に誰が責任を有し、誰がアクセス権を持つかを記録することができる。他にも、営業秘密について主要な従業員と面談したり、結果を経営陣と検討したりすることが必要であるものの、税務や人事などの部門機能にも役に立ちうる。組織が保有する営業秘密がごく一握りの少数に過ぎない場合を除き、管理システムは営業秘密を効率的かつ効果的に管理するために不可欠である。

堅固で目的に合った営業秘密方針やプロセスおよびシステムは、関連するメタデータと併せて、企業が自社の営業秘密に注目するのに役に立つ。また企業が営業秘密について構造化された会話を持つことも促進し、これによって企業は、最も重要な情報に焦点を当てることができるようになる。

企業は自社の営業秘密の日々の管理に責任を負う人を慎重に選定すべきである。多くの法務担当役員は、社内の知財担当者を自動的に選ぶが、そうしたスタッフは、自らについて特許と商標のみに責任を負うと考えがちで、拡大された任務のための余力となるリソースを持っていない。企業の営業秘密を管理する責任者の選定は、企業が営業秘密文化の構築をどこから始めるかということに大きく関係するので、慎重に考え抜く必要がある。

営業秘密管理は組織の他の活動と切り離された真空空間に属するべきではない。良い営業秘密管理とは、以下の部署を含む他の組織機能やそのプロセスまたは手順と強く結びついていることを意味する。

  • 人事(従業員に対するその役割を考えて)
  • 調達・購買(主要サプライヤーに対する役割を考えて)
  • 技術ライセンス(主要な協調イノベーション・パートナーに対する役割を考えて)
  • 研究開発(多くの営業秘密がここに由来することを考えて)
  • 文書管理(組織の技術文書管理プロセス)
  • 法務(営業秘密の法的基盤を考えて)
  • 知的財産(組織の営業秘密業務と特許業務は同期すべきであることを考えて)
  • 情報技術(営業秘密の多くが今はデジタル形式で、これらを例えばハッカーによる窃盗から保護するには様々な技術的ソリューションを展開しなければならないことを考えて)
  • 財務(営業秘密は価値のある資産であり、企業の現在または将来の財務実績に影響することを考えて)
  • 施設(組織が占有する建物やアクセスおよびセキュリティに対するその責任を考えて)
  • 広報(一部の企業は自社が重要な営業秘密を保有していることを広告・宣伝することを望むかもしれないので)

営業秘密管理は会社によって大きく異なる。しかし、良い実践例を見ると、組織の上位に位置する者を営業秘密管理プロセスの責任者とし、営業秘密方針や関連の手順を整備することが望ましいという可能性が示唆されている。秘密保持契約は重要な役割を果たし得るし、全ての従業員が会社の営業秘密方針と関連手順を認識するようにする認知・教育プログラムも同様である。会社は以下のことを行うべきである。

  • 会社の営業秘密とされるべき情報のタイプおよびその適格基準を決定する。
  • 組織の全域において営業秘密を特定し、適切かつプロらしいやり方でこれら文書に印をつける。
  • 営業秘密をその性質や創出日、責任者の観点から分類する。

正確な手段は異なることがあるため、それぞれの営業秘密を適切に保護するために必要な事務管理、技術、および法律上の手段を決定することが不可欠である。目的に合ったアクセス管理手段が整備され、従業員の入社時および退職時両方の面談において知財一般の問題と具体的な営業秘密の問題が取り上げられるようにすること、外部のビジネスパートナーとの関係において契約条項や作業メカニズムを策定して、営業秘密を守り、定期的な営業秘密監査を行うようにすることが必要である。

プロセスとシステム

企業が採用するどんな営業秘密管理プロセスも、目的に適合し、利用する者に付加価値を与えるものでなければならない。そのシステムは、各プロセスや各システムを支え、関連メタデータを追跡および同期しなければならない。

プロセスは組織の記憶であり、これがなければ、手順やプロセスを一から再スタートしたり、おそらく同じ間違いを繰り返したりするなど、努力が無駄になりかねない。第1級の営業秘密プロセスは、情報発信者と受け手の間で良好なコミュニケーションが行われるよう促し、提供される情報の期待値や一貫性の設定や管理の役に立つ。

営業秘密プロセスでは、再現性を確保するために、誰によってどんな任務がどのように行われるかを定義する。このことは、営業秘密は組織の一部で考案されるが、他の箇所や外部においてさえ利用される可能性があることを考えると不可欠である。営業秘密プロセスは組織がパフォーマンスおよび測定基準を設定することも可能にし、これは問題の起源や原因の特定に役立つ可能性がある

営業秘密監査

定期的な監査を通じて営業秘密資産や営業秘密方針および関連手順を評価する積極的かつ体系的なアプローチを採ることによって、会社の価値を大きく向上させることができる。

営業秘密の独特の性質を考えると、適切な監査には経営、技術および法律的なスキルや能力が含まれていなければならない。こうした監査の結果は、組織の上級管理職によるレビューを受けるべきである。

営業秘密に保険をかける

企業は、自社の貴重な営業秘密を特定して分析しない限り、これに適切な保険をかけることはできない。営業秘密保護体制を実施する企業が増えるにつれ、こうした貴重な会社資産に保険が掛けやすくなるであろう。

今では、知財保険業者の多くが営業秘密に関連する保険商品を提供している。これらは一般に次の3つのカテゴリーに分類される。

  • 会社が営業秘密の違法な開示または利用について追及された場合の防衛的保障
  • 営業秘密に関連する契約責任や紛争を含む追及または執行リスクに対する保障
  • 営業秘密が失われたり損なわれたりした場合の逸失利益を補償する潜在的事業中断保険

このリストは、対象者が営業秘密管理システムを整備している場合、保険引受業者にとって保険契約の承認がいかに容易となるかを示している。

社外の知財顧問弁護士にとっての機会

創造的かつ革新的な法律・知財事務所に対して、新興の営業秘密市場は適切なサービスを提供する明確な機会を提供する。しかし、今のところ、こうしたサービスの提供者は、手をこまねいて誰かが先に乗り出すのを待っている。

我々が100の法律事務所を対象に調査したところ、営業秘密を業務取扱分野として積極的に取り組んでいるとした事務所は、世界でもたった9つしかなく、機会が失われていることを示している。

実務家が提供しうるサービスをいくつか列挙する。

  • 営業秘密とその管理について企業を教育する
  • 最初の営業秘密の一覧作成プロセスを容易にするために、面談や調査、データ保存を実施する企業を支援する
  • 堅固で目的に合った営業秘密管理プロセスを設計する
  • 営業秘密管理ツールを設定しインストールする
  • 各営業秘密に対する保護(事務管理、技術、法律上等)の適切な水準を決定する
  • 定期監査を実施して判明した弱点に対処する
  • 営業秘密に関する課題を最高幹部に明確に伝える
  • 顧客が協調的またはオープン型イノベーションを採用する場合に、引き続き営業秘密が守られるようにする
  • 顧客の特許取得、公表および営業秘密業務を連携させる
  • 適切な営業秘密ガバナンスについて顧客を支援する

営業秘密文化の確立に関する最終的見解

営業秘密は、会社の無形資産の一部である。非常に重要ではあるが、見ることはできない。巨額の企業価値を付加しうるものであるため、適切かつ専門的に管理する必要がある。

営業秘密は、全ての法務担当役員および法律・知財事務所が議題とすべきものである。特許が弱体化しつつあるように見える中、この分野の立法は、主要な法域においてさらに強化されそうである。

営業秘密は、組織の知財ポートフォリオにおけるクラウンジュエルであり、他の知財資産に対しいくつかの明確な長所を有している。しかし、営業秘密は、適切に管理し、よく気を配って初めて機能する。

適切かつ専門的な営業秘密管理には、この独特な形の知的財産に関する十分な理解と、堅固な営業秘密管理システムに下支えされた目的に合った営業秘密管理プロセス、それに定期監査と組み合わさった優れたガバナンスが必要である。

行動計画

世界的企業で営業秘密管理戦略を確実に展開するには、次のような一連のステップを踏まねばならない。

  • 営業秘密管理を開始する分野を選定する -これはある事業ユニットでもよいし、ある製品ライン、R&D研究所、マーケティング部門、製造機能など、価値のある営業秘密や第三者と共有されていることがわかっている営業秘密または第三者から受け取った営業秘密を保有すると考えられる定義可能なユニットであってもよい。
  • 管理チームを選定する -管理責任者は、最初に選定された営業秘密分野に関係があり、社内弁護士との仕事上の密接な関係など十分なリソースを持っていなければならない。
  • 運用指針を作成する - 管理責任者は、社内弁護士と緊密に協力して営業秘密運用指針を作成しなければならない。これには、選定された領域の営業秘密を管理するのに適切だと考えられる初期メタデータのリストが含まれる。
  • 管理システムを選定する - 選ばれた営業秘密管理ツールは、当該分野に関連するメタデータ一式を記録し、営業秘密メタデータにアクセスしてこれを扱う必要のある様々な会社機能のニーズに適う十分堅固なものでなければならない。
  • 営業秘密メタデータを収集する - 管理責任者の監督下で作業するチームが、選択された分野を調査して営業秘密を特定し、適切なメタデータ一式を記録しなければならない。
  • 営業秘密メタデータを綿密に調べる - 管理責任者は、メタデータ収集の対象となっている営業秘密を見直し、可能であればフォローアップ作業を実施して、これらが十分に重要であり法的に営業秘密たる資格を有することを確認する。メタデータは、営業秘密の追跡と管理のために十分であることを確認するためにも見直されなければならない。必要であれば追加のメタデータを収集することができる。
  • 営業秘密や営業秘密メタデータの扱い方について関係当事者を教育する - 職務を遂行する際にメタデータにアクセスする様々な部門機能は、企業の営業秘密がどのように機能するかについて、管理システムの運用方法を含めて教育を受けなければならない。
  • 関係する会社部門にメタデータを開示する - 管理責任者はここで、関係部署にメタデータへのアクセス権を提供することによってこれを稼働させることができる。監視対象となっている営業秘密の性質に応じて、以下のような部署がこれに含まれる可能性がある。
    • 人事
    • 調達および購買
    • 技術ライセンス
    • 研究開発
    • 文書管理
    • 法務
    • 知的財産
    • 情報技術およびセキュリティ
    • 財務
    • 施設
    • 広報
  • 営業秘密監査を行う - 営業秘密管理システムがしばらく稼働した後、管理責任者は、システムや関連プロセスの監査を行い、これらが適切に利用されているかどうかを確認しなければならない。

トム・ユーイングは、アメリカ、サンフランシスコのアヴァンセプト LLCの主任コンサルタントである。

ドナル・オコンネルは、イギリス、オールトンのチュートン・イノベーション・サービシーズ・リミテッドの社長である。

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