小米の改革

シャオミ(小米)は、2016年にその知財機能を改革し、戦略に集中するため経験豊かでビジネスを重視するチームを迎え入れた。シャオミは今や、知財領域においてより積極的に発言するリーダー的存在となっている。

京市の北側にあるシャオミの本社を訪れたのは、1月の寒い日だった。知財チームのメンバーと近隣のショッピングモールで昼食をとっていたときにその年最初の雪が降り始め、大気汚染もひどかった。何度も持ち上がった話題は、北京で生活することの難しさだった。知財チームのメンバーのうちかなりの数の者が、シャオミやシャオミが最近吸収したジグ(智谷)で働くために北京に移り住んでいた。この者たちは、深セン、カナダ、米国西海岸などさまざまな地域の出身であり、ほぼ全員が、この転職はシャオミの将来のみならず中国における知的財産の将来に対しても大きな賭けだったと言っている。

ショーン・イングリッシュは、クアルコムの弁護士として20年以上にわたり、第三者からの防御に取り組み、優秀な社内知財チームの見分け方を知っていた。イングリッシュはその職務において、アジアを主とした60以上のクアルコムの顧客に対して、特許の主張やライセンシングの申し入れに対する支援を行ってきた。引退を考えていたにもかかわらず、イングリッシュが2016年にシャオミへ移ったのは、強力な信頼の表れであった。「グループが混乱したり、技術的に歯が立たないというときが私にはわかる」イングリッシュは私に言った。「このチームについて私が見てきたものはすべてが勝者を意味している」

イングリッシュは、熾烈な携帯電話業界で生き残ろうとする若い企業に対して知財戦略指導を支援するのはどんなものなのか常々興味を持っており、シャオミは確かにそのイメージに合致していたと言う。シャオミは、設立当初こそ目立たなかったが、2014年と2015年にはスマートフォンの販売台数で中国トップとなり、国内外でかなりの旋風を巻き起こした。シャオミは頻繁にアップルと比較されるが、これはCEOである雷軍(Lei Jun)の働き掛けによるようである。成長がやや鈍化しているのが明らかとなったにもかかわらず、雷は、『ウォールストリートジャーナル』に次のように語っている。「他の人にとってはこの競争はあまりにも過酷で厳しすぎるのかもしれないが、私にとってはもっと過激でも良かったくらいだ」

確かに競争は激化した。調査会社IDCによれば、シャオミは、アップル、ファーウェイ(華為技術)、ならびに新興のオッポ(広東欧珀移動通信)およびビボ(維沃移動通信)に遅れを取ったことにより、中国における出荷高が2016年にはおよそ36%減少した。しかしまたIDCによれば、シャオミは、昨年インドにおいて大きな成長を遂げ、2016年にはその収益が10億ドルを超えた。最近の調査では、シャオミはインドの地元消費者の間で最も魅力あるスマートフォンブランドであることが明らかになった。雷は初期のシャオミの成長が急速過ぎたことを認めており、誰も止められないようなその雰囲気はいくらか消失してしまったかもしれない。しかし、シャオミの知財戦略を指揮する者たちに話を聞くと、彼らがより持続的な何かの構築に専念していることが明らかになった。そして、雷がこの計画を支持していることに確信を持っている。

社員第一号

王海兵(Wang Haibing)は、2011年の年末近くにシャオミから一本の電話を受けた。2012年初めには彼はシャオミ初の知財専門の社員となり、その家族を北京に呼び寄せていた。サンダー(迅雷網路)というナスダック上場テクノロジー企業の知的財産部門トップとしての地位を捨てる決意は、中国の携帯電話業界は、知財の世界で極めて重要な部門となるだろうという彼の信念に基づくものであったと王は述べた。

シャオミの最初の携帯電話機 Mi1 発売の際には、半年前に30万件の先行予約が殺到した。当時、シャオミの社員数は 300 人に満たず、法務部門は弁護士1名だけで構成されていた。しかし王は、立ち上げ時の雰囲気を楽しんだ。「初出勤日、夜9時か10時だったはずだが、職員のほぼ全員がまだデスクにいた」。全国民に注目され脚光を浴びているような感覚を彼は思い起こした。

こうした興奮の中にいながら、立ち上げの初期段階で知的財産のためのリソースの獲得は容易ではないことを彼は経験から知っていた。王の直属の上司はシャオミの当時のCFOであり、知財戦略は最初から経営幹部レベルの役員が監督し、残りの法務機能とは別に維持されていた。王は、最初の一か月の多くを雷軍その他の創業者を含む会社中の人との会議に費やし、シャオミの業務について学んだ。「ほとんどの企業では、社内知財部門はお金がかかる」と王は指摘する。「だから最初から、最高経営幹部を顧客と考えてアプローチし、彼らが何を必要としているかを学ぼうと努めた」

王は、最初の知財戦略の策定におよそ4週間を費やし、フォックスコン(「知的財産について学ぶのに最高の場所であった」)で働いていた経験を生かし、シャオミの知的財産とそのリスク環境の分析を行った。また、ファーウェイ、クアルコム、アップル、グーグルのような企業がその歴史上の同時期に何を行っていたかに注目した。最終的に、自身の計画を20枚のスライドに絞り込み、これを直接雷に提示した。「その提案は、まるで再び採用面接でも受けているかのようだった」と思い起こす。

その戦略は、短期、中期、そして長期で構成されていたが、その基本的メッセージは、シャオミは特許を無視している余裕はないというものだった。知財ポートフォリオを構築するため、雷は、社内でのさらなる特許創造および第三者知的財産の取得にかなりの資源を投じるべきであった。その戦略はまた、シャオミの知財活動は闘争がすべてではないことも明確にした。世の中には携帯電話に関する巨大な特許ポートフォリオを有する企業が多く存在することを、王は痛いほどよく知っていた。そして「それらの企業すべてを敵に回す必要はない」と上司に言った。

社内特許出願を担当するシャオミ の知財部門。チームは取締役の王海兵(中央)が率いている。王は2011年に知財部門に最初のメンバーとして加わった。

中国のNPE

王海兵がシャオミの最初の知財戦略を策定していたのと同じ頃、雷軍が設立したソフトウェア企業であるキングソフトのCEOが、インテレクチュアル・ベンチャーズ(IV)の幹部であった林鵬(Paul Lin)に声をかけ、中国に戻る気はないかと尋ねた。張宏江(Zhang Hongjiang)は、雷軍が専任でシャオミに重点を置いて取り組む必要性が明確になった時点でキングソフトを引き継いだ。張と林は、かつて張が北京にあるマイクロソフトの先進技術センターのトップであったときに共に働いた経験があり、その狙いは中国にIVのような企業を共同で設立することだった。

シャオミを支援することは、初めから計画の一部だった。「張は、助言と投資を基盤とした事業の立ち上げを望んでおり、その事業を通して将来シャオミの顧客を支援できると考えていた」と林は説明する。20年間米国に住んでいた林はそのプロジェクトに興味があったが、この新事業が長期的な潜在価値のあるものだという確信を持ちたかった。そこで彼は2012年に数回北京へ渡り、雷その他の知財市場で活躍する人々に会ったことで、中国が大きく変化しようとしていることを確信した。「中国ではより優れた知財保護に向けた潜在的動きが存在することが実感でき、その中で最も重要な要因は、地元の技術系企業の成長が著しいという点であった」と林は思い起こす。

張と林が率いるジグを2012年に設立することになったのは、他でもないこの感覚であった。「アグリゲーター自体について楽観的過ぎたとは言わないが、中国における知的財産の大きな発展に賭けていた」と林は思い起こす。新たな企業は、シャオミ、キングソフト、順為資本(雷が共同設立者であるベンチャー企業)からの直接支援を当てにできるという事実もあった。林は、本質的に特許不実施主体(NPE)であるものを公に支援することはシャオミにとって多少リスクがあったことを認めたが、雷のような経験豊富な投資家はまず人に注目すると指摘した。「我々は、適正なチームとポートフォリオの構築という目標を持って、辛抱強く事業を開始した。いつか将来、シャオミに対して十分な保護を提供できるようになるだろう」

ジグのチームは、研究開発、法律、ビジネスの経歴が入り混じるおよそ25名の従業員の組織に成長した。2年の間に、ジグは出資金を利用し、権利の取得と出願の両方を通じ1,500件を超える資産から成る特許ポートフォリオの構築を果たした。ジグは、事業のさらなる拡大を目指し、2014年に知財取得ファンドを募った。北京の海淀区政府と中関村技術パークが、TCL(通訊科技)などの民間企業と共に投資を行った。林は、2015年にかけて、欧米企業が潜在的投資のため出資交渉を始めるなど、ジグは海外の注目さえも集め始めたことを記憶している。しかし2015年末までには、シャオミの海外市場参入を支援する任務が以前にもまして急務であることが明らかとなっていた。

表1. シャオミによる主な知財取引

譲渡人

時期

詳細

マイクロソフト

20166

マイクロソフトは、特許クロスライセンス契約およびソフトウェア契約の一部として1,500件の特許を譲渡した。

インテル

20162

エレクトロニクス、ソフトウェア、および電気通信に関する少なくとも332件の米国特許資産を含む譲渡。その一部は、当初は米国半導体メーカーLSIに譲渡された。

ブロードコム

201510

当初は日本のルネサス・エレクトロニクスが所有していた32件の米国特許資産の譲渡。

威嚇射撃

最初の重大な警鐘が打ち鳴らされたのは、シャオミの携帯電話がインドで発売されたちょうど5か月後、インドの裁判所がシャオミに差止命令を突きつけた2014年12月であった。原告のエリクソンは、特許ライセンスについてシャオミと交渉する試みに3年間を費やしたが無駄に終わったと裁判所に訴えた。翌月、シャオミは、販売した機器1台につき 100 ルピー(1.57ドル)を裁判所に供託する条件で、携帯電話の販売を再開することができた。本件は、未だに係属中である。

このときまでに、シャオミ本来の知財成長戦略は軌道に乗っていた。2014年には2,700件の特許出願を行っており、翌年には3,600件以上の出願を行うことになる。しかしこれらの出願は、突如として急務となった訴訟やライセンス紛争の助けにはならなかった。ライセンサーとの交渉や効力を有する第三者の権利の取得は、かつてにも増して重要となっていた。

北京市海淀区のシャオミの本社。

シャオミは、2014年と2015年に中国のスマートフォン販売のリーダーボードでトップに立った。

2015年7月、知財機能の責任を担う新たな幹部が招かれた。王翔(Wang Xiang)は、戦略的パートナーシップのためシャオミの経営陣に上級副社長として入社する前は、クアルコム・グレーター・チャイナの社長を務めていた。「王翔が我が社の知的財産部門の担当になる。この部門で我々は前進できるはずだ」雷軍は、当時そう言っていた。林鵬は、王翔がその在職期間の初めの頃には、多くの時間を知財関連事業に費やしていたことを認めている。

シャオミとジグの合併が初めて議題に上ったのはその頃であった。ジグはシャオミに対して独立したサービスプロバイダの機能を果たす一方で、リスク管理や特許の取得などの面で支援を行うことが可能であった。しかし、ライセンシングは別問題であった。「ライセンシングの交渉では、トレードオフの選択を迫られる。従って、その交渉は(自社)社員でなければ、まとめるのは非常に難しい」ことに林は気付いた。その力関係は、機密保持の問題と共に、ジグがライセンシングの問題に関して効果的にシャオミに助言を行うことをさらに困難にしていた。

林は、信頼のおけるチームを築いていた。ジグのサービスはさまざまな企業から注目を集めていたが、シャオミの経営陣がジグを引き継ぐことに納得したとき、林の側に躊躇はなかったことを彼は思い起こす。「中国には、『砂漠で一滴の水をもらったら、泉を返す』ということわざがある。私は、シャオミがジグの最初の出資者であったことに感謝しており、シャオミの成功を支援したいという個人的願望があった。だから我々は、その取引を実現させたのだ」

シャオミの知財戦略部門が置かれたビル。知財戦略部門は、スマートフォンメーカーであったシャオミが知財ファンドオペレーターのジグを買収した2016年にこのビルに移った。

協力

今日、王翔はまだシャオミの知財チームを監督しているが、今や、知財およびサプライチェーン・ポートフォリオに加え、シャオミの国際ビジネス全体を任されている。このため、彼には3つの直属の部署があり、知財実務に直接携わるために使える時間は少ない。王海兵が知財部門の取締役として社内の知財創造に向けた取り組みを統率しており、およそ35名のチームが出願業務に集中している。林鵬が率いるジグのチームのほぼ全員がシャオミに移って知財戦略チームを編成しており、林は知財戦略担当副社長の任にあたっている。ディスプレイメーカーBOEの知的財産部門の元責任者、孫豳(Sun Bin)が率いる訴訟チームは、形になりつつある。

現在、戦略チームはライセンシングと権利の取得の2つを主な目的としている。これらの2つの領域に集中するチームは、さまざまな研究開発分野における博士を含む技術者チームと法律専門家で構成される特許評価チームが支援している。「新たな特許の購入、収益化、または出願のいずれを行うとしても、3つの能力を有する必要がある」と林は見解を述べる。「取引の技術的側面、法律的側面、およびビジネス的構成要素を理解し、それらを調和させなければならない」イングリッシュは、チームの相対的な若さと技術的な優秀さがチームを際立たせていると考えている。「彼らは若く、賢く、チームをすべて理解している…。彼らは、難しい問題を取り上げ、はるか昔に学校を出た我々のような者が躊躇してしまう分野にも飛び込んでいく」

北京市中関村地区にあるマイクロソフト中国法人の本社。知財戦略チームの最初の業績の一つである、2016年のクロスライセンス契約により、シャオミは、1,500件のマイクロソフトの特許を取得し、自社製品にマイクロソフトのソフトウェアをプレインストールすることに同意した。

ライセンシングの危機

シャオミが、2016年2月に記録された株式取得契約を通じてジグを正式に買収したとき、林鵬の最優先課題はライセンシングの分野でいくらかの前進を果たすことであった。過去にライセンサーたちは、これが最終的条件とだけ言ってシャオミに条件を持ち掛けていた。林は、これらの申し出のすべてに目を通し、シャオミは食うか食われるかの戦いに直面していたことを悟った。「ライセンシングのパイプラインにかかる金額は膨大になっていた」と彼は思い起こす。「事実上その後2~3年分の利益の大部分を持ち出すことになっていただろう。しかし、シャオミにはそれを受け入れる余裕はなかった」

ライセンシングの要請の多くは、素早く訴訟に持ち込める可能性があると考え、林のチームはまず、潜在的攻撃者を管理するプロセスの構築に注力した。「我々の優先事項は、リスク軽減であった」と説明する。交渉においては、シャオミはまさにプロパテントであり、ライセンサーとの連携を望んでいると林は強調する。しかし、どのような条件であれば、より持続可能なビジネスの構築が可能となるかをシャオミは考慮する必要もあると林は指摘する。「シャオミが成功すればするほど、ライセンサーはより多くのロイヤルティを回収することになる」

林はまた、シャオミには協力者が必要であるという王海兵による初期の評価に同意する。「シャオミに足を踏み入れた瞬間、私はマイクロソフトとの交渉を開始した」と彼は明かす。その契約は、2016年6月にまとまり、新たな知財戦略チームのための重要な趣意書となり、ライセンシングにかかる負担の軽減および有益な第三者知的財産の取得という主要な2つの取組みに大きく貢献した。クロスライセンス契約に加えて、シャオミは、マイクロソフトのポートフォリオから1,500件の特許を取得し、かつシャオミのアンドロイド携帯とタブレットにマイクロソフトオフィスとスカイプをプレインストールすることに同意した。

知財戦略チームは、個別の事業単位として稼動しており、よって独自の財務目標を有する。林は、ライセンシングは、マイクロソフトのような一流のライセンサーにとってだけでなく、シャオミと違って必ずしも知的財産を一つの事業単位と考えないような対極にある企業の最終損益にとっても極めて重要であると指摘する。「損な取引の代わりに賢い取引を行えば、同じ知的財産権をより低く、より合理的なコストで確保することで、効果的に収入を増やせる」と彼は言い添える。

取得が押し寄せる

それと同時に、取得についても着々と作業が進む。2016年のブロードコムから米国特許を購入したケースなど、これまでシャオミが行った第三者特許の取得の一部についてはジグが相談を受けていた。ジグへの最大の投資者としてのシャオミの立場を考慮すると、ジグや睿創(Ruichuan)として知られるジグのファンドにとっては、取得の中心は主に携帯電話となった。ジグのチームが行った取得業務では、常にその焦点は製品に置かれている。特許取得マネジャーのグレン・ハー(Glenn He)は、次のように指摘する。「私見を述べるとすれば、特許の評価は、私がテックインサイツに勤めていたときに行っていた仕事とは大きく異なっている。私たちは、特許自体だけでなく、特許がシャオミの進もうとする分野へ立ち戻り、実際どのように適合するのかを調べている」

特許取得部門の取締役、施偉(Shi Wei)は、2~3年前にはほとんどのブローカーはジグやシャオミを知らなかったと言う。もはや状況は一変している。取得チームは、検討と交渉のさまざまな段階にある、チームがそれまでに受けた何百もの申し入れを記録したスプレッドシートを私に示した。このうちのごくわずかな比率が売買という結果になる。私は偉に、シャオミはマイクロソフトとの提携後、1,000以上になる巨大ポートフォリオ取得の追及はやめるつもりかと尋ねた。彼は、「適正な取引が現れるなら、やめない。」と答えた。

イングリッシュは、潜在的取得目標の分析支援を行っているが、シャオミのアプローチは基本的な戦略からそのまま抜け出たようなものであると言う。「各ポートフォリオには、多数のポートフォリオ構成要素とわずかな数の極めて重要な特許がある。必要なのは、裁判所で非常に重要視されるような一つか二つの特許だけである。しかし、巨大なポートフォリオを持たねばならない。誰もが特許を数えている。」

チームは、現在管理下にある最も急を要するライセンシング問題の多くと共に、ジグや外部投資家も有するジグの睿創ファンドが収集した特許に何が起こるかについて、さらに詳しく調べ始めた。林鵬は、シャオミがそのファンドのゼネラルパートナーとしてジグの地位を継承することを認めた。

オフィスから遠出して一日を楽しむシャオミ知財戦略チームのメンバー。ジグが買収されたときも、メンバーのほとんどがチームにとどまった。

業界の代弁者へ

シャオミが知財業界で発言力を強めようとしていることは明らかである。シャオミには、知財に関する人材と知財の蓄積に充ててきたリソースが裏付けるプロパテントのメッセージがある。しかしシャオミはまた、ライセンサー側の企業に中国の製品環境特有の圧力の一部を確実に理解させることに強い意欲を示している。

「我々は、もちろん知的財産権を尊重するが、当社の長期的持続可能性を脅かすような不合理な取引を行っている余裕はない」と林鵬は論じる。林は、不合理なライセンスの申し入れをポイズンピルと評し、次のように問う。「なぜ、最終的に持続不可能な状況をもたらすような取引を行うのか」シャオミは、ファーウェイ等のその他の中国企業と連携して、ライセンサーに中国特有の市場条件を認識するよう、そしてビジネスモデルでその市場条件を説明するよう求めている。

表2. ジグによる主要な知財取引

譲渡人

時期(期日)

詳細

マイクロソフト・テクノロジー・ライセンシング

2016516

561件の米国資産を含む、376件のパテントファミリー。

アルトワ

201565

インターネット通信技術に関する7件の米国資産を含む

ルシヨン

201565

無線通信技術を対象とする9件の米国資産を含む。

インベンテックアプライアンス(江寧区)

201561

2件のコンピュータ関連の米国資産を含む。「異なるサイズのウィンドウの自動切替法」および「デジタル画像の拡大/縮小法」

インベンテック

2015522

パーソナルコンピュータ技術(ディスプレイ、BIOS更新、CPU温度管理、 中国語入力等)に関する34件の米国資産を含む。

インベンテック

2015522

電気通信およびモバイル機器技術(暗号化、データフィルタリング、文書表示、および3G等)に関する7件の米国資産を含む。

インベンテックアプライアンス

2014425

電気通信およびモバイル機器技術(ダイヤリング法、番号記憶、および国際電話等)に関する11件の米国資産を含む。

そうであれば、中国やインドなどの新興市場で販売される機器のロイヤルティを実際に割り引き、そのAACプールについて地域ベースの料金を導入するという特許プール管理会社Via Licensingの最近の発表をシャオミが公に支持したのも驚くにはあたらない。ライセンシングチームのメンバーが言うには、Viaは当初、通常のライセンシングの申し入れをシャオミに持ち掛けてきたが、議論した後にはメンバーがより合理的な構想であるとみなすものを手に戻ってきた。「それはViaのイニシアチブによるものだったので、第一歩を踏み出したViaを称賛する。」と林は指摘する。「我々の考えは、相手が当社も他社もすべて同列で扱うのであれば、我々は他社と同じ額を支払う。しかし料金が合理的で当社にとって価値があると感じたら、我々は喜んで他社より先んじて導入を決定する」

ライセンサーは、地域ごとの検討事項に加えて、どのように技術が進歩してきたかを考慮する必要があると林は論じる。「10年前、一つですべてのビデオ圧縮機能を埋め込むのに十分強力なチップはなかった」例を指摘する。「だからエレクトロニクスを製造する人々は、ビデオ圧縮を処理するソフトウェアパッケージを追加していた。それ故、技術が扱われるのは、OEMメーカーがすべてを組み立てる時点であると主張することが可能であった。しかし今日ではチップは非常に高性能となっており、本質的なビデオ圧縮機能のほとんどはチップに組み込まれている」。林は、誰もがある時点に同一額の支払いを一時に行うことが可能になる、より一層効率的なライセンシングモデルが実現する可能性があると考えている。しかし、昔からの慣習がなかなかなくならないと認める。「同じことを続けるほうが容易だから」

シャオミが強い発言権を持ちたいと願うもう一つの領域は、標準設定である。シャオミは、昨年のうちに標準設定チームを立ち上げ、無線の分野における世界標準に資する取組みを行っている。標準設定組織、さらに知財政策に関して言えば、シャオミが熱心な提唱者であることは間違いない。林は、最近、ちょうどこの目的で、IEEE標準規格協会の企業諮問グループにも参加している。

シャオミの知財戦略チーム。後列(左から):Glenn He, Yajuan Wu, Bei Wang, Jana Shi, Chenhao Gao, Shuang Cheng, Bing Hu, Ning Xu, Hui Zeng, Na Wei, Ran Xu. 前列(左から): Wei Shi, Paul (Peng) Lin, Lin Du

リスクと報酬

シャオミが欧州および北米市場において新規事業を開始する可能性は長い間予測されてはいるが、現在のところ、シャオミは、より持続可能な成長モデルを追求するように、中核となる管轄区域である中国とインドに継続して重点を置くつもりのようにみえる。アジアにおける最近の展開を考えると、訴訟リスクは依然としてシャオミにとって深刻である。しかし林鵬は、シャオミはゆくゆくは破壊的訴訟を遠ざけられると確信している。彼は、シャオミが、事業を行っている中国以外のインドやその他の国々における実際の訴訟の対処に際して、さらに経験を積んできていると言及する。

多くの知財実務者もまた、シャオミの知的財産への投資に対し収益成長率の鈍化が何を意味するかについて憂慮しているかもしれない。しかしシャオミで働くすべての者は、経営陣の最高レベル、雷軍自身までが知的財産の長期の戦略的価値を高く評価していると確信している。「選択肢はない」イングリッシュは指摘する。「知的財産を本気で扱わずに、携帯電話事業はできない」林はこれに同意し、経営陣は「競争上の優位性を維持するためには、研究開発への投資が必要であることを深く理解している」と主張する。

同時に、シャオミ内で生み出される特許の数に減速の兆しはない。王海兵は、プロジェクト数、研究開発スタッフの人数等、シャオミを詳しく調べ、それを中国だけでなく世界上位のテクノロジー企業と比較した後、そのポートフォリオを基準に従って評価していると言う。シャオミの技術者たちが実現していると王がみているものは、彼に大きな自信を与えている。「今でも毎日興奮している。我々のチームの情熱こそが、まさにシャオミに士気を与えるものである」イングリッシュは、この情熱がシャオミを際立たせるものであると信じている。「世界を制覇しようという若いチームの一員であることは素晴らしい」

行動計画

シャオミは、2016年にその知財機能を改革し、林鵬率いる知財戦略に特化した部門を立ち上げるためにパテント・アグリゲーターおよびコンサルタント会社であったジグを買収した。シャオミは、中国での競争の激しいテクノロジー業界において優位に立つため、知的財産へのより戦略的なアプローチに対する資本投下に関心を向けている。

  • シャオミは、スマートフォンの最初の発売と同じ年の2011年に、初めて知財専門の職員を迎え入れた。知財機能は最初から法務機能とは分離され、経営幹部レベルの役員直属の組織であった。
  • シャオミは、中国初のパテント・アグリゲーターの一社であったジグ設立の立役者であった。ファンドは、公的資金と民間資金の両方を募り、およそ1,500件の特許資産を収集した。
  • シャオミは、主にライセンシングとさらなる第三者特許取得の支援を行う多数の知財ビジネススタッフを入社させるため、2016年にジグを買収した。
  • シャオミの取得チームは、1,500件のマイクロソフトの特許購入後も、適正な取引であれば、まだ大規模な特許購入を受け入れると述べている。
  • シャオミは、中国の業界関係者の利益を促進することを目的として、規格協会内およびより広範な知財市場の両方で発言を強化していく。
ジェイコブ・シンドラーIAMのアジア担当エディターとして香港在住。

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