特許訴訟勝訴の秘訣
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台湾の特許権侵害民事訴訟の判決の趨勢
知的財産裁判所は、知的財産案件審理法の規定により、知的財産関連の事件について普通裁判所よりも優先的に管轄している。そのため、普通裁判所は知的財産関連の事件を審理することができるものの、実際は知的財産裁判所に移送されることが多い。統計によると、知的財産裁判所は2008年7月1日に設立してから2017年3月までの間で、既に4447件の知的財産関連の事件を受理し、そのうち1147件が特許関連の民事訴訟事件であった。特許関連の民事訴訟事件において、被告が特許権の有効性抗弁を提出して知的財産裁判所が特許権を無効と認定した割合は、知的財産裁判所設立初期の69%(2010年)から、最近の39%(2014年)、36%(2016年)のように推移している。このことから分かるように、特許権侵害民事訴訟では原告が敗訴する割合が比較的高く、その原因の多くは被告の提出した無効の抗弁が裁判所に認められたことにあり、一部の原因はおそらく、原告の特許権侵害の主張が裁判所に認められなかったことにある。ちなみに、知的財産裁判所の統計によると、ここ7年の特許権侵害民事訴訟の平均審理期間は、第一審で約240日(8ヶ月)、第二審で223日(7ヶ月)となっている。
台湾の特許権侵害民事訴訟の審理方式
現在、特許権侵害民事訴訟の審理方式は、法律により事件を管轄する裁判所が、原告・被告が交換した書類から整理された争点に基づき、まず原告の主張する特許の有効性(特許が無効の場合、裁判所は直接原告敗訴の判決を下すことができる)及び(または)クレームの原告、被告双方に争いのある用語の解釈について判断し、次に被告が有する侵害疑義製品または方法が、原告の主張するクレームの文言上または均等論の範囲に含まれるか否かを判断する。裁判所は、被告が特許権を侵害したとする原告の主張が成り立たない場合、または原告の主張は成り立つものの被告が提出した特許権侵害を阻却する抗弁が成り立つ場合、原告敗訴の判決を下すことになる。
特許権侵害民事訴訟で如何に勝訴判決を勝ち取るか
一、 原告の戦略として
(一) 原告は訴訟提起の前に特許の瑕疵を解消しておくべき
上述の通り、民事裁判所が原告の特許を無効と認定したことが、特許権侵害民事訴訟における原告敗訴の主因であり、被告の製品または方法が原告のクレームの文言上または均等論の範囲に含まれないことが副因である。そのため、原告は、訴訟を提起する前または被告に警告書を送付する(これにより被告が警告書を受領した後もなお係争特許を実施する行為は故意に権利を侵害する行為に属することが証明される)前に、主張しようとする特許自体が特許法の規定を満たしているか否かを分析すべきである。民事訴訟時に被告が特許無効の抗弁を提出してそれが審理時の争点とならないように、特許自体に瑕疵がある場合には、原告は行政手続きに従って自発的に知的財産局に訂正請求を提出した後で、被告に対し権利を主張すべきである。これによって、裁判所の速やかな結審が促される。実務上、原告が訴訟後に、はじめて知的財産局に訂正請求をするとともに民事裁判所にその事実を報告した場合、民事裁判所は知的財産局の査定よりも前にその訂正請求の適法性を認定することができるが、その訂正請求によって原告が提訴した訴訟対象が変動し、訴えの変更に当たると判断される可能性がある。そうなると被告の同意を得なければならなくなり、原告の攻撃方法に不利な影響をもたらすことになる。
(二) 原告は訴訟前に、クレーム内の争いがある用語の解釈を確定しておくべき
特許権侵害民事訴訟の原告・被告は、裁判所から特許の有効性及び(または)特許権侵害について自分に有利な認定を得るために、係争特許のクレームの用語の解釈について争うことが多い。そのため、原告は訴訟を提起する前に、関連クレームの用語に曖昧なところがないかを事前に確認するとともに、当該用語が、クレームの保護範囲を変更または縮小しない(即ち、クレーム解釈前と解釈後の発明が同じ発明概念に属すること)という前提の下、明細書及び図面に基づいて合理的な解釈を得ることができるか否かを判断すべきである。
(三) 原告はクレームの文言侵害に対しては広く判断できるが、クレームの均等侵害に対しては厳格に判断を行うべき
たとえ原告が、被告の提出した特許無効の抗弁の阻止に成功し且つ裁判所から争いのあるクレームの用語について有利な解釈を得たとしても、原告は、何故被告の製品または方法が、原告の特許のクレームの文言上または均等論の範囲に含まれるのかについて、裁判所を納得させなければならない。クレームの文言侵害の判断ではあまり争いがなく、クレームのある限定特徴(特徴A)と係争製品または方法の対応特徴(特徴a)とは、1対多、多対1のいずれの対応関係であってもよい。一方、クレームの均等侵害の判断では、実務上、機能(Function)・方法(Way)・効果(Result)の3要素によるFWRテスト及び非実質的差異テストによって判断を行うことができるが、特徴Aと特徴aとの間に実質的に同一の機能、実質的に同一の方法または実質的に同一の効果を有しているか否かについて、現時点でもまだ裁判所の判断基準は一致していないため、民事第一審と第二審ではクレームの均等侵害の判断に対して異なった見解を示す可能性があり、どういう基準に従うべきなのか原(被)告を困惑させている。また、現在の実務においては、権利一体の原則に基づき、主に機能でクレームの技術的特徴を分析し、これにより被告の製品または方法の中の対応する機能を有する単一または複数の要素(ステップ)と対照するため、特徴Aと特徴aが実質的に同一の機能を有しているか否かを判断するのは比較的問題がなく、納得のいく結論も得ることができ、互いに実質的に同一の効果を有すると推論することもできる(物事において機能と効果は表裏一体である)。しかしながら、特徴Aと特徴aが実質的に同一の機能を有していたとしても、両者の間に実質的に同一の方法を有しているか否かについては、現在の実務においては、電子機械分野の発明で、「要素間の位置の変動または交換」がこれに該当すると認められているのみで、特徴Aと特徴aが全く異なる構造または動作原理を有している場合は、これに該当しない。したがって、原告は提訴前に被告の係争製品または方法がクレームの文言侵害に該当しないと気づいた場合は、提訴後に敗訴となる事態を招かないためにも、上述の原則に従いクレームの均等侵害の判断を厳格に行うべきである。
二、 被告の戦略として
(一) 被告は訴訟前に、特許の瑕疵を見つけ出しておく
原告は、提訴前に被告に警告書を送付するのが一般的である。被告はそれを受け取ったときに、警告書に記載されている権利侵害の認定及びその具体的な権利侵害行為の様態を詳細に検討するほかに、更に(1)係争特許自体を詳細に分析して、今後の無効審判の請求及び(または)訴訟時に提出する特許無効の抗弁の成功確率を見極め、または(2)例えば、先行技術の抗弁、商業的目的でないこと、先使用権、権利の消尽、研究目的または試験目的、医薬品の承認申請に必要な研究または試験など、権利侵害を阻却する抗弁が主張可能か否かを確かめ、それを適時原告に通知して、原告が勝訴の困難性から訴訟を取り下げるようにし、或いは訴訟時に上述の主張を提出し、裁判官に対し原告敗訴の判決を下すよう説得すべきである。被告は上記(1)と(2)の訴訟戦略により、裁判所が審理する争点を多様化させることができ、それが原告の防御のプレッシャーとなって、裁判所の審理期間が効果的に引き延ばされ、原告の訴訟に係る費用が膨らむことで、原告が和解の可能性について考えるようにする。
(二) 被告は訴訟時にクレーム内の争いのある用語について自分に有利となる解釈に向けて努力すべき
特許権侵害民事訴訟の原告・被告は係争特許のクレームに記載された用語の解釈について争うことが多い。裁判所から特許の有効性及び(または)特許権侵害において自分に有利な認定を得るために、被告はクレームの保護範囲を変更または縮小しないという前提の下、明細書と図面に基づいて合理的な解釈をすべきである。
(三) 被告は原告のクレーム内の文言侵害及び均等侵害の認定に対して厳格な判断を行うべき
クレームの文言侵害に関しては、原告はクレームに記載されたある限定特徴(特徴A)と係争製品または方法の対応特徴(特徴a)とは1対多または多対1の対応関係であると主張することができるが、被告は、係争製品または方法の各特徴をクレームに記載されたある特定の技術的特徴に重複的に対応するはずがないことに注意すべきである。またクレームの均等侵害の判断に関しては、特徴Aと特徴aが実質的に同一の機能を有していたとしても、両者が単純な「要素間の位置の変動または交換」でない場合には、実質的に同一の方法を有しないため、均等侵害にならないことに注意するべきである。

彭国洋 (Jesse KY Peng)
パートナー
連邦国際専利商標事務所シニア・パートナーである彭国洋(Jesse K.Y. Peng)は弁護士、弁理士、中国専利代理人及び電子工学技士の資格を有し、現在、アジア弁理士協会台湾部会(APAA Taiwan Group)監事を務め、台湾弁理士会(TWPAA)会員、両岸事務委員会の委員、知的財産裁判所実務委員会及び中華民国弁護士会全国連合会(Taiwan Bar Association)知的財産権委員会の委員でもある。20年近く国際知財業務に従事している彭弁護士は主に海外のクライアントから依頼された専利の出願及び検索、専利権侵害鑑定及び無効審判請求、行政訴訟及び専利侵害訴訟、商標紛争等の業務を担当している。
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