ロンドンで公正、合理的かつ非差別的な条件に関する判決
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ロンドン高等法院は4月、世界のFRAND条件に基づくライセンス取引に大きな影響を与える可能性のある判決を下した。
ロンドンのイングランド・ウェールズ高等法院のコリン・バース判事は4月7日、公正、合理的かつ非差別的な(FRAND)条件に基づく標準必須特許(SEP)のライセンス許諾に関連したアンワイヤード・プラネット対ファーウェイ(華為技術)訴訟の判決を言い渡した。判事はライセンサーのアンワイヤード・プラネットを支持し、そう決定した理由について長く詳細な説明を行った。
とりわけ、アンワイヤード・プラネットは特許不実施主体(NPE)であり、昨年パンオプティスによりその特許資産を4,000万ドルで取得されていた。しかし、裁判所はたとえそうだとしても、今後ファーウェイがFRAND条件に基づく世界ライセンスの取引に同意しない場合、アンワイヤード・プラネットは英国における差止救済の権利を有すると判示した。
この訴訟は非常に重要な意味を持つ。世界のコモンロー裁判所でFRANDとSEPの事案がこれほど深く審理された最初の例の一つであるだけでなく、2015年7月における欧州司法裁判所(ECJ)によるファーウェイ対ZTE訴訟の判決以後、この争点に関して米国と欧州が異なる方向を目指しているように見えることが改めて確認された。
アンワイヤード・プラネット対ファーウェイ訴訟は、上記の極めて重要なECJの判決以後、英国で初めて下されたSEP/FRANDの判決であった。一方で、ドイツの裁判所は多くの類似訴訟を取り扱っており、傾向が明白になっている。米国では、ライセンス取得者に有利と見られる方向に状況が展開しているのに対し、ドイツでは、そして今や英国でも、ライセンサーがはるかに強固な立場に立っている。決定的なことは、ライセンサーはそのビジネスモデルにかかわらず、勝訴すれば差止救済の選択権を期待できるという点である。
より具体的には、アンワイヤード・プラネット対ファーウェイ訴訟によって、SEP/FRANDに基づく紛争の展開の中で英国が次第に重要な裁判地になるという見方が強まっている。英国が単一特許協定を結局批准しない結果に終わった場合(現在、近く予定される総選挙のためにその進行が中断中)、そうした見通しが非常に大きな意義を持つ可能性がある。
以上を含めた様々な理由により、アンワイヤード・プラネット対ファーウェイ訴訟に精通することが、知財のディールメイキングに携わる者すべてにとって極めて重要となる。このことを考慮に入れて、IAMは、判決の主な要点を明らかにすることをブリストーズのパートナーのパット・トレーシーとソフィー・ローランス、アソシエイトのフランション・ブルックスに依頼した。以下はその説明である。
IAMの読者ならよくご存じのように、アンワイヤード・プラネットは、2013年初めにエリクソンから大規模な特許ポートフォリオを取得した知財ライセンス会社(あるいはNPE)である。同社のポートフォリオを構成する特許の多くは、2G規格(GSM/GPRSなど)、3G規格(UMTSなど)、4G規格(LTEなど)を含む様々な欧州電気通信標準化機構(ETSI)の電気通信規格にとって必須と宣言された。
2014年3月、アンワイヤード・プラネットは、5件のSEPを含む6件の英国特許を侵害したとしてファーウェイ、サムスン、グーグルを訴えた(同時に、多数の企業を相手取ってドイツで並行訴訟を提起した)。その後、英国の高等法院は、その中で一部の特許の有効性と侵害に関して技術審理を行い、2件について有効性と侵害を認めた。しかしながら、この直近の判決は事案中の競争法とFRANDの争点にも関連していたことから、それらに関する審理が別途昨年末に行われた。他の被告(サムスンとグーグル)および訴訟に参加していたエリクソンはこの審理前に和解に達していたことから、結局その審理の当事者はアンワイヤード・プラネットとファーウェイのみになった。
FRAND条件に関する判決内容
特許権者は、特許がETSI電気通信規格にとって必須と宣言した場合、その特許をFRAND条件でライセンスすることを確約しなければならない。この判決で裁判所は、FRANDライセンスは通常全世界的なものであり、その条件はライセンシーや実施者の規模によって著しく相違してはならないと判示した。
これは、SEPライセンスの交渉に関与する多くの人にとって極めて重要な、そしておそらくは厄介なガイダンスである。判決はまた、FRAND料率の決定方法についても述べている。すなわち、関連する既存の類似ライセンスから料率を「取り出す」か、関連するSEP全体に占めるそのSEP保有者の比率を計算する「トップダウン」分析を行うかのいずれかとされた。
判事は、トップダウン分析は照合確認のために用いるものとし、(可能な場合は)類似ライセンスの利用を選好した。また結論として、特許を集計することが、関連するSEPを特定し、過剰宣言の問題に対処するための唯一の実務的なアプローチであると述べた。そして、一般にすべての特許を有効なものとして、また、ほぼ同一の価値を持つものとして取り扱うべきであると断じた。ただし、場合によっては、特定の規格の「中枢的発明」を包含する例外的な特許に追加的価値を付与することもあり得るとした。
注目すべきは、特定の状況における所与の当事者間には1組のFRAND条件のみが存在すると判示されていることである。それには、料率だけでなく他のすべてのライセンス条件も含まれる。判事の指摘によれば、このことが法的安定性をもたらし、FRANDが執行可能であることを保証する。そうでない場合、裁判所は、どちらも外見上FRANDであるオファーとカウンターオファーのどちらかの選択を迫られる可能性がある。
米国におけるアンワイヤード・プラネット対ファーウェイ訴訟の受け止め方
アンワイヤード・プラネット対ファーウェイ訴訟の判決による直接的影響を実感するのは英国に限られるかもしれないが、この判決は世界中の特許法専門家、特許権者、ライセンシーの注目を集めた。元連邦巡回区控訴裁判所の裁判長のポール・ミッチェル氏は次のようにこれを歓迎した。
「この判決とバース判事の綿密な論理はとても素晴らしいと思う。これは、世界中で販売される製品に対するFRANDライセンスにとって画期的出来事である。米国の視点からすれば、うらやましい限りである。非常に実際的で、法理論だけでなくすべての経済的現実を反映している。
この判決は、現実的に捉えられた詳細で十分に明確な経済的事実に基づいて綿密に論理構成されている。私見では、どんな状況であれ、差止、FRANDライセンスあるいは合理的なロイヤルティを取り扱う米国の訴訟の非常に多くが理論に走りすぎており、それらの業界で競争している企業が実際に判断し、従っている現実的な経済的特性に対して適切な(時には全く)注意を払わず審理が進められている。これに対し、バース判事の分析は、私の記憶にあるどんな米国の判決よりもしっかりとビジネスの実体に根ざしている」
しかしながら、当事者間の交渉に関する限り、何がFRANDの正しい条件かについては競合する見解が依然として存在することは間違いない。重要なのは、この判決に基づいて既存のライセンスの交渉を再開することは認められない、と裁判所が述べていることである。その理由は、すでに条件が合意されている以上、ETSIの契約基準に従って当該ライセンスを見直すことができないからである(ただし、その条件があまりに基準からかけ離れているために競争法が絡む場合は別である)。
裁判所は、本事案でFRAND料率を決定するにあたり、自由な交渉が行われた類似ライセンスをベースとした上で、予想されるロイヤルティ負担総額が適切な範囲内にあることを確かめることによって、算定された料率を照合確認した。この基準に基づき、裁判所は、アンワイヤード・プラネットの提示は高すぎる一方、ファーウェイの提示は低すぎるため、どちらの当事者の提示もFRANDに該当しないと判断した。そしてそれに代えて、アンワイヤード・プラネットのポートフォリオの全世界ライセンスについて別の一組のFRAND料率を決定した(囲み参照)。
これらの料率から導き出される4Gの携帯電話のロイヤルティ負担総額は8.8%となる(判事はこれが適切であると判断した)。
SEP保有者と実施者にとって何を意味するか
FRAND料率の決定方法に関する裁判所のガイダンスが、SEPライセンスの交渉当事者にとって役に立つことは明らかである。さらにそれは、FRANDの交渉で当事者がどんな行動を取るべきかに関する有用な方向性も示す。
裁判所は、両当事者が共にFRANDアプローチを取るべきであることを明確にした。SEP保有者はホールドアップ(実質的な実施許諾の拒否)を行ってはならず、ライセンシー/実施者はホールドアウト(実質的なライセンス取得の拒否)を行ってはならない。しかし、だからといって、交渉中のすべてのオファーがFRANDである必要はない。FRANDアプローチの下でも、最終的なFRANDライセンスに向けて交渉による値上げや値下げの余地を残した「非FRANDの」初回のオファーを行うことは依然として可能である。FRANDを上回る、または下回る提示は、極端でなく、交渉の混乱や毀損をもたらす非妥協的なアプローチでなければ問題にはならない。注目すべきは、判事の見解によれば、SEP保有者が実施許諾を通じて、自身の技術が規格に組み込まれることから発生する価値の一部を取得しようとすることはホールドアップには当たらないということである。
本事案で提起された特定の争点を受けて、裁判所は、FRANDのうち「ND」、すなわち「非差別的」の部分も具体的に取り上げた。判事の判断によれば、ライセンシー/実施者は、類似した立場にある別のライセンシーと同一のライセンス条件を要求する権利を必ずしも持たない(ただし、ライセンス条件の格差が両ライセンシー間の競争を歪めるようなものである場合はその権利を持ち得る)。むしろ、FRANDの「ND」の部分は、ライセンシーの規模ではなく特許ポートフォリオの強固性に基づいたFRAND料率をライセンシーに提示すべきことを意味する。
バース判事が決定したアンワイヤード・プラネットのポートフォリオに係る全世界ライセンスのFRAND料率
主要市場 | 中国その他の市場 | |||
| 携帯電話 | インフラ | 携帯電話 | インフラ |
2G/GSM | 0.064% | 0.064% | 0.016% | 0.032% |
3G/UMTS | 0.032% | 0.016% | 0.016% | 0.004% |
4G/LTE | 0.052% | 0.051% | 0.026% | 0.026% |
最後に、アンワイヤード・プラネットは本事案では支配的な地位を乱用しなかったと判断されたものの、SEPポートフォリオに関する交渉が反競争的なバンドリングや抱き合わせ、行き過ぎた価格設定に至った場合は、競争法が適用される可能性があることを判決は認めている。さらに、裁判所の判決によれば、ファーウェイ対ZTE訴訟で示された交渉の枠組みは流動的に適用されるべきものであるが、それらの原則を大幅に逸脱した場合、支配力の乱用に該当する可能性がある。重要な点は、競争法に関するこれらの問題は、FRANDの約束を契約に基づき別個に履行することとは別物である、と判事が述べたことである。これは、異論の多い新たな判断であり、これについては多数のコメントが寄せられる可能性が高い。
今後FRAND訴訟が増加するか
SEP保有者にとって、ライセンシー/実施者との交渉が不調に終わった場合、次のような様々な理由により、今や訴訟がより魅力的な選択肢になったと思われる。
- 本事案は、英国の裁判所には、全世界ライセンスについてFRAND料率とライセンス条件を定める意思と能力があることを示している。
- 次のような判事の判断を考慮すると、競争法に基づく反訴(例えば、支配力の乱用の主張)から生じると考えられるリスクが低下したと見込まれる。
° ロイヤルティ料率はFRANDを超えても構わないが、競争法に違反しては超えてはならない。
° ファーウェイ対ZTE訴訟で示された交渉の枠組みは流動的に適用することができる。
- 極めて重要な点は、英国の裁判所は、自身が決定したFRAND条件に基づくライセンスの取得を、侵害者である実施者が拒否した場合、差止を許可することが本事案によって確立されたことである(ただし、同様に、SEP保有者が当該FRAND条件に基づくライセンスを許諾しない場合は、裁判所は差止の許可を拒絶する)。従来、SEP訴訟で果たして実際に差止救済が認められるかに関しては、幾分懸念されていたところであった。本事案では、判事はファーウェイに対する差止を許可し、後日審理でそれが検討されることになった。判事がFRANDと判断したライセンス条件は全世界ライセンスに関連しており、差止を回避するにはその条件を受け入れなければならないことから、SEP保有者は、差止を許可する裁判所の意思を背景に、1回の訴訟で全世界ライセンスへの合意を得ることが可能になる。
また、この判決により、ライセンシー/実施者が不満足な条件でライセンスの合意に達するよりも、訴訟の提起を選ぶようになる可能性もある。本事案では、裁判所はFRAND条件を設定するとともに、あたかもそれが最初から導入されていたかのように、FRANDライセンスのロイヤルティの遡及的支払額に等しい損害賠償を認めた。その結果、裁判所が設定した条件を受け入れる明確な意思がある限り、早期にFRANDライセンスに合意しないことに対する金銭的ペナルティのリスクはそれほど重大ではない上(訴訟コストの影響は別とする)、プロセスの最終段階における差止のリスクも非常に限定的であることから、ライセンス交渉の進捗状況によっては、訴訟がそれほど悪くない選択肢になる可能性がある。
こうした要因を踏まえると、今後、英国の裁判所ではFRANDに関する訴訟が増加することが十分考えられる。こうした状況で、およそ800ものパラグラフから成るこの判決は、検討すべき大量の材料を提供している。