欧州特許の口頭手続への準備

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欧州特許庁の手続上の規則の適用は厳格になるばかりで、古き良き時代は永遠に過ぎ去ったようにみえる(少なくとも口頭手続については)。ただしなお柔軟な対応の余地も多少残されている。

州のベテラン特許弁護士たちは、ある種のノスタルジーを感じつつ「古き良き時代」を懐かしむであろう。かつては欧州特許庁(EPO)の審査官に気軽に電話をかけて、係属中の出願について非公式に相談することができた。さらに弁護士たちは、審査官の予定を簡単に押さえて非公式の面談を行い、顔を合わせて事案について相談することもできた。こうした面談をしている間は、審査部の残り2名の審査官は席を外しているのであった。

口頭手続もまた―とりわけ審査部では―非公式的に行われる傾向があった。弁護士はかなり自由に、係属中のクレームに大幅な変更を加えることができた。

このような古き時代は過ぎ去った。EPOの手続は、特に口頭手続に関しては公式的な色が強まる一方である。口頭手続の準備と実施についての公式な規則に正確に従わない弁護士は、何の成果も得られずに終わることになりかねない。審査の段階では、成果が得られなくても分割出願を提出することで修復することができる。しかしこの方法は費用がかかるうえに不要な業務かもしれない。異議手続ではこのような修復手段は使えない。

本稿では法的なバックグラウンドについて説明すると共に、上記のような落とし穴を避ける方法についても紹介する。この点については、欧州特許弁護士と出願人/特許権者の両方が責務を負っている。

法的根拠

欧州特許条約(EPC)の第113条、第114条および第116条、ならびに規則116および137は、EPOへの対応方法についての一般的な法的根拠を規定している。

第113条では、関係当事者に自分の事案について弁護できるオプションを与えるよう、EPOに指示している。「欧州特許庁の決定は,関係当事者が自己の意見を表明する機会が与えられる根拠となった理由又は証拠に基づいてのみすることができる。」しかしながら、当事者はただ単に、いつでも好きな時に自分の事案を弁護する書類を提出できるわけではない。たとえば出願人が出願を提出した後は、その機会を与えられるまで一定の時間がかかることがある。一例として、EPC規則137に則ると、出願人は、サーチレポートを受領するまでには、特許出願を補正することはまったく許されない。ただ、特許協力条約段階の後で欧州段階に移行した場合だけは、EPOがサーチを開始する前に補正することが許容されている(EPC規則161)。

欧州サーチレポートに添える意見書と合わせて、出願人は、サーチ意見書について意見を述べ、また希望する場合は補正した出願書類を提出するように求められる(EPC施行規則70aおよび同137)。ただしその後は、EPOは出願人に追加の補正を認める義務を負わない。規則137(3)では、以下のように明示的に述べている。「その後の補正は、審査部の同意を得ない限り、することができない。」このルールによりEPOは、出願人に追加の補正を禁じる重大な法的権限を与えられている。実務的には出願人は通常、追加の補正を行う機会を1回か2回は与えられるものではあるが、その機会を与えるのがEPOの義務ではないことを理解しておくことは有益である。

最後に、EPC第114条(2)は、EPO手続の当事者はEPOの定めた期限を遵守しなければならないことを定めている。「欧州特許庁は、関係当事者が提出期限までに提出しなかった事実または証拠を無視することができる」

審査における口頭手続

EPOにおける書面手続が当事者の希望に添った決定に至らなかった場合は、口頭手続を行うことができる。口頭手続は、EPC第116(1)条に基づく基本的権利であり、同条文は次のように定める。「口頭手続は、欧州特許庁が適切と認める場合は欧州特許庁の要求に基づいて、又は手続の当事者の一方の請求に基づいて行う。」

口頭手続の準備において、EPOは、手続の期日および場所、討議すべき論点、EPOとしての予備的意見、ならびに最も重要なこと―すなわち提出物の最終提出期限を示した召喚状を送達する。この期日は、例外的な場合は口頭手続の2ヶ月前であるが、通常はその1ヶ月前であり、非常に真剣に対応すべきところである。召喚状には次のような文言が含まれる。「出願人は、提出書面や修正を作成する最終期限に留意されたい。...遅れてなされた補正は、上述の既存の拒絶理由すべてを一見明らかに克服している場合か、新たな拒絶理由を生じさせる場合でない限り、審査部は考慮しない。」

従って、当事者が自らの主張と書類すべてをEPOが確実に検討するようにさせたい場合は、それらを提出期限までにEPOに送付しなければならない。EPOは、口頭手続中でもクレームへの追加補正を受理することができるが、受理する義務があるわけではない。受理するのは、遅れた補正によって既存の問題すべてが解決できる場合に限られる。

口頭手続中の追加の補正の受理が拒否されそうな時の欧州ならではの対処方法としては、主請求のクレームがEPOに拒絶された場合に、副請求の提出を通じてEPOに査定させるための予備的位置づけのクレームを提示するというやり方がある。このような副請求は複数セット提出することができる。これは口頭手続それ自体の時まで待つことなく、提出書類の期限までに行うことが望ましい。口頭手続の日になってこれらの副請求を提出することは、公式な場で拒絶されるリスクが高いからである。

出願人は、副請求の提出を躊躇してはならない。副請求が提出されても、EPOはこれを主請求の弱点とは考えず、すべての請求を真剣に査定するであろう。それよりも重要なことは、手続のこの段階で提出しなければ、審判における手続でまったく受理されないリスクが高いということである。

提出できる副請求の数に公式の制限はないが、合理的な数にするべきである。あまりにも多すぎればEPOをいらだたせて、事案の進行に支障が出る可能性も考えられる。

重要なのは、連続した副請求の内容である。EPOはかつて、関連しない主題を対象とする連続した副請求を受理していたが、もはやそうではなくなった。「数撃てば当たる」というやり方を阻止するのがEPOの意向であり、後に続く副請求が以前の副請求と関連する範囲に限定されている場合にのみ、その副請求を受理するようになってきている(T1903/13参照)。

EPOは口頭手続で、まず提出されたクレームすべての受理可能性の確認から始める。期限までに提出されていた場合、「提出遅れ」の指摘をされる可能性はない。しかしながら、既存の問題を全部解決できていないクレームのセットは、簡潔な意見を与えられるだけで、手続ではまったく受け入れられないことがある。さらにEPOは、通常、追加の副請求を口頭手続中に提出できるのは、EPOの同意がある場合に限られる旨を警告する。

EPOがそのような同意を与えなければならないのは、その追加の副請求がそれまでに言及されていなかった新しい先行技術を参照している場合、またはEPOが予備的意見を付して口頭手続の召喚状を送付した後で考え方を変えた場合に限られる(T273/04)。

実務上は、審査の口頭手続中は、特許がまだ付与されておらず他の当事者が関与していないことを理由に、EPOはやや柔軟に対応する傾向がある。

異議における口頭手続

異議手続は、原則として審査手続と同様の規則によって管理される。ただし異議を申し立てる当事者は、異議申立通知に「欧州特許に対してする異議申立の範囲および異議申立の根拠とする理由についての陳述ならびにその理由の裏付けとして提出する事実及び証拠の表示」(EPC規則76(2)(c))を含めなければならないことについても意識しておく必要がある。

この規則の結果として、異議申立人が異議手続の過程で追加的な事実と証拠を提出しても、それらはすべて遅れて公式に提出されたものであり、従って異議部は無視できるということになる。異議部がこれらの事実と証拠を受理する必要があるのは、明らかに関連性がある場合(つまり、それらを審査することで手続の結論に影響が出ることが直接的に明らかな場合)に限られる。それらの事実と証拠が手続の中でなぜもっと早く提出されなかったのかを議論する余地はある程度存在する。

異議手続全体の中で見ると、口頭手続に持ち込まれる比率が高く、これは、当事者たちは通常、書面手続中に合意に至ることができないからである。EPOが異議手続を促進する措置を最近取っていることから、当事者が和解をするための時間的枠組は短くなる一方であろう。現在の典型的なパターンとしては、異議申立通知に対して特許権者が応答をしてから4ヶ月ないし6ヶ月以内のある時点で、全当事者は口頭手続への公式の召喚状を受けることになり、一切の提出物の提出期限の遵守が迫られる。そうしなければ手続で受理されないおそれがある。ここでもまた、この期限は審理の1ヶ月ないし2ヶ月前である。この召喚状の内容は、出願人が審査中に受領するものと本質的には同じである。

異議手続には複数の当事者が関与しており、その当事者たちの利益は異なっていることから、異議部は審査部よりも公式的になる傾向がある。従って、口頭手続の期日を待つことなく、提出書類の提出期限までにすべての事実、証拠および主張を提出することが極めて望ましい。異議部は、最終の提出書類の締切当日に提出された場合でさえも、提出遅れを理由として請求を受理せず、これに例外はない。場合にもよるが、特許権者はそうした請求の期限を守る準備をしておかなければならない。

口頭手続中特許権者は、新規に引用されたもので高度に関連性のある先行技術の場合、あるいは異議の側が見解を変えて新たな主張を受け入れる場合のみ、追加の請求を提出することができる。そうであっても、異議部は往々にして、異議申立人にとって予見可能であるから明確化のための煩雑な議論を起こさないであろうという理由で、認められたサブクレームだけに限定して許容することがある。異議部は1つの理由について1件の試行だけを許容するように指導を受けてきたという示唆もある。特許権者は、異議部が小刻みの手続を行うことを望んでいないということを理解しておくべきである。その日に提出された請求は、提出されたすべての争点を解決する純粋な試みであって、決して新たな争点を導入するものであってはならないのである。

審判部の手続規則

審判部には独自の手続規則がある。この規則は、審判手続が第一審の決定に対する不服申し立てを意図するものであることを反映している。事案をやり直すために全く新たに不服を申し立てることはできない。

従って手続規則は、審判部が、第一審の手続で提出できたはずであった/受理されなかった事実、証拠または請求について受理不可とする権限を有する旨を定めている(規則12参照)。

さらに審判手続は、請求人の提出した審判理由と、審判部からの通知に基づかなければならない。異議手続では、当事者たちは、他方当事者のすべての書類の内容について意見を述べる基本的な権利も有する。このことが審判手続の枠組を規定しており、審判部は、当事者たちが適時に提示しなかった事項にまで手続の範囲を広げることを望まないのである。

従って、請求人は提出書類を非常に慎重に作成しなければならない。例えば、審判の理由またはそれに対する答弁には、当事者の事案を完全に含んでいる必要がある。すべての事実、証拠および主張は、最初から明示的に提出されなければならない。

審判手続中の新たな提出内容を受理するかどうかは、審判部の裁量判断による。実務上は、提出内容の複雑さと手続の状況次第である。本質的には、審判部はその裁量判断を寛大に行使してくれるわけではない。

審査-審判段階における口頭手続

審査中は、審判部は手続規則に従って行動するが、請求人がまだ付与された特許を保有しておらず、審判が(分割出願を提出して、高い費用をかけてまた全部やり直すという方法は別にすると)最後の手段であることを理解しているため、一定の柔軟性は示している。

この手続規則、とりわけ提出期限遵守の規則には従うことが推奨される。審判部は口頭手続中、提出遅れについては厳しい対応をすることが考えられる。審判部が、提出内容が新たな事案を提起しているのではないかと疑った場合、その提出内容は当該手続においては受理されない。提出された(予備的)クレームセットが、審査部で提出し防御できたはずのものである場合は、間違いなくそのような対応をすることになろう。

異議-審判段階における口頭手続

異議についての審判の主たる目的は、異議部が行った決定について終局的な見直しを行い、敗訴した当事者にその決定について争う機会を与えることである。従って、異議においての審判手続は、その前段階の異議手続の事実面と法律面の範囲によって大いに規定されることになる。

ここでもまた、利益の対立する複数当事者が関与しているため、手続規則は全般的に一層厳格に適用される。新しい証拠、または新規の請求や主張を受理するのは困難である。たとえ書類や主張が異議手続で使用されていたとしても、審判手続の開始時点では提出されていなかったのであれば、同様に困難となる。口頭手続で密接な先行技術に基づいた進歩性の主張が提示されたとしても、当該の書類が、口頭手続に至る審判手続の中で新規性のために使用されていた場合は、審判部はその進歩性の主張を却下してきた。口頭手続への召喚状にはいずれも最終的な提出書類の提出期限が記載されていないのは、このことを象徴している。弁護士が、提出の機会を与えられるべきだったと主張しても、ただ単に呆れた目で見られるのが落ちである。

結局のところ、審判部で成果を得たいのであれば、第一審の手続で同じことを試みておくべきである。ただ、たとえそうしたとしても、あらかじめ提出済みの請求すべてを審判部が受理してくれる保証があるわけではない。統一的な取扱がここでの重要な指標である。

実務上の教訓

EPOが手続規則を厳格に適用するようになったことから、以下のようなルールに従って行動することが推奨される。

  • 審査官の見解に納得できない当事者も、安易に諦めてはいけない。審判請求が可能な段階のファイルについてのステートメントの発行請求をしてはならない。常に、主請求と可能な副請求すべてを提出し、かつ防御すること。審判部では新たにそういう行為を行う機会は与えられないかもしれないから。第一審手続で提出したが取り下げた、もしくは放棄した請求は、もうそれで終わりである可能性を意識すること。第一審で請求に説得力がないと判断された場合でも、その変更版なら審判手続で提出できるかもしれない。第一審でその請求についての決定がなされなかった場合は、審判部はあらゆる機会を捉えて追加の試みを却下することができる。
  • 口頭手続の準備においては、提出書面の期限までに、考えられる副請求すべてを常に提出すること。口頭手続それ自体まで待っていてはいけない。異議手続では、異議申立通知への応答の中で、あらかじめこれらの副請求を提出しておくことを考えるべきである。どんなことでも遅くなれば、提出遅れを理由として、手続で受理されないという重大なリスクがある。留意すべきは、副請求を提出することは、別に主請求の弱点とみなされるわけではなく、実務の標準になっている点である。

古き良き時代は永遠に過ぎ去った。少なくとも、口頭手続については。ただしEPOはまだ柔軟な対応の余地を多少残している。EPOは最近、時間がかかる割に申請が遅々として進捗しない公式対応での状況を避けるため、審査手続において非公式な電話面接を強化し、手短に意見交換をしてクレームの補正について相談する機会を設けるようになった。これは、ベテランの弁護士たちにとっては間違いなくありがたいことであろう。

ハンス・フッター (Hans Hutter)

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ハンス・フッターは1991年にNLOに入所した。1988年にオランダ工業所有権庁で特許業務に就き、主に半導体技術の分野で特許出願の審査を担当していた。

同氏は半導体技術、スマートカード、リソグラフィ機器、通信およびナビゲーションシステムについての特許出願の起案および手続に従事してきた。またソフトウェア関連の発明特許の専門家でもあり、この特定分野についてはいくつかの論考を発表している。近年は大型で複雑な訴訟に関与し、CD-R、DVD-R、MP3、JPEG、LCD、通信(UMTS、LTE)、ならびに音響・映像ストリーミングに関する事案で助言を行っている。

電子工学の修士号(MSc)および科学技術史の博士号(PhD)の保持者である。

ルネ・ファン・ ダイフェンボーデ (René van Duijvenbode)

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ルネ・ファン・ダイフェンボーデは、多国籍食品企業を含む、大手・中堅の化学会社に幅広いサービスを提供している。同氏は日常業務として特許起案、出願手続、侵害防止(FTO)調査意見および訴訟などを担当している。企業の顧問弁護士からも同氏のサービスは高く評価されており、このことは、2015年の知的財産権(特許)の顧客選定賞を受賞したことからも明らかである。同氏は、欧州特許庁の異議部および審判部の口頭手続で、異議申立人と特許権者のどちらの立場の代理も務めており、年間約15件から20件の口頭手続を担当している。

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