進化を続けるパテントプール
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パテントプールは過去20年間に急増したが、その成功度は様々である。パテントプールの将来は、ライセンス市場の最も厄介な諸問題を今後も解決することができるかどうかにかかっている。
ミシンの発明者や製造業者の一団が自分たちの知的財産をまとめて最初のパテントプールの一つを形成したのは150年以上前のことだった。この共同の取り組みは、スマートフォンを巡る最近の訴訟戦争にも匹敵する知財の危機に終止符を打つのに貢献した。その前提は単純だった。つまり、知的財産をプールすることで、特許権者は簡単かつ比較的安価な実施許諾を潜在的ライセンシーに提供できると同時に、その技術が広範囲に採用されることを推し進める、というものだった。
これは単純なアプローチだが、長年にわたり効果を上げてきた。特許権者の共謀行動に対する懸念のために短期間、プールの人気が落ちたことがあったものの、1990年代半ばには動画圧縮技術のMPEG-2プールが大成功を収めたことから人気が復活した。このプールは、8社の特許権者が約100件の特許を拠出するという形で比較的つつましくスタートしたが、その後、巨大なライセンス企業に成長し、DVDプレーヤーやパソコンなど数十億台のデバイスの販売数に基づきメンバーにロイヤルティを分配するようになった。
この成功にもかかわらず、どうしてもプールを受け入れようとしないセクターも存在する。最も有名な例は第四世代(4G)ワイヤレス技術で、ここでは伝統的な二者間ライセンシングが主流であり、過去10年、費用のかかる特許紛争が数件大きく報じられた。他のプールでは、何が公平なアプローチかという点を巡りライセンシーとライセンサー間に確執が起きた。
しかしながら、プールが、変化する市場状況を考慮に入れて進化し、特定の国や地域に合わせて自らのアプローチを調整していることを示す兆候が見られる。アヴァンチは、プールの顕著な特徴の多くを備えた新たなライセンス・プラットフォームで、これまでプールを敬遠してきた企業がより協力的なアプローチを取るとすればどのようなものになるかを予兆させる先駆的存在と言える。HEVCアドバンス・プールのピーター・モラー代表はこう主張する。「プールは今日の多くの知的財産問題に対する答えになると私も他の人々も確信している。問題は、ある技術の知的財産全体の相当部分をどの時点で一つ、場合によっては二つのプールに集められるかを正しく理解することである」
パテントプールは最も効率的な形で運営された場合、ライセンシングに対して痛みを伴わずアプローチを提供できる。反面、特許市場の多くに見られる欠点すべての縮図となることも有り得る。
近年の歴史
近年、プールは急増してきた(MPEG-LAだけでも12の異なるプールを運営)ものの、MPEG-2ほど高みを極めたものはない。ほとんどすべての尺度でそれは驚異的な成功だった。その創設は多くの点で近代的なパテントプールの到来を告げるものだった。1997年の設立以降、MPEG-2製品の売上は世界全体で5兆ドルに上ったと推定されている。また、その存続期間中、世界的に大きな広がりを見せ、特許出願は57の異なる国々に及んだ。
業界筋によれば、2016年末までにパソコン、テレビ、セットトップボックス、DVDプレーヤーを含むMPEG-2の復号化または暗号化製品が100億台、およびMPEG-2方式のビデオディスクが700億枚出荷された。プール管理会社のMPEG-LAはMPEG-2のプールからどれほどの収益があったかを明らかにするのを拒否したが、デバイス1台当たり2ドルという最低ロイヤルティで計算しても、ライセンサーのリターンは総額数十億ドル規模に達する。
MPEG-2は、映画に近い解像度の画質をデジタルビデオにもたらす動画圧縮技術である。MPEG-2が広く採用されるきっかけになったのは、各国政府が1990年代に開始した勧告に従ってテレビ業界がアナログ方式からデジタル方式に移行したことだった。ケーブルテレビ会社は、後に侵害訴訟を提起される可能性を懸念して、この新規格に包含される可能性のある特許の所有者を決定するために知財状況を綿密に描き出した。「不明瞭な数の企業が、不明瞭な価格を求める不明瞭な数の特許を所有する状況の中で、多くの企業は特許の藪(thicket)のせいでその技術の採用が妨げられることを懸念していた」とケン・ルーベンシュタイン氏は当時を語る。プロスカウア・ローズのパートナーである同氏は、プールにどの特許を組み入れるべきかの検討に重要な役割を果たした。明らかになったのは、そうした不確実性を低減させるという点だけでなく、特許権者が投資のリターンを手にする一方、ライセンシーが比較的穏当な料金を支払うことを実現するという点でも協力的アプローチが有効だということだった。
しかしながら、問題は業界内だけで片付かず、米国や欧州でプールに対する反トラスト当局の承認を得る必要があった。米国でこの取り組みを主導したのは、ニューヨークの法律事務所、サリバン・アンド・クロムウェルの知財専門家であるガラード・ビーニー氏だった。同氏によれば、この技術の普及に役立つ様々なアプローチが検討されたが、プールが最も効率的であることは明らかだった。「問題は、どんな構造を導入すれば規制当局の支持を得られるのかということだった」と同氏は説明する。

ガラード・ビーニー氏
サリバン・アンド・ クロムウェルのパートナー
「4Gモバイル会社は パテントプールのおかげで大幅なコスト削減が できたかもしれない」
ビーニー氏は米国当局と共にその構造を作り上げるのに貢献した。最終的に1997年6月、司法省反トラスト局のジョエル・クライン司法次官補からその構造に関するビジネスレビューレターが発行され、MPEG-2プールの基本原則が示された。同レターには、「ポートフォリオを技術的な必須特許に限定すること、および当該限定性の判定者として独立の専門家を使用することにより、このパテントプールが、競合する可能性のある技術間の競争を排除するために利用されるリスクが低減される。潜在的ライセンシーにとって、ポートフォリオの特許の明確なリストの提供、ポートフォリオとは独立したポートフォリオの特許の利用可能性、およびポートフォリオが必須特許のすべてを含んでいない可能性に関する警告が役立つであろう」と記されていた。
司法省の支持を受け、欧州連合もそれに倣うことが見込まれる状況にあって、プールの管理者とメンバーは遵守すべき明確な一連のルールを有していた。クライン氏のレターが強調しているように、MPEG-2に関してどの特許を組み込むかに対する厳格なアプローチを取ることが非常に重要だった。さらに、プールメンバーは、プールの技術を改良する特許を開発した場合、逆にそれを実施許諾すること(グラントバック)に同意しなければならなかった。

ラリー・ホーン氏
MPEG-LA社長兼CEO
「企業が標準化への 取り組みに参加 しなかったら、プールは 成長しないと思われる」
MPEG-2が大成功を収めた理由は、主に技術それ自体が広く採用されたことにあるが、その確立の貢献者によれば、実施許諾に対する公平なアプローチが具現されていたことももう一つの理由だったという。ビーニー氏は次のように主張する。「特許権者のためのリターン創出と、技術利用者にとって妥当なロイヤルティ料率の間で適切なバランスを取ることが正しいアプローチであると認識されていた」

ジョー・シーノ氏
Via Licensing 社長
「特定の市場の国内企業を対象とする区別的な ロイヤルティ料率は 理に適っている」
今日の特許ライセンス市場は以前とは著しく異なっており、ライセンサーとライセンシー間のバランスを図ることが不可能とは言わないまでも、往々にして困難なことがある。特許プールの全盛期は終わったと考える人は多い。しかしその一方で、プールや他の協力的アプローチが存続可能になるような形で変化している兆候も存在する。
グローバルアプローチ
パテントプールが進化に向かう最も重要な方法は、まず間違いなく、世界の各地域で異なるロイヤルティ料率を導入することである。プールが世界に広がって長い年月が経つが、ほとんどの場合ライセンシングに対して画一的なアプローチが取られ、ライセンシーは米国、ドイツ、中国のいずれであろうと同一のロイヤルティを支払ってきた。
過去2、3年の間に、Via Licensing のAAC技術プール(表1参照)やHEVCアドバンス・プールを含む様々なプールが複数ロイヤルティの構造を導入した。こうした構造では、米国や欧州、韓国、日本の成熟した知財市場には高いロイヤルティ料率が、それ以外の諸国には低いロイヤルティ料率が適用される。こうした区別的な料率は、公正、合理的かつ非差別的な(FRAND)基準に基づいて実施許諾すべきものとされる標準必須特許(SEP)の精神に反するように思われるかもしれない。しかし、その擁護者にとっては、国によって製品価格が(時には大幅に)異なる市場の現実に対応しただけにすぎない。
この区別的な料率が導入された一因は、中国のライセンシーの参加を増やそうとする試みにある。約20年前にパテントプールがスタートして以後、中国は生産拠点および経済大国となり、大きく変化した。しかし、様々なセクターで同国の製造企業が世界的なプレーヤーになりつつある一方で、多くの企業が基本的に依然として、米国や欧州のプールに設定される国際的なライセンス料にも尻込みし得る国内型企業のままである。Via Licensing のジョー・シーノ社長は、「新興国に拠点を置くライセンス会社では売上の大半が国内で占められるため、私がViaに入社したとき、こうしたライセンス会社が多くの困難に直面していることに気付いた」と言う。同氏が現地企業から受け取ったフィードバックは、そうした企業が先進国のロイヤルティ料率を基準にしたと思われる世界ライセンスの取得に抵抗感を感じているということだった。
「中国企業は、例えば主に欧州連合や米国で販売するドイツ企業と比べて、ビジネスに関連する一連の環境条件が著しく異なっている」とシーノ氏は主張する。そして、Via は引き続きAACプールの世界ライセンスを提供するが、区別的なロイヤルティ構造は細かく地域別に区分されたライセンシーに別の選択肢をもたらすと強調する。
表1. Via Licensing のAACプールのロイヤルティ構造
取引量 (1台当たり*/毎年リセット) |
R1**地域で販売される、 または使用するために販売 されるデバイス1台当たり料率 |
R2***地域で販売される、 または使用するために販売 されるデバイス1台当たり料率 |
最初の1台~50万台 |
$0.98 |
$0.64 |
50万台超~100万台 |
$0.78 |
$0.51 |
100万台超~200万台 |
$0.68 |
$0.44 |
200万台超~500万台 |
$0.45 |
$0.29 |
500万台超~1000万台 |
$0.42 |
$0.27 |
1000万台超~2000万台 |
$0.22 |
$0.14 |
2000万台超~5000万台 |
$0.20 |
$0.13 |
5000万台超~7500万台 |
$0.15 |
$0.10 |
7500万台超 |
$0.10 |
$0.07 |
*2つを超えるチャネルを有する消費者製品は1.5台と数える。
**R1地域とは全般に米国、カナダ、欧州の大半、韓国および日本など、先進国の知財市場を指す。
***R2地域とは発展途上国の知財市場を指し、インド、中国およびブラジルなど、R1以外のすべての国を含む。
プールの内容
現代のパテントプールの構造は、実質的に、司法省がMPEG-2および二つのDVDプールの管理者に送付した一連のビジネスレビューレターによって1990年代後半に定められた。これらのガイドラインは、特許に関する新たな協力が反トラスト法に違反しないようにするのに役立ち、後続者にとってある種のテンプレートとなった。そこに定められた条件は次の通りである。
- 特許は明確に特定され、潜在的ライセンシーの選択に従い、個別的におよびパッケージとしてライセンス供与できること。
- プールの特許が有効で、失効していないこと。
- プールが、技術的に必須で、競合していない特許に限定されていること。特許の必須性については独立の専門家か評価すること。
- パテントプールの存続期間が限定されていること。
- 提案されるロイヤルティが合理的であること。
- 全世界で実施可能な非独占的ライセンスが供与されること。
- ライセンシーが代替的な特許を自由に開発・利用できること。
- ライセンシーは、その技術への準拠に必須となる特許に対して、非独占的、非差別的ライセンスのグラントバックが義務付けられること。
- プール参加者がプールの対象範囲外の価格について共謀しないこと(例えば、川下製品について)。
出所:世界知的所有権機関、「パテントプールと反トラスト - 競争分析」(“Patent Pools and Antitrust - a comparative analysis”)、2014年3月
しかしながら、プールが異なる料率を適用すべきであるということにそれほど確信を持てない者もいる。MPEG-LAの社長兼CEOのラリー・ホーン氏はこう主張する。「ある国を別の国より優遇することは、意図しない結果を招く危険なやり方となり得る。例えば、中国はすでに世界第二位の経済大国で、いずれナンバーワンになるだろう。特に、製品をシームレスに世界中に流通させる能力がある状況で、全体的適用ではなく特別な取り決めを中国に適用する理由を理解するのは難しい。他の国々が、「なぜ我々はそうならないのか」と主張することは間違いない。
ViaやHEVCアドバンスなどが導入した新たな構造は、急速に進化するグローバルなライセンス市場をある程度反映したものである。過去10年で、中国は知財の有力国としてはるかに強く自己主張するようになり、米国や欧州で機能しているようなライセンス実務を自国の国内市場向けに調整することを要求し始めた。このことを最も明瞭に示すのは恐らく、国家発展改革委員会がクアルコムのライセンス実務に対する調査を開始し、最終的にこの巨大半導体企業に罰金を課し、異なる条件で知的財産を実施許諾することに同意させたことである。
中国、韓国、そしてごく最近の米国におけるクアルコムの苦境が示すように、一部のライセンサーにとって市場はますます厳しくなっている。
失われた接続
そのことが最も明瞭に現れているのはワイヤレス技術(最新のものは、世界のモバイルデバイスの多くが準拠している4Gロング・ターム・エボリューション(LTE)規格)のライセンスである。クアルコムやノキア、エリクソンなど、今日のスマートフォンを支える基本的な4Gの知的財産などの特許権者は、総じて別個にモバイル業界に実施許諾し、数億ドル規模のライセンス事業を構築している反面、侵害被疑者を相手取った長期にわたる高額訴訟を起こしている。
LTEに焦点を絞ったViaやシズベルなどのプールはなかなか勢いに乗れず、最大級のプレーヤーの一部をライセンサーとして取り込めていない。Viaのシーノ氏は、LTEプールの「状況は好転」しており、新グループが軌道に乗るまでには時間を要すると主張しているが、それが相当長いプロセスになることを認めている。
ごく最近、Viaは、モバイル市場のより多くの中小プレーヤーが実施許諾を受ける気になるように、LTEプールのロイヤルティ構造の変更を試みた。新構造の下では、デバイスの販売数量が最初の10万台までは無料、10万台超~100万台以下については1台当たり1ドル、100万台超~250万台以下については同1.50ドル、250万台超については同2.10ドルをライセンシーが支払う。ライセンシーの数が増えれば、Viaは最重要の特許権者の一部をメンバーとして参加するよう説得できるかもしれない。
シーノ氏は次のように主張する。「プロセスが他のプールより長いことについては、多分2、3の趨勢が作用しているのだと思う。一つは、2Gから3G、4Gになるにつれ、ワイヤレス標準に適用される特許数が急激に増えていることである」。つまり、世代が進むにつれ、一段と広範な用途で利用されるようになり、その結果、実施許諾される可能性のある特許全体の規模が大幅に膨れ上がっているのだ。
「こうした複雑性のために、最低限必要な数のライセンサーとライセンシーを集め、プールが安定状態に達するのに時間がかかるようになっている」とシーノ氏は主張する。また、米国では主要な判決の影響で特許の価値が低下し、特許権を巡る不確実性が、LTEプールを形成しようとする試みの妨げとなった。しかしながら、これらの困難な事態に対処して、市場の確実性がさらに回復すれば、少なくとも理論的には、プールは依然として成功の可能性がある。
ビーニー氏によれば、LTEはプールがないことに苦しめられる技術の代表格になった。クアルコムやエリクソンなどは採算の取れるライセンス業務を構築したかもしれないが、この取り組みには代償を伴った、と同氏は指摘する。「独力で事を進めたために訴訟や規制上の罰金という形で被ったコストを見るがいい。そして、プールを適切に構築したと仮定して、どんなリターンが得られたかを考えてみるとよい。二者間の実施許諾の方が集団アプローチに勝っているとは必ずしも言えないのだ」。しかし、ワイヤレス業界を牽引する大手企業の間では、プールに似た、より協力的なアプローチが確立されつつある兆候がみえる。
昨年9月、クアルコム、エリクソン、KPN、インターデジタル、ZTE、ソニーの6社は、「モノのインターネット」分野の様々な垂直産業部門のライセンスに利用可能な2G、3Gおよび4G技術を包含するSEPを形成することに合意し、アヴァンチ・プラットフォームを立ち上げた。アヴァンチが、最初のターゲットとして選んだのは、自動車、スマートメーター、コネクテッドホームという三つの垂直産業部門だった。しかし、これを執筆している時点で、まだそれに参加したライセンシーはいない。

プールに関する知財最高責任者の見解
アーヴィン・パテル氏はテクニカラーの知財最高責任者で、以前はIBMに在籍した後、ロヴィの知財担当エグゼクティブを務めた。音響映像技術の先駆者、テクニカラーは大規模なライセンス事業を展開し、毎年何億ユーロもの収益を上げている。要するに、有力な知財プレーヤーと言える。だからこそ、昨年同社がHEVCアドバンス・プールからの脱退を表明したとき波紋が広がったのである。
HEVCアドバンスのピーター・モラー代表は、テクニカラーの決定による損害は主にマーケティングの問題であって、知的財産の問題ではなかったと主張する。しかし、有力な知財プレーヤーがプールから脱退すると常に問題が発生する。
HEVCアドバンスの背後にあるプール(最新の動画圧縮規格)は、2015年の形成の後、前途多難のスタートを切ったと言ってよい。このプールが創設された背後には、MPEG-LA自身のHEVCプールがあまりにライセンシー寄りであるというモラー氏の不満があった。しかし、HEVCアドバンス・プールは発足後間もなく、業界の抵抗を受けてロイヤルティ料率およびコンテンツプロバイダーに対するアプローチの変更を余儀なくされた。
こうした混乱の中でテクニカラーは撤退を発表し、パテル氏は、IAM第80号の記事(「基準を救うべき時」(“Time to save standards”)参照)でプールに関する、更にはより広範な、基準を巡る論争に対する意見を詳しく述べた。同氏は、この記事のための一連のメールで、パテントプールの機能とその将来について熟慮したことを明らかにした。どうすればプールが今後も市場に貢献できるかについて示した同氏の見解の一部を以下に記す。
- パテントプールは標準必須特許(SEP)に関して市場を需給均衡させるという点で重要な役割を果たし得るが、過去を振り返ると、業界で自発的な実施許諾が行われる場合、またはいずれかのメンバーが自身のSEPの権利を強力に行使する場合に限り有効に機能した。プールは実施許諾する特許を所有していないため、権利行使することはできず、メンバーによる権利行使に依拠しなければならない。
- プールが存続して成功を収めるには、次の二つの事態のうちどちらかが発生しなければならない。
- 自発的なSEPの実施許諾制度に戻ること。もしくは、
- プールマネジャーが、パテントプールと関連して新たなSEPの権利行使ルールをどのように利用するか、および規格準拠製品の製造業者がパテントプールを無視できないことを明瞭にする、共同の権利行使キャンペーンをどのように管理するかを考え出すこと。
- パテントプール管理者が公正、合理的かつ非差別的な(FRAND)条件の提案を行うこと、およびプールメンバーが所有するプールの特許の権利を行使することを根拠付ける現行法や判例が存在しない。いずれかのプールがこの分野の探求を開始することが望まれる。
- パテントプールは、利用できる法律上の仕組みを考え出せれば、FRAND条件の提案を行う上で強力な立場に立つことができ、裁判所や競争当局はプールに好意的な姿勢を取る可能性が高い。プールは本質的に競争促進的であり、真に合理的な料率を設定している限り、裁判の勝利に向けて有利な地位に立つ可能性が高いと思われる。現在までのところ、プールはその方法を本格的に考え出していない。
将来に向けた教訓
再びMPEG-2のような成功を収めるプールはもはや現れないかもしれない。そのMPEG-2は現在有効期限が迫っている。最後の特許が2018年2月に米国で消滅し、2025年にフィリピンとマレーシアで失効する。今日では、ライセンサーとライセンシーがなかなかロイヤルティの合意に達しないことがよくあり、こうした変質した特許ライセンス環境では、プールが存在意義を維持するのは難しいと主張する懐疑論者が数多くいることは間違いない。過去10年に差止による救済や損害賠償が困難になった米国で特に顕著な特許権の衰退を背景に、潜在的ライセンシーはライセンスを取得しなくても以前よりはるかに強い安心感を持つようになっている。
また、基準設定機関や裁判所ではSEPやFRANDの定義を巡る論争が生じているが、プールがその中に飲み込まれてしまうことへの懸念も存在する。このことは、2015年初めに一部の権利保有者にとって非常に異論が多い形で特許方針を変更した米国電気電子技術者協会にとって重大な問題となっている。
ホーン氏によれば、「最も懸念されるのは、特許権者が最初から基準設定の取り組みに参加することにますます消極的になり、その結果、プールの広がりが妨げられることである」。実施許諾のFRAND条件の設定に関して、何をもって公平で合理的とすべきかに関して意見の相違が生じてきており、外部勢力が口を差し挟むようになってきた。「基準設定機関や裁判所が予想外の条件をFRANDに付加し、そのことが特許権者の参加意欲に冷や水を浴びせた」とホーン氏は付け加える。それらの特許権者が身を引いたら、プールは存続できなくなる。
最も初期のプールの一つを生み出したミシン戦争についての著作があるジョージメイソン大学の法律学教授、アダム・モソフ氏も同じ見解を持つ。「プールが存続可能になるには、基準設定機関やそれを取り巻く混乱から離れる必要がある」と同氏は言う。このことは、より多くのプールが焦点をSEPから移すことを意味すると思われるが、Viaのシーノ氏の発言によれば、SEPこそViaが積極的に進出しようとしている分野なのである。パテントプールやライセンス業界の常として、原理は比較的単純なのだが、応用になるととても簡単とは言えない。
行動計画
パテントプールはライセンス市場の重要な一部として再浮上した。しかしながら、今日のプールは、現在の市場への適合性を維持するために大胆に進化している。
- パテントプールは有効に機能した場合、一定範囲の知財に関するワンストップショップをライセンシーに提供することによって、ライセンス市場の効率性を向上させる。
- 一部のプールは世界中の困難なビジネス条件を考慮に入れ始めている。
- ワイヤレス業界では協力が拡大していることを示す証跡が現れており、このことは、これまで概ねプールを拒絶してきたセクターにおけるアプローチの変化を示している可能性がある。
- 米国で特許権が強化される方向に振り子が戻り始めた場合、プールにとって強い追い風となる可能性がある。