IoT市場とその特許状況

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モノのインターネットの世界の市場と技術に関する定義は、特許が絡む前の段階ですでにかなり複雑化している。

ノのインターネット(IoT)の知財状況が今後どう進化するかを理解・予測しようとする試みは、依然として不正確な技芸にとどまっている。2014年と2016年との間で、ガートナーはIoT市場の予想を大幅に変更した。増加した数字も、減少した数字もあるが、市場全体が依然として大規模であることは明白と思われる。特許権者や開発の観点に立てば、IoTの状況の展望に大きな影響を与える可能性のある他の趨勢が見え始める。本レポートでは、大局的な視点から様々なIoTセグメントにおける特許活動を検討する。モノやアナリティクスの分野では特許の成長が加速しているが、トップ企業の多くは予想通りの顔ぶれである。M&Aの視点からすれば、依然として活発な市場と言える。また、見たところ、この活動は知的財産よりも技術に関係している。最初に、それらのセグメントの定義に関わる一定のパラメータを設定した上で、特定の市場の成長予想を検討することにしよう。

IoTに含まれる4つの主要な技術セグメントおよびその定義が図1に示されている。しかしながら、各セグメントに属する製品の種類を区別する境界線は必ずしも明瞭ではなく、特にモノのセグメントについてそう言える。例えば、スマートフォンはモノ(例えば、常時オンのマイク)になり得る一方、ブルートゥースを通じてスマートウォッチと通信したり、ネットワークにデータを返すゲートウェイにもなり得る。モノは、心拍数モニターの胸ストラップやスマート電球のような単体の装置であることもあれば、多くのセンサーやセルラー接続を備えた自動車のような複雑な装置であることもある。モノからネットワークにデータが送信されるだけでなく、モノは、ピアツーピア方式で、あるいはゲートウェイを介して直接相互に通信することもできる。各カテゴリーに属する製品の種類は特定のアプリケーションのエコシステムに応じて決まる。

図1. 主な技術セグメント

図2. 出荷量の前年比成長率予想 - 2014年

図3. 出荷量の前年比成長率予想 - 2016年

図4. 市場出荷量予想 - 2014年

図5. 市場出荷量予想 – 2016年

IoT市場の成長

我々は、スマートホームと自動車セグメントに重点を置いてガートナーの2016年の予想を2014年と比較した(図2から図5)。2014年時点で最大の出荷量を予想されていたのがスマートホームと自動車セグメントであった。また、医療機器セグメントで最高の成長率が予想されており、自動車がそれに次いでいた。2016年には幾分変化が生じた。医療機器の成長予想が大幅に引き下げられる一方で、自動車セグメントは自動運転車やコネクテッドカーに牽引されて今後5年間の成長予想が引き上げられた。産業セグメントも2014年より2016年の方が成長予想が高くなった。

2020年までのIoTの総出荷台数は、2014年時点の予想に比べ約17%引き下げられた。主な原因はスマートホームの予想の引き下げにあった。しかし、総合的なコネクテッドホームの一部として組み込まれ得る電子部品自体の数が多いため、このセグメントのIoT出荷量は依然として最大である。さらに、今後数年における産業セグメントの予想も依然として堅調である。

2014年時点と2016年時点における2016年から2020年までの市場出荷量予想は非常によく似ている。どちらの予想でも、総出荷台数のグラフは2020年までに17%減少することを示している。

スマートホームと産業セグメントはどちらも構成が複雑であり、深い分析が必要となる。

図6. 出荷量の前年比成長率予想の比較(2014年予想/2016年予想)

図7.スマートホーム サブマーケット出荷量予想の比較(2014年予想/2016年予想)

スマートホーム

スマートホーム市場の予想は、エンタテインメントとホームオートメーション・マネジメントという2つのセグメントに分割すると、より明瞭になる(図6と図7)。

スマートホーム市場の成長を実質的に牽引するのはホームオートメーション・マネジメント・セグメントである。このセグメントは、いつでもどこでも制御・モニタリングすることを可能にするために使用されるセンサーやネットワークモジュールを備えた家屋にあるものすべてを包含し、電気器具、監視、照明および温度調節システムを含むことがある。多種多様な製品が利用可能であるが、消費者や業界はいずれも、実際のニーズがどこにあるのかを今なお見極めようとしている。スマートホーム市場のこの部分は急成長段階にある。いずれエンタテインメント・セグメントの出荷量を追い越し、スマートホーム分野全体の大半を占めるようになると見込まれる。

産業

製造業セグメントに目を向けよう(図8と図9)。産業市場に導入されるセンサー数は増加が見込まれるものの、その発展は、十分理解された適用領域における段階的なものとなる可能性が高い。そのため、このセグメントの成長率は他のIoT市場セグメントよりもはるかに低い。

産業セグメントにおける進化は、現場作業員が遠隔診断のサポートを求めてリアルタイムの通信を行うためのウェアラブルによってもたらされる可能性がある。例えば、鉱山労働者が映像伝送を行うスマートグラスを装着することにより、地上の作業員は、彼らが地下で見ているものを見ることができるため、現場の問題解決の時間短縮が可能となる。しかし、そうした応用はまだ揺籃期の段階にある。

様々な市場分野における特許取得活動

テクインサイツは2015年初め、IoTで活発に活動する38社について、4つの特定のIoTセグメントにおける特許取得活動を分析した。本レポート作成のために、我々は当初の企業群に関する分析を更新するとともに、一部がその後買収されていたことから、2017年の分析用に類似の企業リストを追加した。表1は、各社が4つの各IoT技術分野で有する特許数を示している。我々は、公開されているツールを利用して、各社について名称、要約および独立クレーム付の米国ポートフォリオ(取得済み特許と係属中の出願)を検索した。次に、専有ツールを使用してそれらのポートフォリオを、対象技術の専門家によって作成された分類子と比較し、各特許を4つのIoTセグメントのうち最も適合するものに分類した。どんな分析的調査でも正確性や再現率に一定の水準がある上、一部のセグメント間に上述のような境界の曖昧性があることを踏まえると、いずかのセグメントに各特許を具体的に分類する際には一定の主観性が伴うことは避けられない。

図8. 出荷量の前年比成長率予想の比較(2014年予想/2016年予想)

2015年にはサムスン、IBM、マイクロソフト、クアルコム、ノキアおよびインテルがIoT分野の特許数で上位6社になった。また2015年のサムスン、クアルコムおよびインテルのIoT特許ポートフォリオでは、ゲートウェイ/ネットワークが大きな比率を占めたのに対し、IBMとマイクロソフトのIoT特許は計算/ストレージ分野に集中していた。これは、それらのセグメントの技術はIoTがこれほど普及するずっと以前から確立されていたためである。伝統的なモバイルやデータセンター市場の主力企業だった、大規模な特許ポートフォリオを有する多くの企業も、今やIoTに進出している。

モノの特許数が最大の企業はサムスンであり、パナソニック、マイクロソフト、クアルコムなど、それに続く多数の企業の2倍前後になっている。アナリティクスの特許数が最大の企業はマイクロソフトであり、僅差でIBMとアルファベット(グーグル)が続き、その後をソニー、サムスン、フェイスブックが追っている。

図9. 産業別サブマーケット出荷量予想の比較(2014年予想/2016年予想)

2017年に目を向けて2015年のリストの上位20社と比較すると、アナリティクスが17%増と最大の伸びを示し、ゲートウェイ/ネットワークが16%増と僅差で続き、モノは13%増、計算/ストレージは3%増であった。20社が保有する特許総数が最大のグループは計算/ストレージで、ゲートウェイ/ネットワークがそれに次ぐ。4セグメントすべてで上位6社の顔ぶれは大きく変わっていない。サムスン、IBM、マイクロソフトは上位に残り、インテルは、モノ、ゲートウェイ/ネットワークおよび計算/ストレージで大きく伸びたことを受けて順位を4位に上げた。LGエレクトロニクスはゲートウェイ/ネットワークにおける大幅増、グーグルは4つの全分野における一貫したイノベーションの取り組みにより、共にノキアを追い越した。我々のIoTモデルによれば、2017年の上位10社のうち、ポートフォリオ全体が2015年より縮小したのはソニーとノキアだけであった。各セグメントのリーダーに変化はなく、モノではサムスンが、ゲートウェイ/ネットワークではクアルコムが、計算/ストレージではIBMが、アナリティクスではマイクロソフトがトップを維持した。4セグメント全体の伸び率はサムスン(12%)、IBM(11%)およびマイクロソフト(11%)がほぼ同水準だったのに対し、インテル(22%)とLG(24%)はそれらを上回る大幅増となった。

シスコは、クラウドベースのIoTサービスプラットフォームの提供で業界トップのジャスパーを買収したことにより、今や計算/ストレージ分野で展望を開く態勢が整った状態にある。

表1. 4つの分野におけるIoT関連特許保有企業ランキング(2015年/2017年比較)

2015年

2017年

企業名

モノ

ゲートウェイ/ネットワーク

計算/ ストレージ

アナリ ティクス

合計

企業名

モノ

ゲートウェイ/ネットワーク

計算/ ストレージ

アナリ ティクス

合計

サムスン

3351

6203

4384

1204

15142

サムスン

3865

7042

4852

1209

16968

IBM

1452

466

10296

2740

14954

IBM

1582

603

11000

3370

16555

マイクロソフト

1739

574

8375

3221

13909

マイクロソフト

1996

783

8849

3772

15400

クアルコム

1573

7006

1479

572

10630

インテル

1868

4202

5076

714

11860

ノキア/ALU

1162

5032

2835

726

9755

クアルコム

1805

7884

1516

564

11769

インテル

1466

3260

4402

614

9742

LGエレクトロニクス

895

6887

1413

684

9879

アルファベット

1347

2128

2888

2676

9039

アルファベット(グーグル)

1604

2200

3090

2983

9877

LG

763

5270

1307

643

7983

ノキア

1163

5301

2443

618

9525

ソニー

1667

1775

2361

1384

7187

エリクソン

615

5734

1427

220

7996

エリクソン

533

4888

1439

246

7106

ソニー

1711

2010

2109

1263

7093

パナソニック

1964

1933

1641

773

6311

アップル

1914

2107

1832

696

6549

シスコ

1090

934

3200

664

5888

シスコ

1230

1239

3265

637

6371

アップル

1489

1635

1718

648

5490

パナソニック

1846

1614

1474

735

5669

GE

1300

441

1473

893

4107

GE

1261

509

1308

904

3982

ボッシュ

1439

159

1105

491

3194

ボッシュ

1500

177

1060

528

3265

TI

984

982

703

175

2844

アマゾン

437

171

1729

908

3245

フィリップス

940

560

405

470

2375

TI

1034

1003

687

153

2877

NXP/フリースケール

626

559

704

45

1934

ソフトバンク/ARM

269

1543

779

172

2763

STマイクロ

791

339

721

64

1915

フィリップス

1074

663

415

496

2648

アマゾン

191

89

1006

608

1894

フェイスブック

97

91

643

1573

2404

フェイスブック

57

35

554

1095

1741

NXP/フリースケール

736

752

786

43

2317

ルネサス

367

270

667

47

1351

STマイクロ

894

352

718

67

2031

メディアテック

180

654

188

27

1049

メディアテック

205

838

190

25

1258

インフィニオン

326

209

339

35

909

ルネサス

344

247

607

42

1240

セールスフォース

20

4

538

184

746

インフィニオン

348

247

320

35

950

ジェムアルト

150

49

254

15

468

マイクロチップ/アトメル

230

220

390

11

851

マイクロチップ

120

81

243

7

451

セールスフォース

17

10

477

191

695

アトメル

99

133

142

5

379

ジェムアルト

189

96

297

16

598

アリババ

5

12

122

110

249

アリス/ペース

67

102

218

79

466

ARM

53

10

121

2

186

TDK/ミクロナス

167

106

88

64

425

パイオニア

36

21

32

43

132

アリババ

15

17

225

138

395

インベンセンス

107

2

5

1

115

トーマ・ブラボー/クリック

31

0

139

42

212

ペース

13

16

15

6

50

インベンセンス

166

3

4

4

177

スプランク

5

0

16

24

45

スプランク

12

0

54

85

151

百度

0

0

11

4

15

パイオニア

30

16

21

28

95

ミクロナス

10

0

2

0

12

百度

4

0

33

13

50

タブロー

0

0

0

11

11

タブロー

0

0

0

19

19

クリック

0

0

0

6

6

アマゾンは、特に計算/ストレージとアナリティクスの分野で多数の特許を保有している。そして、Echoによってモノ分野で大きな成功を収めた。この製品によって消費者のIoTデバイスの受け入れが一歩先に進んだと言われている。今後もこの成長が続くかどうか注目に値する。

ソフトバンクはARMの買収を受けて強力な新規参入者となった。しかし、特許の視点からすると、ARMの既存ポートフォリオよりもソフトバンクの従来の資産に由来する知的財産の方が多い。同社はARMの買収により、特に低電力のモバイル・システムオンチップの中核技術の分野において他の伝統的なIoTの有力企業に対する地位を補強する技術を取得した。

TDKにとって2015年にミクロナスを、2017年にインベンセンスを買収したことは、より有力なIoT企業となるための前進になったことは明白である。インベンセンスを傘下に加えることにより、IoT、自動車・情報・通信技術に関する新たなセンサーのソリューションにおける地位が強化された。また、特にモノ分野で多数のIoT資産がもたらされた。これらすべてが相まって、TDKはIoTの知的財産の点でより卓越したプレーヤーとなった。

2008年以降、投資家のコミットメントにより15億ドル以上を調達した米国のプライベートエクイティでグロースキャピタル企業のトーマ・ブラボーLLCでは、状況はまだ展開中であり、興味深い。同社が2014年に買収したコンピュウェアは、アプリケーション性能の監視およびメインフレームのソリューションの有力企業であった。リバーベッドはアプリケーション性能に関わるインフラをもたらした。両社は計算/ストレージ・セグメントに関係している。コンピュウェアとリバーベッドの買収で同社にガイデッドアナリティクスの技術が新たに追加されたのに対し、クリックの買収ではビジュアルアナリティクスが追加され、セルフサービスのデータ可視化に向けた直感的ソリューションがもたらされた。その結果、トーマ・ブラボーは、IoTの知的財産、特に計算/ストレージとアナリティクスにおける存在感が高まった。同社が次にどんな手を打つか興味深い。

最近の発表によれば、ルネサスは、ケイデンスのPerspec System Verifierを使用して、IoT向けの新たなマイクロコントローラーユニットの設計を検証した。ルネサスのマイクロコントローラーは、既存の設計よりも多くのIPブロックや複雑なサブシステムを含んでいるため、数千通りものアクセス競合の組み合わせが発生する可能性がある。同社の従来の手法は、適用領域のテストシナリオ作成に手作業が絡んでおり、検証を要する組み合わせが多数あるため、非常に時間がかかるものであった。この従来の工程をPerspec System Verifierで置き換えることにより、複雑なテストシナリオの自動生成が可能となり、効率性の高い、アルゴリズムベースのシステムレベル検証のソリューションの効果が実現された。知財の視点からすれば、同社の豊富な新規資産は安定している。今後、マイクロコントローラーのテスト環境からより多くのイノベーションがもたらされ、ゲートウェイ/ネットワークの活動の比重が低下することが予想される。

図10. TDKによるインベンセンスの買収

インベンセンスはセンサーを付加

図11. クアルコムによるNXP

NXPは3つのIoTセグメントを強化

図12. シスコによるジャスパーの買収

ジャスパーの知財は分野集中型

図13. ソフトバンクによるARMの買収

ARMはソフトバンクを補強

M&A活動

では、4つの各セグメントでなされた主な買収活動に注意を向け、それらの合併がポートフォリオに与えた影響を詳細に調べることにしよう。特許状況を示す各領域図は、各社の特許を用いて作成したものである。個々の点(図10から図13)は1つの特許に対応し、高くなっているピーク地点の周りに書かれた3つのキーワードで示されたクラスターは、それらのピークの特許間で最も共通性の高い語を示している。

モノ

2016年12月に発表されたTDKによるインベンセンスの買収は、モノを重視する企業が技術セグメントにおける地歩を強化した典型と言える(図10)。また、TDKがミクロナスの磁気センサーの市場を足場にしてその戦略を継続したものと見ることができる。インベンセンスは、次第にIoTの各種アプリケーション(例えば、ウェアラブルやオーディオコントロール)で使用されるようになっているジャイロスコープや加速度計、マイクなどの微小電気機械システムのセンサーに注力するようになってきている。これらの買収を受けて、TDKのスマートフォン部品供給企業からIoTのリーダーへの移行が進行している。

この特許状況は、インベンセンスの買収がTDKの知財ポートフォリオにもたらした、マイクやセンサーに関連する知的財産の大きなクラスターを示している(インベンセンスは約500件の米国公開特許を保有)。

ゲートウェイ/ネットワーク

モバイル通信プロセッサのトップ企業であるクアルコムのIoT関連知的財産は、ゲートウェイ/ネットワーク技術セグメントの比率が最も高い。昨年10月に発表された、NXPに対する470億ドルの大型株式公開買付のクロージングは2017年末以降になると見込まれているものの、このニュースは2015年終盤のNXPによるフリースケール・セミコンダクタの買収に続くものであっただけに話題を呼んだ。合併後のNXP/フリースケールは現在、自動車と近距離無線通信の両市場の有力企業となっている。公開買付後の新企業はモノ、ゲートウェイ/ネットワークおよび計算/ストレージのIoTセグメントに事業展開しており、その3つすべてが今やNXPのポートフォリオによって改善されていると思われる(図11)。

計算/ストレージ

世界最大のネットワーキング企業、シスコは長年、計算/ストレージとゲートウェイ/ネットワークのIoTセグメントに強固な事業基盤を有してきた。2016年3月におけるジャスパーの14億ドルでの買収は、設備供給企業がIoTサービス市場に進出した典型と言える(図12)。ジャスパーのクラウドセンタープラットフォームは、広範なビジネスモデルや技術、業種にわたる特殊な企業ニーズに対応するために構成できるクラウドベースのソリューションである。例えば、同社のコネクテッドカークラウドは、ゼネラル・モーターズ、日産、フォード・モーター・カンパニー、フォルクスワーゲン、テスラモーターズなど、世界の自動車OEM企業11社によって使用されている。

シスコのような確立されたIoT企業が、ジャスパーのような、少なめであるが集中的な特許を保有する小規模な技術系企業を買収する事例は数多く見られる。図の特許状況は、シスコがクライアント・サーバー分野に高水準の重要な知的財産を保有しているのに対し、ジャスパーの独自の実施と市場導入が、シスコのIoT製品のラインナップにとって貴重な追加資産となったことを示している。

アナリティクス

日本の通信・インターネット企業のソフトバンクは昨秋、英国の半導体設計会社、ARMホールディングスに対する310億ドルでの買収を完了した(図13)。ソフトバンクの孫正義CEOによれば、この買収の主な動機は、「モノのインターネットによってもたらされる極めて重要な機会を捉えるため」であったという。知財分析に目を向けると、この取引は知財より技術に重点を置いたものであったことが見いだされた。我々は、2016年10月に掲載された初期のブログに示されたこの取引を分析したが、ARMの2,300の米国および英国特許のうちIoT固有のものは10%に満たないことが示唆された。この点を表すために、図13ではIoT関連資産のみをプロットした。

ソフトバンクによるARMの買収の結果、ポートフォリオの規模は大幅に拡大したものの、ARMの特許のうちIoTに直接適用される比率はごく低い。

注目企業

モノ・セグメントのジェムアルト

ジェムアルトは主要製品の基礎をセキュリティに置いているため、そのIoTのソリューションは多様な源泉から導き出されている。第一に、デバイスが安全にネットワークに接続できるようにする耐タンパ・組込ハードウェアコンポーネントであるCinterionセキュアエレメントは、IoTのモノに関するソリューションにとって不可欠な要素である。ジェムアルトは、企業データの暗号化やクラウドのセキュリティのほかID管理、ソフトウェアの収益化、暗号化キー管理など、計算/ストレージに関連する重要な要素も備えている。同社が過去に開発してきたこれらの分野がモノの資産の急増と組み合わされることで、有望企業としての魅力が高まっている。

計算/ストレージ及びアナリティクス・セグメントの アリババ

アリババは、ジェムアルトと提携して中国におけるIoTのエコシステムの安全性に貢献している。ジェムアルトは、アリババが開発したクラウドベースのIoTオペレーティングシステム、YunOSに接続性とセキュリティを提供することになっている。この提携は、IoTの計算/ストレージ及びアナリティクスにおけるアリババの知財資産とよく適合している。

計算/ストレージ・セグメントのスプランク

スプランクは、企業がネットワーク上のIoTデバイスを検出するのに役立つ製品を生産しているフォアスカウトとの統合を発表した。フォアスカウトが加わることで、スプランクのIoTポートフォリオがそれほど増強されるわけではないが、同社のIoTのエンドポイントやネットワーク事業のセキュリティ部分が強化される。スプランクは、従来からの自社の事業分野ではないIoTの計算/ストレージにおける知的財産を増強したと見られている。

計算/ストレージ・セグメントのアリス/ペース

アリス/ペースは合併以後すべての分野ではるかに強力になった。その動きの背後にあった動因は、映像インフラの分野でシスコに対するアリスの立場を強化することであった。合併後のアリス/ペースは、クライアントハードウェア・セグメントで支配的となったものの、ネットワークハードウェアや映像インフラソフトウェアの分野では依然シスコに遅れを取っている。ペースがこの取引に持参したIoTのIT資産はそれほど多くないものの、この合併による組み合わせは、計算/ストレージセグメントに興味深いIoTポートフォリオをもたらした。

アナリティクス・セグメントのタブロー

アナリティクスの成長全体を踏まえると、タブローは興味深い機会を提示する。同社は特許の追求には依然として比較的消極的であるが、データ可視化や複数のデータソースからの情報統合に関心を抱いている企業は、技術の追加という点でタブローに魅力を感じる可能性がある。

様々なIoT市場のライフサイクル

図14は、各IoT市場が現在、その産業ライフサイクル上のどの位置にあるかを示している。各段階の期間やピーク時の売上の水準はそれぞれの市場により異なるため、この図はIoT市場の絶対的または相対的な売上や利益水準、時間展開を反映したものではない。

図14. 2016年時点におけるのIoT市場の産業ライフサイクル上の位置

自動車セグメントは開拓期を抜けて、今や急成長期のまっただ中にある。このセグメントの成長を主導するのは組み込みセンサーや通信モジュールである。コネクテッドカー・セグメントはまだ発展の初期段階にあるが、期待度は高い。

医療機器は依然として開発期にあり、成長率はかなり高いものの、規模が小さい。このことは、医療セグメントの産業ライフサイクルが通常比較的長いことに関係しているかもしれない。

スマートホーム・セグメントは緩成長期の方向にやや進んだ位置にあるが、まだ急成長が続いている。ホームオートメーション・マネジメント・サブセグメントは依然としてその例外で、年成長率は70%を超える。プラットフォームの統合がスマートホーム・セグメントの成長を支えるであろう。

ヘルス・フィットネス・セグメントは今や完全に緩成長期に入っており、急速に安定期に向かっている。このことは、スマートフィットネス製品が現在市場にあふれている状況に反映されている。

産業セグメントはIoTセグメント全体の中で成熟度が最も高く、この状態が今後しばらく続くと見られる。

学ぶべきこと

市場の成長と出荷台数の予想は、動く標的である。そのため、大衆にいつ受け入れられるのか、どんな過程を経てそこに至るのかを正確に理解しようとしても、一筋縄ではいかない。総出荷台数の予想水準は低下したと思われるものの、多くの大手半導体企業やエレクトロニクス企業が強い関心を寄せるIoTは依然として大規模な市場である。企業は積極的に特許を取得し、買収を通じて市場地位を強化しようとしている。大きな関心を生み出している分野の1つがプラットフォームである。IoTのアナリティクスに関するレポート「2016年のIoT概観:今年の最も有意義な8つのIoTの展開」(“IoT 2016 in review: the eight most relevant IoT developments of the year”)は、プラットフォームが合計400以上あり、あまりに多すぎると述べている。プラットフォームの問題は採用のスピードや相互運用性に影響を与えており、この分野の標準はいまだに確立されていない。本レポートで触れなかった、IoTの状況全体に影響する他の要因としては、分割侵害、クレーム範囲および特許適格性を巡るセキュリティの影響や法的なハードルなどがある。こうした背景は、まだ完全には実現されていない、このダイナミックな市場を活用するために、特許や対象技術の観点から確実に優位な立場に立とうする企業の関心を尽きないものとしている。

行動計画

相互関連性がますます強まるモノのインターネット(IoT)の世界の中で、権利保有者は、市場の継続的な拡大と発展に関して最も有利な位置に立つために、次のようないくつかの戦略的手順を踏むのがよい。

  • IoTにおける自社の位置を理解し、自社の特許が4つのセグメントのどれに最も適合しているかを知る。
  • スマートホーム、医療および自動車セグメントという主要市場の拡大を監視する。
  • 自社の戦略的展望に一致し、地位を確立したいと望む分野に好影響を与える可能性のある隣接市場や技術における企業の活動を監視する。
  • 競合他社の置かれた状況をより深く理解するために、他社の特許のマップを作成する。他社の特許と特許出願のマップを技術グループごとに作成し、他社がどの分野にイノベーションの取り組みを集中させているのかを時系列的に理解する。
イアン・マクリーンはカナダのオタワを拠点とするテクインサイツの知財サービス担当バイスプレジデント、 レイモンド・アンジェは知財技術ソリューション担当マネジャー、ゴラン・グルビッチは知財ソリューション・アナリスト。

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