防衛的アグリゲーターへの参加がもたらす財務リターン

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特許主張主体が引き起こす課題に対処するための防衛的アグリゲーターモデルは進化し続けている。このモデルの財務リターンを算定するのは容易ではないが、LOTネットワークの提案の検証を行えば、解決策はある。

業は、防衛的アグリゲーターの恩恵が明確でない限り、そのソリューションに参加する可能性は低い。投資利益率(ROI)は意思決定を後押しし、他の経営陣メンバーからの支持を取り付けるのに寄与する。ROIが定量化されていればなお良い。ここでは、防衛的アグリゲーターに関するROIの計算のケーススタディとしてLOTネットワークを用いる。

LOTネットワークは比較的新しい防衛的アグリゲーターの一つで、そのROIはあまり理解されていない。特許主張主体(PAE)とは、製品やサービスを製造・販売せず、特許を買い取った後、ライセンス料を支払うよう企業を訴える会社をいう。皮肉なことに、そうした特許の80%は元々企業から購入したものである。LOTネットワークはこの問題を根源で阻止することを目指している。

著者は、ROIに付随する可能性のある課題をより深く理解するためにLOT会員や潜在的な会員と話をした。LOTの初期会員であるレッドハットの特許担当エグゼクティブ・シニア・ディレクターのパトリック・マクブライド氏はこう語った。「LOTネットワークへの参加のような、時には抽象的と思われるような投資のリターンを定量化できれば素晴らしいことだ。我々は、意思決定の裏付けとなる財務的な数字を経営幹部に示す必要がある。また、知財業界の人でなくても容易に理解されるモデルも必要としている」

我々は、参加の長所と短所を分析し、中立的な財務モデルを提案することによって、リターンを定量化しようと考えている。すべてではないにしても多数の企業にとって、LOTネットワークのROIはプラスになると思われる。

LOTネットワークの会員は、自社のいずれかの特許がPAEの手に渡った場合、その特許を他の会員に実施許諾することに同意する。つまり、LOTネットワークの会員が特許をPAEに売却した場合、LOTネットワークの他の会員はすべて当該特許について全額支払済みのライセンスを付与される。そのため、参加する会員が増えるほど、LOTネットワークに参加する利点は増大する。LOTネットワークは早い時期から会員獲得に成功したと言えるようだ。キヤノン、シスコ、グーグル、GM、レノボ、レッドハット、SAP、スラックなど多数の企業が参加し、特許資産は65万4,000件以上に上ると報じられている。我々は、参加が戦略上・財務上理に適うか否か、およびどんな場合に理に適い、どんな場合にそうでないかを決定する目的でLOTネットワークについて深く分析した。

どんな防衛的アグリゲーターであれ、それに参加するか否かを決定する際の大きな課題の一つは、ROIの推定である。PAEに対する防衛戦略を提言する責任者にとっては、防衛的アグリゲーターの戦略的適合性は明瞭かもしれない。その適合性を知財チーム全体や財務チーム、経営幹部に説明するとなると、困難度が増すであろう。財務モデルがあれば、参加の機会について説明するのに役立つ。こうした背景を踏まえ、我々は、LOTネットワークがプラスのリターンをもたらすか否か、およびどんな場合にプラスになるかを検証する財務モデルを開発した。

LOTネットワークは会員にとって主に次の二つの利点がある。

  • 会員固有の利点 - 例えば、PAEは他の会員から購入した特許をあなたの会社に対して利用することができない。
  • 業界全体にとっての利点 - 例えば、PAEは購入して主張することが可能な企業特許を見つけ出すことができなくなる。

LOTは長期的投資であり、この点が興味深く思われる。参加による最大リターンがもたらされるのは5年以上先になる。この期間は、モデル化や企業の特許戦略への組み入れが困難になることがある。図1は我々のモデルの主な構成要素の概略を示している。

図1. モデルの概略

本稿では以降で、LOTネットワークの発端、その根拠および運営を説明することによってこのモデルの背景を明らかにする。次に、LOTネットワークへの参加の経済的価値を決定するために開発したモデルを提示する。このモデルは、クリエイティブ・コモンズのライセンスの下で公表され、我々のウェブサイト(www.richardsonoliver.com)からダウンロードすることができる。

防衛的アグリゲーターの一例 - LOTネットワーク

2012年に当事者系レビューが導入されて以降、PAEの脅威が減少する兆候や、多くの連邦裁判所や最高裁判所の判決が特許の主張者にマイナスの影響を与えた兆候が存在するものの、PAEは事業会社にとって依然として現実的な問題となっている。例えば、環境が厳しくなっているにもかかわらず、PAE訴訟における正味被告企業数は2010年以降約2,700社の水準で推移している(「2015年度報告書:NPE訴訟、特許市場およびNPEコスト」、PRX(“2015 report: NPE litigation, patent marketplace, and NPE Cost”, RPX)、8ぺージ、第5章参照)。

図2. インテレクチュアル・ベンチャーズの特許資産の入手先内訳

LOTネットワークは特許の供給源を制限することによってPAEの動きを抑制するために設立された。意外なことに、企業が、自社を訴える相手に特許を供給することは望ましくない結果を生むことになるにもかかわらず、PAEは特許の80%を事業会社から取得している(「特許訴訟と市場動向」、ダン・マッカーディ、RPX(“Patent litigation & market trends”, Dan McCurdy, RPX)、IP Counsel Cafe、2015年4月、スライド5参照)。この問題はゲーム理論における囚人のジレンマの一例と言える。1社だけがPAEに特許を売る世界では、その企業は利益を得る。しかし、多くの企業がPAEに特許を売れば、全員が損をする。この問題は時期の要素が絡むと複雑化する。企業は経営が厳しい時期に特許を売却し、最も高い値を付ける相手にそれを売却する傾向が見られる。

ROLグループは、企業が特許を売却する時期、とりわけPAEに売却するタイミングについて調査した。ROLグループは、そのレポート、「IVの特許ポートフォリオの中身」(“What’s inside IV’s patent portfolio”)(IAM第66号)、および「ポートフォリオの縮小を進めるインテレクチュアル・ベンチャーズ」(“How Intellectual Ventures is streamlining its portfolio”)(IAM第77号)において、インテレクチュアル・ベンチャーズ(IV)に最大数の特許を売却する企業の中には、経営不振企業や破産企業が含まれることを示した。ROLグループは、限定的な数であっても業界内でクロスライセンスが行われれば、IVからの長期的脅威を大幅に削減できると提案した。

図2に示されたROLグループの調査結果によれば、一握りの大規模な取引が原因で、IVの資産の大半が少数の企業から取得されている。すなわち、その37%が、1社当たり100件以上の資産をIVに売却した22社から取得され、さらに、60%が約100社から取得されている。このことは、将来、大規模なパテント・アグリゲーターになり得る相手に対処するという点でLOTネットワークの潜在的な価値を浮き彫りにする上で一助となるものである。IVは今後特許を購入しないと発表したものの、他の大規模なPAEは特許を購入し続けており、問題は依然残されている。

我々はごく最近、特許売却企業の財務データを分析し、企業の財務健全性とPAEへの特許売却の傾向の間に広範な相関関係があることを見いだした(「事業会社はいつ特許を売却するか」(“When do operating companies sell their patents”)、2016年8月16日、IPWatchdog)。そこでは、過去15年間に企業がPAEに多数の特許を売却した事例のデータに注目し、それらの企業の株価変動を市場の変動と比較分析した。その結果、企業の株価が、ナスダック100指数に連動するETFであるQQQを5パーセントポイント以上アンダーパフォームした時期に、大規模な特許売却の78%が集中していることが明らかになった。5パーセントポイント以上アウトパフォームしている時期にはほとんど売却が行われていなかった(5%以下)。

LOTネットワークの仕組みとは?

LOTネットワークに参加する企業は、自社特許がPAEの手に渡った場合、かつその場合のみ、当該特許のライセンスを他の会員全員に提供することに同意する。他社を提訴したり、売却したりする特許の従来の用途は影響を受けない。

会員が所有する特許のすべてがこの合意の対象となる。会員はLOTネットワークを脱退することができる。その場合、既存の特許資産に関する既存の義務は存続するが、新しい義務は発生しない。重要な点は、会員だった期間に所有していた一切の資産について義務が無期限に続くということである。これは、企業がネットワークに加入した後にPAEへの売却のために脱退するという抜け道を防ぐためである。脱退した会員は、脱退日以降、PAEに譲渡された特許に関するLOTネットワークのライセンスの恩恵を失う。年会費は企業の年間売上に基づいて算定されるが、2万ドルという上限が設定されている。

厳密に言えば不正確だが、LOTネットワークのライセンスを自動発生ライセンスと考えると都合がよい。法的には、LOT合意によって付与される権利は、会員の資産が破産後にPAEに移転される事態により良く対処するための譲渡、権利放棄および免責を伴う、ライセンスの条件付き即時付与として構成されている。我々は、この合意それ自体またはこの条項の不履行リスクはモデル化しなかった。また、会員が、LOTネットワークのライセンスに対する権利を有することを証明するよう要求する非妥協的なPAEに直面することによって生じる課題もモデル化されていない。しかしながら、そうしたリスクを考慮に入れるようにモデルの結果を修正することは可能である。

財務への影響:参加が妥当なのはどんな場合か

このモデルは、使用の容易性と正確性の間でバランスを取りながらROIの推定値を与える。このモデルは、企業固有の主な情報を調整し、根底的な前提を探求することにより、仮説的なシナリオを容易に検証する枠組みを提供するはずである。

このモデルの主要構成要素および基本的な流れが図3に示されている。

図3. ROIの主要構成要素とモデルの流れ

具体的には、利点(すなわち、リターン)は主に企業を源泉とするPAEリスクの低減から発生する。時間と共にLOTネットワークが拡大すれば、会員が、企業から入手した特許を利用したPAEの訴訟に直面する数が減少するはずである。コスト(すなわち、投資)は多くの場合非常に低額で、その内訳は、会費(10年間で最大20万ドル)とLOTネットワークの担保となることによるPAEへの売却機会損失から成る。多くの企業はPAEに売却することがないため、このモデルによるROIは大幅なプラスになる。このモデルには、LOTネットワークへの参加が他企業への売却に与える影響を示すオプションを組み入れた。企業間の売却価格への影響は無視できる程度と考えられるものの、それをモデル化するオプションを組み込んだのである(後述)。企業がPAEとなるリスクはモデル化しなかったが、このシナリオの予想価値を組み込むためにモデルを修正することは可能である。

大まかに言って、PAEに売却せず、かつ企業を源泉とするPAEのコストに現在直面しているか将来直面する可能性のある企業は、LOTへの参加からプラスの利益を得ることができる。例えば、年間売上が2億ドルの企業が、企業から入手した特許によるPAEの訴訟を毎年1件提起される場合、10年の間にPAEに最大2回売却したとしても、同期間のROIはプラスになる。

リスクおよびリスク低減の定量化

このモデルの出発点は、PAEリスクに関連するコストのモデル化である。PAEの主張と訴訟のコストはいかほどであろうか。これらのコストこそが、LOTネットワークが低減しようと目指すものである(ROIのモデルでは企業のリターン)。まず初めに、このリスクを企業源泉のPAEリスク(以前企業が所有していた特許に起因)と非企業源泉のPAEリスクに分ける。LOTネットワークは主に企業に適用されるため、これに参加して軽減されるのは企業源泉のPAEリスクのみである。

PAEの主張に係るコストを定量化するには、PAEの主張または訴訟の平均コストを推定する必要がある。PAEとの実際の関わり合いは、その各々が複雑であり、想定される解決および関連コストの決定には、様々な要因の複雑な多次元的配列が絡んでくる。図4の左側には、売上への影響とPAEの洗練性という二つの要因の例が示されている。モデル化を単純にするため、PAEリスクを低コストの主張と高コストの訴訟という二つのコストカテゴリーに分ける。

図4. NPEのリスクコストの推定

次に、この二つのシナリオに関連する平均ライフタイムコストを推定した。低コストカテゴリーについては、主張によって10万~20万ドルのコストが企業に発生すると推定する。高コストカテゴリーについては、訴訟によって100万~300万ドルのコストが発生すると推定する。これらのコストは平均値であり、時間と共に変化する可能性がある。PAEの主張のコストには、外部的費用(例えば、弁護士や専門家の報酬、PAEに支払う料金など)だけでなく、内部的費用(この問題に費やされる社内のエンジニアリング部門や法務部門の時間)も含まれる。これは必然的に平均値となる。例えば、主張によっては、ほとんど費用が掛からない場合も(例えば、会社が回答していないという催告状の受領)、最終的に和解に至る場合もある。同様に訴訟の場合も、訴答手続きの早い段階で解決されることがある一方、審理の全段階を踏んで費用がかさむこともある。このモデルを使用する際は、これらの各シナリオにおける自社の平均費用を反映するように上記の数値を調整すべきである。より保守的なROIモデルを示すため、これらの前提のデフォルト値は上記範囲の下限に設定されている。

企業は、昨年受けたPAEの脅威のうち、企業から入手された特許が絡むものの件数を数えることにより、PAEリスクを推定することができる。件数がゼロの場合は、今後数年間、自社の成長に伴い予想される脅威の数の推定値を用いることで、モデルが事象をより適切に代表しているかどうかを検討する必要がある。このモデルは小数の主張も扱える(例えば、主張が4年に1回なら0.25回となる)。同様に、主張や訴訟の件数が変動する場合は、過去数年の平均で代表させるほうが適しているかもしれない。

このモデルでは、LOTネットワークによるリスク低減の価値を定量化する。そこには、リスク低減がLOTネットワークによってカバーされる総特許件数に直接相関しているとする重要な単純化が含まれている。例えば、企業が所有する特許のうち、LOTネットワークによってカバーされる比率が1%増えれば、PAEリスクが1%低減する、という具合である。このモデルの開発のために、LOTネットワークによってカバーされる交付済み米国特許件数(2017年4月1日時点で14万8000件以上)と有効な米国特許件数(約250万件)の比較を行った。このアプローチは企業所有の特許件数を過大評価しているため(企業は米国特許の90%以上を所有)、リスク低減の価値がやや低めに出る結果となる。これらの前提は、所与の企業がLOTネットワークへの参加から得られる可能性のあるリスク低減の合理的な平均値をもたらすと考えられる。PAEリスクは、企業特許の多様な売却者から発生する可能性があることから、このアプローチは、企業を源泉とする広範囲の特許について価値(およびリスク)が存在するという直感に合致する。例えば、WiFi特許は当初、ネットワーク機器企業にしか関連していなかったかもしれないが、現在ではスマートフォンやゲーム機、自動車の製造会社にも関連していると思われる。

この前提に立てば、モデルの使用と理解が容易になる反面、正確性の低下という代償を支払うことになる。もっと複雑なリスク低減の計算法を使用すれば正確性を高めることもできる。例えば、自社の業界の特定の特許権者による、PAEの潜在的なリスクの低減をモデル化すれば、正確性が向上する可能性がある(この場合も、上記のWiFi特許の例から示唆されるように、自社事業に関連する特許が自社の業界で取得されていないことがある)。リスクのモデル化のためにここで提案されている単純化を使用するか、あるいは自社の業界固有のモデルを構築するかに関しては、LOTネットワークのカバー範囲の拡大や縮小に伴って自社のリスクがどう低減するかを検討するために時間を費やすことを推奨したい。

表1. このモデルにおける結果の表示

PAEの主張のコスト削減をモデル化するために、次のような追加的な前提が設定された。

  • LOTネットワークがカバーする特許件数の増加は、最初緩やかで、後に加速すると仮定する(1~4年目と5年目以降の間に差異)。その反対である可能性もある。
  • すべての企業がPAEリスクから同等の影響を受ける(自社が年1回主張の対象となる場合、そのリスク水準は、年1回主張の対象となる他の企業と同じである)。
  • 交付済み特許のプール全体は定数として扱う(例えば、モデル対象期間中、特許の失効数と新規交付数が均衡している)。
  • モデル対象期間は10年とした。これは、LOTネットワークは成長しており、また自動発生ライセンスは遅い時期にPAEに譲渡される特許から企業を保護することになるため、このネットワークへの参加が最大の効果を発揮するには長期間を要するからである。
  • 企業が有するであろう他のPAE対応戦略や他の防衛的アグリゲーター(例えば、AST、OIN、RPX、ユニファイド・パテンツなど)の会員資格による影響はモデル化しなかったが、企業の戦略全体にとっては、こうした他の戦略や防衛的アグリゲーターの影響も重要な考慮事項である。

LOTネットワークによる将来のリスク低減全体の価値を、キャッシュベースおよび正味現在価値(NVP)として示される現在の貨幣価値で計算した。このモデルでは資本コストとして15%を使用したが、企業によってはこの水準は高すぎるかもしれない(表1参照)。

防衛的アグリゲーターへの参加コスト - LOTネットワークの例

ROIを算定するには、コストつまり投資面の計算が必要になる。LOTネットワークの場合、会員は会費以上のものを差し出すため、コストの算定が他より難しくなる可能性がある(オープン・インベンション・ネットワークのコストも同様に複雑である)。LOTネットワークの会員は、会費とLOTネットワークの担保負担が特許ポートフォリオに与える影響を加えたものに投資している。

企業から入手した特許によるPAEリスクの低減の潜在的価値が決定できたところで、次は参加コストを推定する。LOTネットワークはこのコストが最も低い防衛的アグリゲーターの一つで、年会費は売上に応じて決まり、売上10億ドルを超える企業では上限額の2万ドルとなる。会費は少額であるものの、企業は担保負担による保有特許の価値低下、具体的には、他企業やPAEに将来売却する場合の潜在的損失を懸念するかもしれない。このモデルはこれらのコストの定量化に役立つ。

このモデル化の開始時点で、企業は現在の(または予想される)特許売却行動をモデルに組込むことが可能である。対企業および対PAEのいずれの特許売却もモデル化できる。企業が特許を売却しなかったり、PAEには売却しない場合、LOTネットワークの担保負担は最低限の影響しか与えないであろう。

我々の経験によれば、対企業の特許売却の場合、企業は通常、方針転換してPAEに売却することを期待して特許を購入するわけではないことから、LOTネットワークのような担保負担による影響は無視できるほど小さい。企業による一組の特許購入の価値の持つ意味は通常、別の企業に対する特許の主張が可能になることであり、PAEのような大規模なライセンスプログラムの開始であることはほとんどない。LOTの担保負担は企業が行う主張の妨げにならない。したがって、購入企業が気にしているのは主に、特定の企業や企業グループが実施許諾を受けられるか否かである。つまり、購入者は将来のPAEの主張のシナリオに重きを置かないため、購入者にとっての価値が変わることはない。

LOTネットワークの担保負担は、会員が自身の特許によってライセンスプログラムを実行することを認めている。ただし、当該会員の売上の50%超が業界外の実施許諾から稼得された場合、その会員はPAEと判断され、その時点で特許がLOT会員に実施許諾されたとみなされる可能性がある。

さらに、7,500万ドルを上回る特許の売買に関してクライアントを支援してきた我々の経験によれば、特許価格には、引受済みの担保負担、ライセンス(例えば、クロスライセンス、標準化団体の義務、ライセンスバックなど)および重要なリスク、ならびに権利行使可能性に関する前提がすでに織り込まれている。このことは、対企業の売却ではLOTネットワークの担保負担が特許価格に大きな影響を与えることはないという我々の考え方をさらに裏付けるものである。しかしながら、LOTネットワークが価格に一定の影響を及ぼすという主張も聞かれる。我々のデータや経験はその逆を示しているものの、モデルの柔軟性を高めるために、企業特許の売却への影響額を調整する能力を組み込むことにした(前提シート表参照)。

LOTネットワークへの参加コストが会員によるPAEへの特許売却に与える影響を定量化するため、次のような前提を設定した。

  • 市場で十分大きな割合がLOTネットワークに参加した後には、売却が生じない。LOTネットワークの拡大の初期には、PAEは依然としてLOTネットワークの担保負担付特許を購入する用意があるかもしれない。
  • ネットワークが一定水準に到達した時点で、特許の潜在的なライセンス市場の非常に大きな部分が実施許諾済みになるであろう。これは、PAEが特許を購入した場合、LOTネットワークの契約に含まれるライセンス規定が発効するためである。マーケティングの経歴を有する者にとっては、これがPAEにとって利用可能・対応可能な市場の価値がゼロになることを意味することは自明である。
  • 市場カバー率の代用指標としてLOTネットワークがカバーする特許の比率を使用し、LOTネットワークが米国特許の30%をカバーした時点でPAEが会員からの購入を中止すると仮定した。話を聞いた企業やPAEの一部から、30%は低すぎるという示唆があったが、我々は保守的なモデルを提供することを選好する。
  • モデル化にあたり、PAEの市場基準値に到達するまでは、PAEは満額でLOTネットワーク会員から特許を購入し、到達後は全く購入しないと仮定する。PAEの行動に関するこのモデルも単純性のために正確性を犠牲にしている。実際には、小数の大企業がカバーされていない場合、PAEがLOTネットワークの担保負担付特許を購入する可能性がある。

さらに、いかなる潜在的な機会損失も実際の特許売買市場と関連付けて考慮する必要がある。現在、1億ドルを超える特許の売却は非常に少なく、更なる減少へと向かいつつある。特許市場は十分確立されている。今日ではブルームバーグが平均提示価格、購入者および売却者に関するレポートを四半期ごとに公表している。価格は、5年前と比べてさえ、はるかに低水準にあり、範囲も狭くなっている。この期間中に、最高水準にあったノーテル・モトローラ間取引の時代から50%以上下落したのである。

我々はこれまで見てきた売買実績に基づいて標準的な対PAE売却と標準的な対企業売却をモデル化した。9万件以上の特許資産をカバーする4,000件以上の特許パッケージの売買から成る我々自身のデータベースを使用して、特許売却価格を決定した。このデータベースを補足するために、ROLグループが128件の特許売買の約定価格に関して行った実際の価格決定の調査を利用した。このような方法では、モデル化される標準的な売却は、ノーテルの特許売却などの著名な公表取引とは類似しないものとなるであろう。それらの売却は現在の特許市場を代表してはいないからである。我々は数通りの特許売却シナリオを検討し、標準的な対PAEの特許売却を、約13~14件の特許から成り、価格が170万ドルの取引としてモデル化した(対企業売却も別個にモデル化したが、結果は同様になった)。この標準的な対PAE売却は、焦点が絞られた小規模な売却、大規模な売却、および私掠行為という異なる特許売却タイプの混在状況に対応している。現在の環境では対PAEの売却価格はそれほど高い水準にはないものの、モデル対象期間の10年間に価格が回復する可能性があると仮定した。標準的な対企業売却についても、我々自身のデータを使用して標準的な特許資産数と価格を有する標準的売却を見いだした。

ROIの推定値および比較

全般に、LOTネットワークは、PAEの問題に直面する多くの企業にとって長期的にプラスのROIを提供すると思われる。企業が年間2回を超えるPAEの脅威に直面している場合、リターンが300%以上となることは珍しくない。主に二つの要因がプラスのROIをもたらす。第一に、PAEの脅威がわずかに減少しただけで、すぐに会費の元が取れる。第二に、LOTネットワークの潜在的な会員の大半がほとんど特許をPAEに売却していない。そのため、機会損失コストは低い。PAEの脅威がない企業の場合、参加のROIは低く、別の参加理由を考慮すべきである(後述)。企業が相当数の特許を頻繁にPAEに売却している場合、LOTネットワークのROIがプラスになる可能性は低い。しかしながら、企業が、PAEからそこそこの数の主張や訴訟を提起されている場合は、10年のモデル期間中に少数の売却を行ってもROIがマイナスになることはまずない。

表2は、貴社のインプットに基づく結果ならびに保管会社(StorageCo)およびソーシャルネットワーク会社(SocialCo)という他の2社との比較を示している。.

防衛的アグリゲーターへの参加における他の考慮事項

財務モデルは、防衛的アグリゲーターへの参加または不参加の理由すべてをカバーしてはいない。その意思決定の補助として財務モデルを使用する場合、いったんそれを離れて他の要因を検討することが重要である。

このモデルを構築する過程で、我々はLOTネットワークへの参加または不参加の理由を知るために数社と面談した。主要かつ最も明白な参加理由はPAEリスクの低減であった。しかしながら、他にも次のような共通する回答もあった。

  • すでにLOTネットワークに加わっている特定企業の保有特許から今後発生するPAEリスクを除去するため - 参加は、LOTネットワークに参加済みの競合他社から発生する業界リスクの低減にも役立つ。
  • 会費が安いため、プラスリターンの実現が容易 - 投資は有益であるといえる。
  • PAE対策 - 特許を防衛目的にのみ使用するという企業文化に適合。
  • PAEに関する他のソリューションとの統合 - LOTネットワークはPAEリスクを低減するための総合的な防衛的アグリゲーター戦略の一構成要素である。
  • 特許売却の容易化 - PAEを含め、誰にでも売却できるように感じられると答えた会員もあった。

非会員の企業と話し合った際、その多くがROIモデルへの関心を示したが、懸念を表明する企業もあった。そうした企業によると、LOTネットワークに参加しない理由は次の通りである。

  • PAEに積極的に特許を売却している、または頻繁に売却することを予定している。
  • PAEは米国で最も活発に活動しているが、自社の米国の売上はリスクになるほど大きくない(しかし、米国を拠点とするPAEが欧州に移動しつつある一方、中国でも引き続きPAEの活動が拡大している)。
  • 内部のコスト配分構造が、LOTネットワークの会費支払いの妨げになっている。
  • 経営陣は防衛的アグリゲーターモデルに十分な時間を費やしたかのように感じており、別のモデルに目を向ける余力が残っていない。
  • LOTネットワークの担保負担が、特許ポートフォリオを将来売却する可能性に影響するのではないかと懸念されている。
  • 自社の既存ライセンスプログラムやライセンスがあるため、LOTネットワークの魅力がそれほど大きくない(例えば、自社のエコシステムの相当部分について、すでに大量のクロスライセンスや2社間のLOT(移転時実施許諾)契約を締結している場合、LOTネットワークの価値はさほど高くない)。
  • 中小企業は、LOTネットワークへの参加による影響を完全にはモデル化できないかもしれない。そうした小規模企業にとっては、モデルに基づくROIがプラスになると思われても、会社の戦略的方向性が変化してモデルの有効性が失われることが有り得る。例えば、特許の主張や売却を予定していなかったスタートアップ企業がLOTネットワークに参加した後、本業で成功を収められなかった場合、どんな選択肢があるだろうか。その企業が競合他社を提訴して和解金を受けとるとしたら、LOTライセンスが発動される前に要求される金額はどれほどの額になるだろうか(恐らく極めて低額であることは明らかである)。その小規模企業は、本業で成功すること、および企業から入手された特許に基づくPAEの訴訟のコストが、現金を求めて特許を主張することから得られる現在の予想価値より大きいことを確信すれば、結局は参加する。
  • 収益のために特許を実施許諾することが通例になっている業界では、LOTネットワークは有効に機能しない可能性がある。例えば、医療機器やバイオテクノロジー、医薬品セクターは、通常の収益の流れがLOTライセンスを引き起こす可能性があるため、LOTネットワークの恩恵を享受できないことがあり得る。またLOTネットワークは、最先端技術を利用せず、または高度な集中に依拠しない業界でも機能しない可能性がある。化学業界や繊維業界などの企業は、PAEの影響をあまり受けず、はるかに少数の特許に依拠して製品を生産しているため、LOTネットワークに魅力を感じないかもしれない。これに対し、ハイテク企業(例えば、コンピュータやスマートフォン)やモノのインターネットの企業、自動運転車業界は数千の技術を統合して単一の製品を生産するため、LOTネットワークのカバー範囲の潜在的な広さからより大きな恩恵を受けると思われる。

表2. 貴社の結果と他社の事例との比較

さらにもう一つの懸念として、すべての防衛的アグリゲーターに共通するフリーライダー(ただ乗り)の問題がある。一部企業は、私掠行為やPAEへの売却を含め、まさにすべての選択肢を可能にしておくために、LOTネットワークに参加しないかもしれない。これらのフリーライダーは、会費を支払ったり、ライセンスをLOTネットワーク会員に提供したりすることなくPAEに対する企業特許の売却の全体的減少による恩恵を部分的に享受する上、潜在的な特許売却のオプション価値を満額維持することになる。端的に言えば、あなたの会社が、LOTネットワークに参加していない少数の企業の一つになるまで長く存続できるとすれば、フリーライダーの選択肢も魅力的である。

LOTネットワークのただ乗りには二つの難点がある。第一に、フリーライダーの恩恵が完全に実現されるまでの長い期間、他企業がPAEへの売却を実行できる市場が存在し、フリーライダーは(PAEの)主要な標的の一つとなるだろう。第二に、現在の会員が非会員に参加するよう圧力をかける可能性が高いため、LOTネットワークの外部にとどまることが難しくなる可能性がある。例えば、現在の会員が、単に全体的リスクを低減するために仕入先や提携先に会員になるよう要求し始めることが十分予想される。さらに、LOTネットワーク会員が、どの企業にとってもLOTネットワークへの参加が選択肢であり得たことを知っていることに力を得て、PAEへの売却に踏み切る可能性がある。

鍵を握るROIの算定

我々は、防衛的アグリゲーターに参加する企業のためにROIをモデル化できるどうかの判断を試みた。クライアントはしばしば、防衛的アグリゲーターのいずれかに参加すべきかと質問してくる。我々は防衛的アグリゲーターの代理人を務めているが、会員になることの戦略的妥当性に関して他のクライアントに客観的な助言を行うことを可能にする免責を得ている。こうした助言を目的として、防衛的アグリゲーターのROIのモデル化を可能にする方法の一つとして、LOTネットワークに係るROIモデルを開発した。

中立的な財務モデルは、企業が「LOTネットワークのROIはプラスになると思うか」という初期段階の質問に答えることを可能にするツールである。防衛的アグリゲーターへの参加を検討する際、ROIを算定することは、参加に関する自社チームの他メンバーとの議論を組み立てるのに役立つ。ここでは、企業から入手された特許によるPAEリスクのコストを推定するモデルを提示した後、LOTネットワークへの参加によってそのリスクがどの程度低減されるかを推定し、次いで、参加に伴う潜在的な価値喪失を推定した。こうしたROIのモデル化のアプローチは他の防衛的アグリゲーターにも拡張することが可能である。

大半の企業にとって、防衛的アグリゲーターへの参加は単なる財務上の意思決定を超えるものである。一部企業にとっては、PAEに対して取る立場を表明する機会となる。別の企業にとっては、LOTネットワークの例においてはどんな財務モデルも、外見上算定が不能と思われる潜在的な特許価値の喪失規模を測定する上で役には立たない。しかし、我々は、それが算定可能であり、通常それほど高くないことを示せたと考えている。どちらの立場に立つにせよ、財務モデルは、防衛的アグリゲーターへの参加の長所と短所に関する議論を構築するのに役立つ。

このモデルは、第三者による修正や改良が可能なように、クリエイティブ・コモンズのライセンスの下で公表されている。モデルと取扱説明書はwww.richardsonoliver.comからダウンロードできる。このモデルに関するフィードバックを歓迎する。

行動計画

防衛的アグリゲーターのROIのモデル化の成功は、この段階的アプローチに準拠できるかどうかにかかっている。

  • 特許主張主体のリスクを識別し、モデル化する。
    • どんな種類のPAEリスクに直面しているか。
    • 主張主体はどれほど洗練されているか。
    • PAEはどこから特許を入手したか。
    • どの技術分野の危険度が最も高いか。
  • PAEのコストをモデル化する。
    • 現在、PAEの主張または訴訟は何件あるか。3年間ではどうか。5年間ではどうか。
    • 主張または訴訟の標準的コストはどの程度か。
  • リスク低減をモデル化する - 防衛的アグリゲーターがリスクをどのように低減するか(例えば、LOTネットワークは会員の特許について、PAEが企業から入手する特許のリスクを低減する)、およびモデルから予想されるPAEリスクの低減の効果(LOTネットワークの拡大による、PAEが利用できる特許の変化のモデル化)を明確にする。主要な前提を明瞭に示し、代替案を検討する(例えば、LOTネットワークの拡大は、PAEが企業から入手する特許の利用可能性に直接関連している)。あるいは、自社の技術分野における特許、および競合他社グループからの参加によるLOTネットワークの拡大をモデル化する。
  • コストをモデル化する - 会費その他のコスト(例えば、PAEおよび他社への売却機会の減少または喪失)
  • ROIの算定
    • リターン = 一定期間についてモデル化されたリスク低減
    • 投資 = 一定期間についてモデル化されたコスト
    • 貨幣の時間的価値に基づいて算定されたROI
  • ROIですべてが終了するわけではない。防衛的アグリゲーターのソリューションに関する非財務的な考慮事項も組み入れ、防衛的アグリゲーターに関する複数のソリューション間の相互関係を検討する。

ケント・リチャードソンエリック・オリバーは、米国の ロスアルトスのROLグループの設立パートナー。

注:著者たちおよびその所属事務所、リチャードソン・オリバー・ロー・グループLLCは、LOTネットワークの会員および非会員双方の弁護士であり、防衛的アグリゲーターの代理人を務め、様々な防衛的アグリゲーターへの参加に関する長所と短所について企業に助言を提供している。しかしながら、ここに示された見解は我々自身のものである。このモデルを提示した目的は、防衛的アグリゲーターへの参加に係るROIが計算可能であることを示すことであり、特定の防衛的アグリゲーターが参加に値するか否かを示すことではない。

本レポートとこのモデルの開発にあたり着想と貢献をもたらしてくれたことについて、チャルマース工科大学で知的資本管理の修士号を取得中のフレデリック・ヨハンソン氏に多大なる謝意を表したい。

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