並行輸入:南米の見解

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多角貿易のダイナミクスが世界に広がる中、正規の生産・流通経路を通じて業務を行っていない企業が並行輸入を採用しており、多くの国で法律上の問題を引き起こしている。

人や企業は商標、特許、実用新案および工業意匠に対する権利を付与されることがある。これらの知財権は各国の特許庁によって承認されている。

こうした保護の下で製造業者の主導により商品を販売に供すること、またはライセンス契約に基づく権限を有する第三者がそうすることは、その権利所有者が注いだ努力の結果であり、各国の法的取り決めを遵守しつつ、存続期間中その財産権を有効活用するという権利所有者の権益でもある。しかしながら、そうした販売が常に権利所有者や許可されたライセンシーによってなされるとは限らない。

権利所有者または権利所有者から許可された第三者が製造した真正品が、排他的流通網の外にいる第三者によって他国から特定の国に輸送されるような状況が生じることがある。この現象を並行輸入と呼ぶ。

最も重要なポイントは、権利所有者や実施許諾された第三者の許可を得ずに特定の市場に持ち込まれた製品が、実際に権利の消尽(exhaustion of rights)の原則に抵触しているかどうかを見いだすことである。

このレポートでは、知財分野のこの重要領域に関し、幾つかの南米諸国の法令に定められ、国内裁判所によって支持された現在の状況を概観する。

知財権の消尽

知財権の消尽に関連する問題は、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)第6条の規定により同協定の対象から明確に除外されている。この国際条約は1994年のウルグアイラウンド終結時に、世界貿易機関(WTO)の設立に際して調印された協定の不可欠な一部をなす。

関税貿易一般協定(GATT)に関する多国間貿易交渉であるウルグアイラウンドの結果を反映した最終議定書は、ブラジルでは1994年12月30日に法令1,355号により公布された。

TRIPSによれば、締約国は、知財権の消尽が発生する領域を自由に決定することができる。

TRIPSの2年後の1996年5月14日、ブラジルでは産業財産法が法律9279号により制定され、特許(第43条IV項)および標章(第132条III項)に関する同国の権利消尽制度が確立された。同法第68条3項と4項では、ライセンス対象物が特許所有者により、またはその同意を得て、直接市場に投入されていた場合、強制ライセンスが付与されることが明確に定められている。

欧州連合など他の管轄区域では、地域的な消尽制度が導入されている。

また、国内法令で明確にTRIPSの規定を選択していないすべてのWTO締約国を包含する国際的な消尽制度の採用に関する規定もある。したがって、権利所有者またはライセンシーがいずれかの締約国で製品を最初に販売した時点で、いわゆる「ファースト・セール・ドクトリン」に基づき、消尽、すなわち知的財産権の消滅が発生することになる。

ブラジル

ブラジルの知財権は1988年連邦憲法によって保護されており、また法律9279/96号は工業発明の創作者にその用途を対象とする一時的特権のほか、とりわけ工業上の創出および標章の所有に対する保護を保証している。

ブラジル憲法で確立された「自由な取り組み」と「自由競争」の原則は、ブラジル全土で投資、生産および商品販売を促進している。

これを受けて、最高裁判所は2011年のCanon v Reprosystem(ARE 660270-SP)判決において、出所が異なる同一ブランドの真正品間の自由競争を根拠として並行輸入の可能性を認めた。

「ライセンシーに有利な地域的独占条項の規定は、同一ブランドの真正品間の自由競争の阻害には当たらない・・・。これは、ブラジルが権利の消尽の理論を採用していることに基づく。すなわち、製品が最初に販売された後は、特許所有者は特許が有効な地域における製品の自由な流通に干渉することができない」

この判決では、知的財産権所有者は製品を市場に投入して売却した瞬間からその所有者ではなくなり、取得者は自分が望み通りにそれを処分できるという解釈もなされた。

キヤノン事件では、行政当局が規制権限を付与されているという解釈に基づく、ブラジル法の適用の観点からも争点が分析された。知財権所有者は、製品の売却後も、模倣品や第三者による標章の不適切な使用に対する保護を受けられるが、真正品の取得者の財産権を取り上げることはできない。法律が強調する通り、標章の独占的使用権には、もはや権利所有者に帰属しない中古品の輸入を禁止することは含まれない。

しかしながら、最高裁判所のこの解釈は、中古品か否かを問わず、真正品の権利所有者の同意なく輸入された商品に関連する「適法性の原則」の適用により緩和された。

司法最高裁判所は、2011年のKonica Minolta v Ativa(REsp 1.207.952-AM)判決において、「適法な並行輸入は、海外の標章所有者または同人から製品の販売を許可された者との間で締結された契約である」ことを認めることによって、法の適用においてより客観的な立場を取った。

この重要な判例の後、市場で製品を販売する標章所有者による管理の対象とならない場合、およびその基準に適合しない場合、当該製品の修理は許されないことになった。さもないと、消費者は、その標章の付いた製品を購入した際、標章から連想される特定の品質や信頼性の基準を当該消費用品が満たしていることを十分に期待するため、間違いなく消費者間に生じる混乱を放置することになる。この判決を受けて、ブラジルにおいて消費者保護法(法律8,078/90号)によって保護される消費者が製品の出所を確信できることが極めて重要になっている。

特筆に値する第3の判決は、司法最高裁判所が2012年のDiageo v GAC(REsp 1.249.718-CE)で下したものである。この事案でも、ブラジルにおける標章の消尽に関する法律9,279/96号第132条III項の規定に基づき、標章所有者または同意権限を与えられた第三者の同意のない、真正品の並行輸入の禁止に関する解釈が是認された。

したがって、標章所有者または同意権限を与えられたライセンシーの同意が付与された場合、真正品の国内市場への投入は違法な並行輸入に該当しない可能性がある。ブラジルにおける知財権の国内消尽が認められた主な理由は、国内の正規製造業者を保護するためである。

知財権所有者は、ブラジルの裁判所を通じて並行輸入を一時停止させる措置を講じる法的権利を付与されるが、ライセンシーも、法律9,279/96号に定められた次の二つの要件を満たす場合、同様の法的権利を付与されることがある。

  • 所有者が、自身の権利に悪影響を与えることなく特許または標章の防御を行う全面的な権限をライセンシーに付与していること
  • そのライセンス契約が、産業財産官報への公開日から第三者に対して効力を有するように、ブラジル特許商標庁に承認されていること

アルゼンチン

アルゼンチンでは、1996年法律24,572号により改正された特許法(24,481号)第36条(c)に、TRIPS第III部第IV節の条件に従い市場に適法に投入された製品に対しては特許権を行使できないと定められている。同法は国際消尽のルールを明確に定めていることから、この点が裁判所で争われたことはない。

商標に関しては、商標法(22,362/1981号)は並行輸入に関するいかなるルールも定めていない。従来、裁判所は国際消尽の原則寄りの考え方を取ってきた。

最高裁判所は1932年のLemonier y Cia v Simsilevich y otro判決において、商標登録が海外の製造業者ではなく、国内の流通業者によって保有されていたことを理由に、国内の並行輸入業者が適法な製品を販売する権利を否認した。

控訴裁判所は、1942年のLutz Ferrando y Cia v Karlsberg判決において、ライカのカメラがその商標所有者によってドイツで適法に製造されたものであるという根拠に基づき、原告が引き続き当該製品を外国人旅行者から購入して国内市場で販売することを認め、後に最高裁判所もこれを支持した。この時点から、国内流通業者が商標登録を保有している場合は並行輸入を阻止できるのに対し、海外製造業者が保有する場合は阻止できないという法運用になったと思われる。

最高裁判所は1958年のPrecisa Argentina SRL v Misse, Esteban y otro判決において、国際消尽が従うべき原則であることを再び是認した。この原則により、商標登録が国内当事者によって保有されているにもかかわらず、並行輸入業者は適法なスイス製の計算・測定機を引き続き販売することを認められた(その国内当事者は外国製造業者の代理人であり、同一法人とみなされた)。

しかしながら、控訴裁判所は2009年のBardahl Lubricantes Argentina SA v Lubimport SA判決において、被告による並行輸入を差し止めることを国内の権利所有者に認めた。この事案には大きな相違点があった。商標は国内で所有されていたものの、製品もその権利所有者によって国内で製造されていた。そのため裁判所は、輸入品は海外では適法だったとしても、アルゼンチン国内では適法ではないと判断した。輸入品は国内の商標所有者が適法に販売する製品と異なっていたため、消費者の混乱を防ぐために裁判所が介入したのである。

一般的に言って、アルゼンチンでは、商品が海外で製造され、標章が海外製造業者によってアルゼンチンで所有されている場合、国際消尽が適用されるため、並行輸入を差し止めることはほぼ不可能である。しかしながら、標章が国内当事者の名義になっている場合は、裁判所は各事案の事実関係を厳格に解釈する。こうした事案では、海外製造業者と国内流通業者の関係の度合いにより、解決が異なった方向に向かう場合がある。すなわち、国内流通業者がその製品の製造業者でもある場合、海外企業との結び付きにもかかわらず、他国で製造された並行輸入品の流通の差し止めが可能なことがある。

チリ

産業財産法(19,996号)は知財権の国際消尽を認めている。すなわち、商標(修正第19条E項)または特許(第49条)によって保護された適法な製品が、知財権所有者によって、またはその明示的な同意を得て、すでに他国市場に投入されている限り、当該製品をチリに輸入することが十分可能である。

パラグアイ

パラグアイでは並行輸入が認められている。パラグアイ憲法第18条によれば、国内で生産または製造された商品および外国産であるが適法に持ち込まれた商品は全土で自由に流通させることができる。

同様に、商標法(1,294/1998号)第17条では、権利所有者によって、またはその許可を得ていずれかの国の取引に適法に投入された商標品は、それ自体およびその包装もしくはそのいずれかに改変、修正または劣化が生じていない限り、商標登録を理由として自由な流通を妨げられてはならない、と規定されている。

ボリビア、コロンビア、エクアドル、ペルー

アンデス共同体の加盟国であるこれら諸国は同一の知財法を共有しており、したがって、商標保護および商標権の制限に関して同一のルールを適用している。これら諸国にとって主な法令は決議486号(2000年)であり、これに基づき、商標は特定の制限の下で所有者の価値のある資産として保護される。そうした権利の制限には、どんな場合に商標所有者の権利が消尽し、その結果、どんな場合に権利行使ができなくなるかに関する特別な規定が含まれる。その事例の一つが並行輸入である。

決議486号は商標権に対する一定の制約を定めている。その第158条の規定によれば、商標所有者またはその許可を得た者がいったんアンデス共同体諸国で商標品を販売した場合、この最初の販売により商標権が消尽したと理解されるため、商標所有者は、それに続く当該商品の販売に異議を申し立てる権利を失う。

第三者に認められる行為の一つは、商標所有者またはその許可を受けた流通業者が世界のいずれかの国ですでに商品を販売している場合、当該商品を輸入することである。

しかしながら、そうした輸入やその後の販売が適法とみなされるためには、商標品、その包装およびラベルが一切修正または改変されておらず、かつその品質が影響を受けていないことが条件となる。

アンデス共同体司法裁判所によれば、並行輸入とは、商標所有者または商品の公認流通業者以外の第三者によって製造された商品が適法に輸入されることである(予備的解釈37-IP-2015号)。こうした輸入が適法とみなされ、したがって、商標所有者の一切の請求を無効とするためには、商標に加え、商品、そのラベルおよび包装に手が加えられていないことが条件となる。

また、並行輸入に関して、商工業監督局(Superintendency of Industry and Commerce)(コロンビアの商標保護や登録の管轄官庁)はアンデス共同体が権利の国際消尽を採用していることを保証した。すなわち、商標所有者またはその公認業者が世界のいずれかの国で商品を最初に販売した時点で所有者の商標権が消尽する。

コメント

国際貿易は大きな課題に直面しており、知財権によって保護された商品の新たな流通メカニズムの導入が、南米を含むすべての国々で現実のものとなっている。そうした権利の所有者にとっては、権利の消尽に基づいて採用された原則の結果である、並行輸入の現象に関する各国の法令や裁判所の判決に従いつつ、自身の商品の仕向国で必要な保護を確実に取得することが極めて重要である。

標章や特許の使用を対象とするライセンス契約は、第三者に対する効力を生み出すために、署名後に、国内規制当局の承認が要求されるすべての国でその承認を受けなければならない。権利所有者は、可能な場合は常に、必要に応じて知財権保護の措置を講じる全面的な権限をライセンシーに付与しなければならない。

執筆にあたり有益な貢献をいただいたセルジオ・エルマン氏(アルゼンチン)、フェリペ・パベス氏(チリ)、マルタ・バニン氏(コロンビア)、ファン・ギーエン氏(パラグアイ)に謝意を表します。

ロドリゴ・ボーナン (Rodrigo Bonan)

シニア・パートナー

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ロドリゴ・ボーナンは、ルイス・レオナルドス・アンド・アドボガードスのシニア・パートナーの訴訟部門責任者である。専門家として35年以上の経験を有し、主要な知財訴訟事案すべての助言と実行に携わってきた。法学士号と消費者法の法学修士号を保有している。ブラジル知的財産協会の副理事(2004~2007年)、ブラジル司法省著作権・知的財産権侵害対策全国協議会メンバー(2005~2007年)を歴任。また、国際商標協会の執行委員会(2014~2015年)および並行輸入委員会(2016~2017年)の指定委員を務めている。専門家としての経験により知財法執行の諸問題に関する広範な専門知識を有する。

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