中国特許訴訟という「素晴らしい 新世界」で訴訟から身を守る

巨大な市場と特許権者寄りの制度が中国の特許訴訟の増加を煽っている。対決相手が現地会社であれ世界規模の特許不実施主体であれ、被疑侵害者はあらゆるシナリオについて準備する必要がある。

国の特許訴訟当事者なら誰でも知っている通り、米国における特許の価値やその権利行使の容易さは、過去数年の間に急落した。しかし、最も大きな影響を及ぼしたのは、イーベイ事件における米最高裁の2006年の判決であった。これは皮肉なことである。なぜならこの判決は差止請求について、特許侵害の認定を受けて自動的に認容されるべきではなく、また原告が単に特許発明を実施していないことを理由に退けられるべきではないことを明確にしたにすぎないからである。イーベイ事件以降の10年の間に法律は劣化し、今では直接の競合相手に対する禁止命令を出すこともほぼ不可能となっている。

米国における損害賠償額はこれまでずっと世界最高であったが、裁判所が事実上の強制実施権制度を施行したのに従い、著しく下落している。実際、多くの特許訴訟当事者は、我々のなかのより経験豊富な者であっても、差止命令の威力や、或いはその現実的な脅威すらほとんど忘れている。

米国が特許権行使という点で底辺争いを行ったことが大きな要因となり、ドイツが人気の特許裁判管轄域として浮上した。差止命令が実質的に保証され、裁判に至るまでの期間が短く、証拠開示手続きがないことから非常に効率的な制度となっているからである。しかし問題は、ドイツでの差止命令は、ドイツ国内での販売しか阻止しない点にある。ドイツは重要な市場ではあるものの、米国や中国よりはずっと小さい。知財界の多くの者がイギリスのEU離脱投票に狼狽したのはこのためである。展開によっては、欧州統一特許裁判所は、ドイツの裁判所の効率の良さと欧州市場の規模を兼ね備えていたかもしれない。しかし、欧州連合も欧州統一特許裁判所も、今やその将来は不安定である。

中国を見てみよう。知財関連のあらゆる面で長年嘲笑の的となってきたこの中華帝国は、偽造ハンドバッグやソフトウェア、DVDが簡単に手に入ることで軽んじられてきた。しかしこの15年間、特にここ2、3年で、中国は非常に効果的な特許権行使制度を構築しつつある。主としてドイツの制度やその長所すべてをベースとしているが、米国法の一部も選択的に取り入れ、中国は、今や特許訴訟の裁判地第1位となっている。

今や勝訴当事者はほぼ間違いなく差止請求権を得られるが、これはまだ魔法の半分に過ぎない。国内での製造、使用、販売ならびに輸入を禁じる大方の国とは違い、中国法は、侵害輸出品が国外に出ることも禁止する。つまり、例えば被疑デバイスがアップルのiPhoneであれば、中国国内でのiPhonesの販売だけでなく、中国からのデバイスの輸出も禁止することができる。したがって、iPhoneは中国で製造されているため、特許権者は事実上、世界中での禁止を達成できるのである。

こうしたことは全て、中国の通関制度が効力をもって機能していなければムダであろう。幸い中国は、商標侵害に対する禁止の執行に長年の経験を有し、輸出予定の商品を税関で阻止するためのシステムがよく整備されている。これが、中国の特許訴訟の魔法(または恐怖)である。

中国における特許訴訟の勝訴率は高く、現在は平均80%辺りを保っている。さらに、統計的には、中国人の原告より外国人原告の方が健闘している。このことは、一つには外国人の原告は中国で提訴を行う前に細心の注意を払っているという事実による可能性が高いが、外国人当事者がきちんと準備をして臨む限り、中国の裁判所においてフェアに対応してもらえるということも示している。提訴から判決および差止命令までの期間は短く、6ヶ月から14ヶ月の間である。訴訟費用も安く、多くの場合、米国の特許訴訟の費用の10分の1である。これは重大な証拠開示手続きがないためである。

これだけでも十分なのに、大抵の有効性に関する異議申立(国家知識産権局(SIPO)の一部門である特許再審査部を通じて行われる)は、判決(および差止命令)後まで完了しない。差止は、通常、控訴中は停止されるが、判決を勝ち取った後に仮差止を申し立てることが可能である。これには勝訴の見込みと差し迫った危害が要件となるが、特許権者が既に勝訴していることから最初の点は達成され、2点目も中国における技術進歩のペースを考えると、一般に立証可能である。

2014年11月、中国は、北京、上海、広州に、自らのスキルと公正さに誇りを持つ裁判官を擁する専門の知財裁判所を設立した。さらに政府は、特許権の行使を通じてイノベーションを進めるための政令を発布した。これらは利他的に行われたものではなく、むしろ、中国には今や守るべき強力な技術市場が存在するためである。実際、アリババ(阿里巴巴)やシャオミ(小米)、テンセント(騰訊)、ファーウェイ(華為)およびレノボ等、世界で最も革新的な会社のいくつかは中国に本拠地を置いている。中国は大陸法体系を持つが、裁判官は過去の判例を探し、これを尊重する傾向がある。

中国における特許訴訟の道筋のあらゆる段階において、規則は特許権者に有利に働く。例えば、被疑製品が売られている場所ならどこでも申立が認められるので、フォーラムショッピングが可能である。また、銀行口座、棚卸資産および文書について公判前の資産凍結が可能で、これは交渉において効力を発揮する。したがって、中国の特許訴訟は実際、特許被疑侵害者にとって恐るべき障害なのである。

強力な中国の権利行使制度の意味するもの

中国は国内のイノベーション促進に役立てるために強固な特許制度を構築してきたが、これは被告側にとって何を意味するだろうか? 特許不実施主体(NPE)や特許主張主体、パテントトロールはすでに中国にも存在し、簡単に実の取れる相手として外国企業を標的にする訴訟を提起し始めようとしている。しかし、サムスンに対するファーウェイのように、中国の事業会社も外国の事業会社を相手取って自社の特許権を行使し始めている。これに加え、最近のアップルを相手取ったバイリ(佰利)の権利行使訴訟で見られたように、残っている資産が特許しかない中国の破綻企業も外国の事業会社を提訴しつつある。最近では、メイズ(魅族)を相手取ったクアルコムのように、外国の事業会社が中国の事業会社を提訴することもある。

こうしたシナリオは、それぞれが異なるが重大な脅威を呈している。本稿ではこうした脅威のいくつかを検証し、これらに対応するための役に立つヒントを提供する。

現地化に米国式をプラスせよ

中国では特許訴訟の被告にとって優秀な弁護士を獲得することは必須であるが、外国人被告にとってこれは特に重要である。外国の訴訟当事者は一般に規則や慣習に疎いため、良い中国人弁護士を雇わなければならない。この場合の良い弁護士とは複数のことを意味する。第1に、民事訴訟と特許法をよく知っていなければならない。第2に、特にペースの速さや証拠開示手続きがないことを考えると、弁護に長けていなければならない。さらに、弁護士には第一審裁判所と控訴裁判所の両方に豊富な人脈がなければならない。また、有効性に対する異議申立が行われる特許再審査部とのやり取りにも熟練し、豊富な経験を有していなければならない。

ただ、こうした点において中国の事務所や弁護士がどれほど素晴らしくとも、欧米の弁護士も必要である。第1に、欧米の特許訴訟関係者は、大規模で複雑な特許訴訟についてずっと多くの経験がある。最近友人に言われたのは、近頃米国人が世界の他の地域の人々より上手くできることはあまりないが、特許訴訟にはまだ一日の長があるということであった。これには多くの真実が含まれている。近年の世界最大級の特許紛争は、主に米国が戦場となっていた。グラフィックスその他の説得ツールを使う能力は、米国の裁判所において十分に開発され吟味されてきた。中国人弁護士も欧米の弁護士と全く同様に知的である(多くの場合、より知的水準が高い)。しかし、非常に難解な技術的議論を取り上げ、専門家ではない裁判官に理解できるようにすることにおいては、同じレベルの経験や弁護スキルを持つに至ってはいない。

同様に重要なのは、中国の多くの事務所のサービス水準は、欧米の事務所と同じではないということである。欧米企業は、メールの返事を10日後ではなく5分以内に受信することに慣れている。さらに、たとえ妥当な時間内に返事を受け取ったとしても、中国の事務所から届くのは訊ねた具体的な質問に対する回答のみである可能性が高い。欧米のビジネス関係者であれば、弁護士が、単に訊かれた質問に答えるだけでなく、訊かれるべきだった質問も考えて回答し、起こりうるあらゆる偶発事象にも対応することが普通である。

正解は、良い中国人弁護士と欧米の管理弁護士の両方を雇うことである。最終的により良い結果が得られるだけでなく、英語を話すことができ、請求書も1枚で済む。

 

最重要点

もし貴社が中国で特許侵害の標的となっていたとしたら、悪い知らせがある。全ての(または少なくともほとんどの)規則は貴社に不利である。これは米国における特許訴訟の現状とはかなり異なっている。マイケル・ジョーダンがバスケットボール選手としてその頂点にあった頃、アナウンサーの多くが「彼を止めることはできない。望めるとしたら抑制することだけだ」と叫んでいたものだが、これは、彼の得点を防ぐことを相手チームは期待することはできず、動きを鈍らせることを望むのがせいぜいだという意味であった。中国で特許事件を防御することは、ジョーダン相手にバスケットボールをするようなものだ。とは言っても、相手の動きを鈍らせ抑制する方法はある。そのうちのいくつかは常識であるはずだが、ちょっとした水平思考を必要とするものもある。

被告側にとって最大の課題は特許訴訟が進行していくペースである。中国の特許訴訟では、原告側は十分に準備を整えられる一方、被告側は時間の点で不利である。事件の複雑性や裁判地、また当該裁判所が係争中の事件をいくつ持っているかにもよるが、当事者は提訴後6ヶ月から14ヶ月で公判まで進むと予想できる。特許権者は提訴時点であらゆる点について公判のための準備が十分できているはずだが、被告側は常に巻き返しを図ることになる。米国国際貿易委員会(ITC)での訴訟をよく知っていれば、どんなことに直面するかの想像がつくであろう。

従来型の防御

米国やその他のどの地域でも同じであるが、非侵害が中国での特許訴訟の防御である。非侵害を証明する要件は他の法域の場合と同様だが、ただし、事実および法のいずれも審判者は裁判官である。さらに、中国では特許消尽の法理がまだ健在である。

以前は複数の裁判官による審判団を利用する裁判所もあったが、現在では、裁判所は非常に忙しいため、ほとんどの事件は1名のそれも多くの場合は技術的バックグラウンドを有していない裁判官 が審理をする。ただし、これは知財裁判所の導入で変わりつつある。さらに、技術的に高度な事件の裁判官は、裁判所が雇う技術アドバイザーの支援を仰ぐことができる。したがって、中国の特許事件の審理や公判は、多くの点において、他の地域での裁判官裁判のようなものである。

先行技術やその他の無効訴訟は裁判の一環ではない。有効性に関する異議の申立はSIPOが審理するが、このプロセスについては後ほど本稿の中で論じる。

重要なのは、先使用は訴訟において侵害の申立を退けるために利用できる防御であるものの、先使用の防御は、特許出願前に製造された同一製品が次の場合には侵害とはみなされないことを陳述するという点である。

  • その使用のために必要な準備が既に行われていること、ならびに
  • 当初の範囲内においてのみ製造および使用が継続されること。

これは、当該特許を無効とするのではなく、侵害を退けるために考案されているものである。

動きを遅らせる

特許の侵害で告訴された場合、最初にすべきことは事態の動きを遅らせようと試みることである。これを実現する方法はいくつかある。まず、訴状への回答を提出する前に、被告は裁判管轄権に対する異議を申し立てるべきである。この戦術は滅多に成功しない ― 特許権者は侵害品が販売または使用されているあらゆる場所(即ち製品の納品が可能なあらゆる場所)で提訴できるからである ― しかし、これによって訴訟を1、2ヶ月保留することができる。また、この決定を上級裁判所に控訴することもできるが、根拠のない訴訟で裁判所を苛立たせることのないよう注意しなければならない。裁判管轄権に異議を申し立てるのは、何らかの証拠が交わされる前の初期段階で訴訟を遅らせ、有利なスタートを切っている原告との差を被告が縮めることができるようにする第1の方法である。米国の訴訟とは違い、被告に訴状への回答のために新たに時間を与える手続きはない。

中国の特許訴訟の特徴

  • 高い勝訴率(75%~95%)。
  • 外国人原告の方が中国人原告より勝訴率が高い(ただし下調べをしておかなければならない)。
  • 差止命令が実質的に保証されている(99%)。
  • 提訴から裁判・判決までが短期間(6~14ヶ月)。
  • 証拠開示手続きが少ない。
  • 有効性に関する異議申立は判決(および差止命令)後まで完了しないことが多い。
  • 販売および製造に関して支配的な中国市場(販売は多くのエレクトロニクス製品について世界最大。製造は世界最大)。
  • 自らのスキルや公正性に誇りを持つ専門の知財裁判所と裁判官(NPEに対する差別がない)。
  • 大陸法体系ではあるが、裁判官は先例を探し、これを尊重する。
  • 政府は、裁判所が公正であり、強力な執行制度を創設することを求めてきた。
  • フォーラムショッピングが可能。
  • 公判前の資産凍結が可能 ― 銀行口座や棚卸資産の凍結は役に立つ交渉戦術である。
  • 輸出予定の商品を税関で阻止するシステムがよく整備されている。

訴訟ペースを落とすもう一つの方法は、プロセス全体を通して調停を求めるというものだ。調停は、中国において最も奨励され、受け入れられている代替の紛争解決法である。このプロセスは任意であり拘束力を持たないが、合意に達した場合、これは契約により執行することができる。さらに、調停の結果(または陳述書)は、裁判所の承認を得た後、裁判所の判決と同じように執行することができる。SIPOの特許行政部門も調停を行うことができるが、SIPOの一部であり、基本的に政府機関であるため、完全に中立ではない。

図1. 中国の特許訴訟の時間軸

被告が調停を求める際の第1の理由は、両当事者が受け入れ可能な妥協点に達する可能性にある。第2には、特許権者から、当該訴訟および同者が何を欲しているか(これはほぼ常に金銭である)について被告がより多くの情報を得られることがある。最後に、中国の裁判所は、米国の裁判官よりも調停での解決に積極的であるという背景が挙げられる。その理由の一つは、係争中の事件の数の多さである。2015年、中国では11,000件を超える特許訴訟が提起され、そのほとんどが主要都市に集中していた。裁判所は当事者に合理的に対応することを望んでおり、大抵、調停を経るよう強要する。被告としては、あらゆる機会を捉え、裁判所に調停のための時間をもらえるよう要請すべきである。そうすれば訴訟のペースは遅くなる。もっともこれはほんの少しに過ぎないが、追加の時間をうまく使える可能性が出てくる。

最後に、特許訴訟が実用新案や意匠特許に関するもので、被告が所定の期間内に無効化要求を申請した場合、裁判所は通常、有効性に関する異議申立が係争中の間、訴訟を延期する。稀ではあるが、場合によっては、裁判所は発明特許(アメリカにおいて実用特許と呼ばれるもの)に関わるケースで訴訟を延期することもある。いずれにせよ、延期を求めることに損はない。また、無効訴訟は、問題の特許の保護範囲を狭めるのに役立つ場合もある。

出訴期限が有効に使える場合もある。中国において、侵害訴訟は、特許権者が侵害を知ったかまたは知るべきだった日から2年以内に提起されなければならない。出訴期限満了後も原告は訴訟を開始できるが、裁判所は請求を執行しないであろう。

唯一の例外は、訴訟の提起時点において侵害がまだ継続している場合である。そうした場合、裁判所は、当該特許の有効期間中、特許侵害をやめるよう被告に命令し、請求の申立があった日から逆算して2年の期間について、侵害の結果被った損害の額が計算される。

特許権者がいつ侵害を知ったか、または知るべきだったかを証明するのは、特に証拠開示手続きの恩恵が受けられないため、通常かなり困難である。しかし、試す価値はあるであろうし、最悪のケースでも、少なくとも訴訟の動きを遅らせることはできるかもしれない。

図2. 中国における第一審特許訴訟の提訴(2009~2015年)

出典:CIELA

図3. 裁判管轄ごとの勝訴率および賠償額の中央値

応戦

原告が事業会社である場合、被告は対抗訴訟で反撃することができる。一般に、たとえ要求があっても、そうした訴訟が原告の訴訟の一部として加えられたり、または同時に審理されたりすることはない。このことを踏まえると、当初の原告を相手取り、別のより有利な法域で被告が特許訴訟を起こすことも方法として考えられる。

訴訟を提起したのが事業会社であれNPEであれ、事実関係が許せば、不正競争訴訟を提起する価値があるかもしれない。原告が訴訟前、訴訟中または訴訟後に被告の顧客に不当に影響を与える可能性のある誤解を招くような発言をするか、または自社の特許が無効であると知りながら侵害訴訟を開始した場合、被告は、そうした訴訟を有利な裁判地で提起することで、相手方に対し特許の申立を取り下げ、またはもっと少額で和解するよう圧力をかけることができるかもしれない。

表1. 中国の裁判所における特許訴訟 - 勝訴率および損害賠償裁定額

 

勝訴率

裁定額中央値(人民元)

北京市

76%

43,000

河北省

84%

17,500

山東省

87%

20,574

江蘇省

84%

19,000

浙江省

80%

50,000

上海市

67%

50,000

広東省

84%

30,000

重慶市

71%

20,000

河南省

78%

20,000

湖南省

87%

20,000

さらに、ある団体が特許権を得て独占力を悪用していると中国の独占禁止当局を納得させることができれば、政府は独占禁止法違反の捜査を開始するかもしれない。特に、特許権の行使が競争を排除または制限していると考えられる場合、特許権者は2007年独占禁止法に違反している恐れがある。そうした捜査は、あらゆる訴訟を延期する可能性があるのに加え、外国企業にとっては悪い知らせでもある。私の前の雇い主のクアルコムは、独占禁止法違反捜査を軽傷で逃れたと言われているが、9億7,500万ドルの罰金を支払い、中国企業から受け取っていた特許ライセンス料を大幅に制限せざるを得なくなった。NPEは、主張されている特許を実施していないため、不正競争の申立と独占禁止法違反の申立の両方に特に弱い。中国国内のNPEにとって現在の環境は良好で、そうした組織に「トロール(荒らし)」とレッテルを張ろうとする公然な取り組みは勢いづいていないが、NPEを反競争的だとして中傷する試みは、特にNPEが友好的な態度(中国の大学に科学や技術、エンジニアリング、数学を専攻する学生のための奨学金を設ける、中国国内においてイノベーションのためのインキュベーターを創設し資金提供する、または中国での訴訟から得た利益のごく一部を大学や技術インキュベーターもしくは前途有望な学生に寄付だけでもする等)を示さない場合、将来的に成功する可能性がある。賢明で忍耐強いNPEなら、先手を打って反競争的という議論を回避することもできるが、全てのNPEが賢明で忍耐強いわけではない。

場合によっては、中国の特許訴訟の被告にとって、別の国で報復的な特許訴訟を提起することに意味があるかもしれない。現在のところ中国ほど広範な影響力を与えることのできる国はないが、これは中国の特許権者の状況によって異なると考えられる。例えば、特定市場への参入に関心を持つ会社であれば、中国訴訟の被告にとってはそうした市場に対応する法域において特許訴訟を提起することが重要となるであろう。元の原告が米国で製品を販売するか製品の販売を計画する中国企業であれば、ITCへの提訴が効果的な戦略となる可能性がある。同様に、当該企業がドイツで多数の被疑デバイスを販売していれば、ドイツの裁判所への提訴が有益かもしれない。

残念ながら、これはNPEの原告に対しては可能ではない。また、多くの法域において訴訟の時間軸が中国よりもかなり長いため、和解のための影響力は弱まってしまう。それでも、世界は様々な市場が互いに関連しあう小さな場所になりつつあることからも、世界的な訴訟劇は常に検討すべきである。

確認判決の選択肢

米国法と同様、中国法では、侵害訴訟を受ける恐れのある当事者が非侵害を証明するために先制訴訟を起こすことを認めている。この手続きは中国では滅多に使われないが、これは主として、通常、そうした確認訴訟を起こす前に求められる前提措置があるためである。

非侵害の確認宣言について明確な規則を定めた特定の法律や規則はない。しかし、最高人民法院は、このテーマに関する指針および司法解釈を発行しており、確認宣言を得るための訴訟を起こす前に、通常、以下の条件が満たされなければならないと規定している。

  • 特許権者から被疑侵害者に対し警告状が送付されていること。
  • 被疑侵害者が特許権者に書状を送付し、その中で被疑侵害者は侵害を否定し、特許権者に対し訴権の行使を促していること。
  • 特許権者がこの書状の受取後1ヶ月以内(または被疑侵害者が特許権者に宛てて返書を投函した日から2ヶ月以内)に警告を取り下げておらず、または訴訟を開始していること。

米国法の場合とは異なり、このことは実際上、警告状の送付後に訴訟を提起するための時間を特許権者に与える。この法律分野は、今後数年にわたって進化する可能性が高いが、今のところ、特許権者による戦術ミスがない限り、確認判決を被疑者が利用することは難しい状況にある。

有効性に関する異議申立

中国の制度では、特許侵害の第一審裁判所は、特許の有効性を直接評価し判断する権限を有していない。有効性は、特許再審査部での別個の追加手続きによって確認される。当該技術の複雑さに応じて、再審査部は6ヶ月から24ヶ月の間に決定を下すが、複雑なエレクトロニクスやスマートフォンに関わるケースでは、この期間の範囲のうちでも長くなりがちである。当事者がこの決定に納得できない場合、いずれの当事者も、決定の通知を受け取ってから3ヶ月以内に、北京の知財裁判所において再審査部を相手取った訴訟を開始することができる。その後、いずれの当事者も、さらに北京高級人民法院に上訴することも可能である。

表2. 民事特許訴訟 2006年~2014年(第一審)

 

合計訴訟数

勝訴率

平均賠償裁定額(人民元)

外国企業 対 中国企業

629

45%

180,800.9

中国企業 対 中国企業

6094

63%

93,672.7

出典:CIELA

特許の無効化に成功すれば、原告の特許訴訟は終了となる(ただし、一旦民事裁判所から差止命令が出されていれば遡及力はない。差止命令は解除されるが、それまでに生じた被害はどんなものであれ対処できない)。発明特許については、被告が訴えられた後直ちに特許無効化を求める申し立てをしたとしても、当該特許が無効と宣言される可能性が高いことを示す明らかな証拠がない限り、裁判所は一般に侵害訴訟を延期しない。

特許再審査部に特許の無効化を請求するもう一つの利点は、 無効訴訟によって被疑侵害者が得る影響力で、被疑侵害者は、原告に訴訟の撤回を強いたり有利な和解に至ったりすることができる。中国の特許法実施規則の規則第71条によると、無効訴訟の請求者は、再審査部が有効性に関する決定を下す前であれば、請求を取り下げることができる。そうした場合、無効訴訟は打ち切られる。結果的に、問題の特許の無効化を要求することで、被疑侵害者は、両当事者が訴訟の和解を試みる際の交渉の場において優位に立てる可能性がある。

侵害回避設計

製造、販売および中国からの輸出に対する差止命令はおそらく世界で最も強力な特許ツールであるが、そうした禁止は侵害製品や侵害方法にしか適用されないという事実は残る。被告が再設計製品や方法を生み出して実施することができれば、もはやいかなる差止命令も適用されない。これを6ヶ月から14ヶ月という特許訴訟の時間枠の中で行うのは難しいことではあるが、たとえ部分的な回避設計であっても、特許権者に相当なプレッシャーをかけることはできる。訴訟の目的は、特に特許権者がNPEの場合、差止命令自体ではない。差止命令は多額の和解金を得る手段である。誰かを倒産させることに関心を持つNPEなどいない。そんなことをしても報酬は得られないからだ。さらに、当事者、特に重要な、あるいは人気のある中国の被告企業を製品ライン中断の危機にさらすなどは、それがたとえ短期間であっても、政治的観点からも危険なことである。

NPE(および一般的な事業会社の原告)が欲しいのは和解による金銭である。したがって、被告が再設計された非侵害製品に移行することができるように見えるだけでも、特許権者にとっては被告の製品やプロセスが変更されること以外にその訴訟の見返りが何も得られないというリスクが高まるであろう。多くの場合、これは先に降参した当事者が敗者となる一か八かのチキンレースである。ただし、原告は手ぶらで帰るリスクがあるだけであるが、被告のリスクはこれよりずっと大きい。つまり被告側で、差止命令が出される時までに回避設計が準備できなければ、被告の製造チェーンが数週間中断することになりかねず、それだけでも事業の破綻へと至りかねない。たとえ被告が問題の製品を生産しなくても生き延びることができたとしても、公開会社の場合株価が暴落するかもしれない。こうしたリスクゲームは中国において原告に有利に働く特許訴訟の多くの側面の一つに過ぎない。

透明であれ

このアドバイスは、特許権者と被疑侵害者の両方に当てはまる。裁判所に対し、また場合によっては中国の国民やメディアに対して透明であれという意味である。相手側が理不尽なことを証明できる場合は、提示する側が受け入れ可能な公の提示(和解案の繰り返しではなく、初めての提示)を行うことが理に適う可能性がある。例えば、原告がスマートフォンの原価の5%に当たるロイヤルティを要求しており、同様のライセンス(特に訴訟対象の特許に対するもの)は全てこれよりずっと低い(1%未満等)場合、裁判所に対し、答弁や審理の中で、公正な1%の使用料を支払う用意があるが、それ以上は不公正であると公表する。こうすれば特許権者は理不尽に見えるし、不正競争や独占禁止法違反を主張する訴因ができるのに加え、裁判所の怒りを相手方に向けることになる。

しかし、これは特許権者にとっても有効であることに留意すべきである。例えば、両当事者はすでに長期間にわたってライセンス供与の協議を行っており、特許権者は以前、当該特許について複数の当事者へのライセンス供与に成功していて、そうした者らは5%以上を支払っているというシナリオを考えてみるとよい。ところが、この訴訟の被告は一貫して1%までしか支払わないと主張している。被告に対して2%から4%の間を公に提示すれば、特許権者は公正であり、被疑侵害者が理不尽であるとして、裁判所の支持は特許権者に向かう可能性が高いであろう。

行政措置 対 民事訴訟

中国と友人になれ

中国のあらゆる外国企業にとってのもっとも守るべきルールは、中国と友人になるということである。これは中国政府の様々なメンバーが繰り返し唱える主張である。これが意味するものは状況によって様々であろうが、中国で長期的に成功するには、この助言を守ることが必要である。

被告は、特許侵害で訴えられるような状況になる前に、まず中国の友人となる準備をすべきである。そうした有利な立場にあれば訴訟において有益であることはもちろん、ビジネスの他のほぼあらゆる局面においても役立つことは確かであろう。中国において、関係性は、企業を含むあらゆる者にとって重要である。中国の企業や機関、政府関係者との間によき友情関係を持つことは必須である。これは何らかの形の汚職や見返り、その他の悪行を奨励するということではない。むしろ、これは単に友人になろう、という常識を示している。友人であればよい助言や推薦をくれるし、必要な時には貴方や貴方の会社について保証もしてくれるであろう。外国企業は中国やその人々、企業、政府との間に強いつながりを構築すべきであり、単に短期間に国内で金を手に入れ、すぐに去っていく存在ではないことを示すべきである。中国とその驚くべき資源に投資するのである。それは正しいことであるし、長期的には貴方の役にも立つ可能性が高い。その上、貴方は確実に中国の真の友人への道を歩むことになるであろう。

もちろん、中国での訴訟において、外国人原告は、自社の中国および中国経済への貢献は、単に労働者を雇用していることだけではないことをはっきりと指摘すべきである。しかし、これに加え、外国人原告は、特許権者を中国の友人ではないものとして対峙するよう試みるべきである。これは、特許権者側に時間、金銭および戦略という点で中国へのコミットメントに欠けていると指摘することで実行可能である。これはもちろん、原告が中国の事業体である場合は問題である。しかし原告が外国人である場合、その過去に深く切り込むべきである。中国の税金は払っているか?中国人を雇用しているか?技術やイノベーションに関して高次戦略またはその他の支援を中国に提供しているか?中国には来たばかりか?恩恵を還元しているか?原告の中国国内での営業やその裁判所の利用を認めることに対する中国側の投資メリットは何か?

また、長期的な視野も重要である。原告の独占状態が許されている場合は、これが中国や中国企業および中国国民にとっていかに害になるかを裁判所、またできればPRキャンペーンを通じて中国メディアに説明する必要がある。これはフェアゲームであり、できるだけ頻繁に裁判所やメディアに対し繰り返し行われるべきである。

さらに、外国人被告は、関係を構築し、原告に圧力をかけるためにその全てを利用すべきである。これは、原告が事業会社である場合の方が容易である。例えば、差止命令が中国の国有企業に悪影響を及ぼす場合は、そうした企業の支援を得ることである。原告が勝訴した場合は、これに基づいて損失を被るであろう主要民間企業のサポートも得るべきである。

ただし、原告も同じことをしようとする可能性があることも知っておく必要がある。例えば、被告がA社のサプライヤーで、市場に代わりとなるサプライヤーが複数ある場合、原告は、A社と被告の間の取引関係に亀裂を生じさせることで、A社が新たなサプライヤーを探す可能性を利用しようとするかもしれない。創造力と常識をうまく使うことによって、原告と被告の両方を利するレバレッジを生み出す能力を制御することができる。

特許法第60条では、特許紛争が生じた場合、当事者は民事訴訟または行政訴訟を提起できると規定している。中国では、特許権者は、SIPOを通じて侵害者に対する行政措置を開始することができる。一般に、侵害者の施設に最も近いSIPO事務所が管轄権を有する。

民事訴訟と比較した場合の行政措置の主なメリットは次の通りである。

  • 低コストである。
  • 迅速である。
  • 行政部門は裁判所よりも少ない証拠で行動する可能性があり、また裁判所では認められない証拠が受け入れられることもある。

一方で、行政措置の主なデメリットは次の通りである。

  • 金銭賠償が認められない。
  • 関係行政部門は事件を引き受けるか否かについて裁量権を持ち、単純な法律解釈以上のものが求められる事案は引き受けたがらない。
  • 結果は人民法院に控訴することができるため、事件はいずれにしても裁判所行きとなることが多い。

中国の特許訴訟では、情勢は被告に不利であるものの、成功のチャンスを最大化するために講じることのできる対策はある。ジョーダンを打ち負かすことはできないかもしれないが、50点差で負けることもないのである。

行動計画

中国は特許の原告に強力な救済手段を提供しているが、有効な防御は可能である。そのためのアドバイスには以下のようなものがある。

  • 動きを遅らせる ― 米国の場合と異なり、被告は訴状に回答するための追加時間を与えられない。しかし、訴訟を延期し、交渉のための時間を生み出すために様々な戦術を使うことはできる。
  • 有効性に異議を申し立てる ― 特許再審査部の決定を待つ間訴訟は延期されないが、有効性に関する異議申立を交渉の切り札に使うことはできる。
  • 中国国内で反撃する ― 原告に有利な状況を考えると、これは相手方に圧力をかける最良の方法の一つである。
  • 独占禁止法違反ルートを検討する ― 中国の競争法取締機関は勘定に入れるべき勢力であり、特許不実施主体は特にこの戦術に弱い。
  • 中国と友人になれ ―この至上命令はつまり、 相手方のための差止命令が中国企業や消費者にいかに害を及ぼすかを示そうとすべきだということである。
エリック・ロビンソンは、中国・北京のラウズ・アジア太平洋の主任特許弁護士である。


免責事項

これらの意見や陳述は出版時点における著者自身のものであり、著者の事務所やその顧客との間で精査しておらず、また必ずしも事務所やその弁護士またはその顧客のいずれかの立場を代表するものではない。本稿のいかなる部分も法律上の助言であることを意図しておらず、弁護士‐依頼人の関係を形成するものでもない。

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