中国は買いの季節
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中国企業は、新たな領域に照準を定め、特許買取活動を加速させている。この市場の特異性に正面から向き合うことのできる売り手企業や仲介業者にとって、チャンスは豊富に存在する。
中国のブランドに対する欲求は飽くことを知らない。この国のどの都市の高級ショッピングモールを訪れてみても、この真実は見て明らかである。広々とした一等地に立つ店舗と商品棚にはガルニエからグッチ、シャネルからシーバスリーガルといった世界的に有名なブランド品専用のスペースが設けられている。中国経済が次第に開放されるにつれて中流階級が育ち、最高級ブランドの買物はすぐに国民的娯楽となった。可処分所得のある消費者にとって、(本物であろうと、大抵そうであるように偽物と判明しようと)必要な血統書がついてない製品やサービスではダメなのだ。
同じことが特許についても言えるようである。
過去数年間の入手可能な譲渡記録と、企業のプレスリリースを見ていただきたい。傾向は明らかである。中国企業が第三者の特許を買い取る頻度や数量は増しており、買取の対象相手は世界でも最も認知度の高いハイテク企業数社である。
ある1つの取引が画期的な出来事として際立っているが、その主な2つの理由は、買い手企業の高い知名度と事業戦略に対するその取引の重要性である。このブレークスルーが起きたのは、2015年10月、中国スタートアップシーンの寵児であるシャオミ(小米)が、米国・シンガポールの半導体大手ブロードコムから特許パッケージを取得した時である。
携帯機器メーカーである小米は、世界的に認知されている数少ない中国企業の一つである。この業界に従事する者なら誰でも、北京に本社を置くこの会社の華々しい成功に気づかずにはいられなかっただろう。同社は2010年に設立され、わずか4年後には460億ドルの評価額を得て、(今年ウーバーの510億ドルに首位を奪われるまで)世界で最高評価額の新興企業となった。
差し迫った必要性
創業して間もない期間にこれほど急速に成長する会社には、その勢いを維持し、新市場であれ新製品であれ、またはその両方であれ、更なる拡大のためのチャンスを見極める特に差し迫った必要性がある。専門家は、特許保護という点での小米の手薄さに注目しており、かねてから、同社が中国国外の法域への参入を可能にするためには、知財取引に乗り出す必要があるだろうと指摘していた。「特許の買取は、特許ポートフォリオの強化を目指す中国企業にとって、手っ取り早い解決策となる」と言うのは、フォックスコンやその他数々の中国および台湾企業のために特許の収益化を行っている、台北に本社を置くMiiCsの上級副社長、ロジャー・トゥーである。「事業の発展により有用な特許ポートフォリオが必要になると、企業はこれに応じて買取活動を加速させる」。アメリカ、ヨーロッパおよびインドといった主要市場において特許の保護がないと、まず間違いなく競合他社や特許不実施主体からの攻撃を招く。小米はポートフォリオの有機的成長を目指して賞賛すべき努力を行っていたものの、高品質で実績のある特許を外部から購入することは、経営上の自由を得るための最速のルートとなるのだった。
図1. 2016年に中国の対外M&Aの対象となった資産の種類(公表された取引に占める割合)

ブロードコムの譲渡は、小米のこの方向性の中で行われた最初のステップとなった。この後すぐ、さらに大きな特許購入 ― 特にインテルからの332件の米国特許資産を含むポートフォリオや、より広範なライセンスおよび提携の取り決めの一環として行われたマイクロソフトからの1,500件の特許の購入が続いた。モバイル・チャイナ・アライアンスのワン・ヤンフイの書いたブログ投稿メッセージでは、執筆時に確認はされていないものの、小米はこうした資産に4000万ドルを支払ったと主張している。インテルの特許購入について小米に助言を行った香港のスキャデン・アープスの弁護士で、サンディスクの元最高法務責任者兼ライセンシング部長のジム・ブレルズフォードは、「我々はついに、中国企業の知財における洗練性が世界的観点で向上しているのを目にしている」と言う。「中国市場の枠を越えて事業を展開するとき、多くの企業は、中国国外でポートフォリオを構築することを重視してこなかったためいろいろと問題が生じる可能性について心配しており、増強の必要性を感じている。こうした中国の買い手企業は、主として中国以外の特許を探している」
エルヴィル・コウセビヴィックは、前述の小米への特許売却に関してブロードコムの代理を務めた特許アドバイザー会社、ブラックストーンIPのCEOである。同取引の署名時、彼は、中国企業の洗練性が増すのを見て「わくわくしている」と述べた。「第一に、このことは、米特許市場に大いに必要とされている流動性をもたらし、他の買い手に対して行動への圧力をかける。第二に、このことは中国企業の世界進出のための可能性や能力を高めており、我々は、新規市場参入者を迎えるのを嬉しく思っている。中国の買い手企業からの関心は間違いなく高まっている。我々が留意したい最も重要なことは、取引の複雑性、非常に高品質な資産を確認する能力、高度な交渉戦略、意義ある取引をまとめる能力等、中国の買い手企業の洗練度の変化の速度だ」
小米は、最近の一連の中国企業による特許買取のうちでもおそらく最も注目された案件の当事者だが、こうした戦略を推し進める中国唯一のハイテク企業では決してない。2015年12月、北京に本社を置く光電子工学企業のBOEは、ゼネラル・エレクトリックから、LED技術に関する数百件の米国特許資産を取得した。その前年、同社は、425件の米国特許を含むポートフォリオをセイコーエプソンから、また、取得数は少ないが、別の著名な日本企業であるカシオから6件の特許パッケージを購入しており、これらは全てディスプレイ技術に関係するものであった。
特許市場を活用してきたその他の主要中国企業には、2014年の米国での新規株式公開(IPO)への準備期間に買取を急増させたアリババや、毎年世界中で膨大な数の出願を行うかたわら、定期的に第三者特許を購入してきたファーウェイが挙げられる。ファーウェイと小米の主要な競合相手であるレノボも、日本のNECや現在休眠中のNPEであるアンワイヤード・プラネットからの特許買取を含め、数々の見出しを飾るような特許買取を行っている。
表1は、近年行われた上位中国法人による主要な特許買取のいくつかの内訳を示している。しかし、中国の現場で働く特許ブローカーやその他の仲介業者に話を聞くと、買取を目指しているのは世界的に認識されている一握りの有名企業だけではないというのが一致した意見である。「ファーウェイやZTE、小米、アリババは誰でも知っている。」と、上海に本社を置くブローカー、睿智創業(ルイ・ジ・ベンチャーズ)の業務執行社員であるグスタボ・アレイは言う。「小米は、今や着々と歩みを進め、かなり大きなポートフォリオを形成しつつある。ファーウェイとZTEは、既にその域に達している。しかし一方で、より切実に特許の保護を必要とし、買い手としての存在感を増しつつあるあまり知られていない第2の企業群もある。こうした企業は、中国市場の安全領域から外へと踏み出すとき、状況の厳しさを目の当たりにしている」
図2. 少なくとも1当事者が中華圏に属する米国特許訴訟(2000年~2013年)


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中国 |
香港 |
台湾 |
決定的判決* |
56 |
19 |
94 |
特許権所有者としての勝率** |
0% |
60% |
24% |
被疑侵害者としての勝率 |
31% |
50% |
71% |
勝率(全体) |
29% |
53% |
63% |
*欠席判決、却下に関する争い、略式判決、非陪審または陪審裁判、および法律問題としての判決が含まれる。 **訴訟件数が少なく誤差が大きい。
チームプレイ
こうした状況は、なぜ今なのか?という疑問を提起する。中国のハイテク企業が海外に進出してしばらくたつが、外国で発行された特許の大規模な買取を我々が目にするようになったのはここ2年ほどのことに過ぎない。
主な理由の1つは、中国国外で知財紛争の辛苦艱難にさらされたこと(図2参照)であるとアレイは言う。「何が起きたかというと、こうした人々の一部が、海外で、欧米のテレコム企業やエレクトロニクス事業会社や特にNPEに訴えられ、その結果、特許の潜在的な価値を認め始めているということだ」
特許取引を担当する社内チームの成熟もこうした洗練化に貢献したと同氏は付け加える。「ファーウェイとZTEには既に一流のチームがありましたが、新興各社も自社の知財機能を積み上げ、または構築し、その執行能力に非常に自信を持つに至った」
ブレルズフォードもこれに同意する。「これら中国企業に拍車をかけているのが、より多くの企業が欧米で訓練された知財の専門家や、少なくともそうした知財市場に触れた経験のある者を迎え入れるようになっていることだ」
ここでも小米が適切な見本である。今年初め、同社は、特許コンサルティング会社、ジグ(智谷)を吸収合併した。智谷は既に小米のために知財取引を取り扱った実績があり、国から一部出資を受けている特許買取ファンドを少なくとも1つ運営している会社である。インテレクチュアル・ベンチャーズやマイクロソフトの知財ライセンス部門の元社員であった智谷の社長の(ポール)リン・ペングが、小米の知的財産担当副社長となった。同社はまた、BOEのかつての知財管理部門長で前述した同社の買収案件を監督したビン・サンを、知財訴訟担当役員として雇い入れた。ビンおよびリンは両者とも戦略的協力担当上級副社長のワン・シャンに直属するが、シャン自身もクアルコムの中国事業の元トップで、2015年7月にこの主要ライセンサー会社から引き抜かれたのだった。ブロードコムの特許売却後のIAMとのインタビューで、「プロセスを通じて、我々は、互いの利益となる結果にたどり着くためにポール・リンと智谷のチームが示した専門性や勤勉さ、創造性に一貫して感銘を受けた」とブラックストーンIPの上級業務執行社員エド・フィッシュは語った。「これは、我々が昨年目にした、世界的な知財リーダーとして台頭してきた中国企業が示した特許市場へのさらに洗練されたアプローチへのシフトと並行するものだ」
その他の成長著しい中国企業も同様の動きを見せている。今年6月、モノのインターネット(IoT)の新興企業である楽視(LeEco)は、グーグルでアンドロイド関連の特許戦略部門を率い、同社によるモトローラ・モビリティの買収およびその後の楽視の同国企業であるレノボへの売却において主要な役割を果たした上級知財弁護士、ジョシュア・マクガイヤーの引き抜きを公表した。
表1. 中国の買い手企業による特許取引の抜粋(2012年~現在)
出典:米国特許商標庁
買い手 |
売り手 |
売り手の出身国 |
日付 |
詳細 |
シャオミ (小米) |
マイクロソフト |
米国 |
2016年6月 (公表) |
特許ライセンスおよびソフトウェア契約と並行して約1,500件の特許が譲渡される。 事例報告ではこの特許取引を4000万ドルと見積もっている。 |
インテル |
米国 |
2016年2月 |
エレクトロニクス、ソフトウェアおよび電気通信に関連する少なくとも332件の米国特許資産を含む譲渡で、その一部はもともと米国の半導体メーカー、LSIに譲渡されたものである。 |
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ブロードコム |
シンガポール/ 米国 |
2015年10月 |
もともと日本のルネサス・エレクトロニクスが所有していた32件の米国特許資産の譲渡。 |
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アリババ (阿里巴巴) |
インテル |
米国 |
2016年4月 |
7件のソフトウェア関連米国資産 |
ヤフー |
米国 |
2013年10月 |
アリババは、規制当局への報告において、2013年にヤフーに対し特許代金として7000万ドルを支払ったことを開示した。これらは、2013年10月のエネジェティック・パワー・インベストメントへの30件の米国資産の譲渡として記録されたようである。 |
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IBM |
米国 |
2013年9月 |
22件の電子商取引関連米国資産を含む。 |
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BOE |
ゼネラル・ エレクトリック |
米国 |
2015年12月 |
主にLED技術に関連する少なくとも131件の米国資産 |
カシオ |
日本 |
2015年2月 |
様々なディスプレイ技術に関する6件の米国資産を含むポートフォリオ |
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セイコー エプソン |
日本 |
2014年11月 |
LCD技術に関連する425件の米国資産を含むポートフォリオ |
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ファーウェイ |
ヤフー |
米国 |
2016年1月 |
デジタルメディア再生およびストレージに関連する29件の米国資産を含む。ヤフーは以前、2014年5月に、ファーウェイに対しインターネット電話技術に関する2件の米国特許を譲渡している。 |
Hoya |
日本 |
2015年9月 |
24件の光学関連の米国資産を含む。 |
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NCR |
米国 |
2013年6月 |
ソフトウェアおよび無線ネットワーク構築に関連する14件の米国資産を含む。 |
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シャープ |
日本 |
2013年5月 |
電気通信に関する84件の米国資産を含む。シャープは、2015年10月と12月に、ファーウェイに対し追加の譲渡を行っている。 |
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IBM |
米国 |
2012年12月 |
16件の米国資産を含む。IBMは、2013年7月、2014年8月および2014年11月にそれぞれ様々な技術をカバーする追加の譲渡を行っている。 |
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シーメンス |
ドイツ |
2012年9月 |
電気通信に関連する7件の米国資産 |
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TCL |
三菱電機 |
日本 |
2015年4月 |
移動体通信技術に関連する31件の米国資産を含む。 |
三安光電 |
シャープ |
日本 |
2014年9月 |
半導体製造に関連する44件の米国資産を含む。 |
レノボ |
NEC |
日本 |
2014年4月 (公表) |
3G、LTEおよび様々な無線装置の特性に関する3,800件を超えるパテントファミリー。NECは、2014年3月以降レノボに対し複数の譲渡を行っており、いちばん最近のものは2015年6月に行った16件の米国資産の譲渡である。 |
アンワイヤード・プラネット |
米国 |
2014年3月 (公表) |
レノボは、アンワイヤード・プラネットの特許ポートフォリオに対するライセンスに並行して、3G、LTEおよびその他の携帯通信技術に関する21のパテントファミリーに対し1億ドルを支払った。 |
後から来るご褒美
とは言うものの、中国企業の最高幹部らが、質のいい特許を取得するためには大金を払う必要があり、同様に、取引を実行できる人に投資する必要があることを認識するにはある程度の時間がかかった、とブレルズフォードは述べる。「中国企業がこの種のことに気付くにはしばらくかかることが多い。結局のところ、これはコストを増加させるし、深圳にいようがシリコンバレーにいようが、新たなコストの追加を望む人は誰もいない」と彼は言う。特に中国の携帯機器メーカーにとっては、国内市場が北米やヨーロッパの市場よりもさらに薄利となっていることから、この考え方を変えるのはさらに一層困難となる。「経営チームを真に目覚めさせるには時には事件が必要で、そうすると彼らは動き出し、知財戦略というのが、普通の企業幹部があまり経験してこなかった領域であることを実感する」
ブレルズフォードの見通しでは、こうした新興勢力の中国ハイテク企業は、多くの野心的な知財専門家にとって、ほとんど抗し難い誘いとなるだろう。「人々はこうした会社のチャンスやその背景にある偉大な物語に引き付けられる」と彼は言う。「例えば、小米はほんの数年前に創業したが、数十億ドルに及ぶ公表収益がある。彼らが達成しようとしていることにはワクワクするような興奮がある。スマートフォンは今も彼らのビジネスの大きな部分を占めるものの、彼らはこれを遥かに超えることをしている。彼らは株式公開前だが、このことは新たな人材にとって、ストックオプションという観点から理論的にメリットがあることを意味する」。さらに、彼らは会社に入ってその知財戦略を最初から定義する機会にも恵まれることになる、と同氏は続ける。「彼らは、テーブルをはさんでエリクソンやクアルコム等の主要ライセンサーと向かい合い、特許取得取引を探し求めて締結するだろう。価額は最近かなり下落しており、驚くほどの市場機会がある」
選択眼の優れた買い手
ブレルズフォードの見立てどおり、現在買い手市場であるという事実も、書類に署名して特許ポートフォリオを買い取るかどうかについての中国企業の最近の判断において大きな役割を果たしていると思われる。「特許がもっと高額だった場合と比べ、彼らにとっては決断が容易となる」と彼は言う。さらに、こうした状況は、その多くが標準必須特許(SEP)のトップライセンサーでもあり、ライセンシング事業については厳しい市場環境に直面している売り手企業との交渉において、買取を希望する中国企業にプラスの影響を与えている。
「私たちは、おそらくSEPのライセンスと特許買取の両方を伴う取引もっと目にすることになるだろう」とブレルズフォードは続ける。ワイヤレス市場への新規参入者にはライセンスを受ける必要性がある一方で、公正、合理的かつ非差別的な(FRAND)価格で自社の特許を提供するよう求めるSEPライセンサーへの圧力も高まっている。「主要なSEP所有会社のいつものクラブは、非常にうまくできた長期ライセンスプログラムを構築しており、現時点で95%前後の利益率がある」とブレルズフォードは説明する。「こうした会社の多くの株式市場における価値は、そうしたビジネスの作用に寄るものだ。」米国マイクロソフト対モトローラ・モビリティやエリクソン対Dリンク裁判のような出来事、米国電気電子学会(IEEE)の方針の更新、および現行ライセンスはFRAND価格ではないとする中国国家発展改革委員会によるクアルコム裁判の判決によって亀裂が入り始めると、これらの会社は「自分たちのビジネスモデルを守るためにできることをする必要がある」と同氏は付け加える。
特許所有の魅力は、中国企業にライセンス契約の締結を促す可能性もある。「このことは、取引を機能させるために別の方策をライセンサーに提供する」とブレルズフォードは言う。「彼らは自社のライセンス料金構造を守る必要があるが、一方こちらの貸方側に有利となるような価値交換もあり得、総合的にライセンシーにとってより好ましいものとすることが可能である」。つまり、中国企業が自社の国際展開を固めるのに必要な特許を手に入れる一方で、売り手企業はその最重要収益源を守ることができる。
しかしながら、このシナリオは、両当事者にとってのウィンウィンを意味するように見える一方、多くの中国企業知財チームがどれほど優れた選択眼を持つようになっているかについて判断を誤らないことが重要である。いつものことながら、悪魔は細部に宿るのであり、中国企業はますます細部を重視するようになっている。「私見では、彼らの多くは非常に優れた選択眼を持つ買い手である」とアレイは言う。「中国では簡単に売れるようなものはない。世界の他のあらゆる地域と同様、彼らは十分な使用証拠を欲しがるし、負担について知りたがる。事前のそうした情報は最重要となる」
もちろん、その他の主要要素として考慮するのがパテントファミリーの法域の範囲である。「焦点はほぼアメリカとヨーロッパの資産で、たまに中国の資産もある」とアレイは報告する。「日本や韓国の資産についてはそれほどではありません。彼らが中国の特許をファミリーの一環として取得する動機は、単に自国語で書かれており、購入した発明について買い手が理解するのに役立つからということが多い」。中国の買い手企業が支払う価格については、現在の環境において世界の他の地域でみられる金額をほぼ反映しているとトゥーは指摘する。「これは本当にケースバイケースだ」と彼は説明する。「価格の範囲は、1つのポートフォリオにつき概して6ケタから8ケタ米ドルまで様々である」
加えて、中国の買い手企業は、特許の背後にある「物語」を特に熱心に知りたがり、過去のある時点に知財通で知られる主要なハイテク企業に属していたことがあれば、なおさら歓迎する。「血統が非常に重視される」とアレイは言い、証拠として、小米やBOEがブロードコムやインテル、マイクロソフト、ゼネラル・エレクトリック、セイコーエプソン、カシオといった企業との間で完了した諸取引を挙げる。「それほど有名ではない売り手は、中国市場で多少苦戦するだろう。特許が由来するブランドに価値があるので。十分な使用証拠がありほぼ負担のないノーブランドのポートフォリオが売れないというわけではないが、売るのはもっと難しいだろう」
売り手責任
中国の特許取引市場で従事する人々と話をすると、多くの売り手志望企業が間違った態度でアプローチしていることが明らかとなってきた。多くの場合、彼らは買い手候補として狙いを定める会社の洗練度合いを過小評価しているのだ。「私が何度も目にした間違いは、売り手が洗練されていない相手と取引をしていると考えることだ」とブレルズフォードは言う。これでは出だしからつまずいており、最終的には取引プロセスを鈍化させ、取引の最終的な成立を危うくするかもしれない。「これを言うのは私が初めてではないだろうが、中国でビジネスを行う場合に1つ重要なことは、関係重視であるということだ」と彼は付け加える。「中国語のguanxiという言葉には多くの意味があるが、」― オックスフォード英語辞典ではこれを「ビジネスやその他の取引を容易にする社会ネットワークや影響力のある人間関係のシステム」と定義している。―「中国の相手先との間にguanxiを持つことは不可欠だ。あなたが売ろうとしているものを本当に売りたいのであれば、過剰な反応や攻撃性、高圧的な態度や柔軟性がないと相手に思われるようなアプローチをとることは、成功への道筋ではない。また、関係性が重視されるのだから、売り手は飛行機に乗って出かけていくことが必要となる」
トゥーはこのアドバイスに同意する。「大事なことは、知財資産の質が良く、また確かなコネクションを通じて案件がまとまることだ。一般にこれは、買い手がよく知っている専門ブローカーやコンタクト窓口を意味する」
おそらく何よりも重要なのは、中国で特許を売ろうとする外国売り手企業は、忍耐強く対応する覚悟を持つべきだということだ。「中国で取引を成立させるには長い時間がかかり、相手方企業にとってはフラストレーションがたまる可能性があるが、それが現実だ」とブレルズフォードは結論する。「一部には文化的要因や言語の障壁がある。中国の買い手企業は、取引について納得するのに多くの処理時間が必要だ」。結論は、中国企業に特許を売るには時間がかかるということである。しかし、これは売り手企業にとってはフラストレーションであるかもしれないが、それに見合った見返りが得られる可能性は高い。
行動計画
中国の買い手企業が第三者特許に対する関心を高めるにつれて、資産の収益化を目指す事業会社と取引過程において役割を果たすことのできる仲介会社の両方にとって多くのチャンスが今後生まれてくる。中国で特許を売りたいと考える者は、以下のことを肝に銘じておくべきである。
- 中国企業が外国法域や新規技術分野へと進出するのは、主として自衛目的で、自由に実施できることを確保するために特許市場に参入している。
- 多くの中国企業は、現時点において、北米や欧州企業で仕事をしたかまたは紛争において彼らに対峙する立場で仕事をした広範にわたる経験を持つ専門的な知財チームを結集している。
- 例えば標準必須特許のライセンスに並行して特許売買を含む等の多面的な特許取引は、買い手と売り手に同様にウィンウィンの結果となり得る。
- 購入希望者は一般にこの取引市場においては経験が浅く、状況に慣れるには時間がかかるため、プロセスが長期にわたることを覚悟すること
- Guanxiが極めて重要である。中国まで出かけて行って購入希望者と直接会うことは、必ずしも必要ではなくても、大いに有益である。