基準を救うべき時

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基準を巡る戦争のどちらの側も未来を破壊する恐れがある。今こそ即戦状態から一歩離れて、21世紀に相応しい基準システムを確保する措置を講じる時である。

2匹の若いサカナが並んで泳いでいたところ、逆方向に泳ぐ 年上のサカナとすれ違った。年上のサカナは会釈してこう言った。

「おはよう。今日の水はどうかね」

2匹のサカナはしばらく泳ぎ続けたが、 ふと一匹が相棒の顔を見て言った。

「ところで、水がどうって何言ってるの?」

2005年、ケニヨン大学の卒業式における

デイヴィッド・フォスター・ウォレスのスピーチから

には、最も重要な現実が、最も目に見えにくい現実であることがある。物事に深くなじんだ結果、魚にとっての水のように、その存在にすら気がつかなくなることが容易に起きる。

同じことが基準についても言える。基準は至る所にあり、毎日の生活で重要な役割を果たしているのだが、人はめったにそれに気付かない。

魚の考えを代弁するのは不可能だが、魚は水についてほとんど考えていないと断言はしてもよい。しかし、水の外に出したら、その小さな脳をよぎるのは「水、水、水!」のただ一つであることはまず間違いない。

近代に入って非常に長い間基準に取り囲まれてきたため、人はほとんど基準に気がついていない。しかしながら、技術基準を作成・維持する複雑なシステムが崩壊するリスクが存在する。崩壊が起きる事態ともなれば、誰もが元通りになることを望むであろう。

現在の基準の危機に深く立ち入る前に、しばし、今日の状況に至った流れを振り返ってみよう。

基準の歴史の概要

基準が必要となったのは、人類文明の始まりそれ自体と同じくらい昔のことである。人間が共同体として生活し、交信や取引を開始するや否や、基準を生み出す動機が生まれた。最初の基準は基本的な測定単位であった。季節の移り変わりを知るために暦が作られる一方で、建設や取引を円滑に行うために距離や重量、体積の測定単位が生み出された。

合意された測定基準がない世界は想像することさえ難しいが、記録に残る歴史のほとんどの期間は、長さや距離といった単純な尺度の単位を巡って競り合いが続いていた。人間の足の長さ(フィート)、王様の腕の長さ(ヤード)、ローマの兵士が千歩で進む距離(マイル)などが、最も基準に近いものとして利用された。測定の基礎は人によって異なり、地域ごとに違った単位が使用されていた。

一樽の小麦の量や一枚の布の長さについて合意や共通の基準がなかった時代に、商売や建設でどんな争いが起きたかは想像することしかできない。産業革命前のヨーロッパでは、各々の国が独自の測定系を用いており、紛争が日常的に起きていた(測定単位を巡る紛争がフランス革命の一因だったとする見方さえある)。国際間の貿易が拡大するにつれ、標準化の必要性が強まった。英国は英国式の体系を広大な帝国の隅々まで輸出する一方、フランスはメートル法を展開し正式なものとして採用した。

産業革命では工場と大量生産が家庭内の手工業生産に取って代わり、基準の必要性が増した。交換可能な部品の使用や分業を可能にするために、ますます正確かつ標準化された測定単位が必要とされるようになったのである。産業革命の真髄とも言える蒸気機関車がその典型的な例である。

初期の鉄道は特定の市や町での利用を目的としており、将来相互に接続する可能性はほとんど考慮されなかった。その結果、軌間の種類が急激に増え、英国では少なくとも6種類の軌間が採用され、米国では州や地方独自の軌間が採用されていた。米国ではリンカーン大統領が「すべての軌間は5フィートとすべし」という命令を公布した。この命令はおおむね無視されたものの、最終的には鉄道会社間で妥協が成立し、4フィート8.5インチという規格が採用されるに至った。この規格は、英国で標準になりつつあったイングランドの共通軌間に厳密に一致するものであった。この4フィート8.5インチという奇妙な数字が荷馬車の標準サイズに基づいており、さらに遡れば、ローマ時代の二輪馬車の車輪の標準サイズにたどり着くことは、興味深い歴史的経緯と言える。古代世界で馬車製造者によって選ばれた基準が、はるばる時代を下って近代まで伝えられ、現代の鉄道の軌間に今なお反映されているわけである。

古い時代にも技術規格とみなせるような基準の早期形態があったものの、標準化の動きの本格的な開始には、20世紀への変わり目ごろの電気と電気通信の到来を待たねばならなかった。多くの文書で示されているように、1880年代の交流(AC)と直流(DC)間の電流戦争は、発電と送電にACが採用される形で決着がついた。しかし北米では、三相、60ヘルツ(Hz)、120ボルトが主流系統になったのに対し、欧州では50Hz規格が用いられた。今日でも、海外旅行者は、1世紀以上前に起きた不完全な標準化に対処するためにアダプターを持ち歩く必要がある。

電化の開始は長距離通信の時代の先触れであり、電報、電話、ラジオ、テレビが次々と登場した。それぞれの技術は、初めは競合する企業が展開する専有技術であったが、最終的には合意された規格に統一されるに至った。通信規格の採用は、小規模で閉鎖的な通信システムから、今日我々が享受しているような大規模な相互接続システムへ移行するのに不可欠なステップであった。

それらの各技術の規格確立の過程は、本レポートにとっては長すぎる物語である。それについては、有力企業や政府、業界団体が妥協的な解決策を見つけ出し、その結果、様々な企業が、接続されたシステムの一部として相互運用するための機器を製造できるようになった、と述べておくだけで十分である。

図1.標準化の年表

注:時間軸を圧縮して表示

最初の規格作成機関が設立されたのもこの時代だった。1901年には工学標準化委員会(Engineering Standards Committee)が最初の国家標準化団体として設置され、後に勅許を受けて英国規格協会(British Standards Institution)となった。他の諸国も国家標準化団体を設置した。ドイツ規格協会(Deutsches Institut für Normung)、米国規格協会(American National Standard Institute)、フランス常置標準化委員会(Commission Permanente de Standardisation)はいずれも第一次世界大戦後まもなく設立された。

またこの時期には国際標準化の動きも始まった。1906年には最初の国際標準化機関である国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission)が設立され、1926年には万国規格統一協会(International Federation of National Standardising Associations)がそれに続いた。同協会は、第二次世界大戦中の1942年に活動を停止したものの、終戦後、新設の国際連合規格調整委員会(United Nations Standards Coordinating Committee)と合流して国際標準化機構(International Organisation for Standardisation)となった。

第二次世界大戦後には数多くの国際・地域・国家標準化機関に加え、特定の産業のために規格を作成する多様な独立系標準化組織が誕生した。やがて規格作成機関の興隆は、今日見られるような、時として紛らわしい大量の組織を生み出すに至った。そうした団体には、米国機械学会(American Society of Mechanical Engineers)、ASTMインターナショナル(American Society of the International Association for Testing and Materials)、欧州電気通信標準化機構(European Telecommunications Standards Institute)、米国電気電子技術者協会(Institute of Electrical and Electronics Engineers:IEEE)、インターネット技術タスクフォース(Internet Engineering Task Force)、動画専門家集団(Moving Picture Experts Group)、自動車技術者協会(Society of Automotive Engineers)、ワールドワイド・ウェブ・コンソーシアム(World Wide Web Consortium)などがある。全体としてこれらの団体は、基本素材からエレクトロニクスやインターネット、航空宇宙に至る全産業をカバーする何万もの技術規格を作成した。

基準が重要な理由

魚が水の恩恵についてほとんど考えていないのと同様に、我々も基準からの多くの恩恵に思い至ることはめったにない。しかし、現代の技術社会は基準なしには成り立たないと言っても過言ではない。個々の電話製造会社や通信事業者が自前の通信プロトコルを開発したり、各ウェブサイトが独自の方法でウェブコンテンツを符号化したりしている世界を想像できるだろうか。移動体通信やWiFi、インターネット、音声・映像の符号化に関する共通規格のない世界とはどんなものだろうか。コンピュータやテレビ、自動車、航空機、携帯電話のような複雑な工業製品に含まれる多数の部品に規格がなかったら、その生産が可能だろうか。

比喩の誤用を恐れずに言えば、技術規格は金の卵を産むガチョウである。基準は非常に多くの重要な利点もたらすため、ここでそれを詳しく説明するのは不可能である。代わりに利点を単に列挙するだけで十分であろう。

消費者にとっての利点

消費者は基準の存在から重要な利点を享受している。以下に挙げるのはそうした「金の卵」のごく一部である。

  • 購入の単純化 - 消費者は異なる専有技術の価値を比較することはできない。代わりに公認の基準に依拠することによって、その製品が自分の求める要件を満たしていることが確認できる。
  • 信頼性の向上 - 公認の基準に準拠した製品は、確実に消費者の期待通りに機能する。
  • リスクの低減 - 消費者は1つの製造会社の製品に縛り付けられないですむため、高価な消費財を購入者するリスクを低減することができる。
  • 低価格 - 標準化された商品を提供する企業は生産コストが低く、価格または標準化されていない特徴で競争せざるを得ないため、消費者はより低い価格で購入することができる。
  • 製品の多様化 - 規格が中心的特徴をなす製品では、製造会社は自社製品を差別化する方法を追求するため、比較的ユニークな特性を持つ製品が消費者に提示される傾向がある。
  • 相互運用性 - 基準があることで、消費者は異なる生産会社から製品を購入しても、それらが一体的に機能することを確信できる。

製造会社にとっての利点

製造会社も基準による多くの利点を捉えることができる。製造会社が保持する「金の卵」には次のものがある。

  • 市場参入の容易性 - 基準があることで、企業の参入障壁が低くなり、より多くの企業が市場に受け入れられる製品を生産できるようになる。
  • サプライチェーンの簡素化 - 規格準拠部品は専有技術を組み込んだ部品よりも入手しやすく、調達が容易で、価格が低い。
  • 規模の経済 - 標準技術はより広範に採用されているため、生産数量の拡大や生産の単位原価の低下をもたらす。
  • 技術的孤立化の確率の低下 - 基準があれば、中核技術の将来の方向性をより正確に予測できるため、企業の技術投資が失敗する可能性が低下する。
  • 互換性 - 技術は、異なる企業の製品が一体的に機能することを可能にする。互換性があれば、企業は市場参入のためにシステムの全要素を生産する必要はなくなる。
  • 差別化の特徴に基づく競争への集中 - 規格を組み込んだ製品では、企業が新奇な特徴によって自社製品を際立たせようとするため、競争の焦点が他の差別化の特徴に移行する。
  • ネットワーク効果 - 規格を組み込んだ多くの製品では、市場浸透が拡大するにつれ製造会社の製品の価値が上昇する。こうしたネットワーク効果は市場の生産会社すべてに恩恵を与え、製品への需要全体を高める。
  • マーケティング費用の低減 - 基準があれば、製品の機能について消費者に手短かに伝達できるため、マーケティング費用を低減できる。

技術開発会社にとっての利点

技術開発会社は製品の製造に携わることもあれば携わらないこともあるが、技術革新を製品市場に提供している。基準という金の卵を産むガチョウは、次の点で技術開発会社の可能性の幅を広げる。

  • 小規模プレーヤーの市場参入の実現 - 規格を組み込んだ製品カテゴリーでは、小規模プレーヤーにとって発明の成果を標準化された製品に付加することができ、製品全体の発明や開発の必要がないため、イノベーションに参加することができる。
  • より効率的なイノベーション市場の創出 - 基準があれば、潜在的な買手や売手が増大するため、技術の売買が可能な市場が創出される。
  • 技術投資から成果を得る手段の確保 - 技術開発会社は、製品を生産しなくても技術の売却や使用許諾によって利益を上げられる。これにより、技術に投資する企業が一層増加し、技術の進歩が加速する。
  • 資本調達の改善 - 規格関連技術への投資が利益を生む可能性が高まれば、リターン創出やエグジットの見通しがより明確になるため、資本提供者にとっては投資の根拠になる。

表1.SEPライセンスの環境の変化

  

動向

欧州

  • ECJが公正なSEPライセンス実務のガイドラインを公表
  • 特許権者がECJのガイドラインに従っている限り、差止命令に対してFRANDに基づく防御は認められない
  • ECJのルールは、ホールドアップとホールドアウトをどちらも低減させるため、実施者と特許権者の権利のバランスを図っている

中国

  • NDRCはクアルコムに対する決定との関連でSEPの使用許諾に関するガイドラインを公表
  • クアルコムがNDRCのガイドラインに従った場合、差止命令が認められるか否かの試金石となる訴訟が進行中

韓国

  • 韓国FTCが、SEP所有者の誠実なライセンス実務を定義する知財ガイドラインの改訂を公表
  • SEP所有者がこのガイドラインに従う限り、差止命令の請求は韓国の公正取引法に違反しない

米国

  • FRAND宣言したSEPに係る差止命令を禁止する包括的ルールがあるのではなく、違反を告発された被疑侵害者はイーベイ原則に基づいて差止命令に反論することができる
  • CAFC、ITCおよび連邦取引委員会の間に意見の相違があるため、依然として不透明性が高い

その他の国・地域

  • カナダ、日本などの国々は、SEPライセンスのガイドラインの策定および差止命令の利用可能性に関するルールの明確化を進めている

基準が脅威にさらされている実態

これらの利点全体を考慮すると、基準の時代が脅威にさらされているとは想像し難いが、今まさにそれが起きているのである。基準をもたらす共同イノベーションのシステムを損なう意図はなくても、すべての陣営の当事者が、自身の想定する自己利益のために行動することにより、金の卵を産むガチョウを殺さないまでも重傷を負わせかねない措置を取っている。

過去50年の間に技術規格の作成と採用を支えるコンセンサスが形成された。このコンセンサスは、成文化されていないが相互に受け入れられた、システムを機能させる一連の原則に依拠したものであった。

いわゆる「不文律」の成文化には常に危険が伴うものの、基準を扱う大半の当事者は、以下のような一般的な言明に同意するであろうと私は考える。

相互運用性が重要な技術分野では、代替的な独自ソリューションで競争するより、業界に受け入れられるソリューションを共同で開発する方が望ましい。自身で独自のソリューションを追求するのは構わないが、そうする者は、それと異なる基準が作成され、広範に採用された場合、業界全体から無視されるリスクを受け入れなければならない。

規格開発の過程では、技術開発の方向性に関するコンセンサスを形成することが重要である。コンセンサスは当然、関与する組織の力関係に影響されるものの、技術的貢献の質も重要であり、著しい技術の改善が組織の権勢に勝ることもある。

自身の技術によって基準に貢献した者は、他者が妥当な使用許諾条件に基づいてその技術を利用することを認める約束をしなければならない。法外なライセンス料を設定したり、自身の特許を使って他者がその基準を実施することを阻止したりすることは許されない。

技術投資が報われるのは当然であり、基準の実施者はすべて、技術によって基準に貢献した者に対して妥当な条件で自発的に報酬を提供する用意がなければならない。

標準必須特許(SEP)の使用許諾を簡素化するために、大半の特許権者はパテントプールに参加し、このパテントプールが一貫した妥当なライセンス料を業界の全員に提示する。

大規模なSEPのポートフォリオを有する企業は単独で使用許諾することを選択する可能性もあるが、そうした企業も一貫した妥当なライセンス料を業界の全員に提示する。

業界標準を実施した製品を販売すれば、その標準に関連するSEPのライセンスを取得する必要性は認識されるものである。可能な限り最善のライセンス料を強く求めるのは正当ではあるが、最終的にライセンスが必要なことは認識していなければならない。

パテントプール管理会社は、プールを必須の基準とするために、それに組み入れる特許を慎重に審査する。業界の参加者はその決定を受け入れ、重大な訴訟を要求することなく、プールした特許を自発的に使用許諾する。

しかしながら、基準に関する以上のようなコンセンサスが、様々な市場参加者の行為によって意図せずに崩壊しつつある。

ライセンサーからの脅威

大手有力技術系企業の最高知的財産責任者である私にとっては、会社の技術への多額の投資が利益につながることが重要である。標準関連技術の使用許諾は基準のエコシステムにとって極めて重要な要素であり、それなしでは標準化は機能できなくなる。

特許権者は技術投資から利益を上げる必要がある反面、妥当な条件で使用許諾するという約束を履行する必要もある。特許権者が不当とみなされる料金を設定したり、実行不能な形で使用許諾条件を作り上げたりした場合、基準の採用に悪影響を与える可能性がある。

どんなロイヤルティ料が妥当かについては、誠実な意見の違い(honest disagreement)の余地は当然あるものの、近年、SEPに関して業界の実勢料金から大きくかけ離れたロイヤルティ料が要求される事例が増加傾向にある。こうした事態を受けて、企業は必然的に基準の採用に代わる他の手段を探すようになり、望ましくない結果に至ることがある。基準の消滅や遅延が生じたり、非標準的な代替手段が定着したりするのである。

高いロイヤルティ料のために基準が完全に消滅することは通常ありえないが、過去にはそれが起きた例もある。その一例がDVB-MHP規格で、いったんは発足するかに見えたものの、市場の受け入れ可能な水準をはるかに上回るロイヤルティ料が発表された時点で最終的に拒否された。

別の例として、製造会社が対象特許のロイヤルティ料が高くなる可能性を懸念したために、基準の採用が遅れることがある。アップルやサムスンをはじめとする大手技術系企業が、技術ライセンス料の不透明性のために自社製品における基準の実施を遅らせた例が多数見られる。

最後に、高水準のロイヤルティ料は、デバイス・メーカーが独自のソリューションを追求したり、業界標準に代えてオープンソースを採用したりする原因となりうる。そうなった場合、業界が細分化され、多数の異なる技術が市場で競合する可能性がある。こうした細分化により、先述の基準制定による利点の多くが失われる。つまり、相互運用性が失われ、高コストが続き、消費者や製造会社、技術提供者のいずれもが困ることになる。

ライセンサーが基準のエコシステムに混乱を引き起こす別の状況として、バリューチェーンの複数の箇所で使用許諾しようと試みることがある。通常、SEPのロイヤルティ料は、基準を実施する最終機器の生産者に課せられる。実際問題として、これが使用許諾の仕組みを作り上げる最も単純な方法である。というのも、そこには生産される有形の製品があり、追跡や監査の対象となる観察可能な販売や出荷があるからである。したがって、ネットワークを通過するコンテンツには、普通ロイヤルティは課されない。通信規格に関連するロイヤルティを、規格を実施する各携帯電話に課す場合と、ネットワークを通過する各通話や各データに課す場合の相違を考えてみてほしい。

以前、ライセンサーがコンテンツにロイヤルティを適用しようと試みたとき、業界の激しい抵抗に遭った。コンテンツ・プロバイダーは基準の採用に大きな影響力を持っているが、特定の技術ソリューションが自身の利幅に影響を与えると感じた場合、より安価な代替手段を探そうとする強いインセンティブを有している。

最後に、ライセンサーは使用許諾で協力し合えないときに基準のエコシステムに悪影響を与えることがある。従来、基準に関連するSEPは、ごく少数の当事者からの使用許諾によって利用することができた。通常、SEPは、パテントプールを通じて、および片務的に使用許諾する一握りの大規模プレーヤーから提供されている。こうすることで、製造会社は必要なライセンス全てを取得することが比較的容易となり、またSEPの権利を扱う市場が需給均衡する可能性が高まる。

図2.主要な有力標準化機関

パテントプールは、基準に関連するSEPの主要部分を統合して単一ライセンスとして提供することができるため、規格ライセンス市場で非常に重要な役割を果たす。パテントプールが円滑に機能している場合、SEPの権利を扱う市場は著しく単純化され、SEPライセンスに関連する取引コストは大幅に低下する。またプールは公正、合理的かつ非差別的(FRAND)条件について、強力なベンチマークを生み出す。このことは公知の市場決済価格の確立に役立ち、その結果、エコシステムの全当事者間の交渉が簡単になる。パテントプールが相当な割合のライセンサーを引き付けられず、価格設定が高すぎる、または低すぎるために市場に受け入れられない場合は、SEPライセンスによって極めて必要とされている自身の役割を果たせなくなる。

しかしながら、より独立した形の使用許諾やパテントプールの複合化の傾向が現れている。時には製造会社が、2つないし3つのパテントプールに加え、自社の特許を独立して使用許諾したいとする十数社以上の企業と交渉せざるを得なくなることがある。この種のライセンサーの細分化は極めて非効率的であり、製造会社にとっては基準の実施に必要なライセンスを取得することがより困難になる。また、すべてのライセンサーが失敗する可能性も高くなる。

ライセンサーの数が多い場合、ロイヤルティの総額がどの程度になるかに関しては不透明性が高まる。製造会社はこうした不透明性を嫌い、SEPプールのごく一部の使用許諾を受けるより、SEP全体のロイヤルティ料が定まるのを待つ方を選ぶ。どの当事者も、誰かに先に動いてもらおうと考えたとすれば、SEPの権利を扱う市場を需給均衡させることは非常に困難になる。

これらの問題が作用した最近の事例の1つがHEVC規格である。HEVCは最新世代のMPEG動画圧縮規格で、それまでのMPEG規格と同様、動画コンテンツを扱うあらゆるデバイスで使われている。HEVC特許のライセンス環境は極めて複雑化しており、最低2つ、恐らくは3つの異なるパテントプールがあり、また最大規模の特許権者の多くがどのプールにも参加しないことを選んでいる。

MPEG LAのHEVCプールを含むライセンサーの一部は比較的低額のライセンス料を課しつつ、コンテンツ・プロバイダーにはロイヤルティを課していない。他方、HEVCアドバンスを含む他のプールは比較的高額のライセンス料を課し、さらにコンテンツ・プロバイダーと製造会社の両方からそれを徴収しようとしてきた。高価格、技術のコスト総額の不透明性、コンテンツに対するロイヤルティ請求およびライセンスプールの細分化が相まって、HEVC関連SEPの市場の需給均衡が困難になっている。

予想される高コストや市場の強い不透明性を受けて、企業は対抗手段を取り始めている。一部企業はHEVCの採用を先送りしたのに対し、有力な技術系企業数社は結束してHEVCに代わる規格の開発に着手した。最後に、米国の大手テレビ・ネットワーク数社は、開発中の次世代デジタルテレビ規格へのHEVC組み入れに反対するロビー活動を開始した。

こうした対抗措置を受けて、HEVCアドバンスはロイヤルティ料を変更し、コンテンツ・プロバイダーから徴収するロイヤルティに上限を設定した。それにもかかわらず、HEVC規格の採用は遅れており、ライセンス取引はほとんど成立していない。

これは、SEPライセンサーの措置が規格方式にどんな形で害を及ぼすかを示す例の1つにすぎない。特許権者が、ロイヤルティ料を段階的に値上げし、使用許諾をバリューチェーンの複数箇所に拡大しようと試みた場合、規格が遅れたり、縮小したり、さらには崩壊したりすることさえ有り得る。企業が規格開発に全く参画しないことを選択したときは、はるかに悲惨な結果となる可能性がある。協力的な規格開発を支えるインセンティブ体制が崩れると、規格の作成、採用および価値創出を可能にするコンセンサスが脅威にさらされる可能性がある。

製造会社からの脅威

SEPから利益を引き出そうとする特許権者の行き過ぎた試みが、基準のエコシステムを損なう可能性がある一方、基準使用の対価支払いを回避しようとする製造会社の強引な試みも、同様に有害な可能性がある。基準を実施する製品製造会社は、自社製品に組み込む技術の利用コストを最小化しようとするインセンティブを持っている。これは、どの製造会社も追求する理に適った妥当な目標である。しかしながら、それが高じて自発的なSEPライセンス取得を拒否するに至ることは、現代的な基準のエコシステムを可能にするコンセンサスにとって有害であり、最終的にはそれを破壊する。

知財業界の誰もが言うように、特許ライセンス取引が以前より困難になっている。法律改正が原因で、特許環境のすべての分野で有効性に関する不確実性が高まり、差止命令の取得可能性が低下し、損害賠償額の算定に関する不確実性が増大し、全体的な和解に対するインセンティブが低下した。その結果、訴訟に訴えることなく特許ライセンス取引を締結することがますます難しくなっている。こうした不確実な環境にあって、多くの製品製造会社は、使用許諾の申込みの無視あるいは積極的な抵抗という短期的には妥当な選択を行った。この傾向はSEPの分野にも波及し、自社製品で業界標準を実施している企業が、特許権者やパテントプール管理会社からのライセンス取得を拒否することが日常化している。

この種のライセンス取得に対する抵抗の事例として、広く採用されているLTE規格以上にわかりやすい例は他にない。2012年にバイア・ライセンシングとシズベルは共にLTEのパテントプールを立ち上げたが、どちらもまだ1件もライセンス契約を交わせていない。約1,000件のSEPが独立特許評価者によって必須と判断されたにもかかわらず、どちらのプール管理者もライセンス契約に成功していないのである。

これら2つのLTEのパテントプール以外に、今のところプールへの参加を選択していない有力なSEP所有者が十数名以上いる。それらの多くは、保有ポートフォリオの実施許諾を積極的に試みているが、公開されているデータに基づく内容全体からしても、ほとんど進展が見られないようである。ライセンス契約が公表された少数の事例では、大規模な訴訟の後でのみ締結に至っている。その最も顕著な例は、最近のアップルとエリクソンの和解である。エリクソンはようやくLTE特許の重要なライセンス取引を締結できたが、これは、米国国際貿易委員会で2件の訴訟を提起し、41件の特許を主張して米国地方裁判所にさらに7件の訴訟を提起した後で、はじめて実現したのである。

製造会社は、規格を組み込んだ製品について自発的にSEPのライセンスを取得するという旧来のコンセンサスは、過去のものとなった感がある。

一部の製品メーカーは、ライセンス契約に抵抗するだけでなく、特許権者にとっては望ましくない形で規格作成機関の知財権規則を積極的に変更しようと動いている。この最も顕著な例がIEEEで開始された規則変更である。この変更は、ポスト標準化のライセンス規則を具現する規則の策定において規格作成機関が果たすべき役割に関して、広く知れ渡った、往々にして痛烈な紛争を引き起こした。

その経緯全体をここで繰り返すことは差し控えて、この紛争の重大さを示す少数の主要な出来事だけを挙げておく。

  • IEEEは2年を費やして知財権の方針変更を検討し、特許委員会は3対2の議決によりそれを承認した。
  • クアルコム、インターデジタル、エリクソン、ノキアを含む有力特許ライセンス会社数社は、新方針の下で自社の特許について使用許諾することを拒否した。
  • クアルコムがCSRを買収した結果、旧方針に基づいてIEEE関連SEPを使用許諾することが可能となった。
  • アルカテル・ルーセント、エリクソンおよびクアルコムは、フラウンホーファー、インターデジタル、ノキア、オレンジ、ロイヤルフィリップスおよびシーメンスの支持を得て、米国におけるIEEEの再認定に対して異議申立てを行った。この異議申立ては棄却されたが、クアルコムとエリクソンは上訴の意向を明らかにした。

この紛争が、IEEEで進行中の規格策定にどう影響するか、および他の標準化団体がIEEEに倣って方針を変更するのかについて、広範な議論が行われている。現れ始めた兆候によれば、IEEEに提出される宣言書(letter of assurance)の数が減少しており、また新方針がもたらした不確実性のためにWiFiの最新バージョンが遅れていることを示す、少なくとも一定の兆しがある。

確実に言えるのは、IEEEの方針変更に反発している企業に代表されるような有力企業が標準化団体への参加を取り止めた場合、あるいは単に、自社の保有特許に関連するFRAND宣言を拒否しただけでも、標準化のコンセンサスに極めて有害な影響があるということである。それらの企業は、規格関連技術の開発に合計数十億ドルもの投資を行っており、世界の現在のすべての主要通信規格およびまだ開発中の多くの規格にとって不可欠な数千もの特許を保有している。標準化機関が、それらの企業が支配する技術の使用を簡単に回避できると考えるのは甘すぎる。標準化機関は、次世代の規格の作成中断に追い込まれるか、FRAND宣言の対象にならない技術を意識的に組み込まざるを得なくなるであろう。

標準化機関への自発的な参加、FRAND条件で技術を使用許諾する誓約、および過度の訴訟が不要な自発的なSEPの使用許諾は、50年以上機能してきた規格のコンセンサスが今後も存続するための基本的要件である。今日私たちは転換点に立っている。ライセンサーとライセンシーは、金の卵を産むガチョウを殺し、標準化の時代に終止符を打ちかねない行動に出るほど、激しく利害対立している。

基準に関するバランスの回復

しかしながら、明るい兆しもあるように思われる。

SEPを巡る多くの紛争の結果、世界の裁判所や競争当局は、基準に基づく使用許諾が今後どう進んでいくかを決するであろう主要な問題に取り組んでいる。最近、SEPライセンスに関連する主要問題の一部について一連の重要な判決が下されている。それらは、長年未解決であった次のような問題である。

  • FRAND宣言を行ったSEP保有者は、どんな状況下で差止命令を求めることができるか

公正かつ妥当なロイヤルティ料とは何か、そして、それをどのように決定すべきか

図3.主要パテントプール管理会社

欧州が主導

SEPライセンスの規則の明確化という点では、欧州、特にドイツが先頭に立っている。最近のいくつかの判決により、FRAND宣言を行ったSEP保有者が、差止命令、特に予備的差止命令を利用できるか否かが明確になり始めている。

被告が、FRANDに基づいて差止請求に対抗するには何を行うべきかに関するガイドラインを示した主要事案としては、ファーウェイ対ZTE裁判が挙げられる。この事案で、欧州司法裁判所(ECJ)は、SEPライセンスにおいてSEP所有者および被疑SEP侵害者が従うべき具体的なルールを明らかにした。判決の全文を読む価値はあるものの、要件の要約を挙げれば次の通りである。

  • SEP保有者は、特許および侵害内容について書面で実施者に警告する。
  • 実施者はFRAND条件でライセンス契約に応じる意思を表明する。
  • SEP保有者はFRAND条件に基づく申込みを行う。
  • 実施者は誠実に対応する。
  • 実施者は、SEP保有者の申込みを受諾しない場合、書面による反対申込みを速やかに行う。
  • 実施者は、例えば銀行保証を提供する、またはエスクロー口座に妥当な金額を預託することにより、過去および将来のSEP使用に関する保証を提供する。
  • 合意に至らなかった場合、両当事者は合意により、第三者によるFRANDロイヤルティの決定を請求することができる。
  • 実施者は交渉中、特許の有効性または必須性に異議を申立てることができる。

これらのガイドラインは、SEPライセンスの秩序だったプロセスを定めており、それが準拠された場合、FRANDライセンス契約が締結されることになる。ただし、実施者が特許の無効性または非必須性を証明できた場合を除く。

これらのガイドラインの試金石となった最初の事案(シズベル対ハイアール)は現在継続中であるが、SEP保有者を支持する判決が下されている。ハイアールは、ECJの要件を遵守していないと判断されたため、FRANDに基づく防御を提起することに成功しなかった。具体的には、同社は適時に対応せず、書面による反対申込みを行わず、技術の使用について説明と保証を提供しなかったと判示された。その結果、ハイアールに対し、侵害を中止し、過去の侵害に関する情報を提供し、過去の損害についてロイヤルティを支払うよう命令が下された。この事案は上訴されているが、裁判所がECJの要件を適用したことにより、SEPライセンスに関し、秩序だったプロセスが新たに生み出されている。この判決が確定した場合、欧州で全く新たなライセンス制度が創出され、基準に準拠した技術を巡る多くの既存の紛争に解決への道が切り開かれる可能性がある。

中国が戦いの場に

中国では、すべての目がクアルコムと魅族(メイズー)の争いに注がれている。昨年、クアルコムは反競争的なライセンス実務を理由に、中国で過去最高となる9億7,500万ドルの罰金を課された。その結果、ライセンス実務の変更を命令された上、3Gと4Gの必須特許のライセンスを他の特許とは分離して供与することを要求されることとなった。この和解の一部として、国家発展改革委員会(NDRC)は、FRAND義務の対象となる特許の使用許諾に関する具体的なガイドラインを明らかにした。

クアルコムは、この新ルールに基づく使用許諾を開始したが、中国の携帯電話メーカー魅族との合意には至らなかった。クアルコムは現在、北京と上海の知財裁判所に17件の特許侵害訴訟を提起している。この事案は、中国におけるSEPライセンスに広範な影響を与える可能性が高いことから、大きな注目を集めている。クアルコムにとってみれば、今や運用の基準となる明確な一連のガイドラインが存在しているため、なりゆきを楽観視する根拠が存在する。さらに、北京の知財裁判所は外国人原告に極めて寛容であり、2015年の勝訴率は65対0の完勝となっている。

クアルコムと魅族の訴訟がどんな結果になるにせよ、中国におけるSEPの使用許諾に関するルールが焦点になり始めている。SEPライセンスの透明性向上は、基準に関連する使用許諾の環境を混乱させている現在の不確実な状況の解決に寄与するであろう。

韓国が詳しいガイダンスを提供

2014年末、韓国の公正取引委員会(FTC)は、具体的にSEPライセンスを対象とした知財権のガイドラインの改訂版を公表した。そこでは、SEPは必ずしも市場支配力を付与するものではないとする同委員会の立場を明確にすると同時に、公正取引法違反の可能性がある具体的な行動を特定した。また、ライセンサーが誠実にライセンス交渉を行う義務を履行するために講じるべき措置を具体的に示している。このガイドラインが遵守されていれば、SEP保有者が差止命令を請求しても違反とはみなされない。このガイドラインは、反抗的なライセンシーが誠実に交渉しなかったり、ロイヤルティの支払いを遅延または回避しようとしたりといった逆ホールドアップに対する懸念に明確に対応している。

欧州のルールと同様、韓国の新たな知財権のガイドラインは、SEPライセンスの秩序だったプロセスを定めるとともに、公正取引の実務やSEPに関連する差止命令の利用可能性に関する同国の立場を明確化している。

米国の不確実性

先述のように、近年米国では多くのSEP関連訴訟が提起されてきたが、裁判所は、SEPライセンスで遵守すべきルールあるいは差止命令を利用できる環境に関する明確なガイダンスを示してはいない。多数の特許に関する訴訟を米国国際貿易委員会(ITC)と地方裁判所の両方に提起するというエリクソンの戦略は、交渉による和解の達成という点で成功したように思われるものの、SEPライセンスの取り扱い方法、具体的には、FRAND義務のあるSEPに関連する差止命令の利用可能性に関するガイダンスが欠ける状況は変わっていない。

米国では、スマートフォンに関するアップルの積年の特許紛争が、SEPライセンスに関連する判決の背景となっている。モトローラ(現在はグーグルが所有)はアップルに対する差止命令を求めたが、地裁判事は、モトローラのFRAND宣言は、特許の使用に対する対価は差止命令ではなくロイヤルティで十分であることを意味すると判示して、差止命令を認めなかった。判事は、イーベイ基準を適用し、モトローラは、差止命令が否認されたとしても回復不能な損害を受ける可能性はないことから、差止命令は正当化されないとする判決を下した。

上訴審の連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)では、審理に当たった判事と同じ数(3つ)の意見が示された。ところで、上記の地裁判決が恐らく含意するように、FRAND宣言された特許に係る差止命令については包括的ルールが存在しないことが、今では明らかになっている。しかし、どんな場合に差止命令が利用可能なのかは、十分明確になっていない。この事案は大法廷に上告される可能性が高い状況にあるが、SEP保有者は自由に差止命令を求め、被疑侵害者は自由にそれに反論することが、当面は一般に賢明な対応ということになるだろう。残念ながら、これでは、裁判所がSEPをどう扱うか、ほとんど見通しが立たない。

ITCの状況もほとんど変わらない。サムスンはアップルの製品をITCに提訴して排除命令を勝ち取った。しかし、大方にとって意外なことに、オバマ大統領は連邦取引委員会の要請を受けて、その命令に対し拒否権を発動した。その根拠は、サムスンはSEPに関連するFRAND宣言を行っているため差止命令を求める権利がないというものであった。しかしながら、ITCは、サムスンが誠実に交渉に当たり、アップルはライセンス契約への同意を拒否していたことを認めていたのである。

全体として、差止命令およびSEPライセンスに関する米国のルールは依然として不確実性が極めて高い。

金の卵を産むガチョウの救出

基準がもたらす素晴らしい恩恵は、我々が住むこの技術世界にとって重要である。もしも基準を取り上げられるようなことがあると、すべての人が水から出された魚と同じようなショックを感じるだろう。知財政策や誠実なSEPライセンスを巡る数多くの紛争にもかかわらず、希望を持てる理由が存在する。業界は、FRANDの明確な定義や所定のガイドラインがない中、何十年にもわたりSEPの使用許諾の際に講じるべき適切な措置を求めて苦闘してきた。恐らく現在の争いは、基準に関する新たなコンセンサスに遂に到達することを示唆する兆候である。そのコンセンサスの下で、特許権者は投資に基づく利益を取得することが可能になり、製造会社にとっては技術コストに関する透明性が向上する。そうなれば、全員にとって状況が改善し、業界が採用した技術規格の報奨を全員が享受し続けることができるであろう。

行動計画

基準システムを継続的に存続可能なものとするために、すべての主要プレーヤーが果たすべき役割を有している。

標準必須特許(SEP)のライセンサーの役割:

  • 自身の知的財産による寄与および付加されるロイヤルティ全体を適切に考慮したFRANDロイヤルティ料を提示する。
  • 価格の最適化に加え、広範な採用に対する自身の利益を認識し、それに従って行動する。
  • 各国・地域における新たなSEPライセンスのガイドラインを理解し、それを利用して、交渉に応じるよう反抗的なライセンシーに促す。

基準に準拠した製品の製造会社の役割

  • 真のSEPのライセンス契約に応じる用意を整える。
  • 正式なFRAND条件の申込みを受けたときは、新たなSEPライセンスのガイドラインと自身の義務を理解する。
  • 訴訟に訴えることなく合意に到達する方法を探る。

標準化団体の役割

  • 重要なイノベーターが参加の意欲を失うような知財権のルールを策定しない。
  • 基準を作成し、FRAND義務がすべてのSEPに確実に適用されるようにする。
  • SEPライセンス方針の策定は裁判所と競争当局に委ねる。自身の知財ルールに基づく方針の策定を試みることは避ける。

パテントプール管理会社の役割

  • ライセンサーとライセンシー間の共通の土台を取り決めることによりSEP関連市場の需給均衡に貢献する。
  • 新たなSEPライセンス環境の下でのプール管理者の役割を明確化する。

競争当局の役割

  • SEPライセンスに関する明確なガイドラインを作成する。
  • イノベーターと実施者のニーズの均衡を図る。
  • 継続的な規格開発を支えるルールを策定し、SEPの権利を扱う市場の需給均衡に貢献する。

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