インドにおける特許出願に関する十戒 - 第2部

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この記事は3回シリーズの第2回である。筆者としては、このシリーズがインドにおける特許の出願、出願手続および管理に関心を持つ出願人、社内弁護士、外国弁護士などすべての人々の参考になることを願っている。

オフィスアクション(拒絶理由通知)における代表的なオブジェクション(拒絶理由)

特許の審査請求がなされると、出願が公開され、請求の提出日順に審査される。そして、主題の技術分野別に出願が審査官に付託され、形式的・実体的審査が行われる。その後、審査官はクレーム対象の特許性その他の形式的問題のほか法的な実体的要件に関する報告書を作成する。この報告書は「最初の審査報告書(「FER」)」と呼ばれ、インドにおける出願人の送達先住所に送付される。

通常FERには、インドにおける特許の適格性要件のほか、クレーム対象の新規性や進歩性に関連するオブジェクションが含まれている。

また出願は、産業上の利用可能性を根拠として拒絶されることもあり、審査官は、クレーム発明がいずれかの業界で利用可能か、あるいは工業工程を利用して実施できるかを評価する。

さらに、クレーム対象は開示の不十分性を理由として拒絶されることもある。この点に関し、審査官は、特許明細書に適切な名称が記載されているか、主題が明細書において十分かつ具体的に記述されているか、クレームにおいて発明の範囲が適切に規定されているか、明細書において発明の最善の実施方法が記述されているか、生物材料に関連する発明の場合、出所および原産地が開示されているか、国立生物多様性局(National Biodiversity Authority)の許可を取得しているか(該当する場合)、(ブダペスト条約に基づく義務により)寄託の受託番号その他の詳細情報が示されているか(該当する場合)、などを評価することがある。

また、発明の単一性の欠如により出願が拒絶されることもある。この点に関し、審査官は、クレームが単一の発明概念に関連しているかどうかをチェックすることがある。クレームに複数の発明概念が含まれることを発見した場合、審査官はオブジェクションを提起することになり、出願人はその是正のために特許出願の分割を選択することができる。

代表的な拒絶理由

FERに対する応答や出願人から提出された補正が要件を充足していない場合、当局は、1つまたは複数の審査報告書(「第2の審査報告書」)を発行することがある。補正や提出物が最初および(または)第2の審査報告書の要件を充足していない場合、長官は出願人に聴聞の機会を与え、これについて決定を下すことがある。それでも充足されない場合、長官は特許出願の拒絶を選択することができる。拒絶命令が下される場合、理由付命令(speaking order)となる。

インドで通常、特許が拒絶される根拠として挙げられるのは、新規性の欠如、進歩性の欠如、特許不適格性または主題の違法性などである。

拒絶に対する救済措置

特許出願が拒絶された場合、出願人は、特許庁のレビュー権限の行使、または上級審、すなわち知的財産上訴委員会(「IPAB」)への審判請求(appeal)のいずれかによる当該拒絶の是正を選択することができる。

レビューを請求できるのは、出願人が知ることのできなかった、もしくは拒絶査定時に提出できなかった新たな証拠が見つかった場合、または記録の文面に明白な誤りのある場合である。レビュー請求は、出願人が拒絶の通知を受けてから1カ月以内、または1カ月を超えない延長期間内に行わなければならない。レビュー請求にはその根拠を記載した申立書を添付する。

他方、審判請求は拒絶査定に誤りがある場合に行われる。各審判請求状には当事者の名称および審判請求の根拠を記載する。請求に際しては裏付となる証拠および拒絶決定書の謄本を添付しなければならない。出願人以外が審判請求を行う場合、権限証明書、すなわち、供述人の資格を示す宣誓供述書もしくは委任状(正式代理人が提出する場合)、または弁護士委任状(vakalatnama)(弁護士/特許弁護士が提出する場合)を添える必要がある。審判請求がなされると内容が精査され、問題がなければ登録され、連番が割り振られる。瑕疵が発見された場合は、それが是正されるまで審判請求は登録されない。瑕疵の是正期間はその特定後15日間で、それが徒過された場合、審判請求は放棄されたとみなされる。ただし、遅延容赦(condonation of delay)または30日を超えない期間延長を請求できる。審判請求がなされた後、答弁者は審判請求状の送達日から2カ月以内に反対陳述書を提出できる。審判請求人は、その反対陳述書の受領後2カ月以内に弁駁書を提出できる。その後、事案は審理へと進められる。IPABで使用される言語は英語またはヒンディー語で、すべての手続および審決はそのいずれかにより行われる。

付与後異議申立

インドでは「利害関係人」(当該発明に関連する分野と同一の分野における研究に従事し、またはこれを促進する者を指し、特許製品に関連する商品に対して製造上もしくは取引上の利害関係、もしくは当該商品の製造において経済的利害関係を有する機関、または当該主題に関連する特許を保有する機関を含む)のみが、特許付与の公開日から12カ月以内に付与に対する異議申立通知を行うことができる。付与前異議申立とは異なり、申立者はこの手続において自己の利害関係の内容を述べなければならない。

異議申立通知は、特許が付与された特許庁に対して行う。その根拠はさまざまで、とりわけ特許の不正取得、新規性の欠如、進歩性の欠如、先使用権の抵触、開示の不十分性および/または義務的手続の違反などが挙げられる。通知は異議申立書および裏付となる証拠を添えて行う必要がある。異議申立人は申立書の写しと証拠(もしあれば)を特許権者に送達する。申立書を受理した後、長官は当該受理を特許権者に通知する。特許権者は通知受領後2カ月以内に応答および裏付となる証拠を提出できる。それを徒過した場合、当該特許は取り消されたとみなされ、長官は取消命令を発布し、その旨を特許登録簿に記載する。

異議申立人は、特許権者の答弁を受領してから1カ月以内に弁駁および裏付となる証拠を提出できる。そして、弁駁書の写しと証拠を特許権者にも送達する。その後は、長官の指示がない限り、いずれの当事者も追加証拠を提出することはできない。

異議申立通知を受理した後、長官は3名から成る異議部(Opposition Board)を編成する。異議部は、異議申立人と特許権者が提出した全文書を含めて当該通知を審査する。審査後、異議部は全文書を受領した日から3カ月以内に共同勧告を行う。長官はこの勧告に基づいて聴聞を設定する。聴聞を受けることを希望する当事者は、その旨を書面で長官に通知する必要がある。長官は、当事者が聴聞を希望した場合は聴聞後に、両当事者が希望しなかった場合は聴聞を行わずに、異議部の勧告を考慮に入れて申立に関する命令を下す。すなわち、特許を取り消すか、特許の補正を命令するか、異議申立を棄却するか、のいずれかである。

取消

インドでは「利害関係人」(当該発明に関連する分野と同一の分野における研究に従事し、またはこれを促進する者を指し、特許製品に関連する商品に対して製造上もしくは取引上の利害関係、もしくは当該商品の製造において経済的利害関係を有する機関、または当該主題に関連する特許を保有する機関を含む)または中央政府が、取消請求をIPABに提出できる。あるいは、特許侵害訴訟において、被告が特許取消を求める反訴を第一審裁判所に提起できる。しかしながら、当該反訴が地方裁判所に提起された場合、事案は必ず高等裁判所に移送される。IPABや裁判所に取消を求める根拠はさまざまで、とりわけ無資格性、不正取得、非特許性、産業上の利用可能性、開示の不十分性、不実記載、義務的な手続要件の違反、特定の情報の未提出、および特許発明の不実施などが挙げられる。

さらに、特許発明が原子力エネルギーに関連しているという条件に該当する場合、中央政府は自らの判断で長官を通じて取消手続を開始できる。また、当該特許が国家にとって有害であるか、全般的に公衆に害をなすと中央政府が判断した場合、官報に当該取消を告示することにより公益を理由に特許を取り消すことができる。強制実施権を付与された特許については、当該発明の不実施のほか、合理的な要件が充足できないこと、または特許発明が合理的に手ごろな価格で公衆に利用可能でないことを理由に、中央政府または利害関係人から長官に対して請求があった場合、長官は当該特許を取り消すことができる。

特許権

特許対象が製品または工程の場合、特許権者は、無許可の第三者が当該製品または当該工程により直接取得した製品をインドにおいて製造し、使用し、販売のために提供し、またはかかる目的で販売もしくは輸入することを阻止する独占権を有する。

特許が共有または共同所有されている場合、契約に別段の規定がない限り、各所有者は、特許における均等で不可分の持分に対する権利、および上記の独占権を単独で行使する権利を有する。

譲渡

インドでは、特許の譲渡は、何らかの形での対価の交換に関与する当事者同士が正式に締結した書面契約の形態に依らない限り有効とはされない。また当該契約は、司法/準司法手続において証拠として認められるように登録しておくことが望ましい。

第I部で述べたように、特許の出願権の証明(proof of right)を確立する上で譲渡証書が有用である。また、特許庁は特許登録簿を維持管理しており、そこには、とりわけ被付与者の名称と住所、譲渡通知、および特許の有効性や所有権に影響するその他の詳細事項が記載されている。そして、譲渡その他の移転により特許への権利を取得した者は、かかる特許における自身の権利の登録を申請することができる。かかる権利の登録申請があった場合、長官は、提出された出願権の証明が十分であると認めたときは、当該出願人を特許登録簿に登録し、権利の所有に関する詳細事項と併せて、出願人が権利を取得した文書の詳細事項を記載する。

更新

インドでは、特許が付与された後、特許権者は特許を有効に維持するために特許証の日付から2年目の満了日に更新手数料を支払わなければならない。付与時点で、累積年額(accumulated annuity)と呼ばれる更新手数料を最初に支払う場合、特許が登録簿に登録された日から3カ月以内に支払いを行う必要がある。通常、累積年額は特許出願日の2年後の時点から当該特許の付与時点までの期間について計算される。また、特許庁の実務では、更新手数料は前払いしなければならない。例えば、7年目の更新手数料は6年目が終了するまでに支払わなければならないのである。

さらに、更新日を徒過する前に延長を請求することにより特許更新日を最長6カ月まで延長できる規定も存在する。また、特許権者が更新手数料の前納を望む場合、2年分以上の前納が可能である。

注意すべきは、年次更新手数料を所定の期間内に支払わなかった場合、特許が失効するということである。更新手数料の未納付が原因で特許が失効した場合、失効日から18カ月以内に回復の申請を行えば失効した特許を回復できる可能性がある。ただし、特許権者は回復申請書において更新手数料の未納付に至った状況を説明しなければならない。

外国出願許可の請求

インドの居住者はインド国外で発明特許の出願を行うことを禁止されている。ただし、かかる外国出願の許可を特許庁に請求して許諾された場合、またはインド国内で当該発明特許を出願した後6週間が経過した場合はこの限りではない。通常、この許可は秘密保持の規定が発動されない限り、請求日から21日以内に付与される。しかし、その許可を受けずにインド国外で特許出願を行った場合、それに対応するインドの特許出願は放棄されたとみなされ、また特許がすでに付与されている場合は、取り消される。加えて、そうした行為は、最高2年の禁固もしくは罰金またはその両方の処罰対象となる。したがって、現在の状況ではインドに居住する発明者を含む出願を行うことが極めて一般的になっているが、その場合、この外国出願に係る要件を遵守することが非常に重要となる。

出願の日付の事後記入

出願人がインドで優先権出願を行ったものの、開示の十分性の要件を充足して自身の発明を適切に有効化するためにさらに時間を必要とする場合、日付の事後記入(post-dating)が極めて有用なことがある。このような場合、出願人は優先権出願の日付を提出日から最大6カ月遅らせるよう請求することができる。かかる日付の事後記入は特許付与前であればいつでも請求できる。ただし、請求が認められた場合、特許出願の審査はその新たな日付に基づいて行われること、また審査報告書の発行後に請求がなされ、それが認められた場合には、新たな日付に基づいて新規に審査が実施されることは特筆すべきである。

以上で第2部を終了する。第3部もどうぞご期待ください。

アンシュル・スニール・ ソーラストリー (Anshul Sunil Saurastri) アソシエイト
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アンシュル・ソーラストリーはクリシュナ・アンド・ソーラストリー・アソシエイツLLPのアソシエイトである。ペンシルバニア大学で技術系学士号を取得。特許、商標、著作権、意匠、営業秘密、ならびに医療法、メディア・エンターテインメント法、契約法および関連する会社法を含む係争的および非係争的な知財問題を実務の中心としている。具体的には、インドにおける知財の保護、出願手続、執行、訴訟および管理に関してクライアントにコンサルティングを提供している。また、ライセンシング、フランチャイジング、マーチャンダイジング、合併・買収、合弁事業、資産および持分権の取得、外国投資、データ保護の問題、秘密保持契約ならびに雇用契約に関しても頻繁に助言を行っている。

ディビエンドゥ・ベルマ(Divyendu Verma) マネージング・ アソシエイト
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ディビエンドゥ・ベルマはクリシュナ・アンド・ソーラストリー・アソシエイツLLPのマネージング・アソシエイトで、特許・商標弁護士である。国内外の組織のために大規模な知財ポートフォリオを担当、管理するとともに、知財実施の枠組み、技術移転契約ならびにライセンスおよびクロスライセンス契約の草案を作成している。また、電気通信やITインフラの導入を伴う技術展開にも豊富な経験を有する。バンガロール大学でコンピュータ・サイエンスの学士号および数学の修士号を取得。デリー大学から法学学位を取得し、インドにおける弁護士資格を有する。

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