2016年度特許仲介市場の内側

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状況は厳しいものの、特許仲介市場は依然として成長見込みがあり、堅調である。価格は底打ちしたとみられ、新たな購入機会が浮上している。

5年にわたって特許市場の分析・報告を進めてきた結果、一貫していたのは変化のみだったようである。売却希望価格は安定化したものの、取引高は減少し、仲介市場の規模は昨年の2億3,300万ドルから1億6,500万ドルに縮小した。しかしながら、IAMマーケット(IAM Market)と産業特許購入プログラム(Industry Patent Purchase Programme:IP3)の発足は新たな購入機会をもたらした。他方、逆風となる特許関連の判決の影響が次第に明瞭になり、特許不実施主体(NPE)が市場から撤退している。企業の購入額が初めてNPEによる購入額を上回った。影響は最大級のNPEにさえ及び、RPXが購入額でインテレクチュアル・ベンチャーズ(IV)を抜き去り、新たに首位の座に就いた。さらに、米国最高裁のアリス判決が原因で、生まれつつあった金融技術(フィンテック)特許市場の多くが消え、ソフトウェア・パッケージの販売伸び率が影響を受けた。最後に、我々は今年、より優れた訴訟データを受け取った。売却特許による訴訟リスクは以前の報告よりはるかに高まっていると思われる。自身のリスクモデルと防衛的アグリゲーターへの参加を再検討することが望ましい。

我々が市場に関する報告を開始したときに特許仲介に焦点を合わせたのは、仲介が特許の公開市場の大部分を占めていたからであった。この市場は依然として有用な指標と考えられるため、本レポートでも引き続き重視する。しかしながら今回は、広範な企業間市場および特許の新たな源泉に関する検討も行う。

我々は、特許市場全体が透明性の恩恵を受けるとする主張を維持する。過去5年間に、少数の主要な大企業のみが特許を売買する状況から、中堅企業や新規株式公開前の企業が特許売買の能力を増強しようとする状況への変化が見られた。業界で聞く台詞は、「特許市場については全く知らない」から「どのように参加するのが最善か」に変わった。価格設定、技術分野、取引条件、デューデリジェンス・プロセスおよび購入過程に関連する他の要素についてのデータに基づく情報は確かに必要であり、実際今では四半期ごとの特許市場データが主流メディアで報告されているが、情報だけでは不十分である。成功をもたらす特許購入プログラムをどう定義するか、どの尺度を使用すべきか、および関心のある特定の特許をどのように調達するのが最も効果的かといった問題への答えも必要である。特許市場データはこうした問題への解答にも使える。

市場規模

我々は現在、86,000件以上の資産から成り、総額が110億ドル、3,500件以上の特許パッケージを追跡している。譲渡データによれば、この市場のうち23億ドルが売却されたと見られる。しかし、すべての譲渡が登録されているとは限らないため、この数値は売却総額を過小評価している可能性が高い。

図1は、我々が過去5年間に追跡してきた市場を示している。これは、非公開および公開パッケージの両方を含み、特許市場全体の総価額を決定しようとしたものである。このデータは昨年から使い始めたものであるが、追跡対象をより正確に反映するために計算式を修正した。非公開パッケージに関する情報は、当社が関与した取引に限定される。さらに、IP3とIAMマーケットが利用可能な特許件数に大きな影響を与えた。とはいえ、市場の価額は驚くほど大規模で、多様化している。

2017年度の市場について図1から推定すれば、20億~30億ドルの新たなパッケージが毎年市場に入ってくると予想される。2016年度第2四半期時点の売却データは、譲渡証書を特定できた売却のみに関するものである。2017年度について予測すれば、総累積売却額は30億ドル以上に達すると見込まれる。

IAMマーケットとIP3による状況変化

がIAMマーケットを、アライド・セキュリティー・トラスト (AST)がIP3を新設した。この2つの重要な出来事により、特許市場全体に従来と異なる変化が生じた。これら2つの新設特許市場は一層多くのパッケージを特許市場全体に呼び込んだ。時期と手法が原因で、これら2つの新設特許市場が価格設定や成約率に与えた影響すべてを考慮に入れることはできていないが、差しあたり一定の知見を得ることはできている。

IAMマーケットは2015年10月に企業向けに開設され、意外なことに、今では当社の公開市場データに含まれるパッケージ全体の25%を占めている。この市場は、企業がライセンス供与や売却を望む特許や技術を提示するプラットフォームとして機能し、売却希望特許を提示するだけでなく、どの売手が現在売りに出しているかを紹介することもできる(著者らもIAMマーケットに売手として提示されている)。

2016年5月までに、IAMマーケットは17社の売手、3,724の資産から成る194件のパッケージを提示し、パッケージ全体の25%を占めた。一つ着目すべきことは、このパッケージには、通常ブローカーから提示されるものよりはるかに広範囲の立証資料が付属されていることである。IAMマーケットは比較的新しく、特許仲介市場の場合とは異なる目的で特許が提示されていることは確かである。我々は、特に注記された場合を除き、IAMマーケットのデータを全体データに含めた。

図1. 売却希望価格の累積額(単位:十億ドル) - 仲介市場と非公開市場

もうひとつの重要な展開は、ASTが運営する産業特許購入イニシアティブのIP3の立ち上げである。IP3は、交渉なしに特許を購入しようとする多数の企業の特許購入資金を集約する。この加速化された購入プロセスは特許の提出から始まる。今回の提出期限は2016年6月であった。個々の提出の対象となるのはパテントファミリー全体である。この点は、IP3がモデルとした以前のグーグルのプロセスから変更されている。特許の買値提示は2016年7月末に実施され、購入された特許は2016年9月までに譲渡され、登録されることになっていた。このプロセスの革新的な点は、購入者の資金が確約され、加速化された環境の中で投資家や企業が特許を売却する新たな機会がIP3によって提供されることである。我々は、図1の市場の推定を除き、IP3のデータを全体データに含めなかった。

我々はASTとの話し合いから、約450社の売手から約1,400件の提出(すべてがパテントファミリーで、特許資産は3,000件以上になる)があったことを知った。最初にフィルタリングの基準が適用され、その結果、750件の提出物がより綿密なレビューの対象となった。それらのほぼ半数が、過去に特許仲介市場で提示された1件以上の資産を含んでおり、IP3への提出のほぼ半分が特許ブローカーによってなされたものであった。また、購入された提出物の60%が、過去に特許仲介市場で提示されたパテントファミリーに含まれていた。確約された資金が利用可能で交渉プロセスが存在しないという点を踏まえてIP3のプロセスの結果を分析すると興味深いであろう。

さらに、予想通り、このプロセスに基づく譲渡の一部がすでに登録されている。2016年9月16日付ののブログでは、78件の出願済みおよび付与済み米国特許の譲渡が明らかになったと報告された。この譲渡は市場年度が過ぎてから行われたため、IP3のプロセスの更なる詳細については来年取り上げる。しかしながら、以上の結果から、このプロセスが成功を収めたことがうかがわれる。

IAMマーケットとIP3は既存の特許売買手段と相補的な関係にあると言える。例えば、IAMマーケットの売手は、ブローカーによって提示されている資産も売却希望資産として提示できる。同様に、ブローカーはIP3に特許を提出でき、実際にそうしている。

以下では、通常の購入プロセスの流れに沿って市場の詳細を説明する。調達、売却希望価格、デューデリジェンスの手順、購入のクロージングおよび訴訟の順に取り上げ、最後に市場規模の推定を述べる。

方法

我々は、データを分析する場合、過去の方法を維持するために最善を尽くす。過去にデータベースを構築したことがある人なら、一組の質問に答えられるようになったと思ったら、全く新しい一組の質問が湧いてきて、方法に変更が必要となるといった経験があるであろう。

当社は、16の一般カテゴリー、107の下位カテゴリーから成る技術分類を維持管理している。各パッケージはいずれか1つのカテゴリーに分類される。また、売却希望価格、買値提示日およびデューデリジェンスに関するクライアントの特定の決定も追跡の対象としている。技術カテゴリーは、技術の変化をより的確に反映できるよう、毎年若干変更を加えている。分類の変更が前年度との比較に影響を与える場合、それを明記している。

また、市場の変化に応じた調整も行っており、技術カテゴリーの変更の一部にそれが反映されている。

さらに、入手可能な最新情報を手に入れるために、当社の技術も改良している(プログラマーは常に多忙である)。

これらの変更が重なって、前年度との比較がより困難になることがある。2015年度の市場に関する数値の一部に、過去のレポートと若干異なるものがあるのはこのためである。差異が重大であると判断した場合、新しい方法に基づく昨年のデータを必ず提供する。

売却の年を無視して、追跡した売却全体についてみると、登録日と契約締結日の間の平均期間は1.75ヶ月であった。売却の約80%が3ヶ月以内に登録されている。譲渡は米国特許商標庁に登録されてはじめて観察されるため、その登録が遅れた場合、売却が分析可能になる時点が先送りされることになる。

特許ブローカー

昨年度以前と同様、分析では特許仲介市場に焦点を合わせる。それは、この市場がすべての買手に開放されているからである。当社は多数のブローカーと協力してクライアントによる特許購入を支援している。クライアントによる特許売却を支援する場合、当社は、特許権者がブローカーを選択する際に手助けするサービスを提供する。この点に関し、ブローカーは以下のような多様で有用なスキルをもたらすと我々は捉えている。

  • 売却対象として適切な特許資産を特定するための最初のフィルタリング
  • 実現性のある売手の選定、および選定された売手が売却の意思を有する点についての一定の確実性
  • 特許のスクリーニングおよび重要な特許とクレームの特定
  • 価格ガイダンス
  • 売手のための売却条件および日程表に関するガイダンス
  • デューデリジェンスから買値提示、売却に至るプロセスの定義付け
  • 特許使用証拠(EOU)の作成
  • 価格設定に関する断固たる交渉

ブローカーは売却能力も有している。多くのブローカーでは、潜在的買手のネットワークが数百人もの規模に及んでいる。ブローカーは特定の買手のニーズを積極的に探り出し、コンタクト先の数%しか関心を持っていないと思われるケースの売却プロセスを管理することもできる。当社は、クライアントが直接的な売却かブローカーとの協力のどちらにするかを評価する際に支援を行う場合、クライアントが特許ブローカーと同様のスキルを持っているかどうかに目を配る。それは、多くの場合、企業の経営企画部門に見られるスキルに類似している。

図2.提示パッケージ数別のブローカーの提示数と成約率(暦年)

図3.取引四半期別の実績および予想取引件数

図4.技術グループ別のパッケージ数の分布および1資産当たり売却希望価格

 

表1.2016市場年度に5件以上のパッケージを提示した ブローカー

アダプトIPベンチャーズ

アンドレア・ディック

アクア・ライセンシング

セリネット

ダイナミック IP ディールズ

エピセンターIPグループ

グローバル IP ロー・グループ

GTTグループ

HPe

ICAP

アイスバーグ

IPオファリングズ

IPパイオニア・グループ

IPインベストメンツ・グループ

IPバリュー

MiiCs&パートナーズ

ミューニック・イノベーション・グループ

N&Gコンサルティング

オシェイ・ファームPLLC

P.J. Parker株式会社

インク

パテント・プロフィット・インターナショナル

クイン・パシフィック

レッド・チョーク・グループ

ローゲルバーグ・コンサルティング・カンパニー

睿智創業有限公司

ソンダー・エ・シエ

トランザクションIP

タイナックス

5件以上のパッケージを提示するブローカー

今年度、ブローカー総数は73社に増加した(昨年は60社)。しかし、ブローカーが提示する平均パッケージ数は若干減少した(提示数の増加にもかかわらず)。IAMマーケットの提示はその多くが所有者による売却であるため、ブローカーの分析から除外した。その結果、増加したブローカー数が分割され、提示総数は減少した。表1は2016市場年度に5件以上のパッケージを提示したブローカーの一覧である。

さらに、少数のブローカー・グループがパッケージの大半を市場に提供している。すなわち、10件以上のパッケージを市場に提供するブローカーが15社あり、5件以上のパッケージを市場に提供するブローカーがパッケージの72%を占める(昨年度の80%から低下)。上位4位までのブローカーが提示パッケージの35%を占めた(昨年度は34%)。

昨年度以前と同様、ブローカーは特定の技術分野にほとんど特化していない。例外として、半導体のリバースエンジニアリング会社の系列下にある例、およびハードウェアに比較的集中している例がある。

図2が示すように、特に成績の良いブローカー(緑色の円内)も特に成績の悪いブローカー(赤色の円内)も多くはなく、また、比較的多くのパッケージを市場に提供するブローカーの成約率が高いわけではない。一部のブローカーは、多数のパッケージを提示してもほとんど売却できず、明らかに悪戦苦闘している。当然ながら、最大数のパッケージを市場に提供するブローカーの成約率は業界平均に近い。この分析では、売買の成立と登録に要する時間を十分見込むため、2015年の暦年を使用した。

図2において、2015年暦年に136件のパッケージを提示したICAPパートナーズは、その数が多すぎるため図からはみ出ている。ただし、平均の計算には算入されている。その結果、平均成約率はICAPの数値から大きな影響を受けている。2015年に提示されたパッケージの平均成約率は10.4%で、2014年暦年の同じ分析と比較した場合、ほぼ50%の低下となる。

図2における10.4%の成約率は、新規提示されたパッケージの売却が難しいことを浮き彫りにしており、したがって、市場に新たに参入するブローカーにとって今年は厳しい年になることを示唆している。しかしながら、全体の成約件数は比較的安定しており、パッケージの取引総数はそこまでの減少を示していない(図3参照)。2014年から2016年上半期までの各四半期に取引された実績パッケージ数は、ほとんどが平均から1標準偏差の範囲に収まり、かなり狭い範囲内で推移した。それにもかかわらず、図2に示された2015年暦年における提示の成約率は、取引が低下傾向にあることを示唆しているようである。成約率については、引き続き2016市場年度のパッケージの動きに注目しながら、以下でさらに詳しく検討する。

表2.特許仲介市場の内訳

 

2016市場年度

2015市場年度

変化率

パッケージ数

772

578

34%

米国発行特許数

6,966

6,203

12%

資産数

11,478

8,870

29%

パッケージ

パッケージ数は772件(昨年度は578件)で、特許市場は拡大した。IAMマーケットの194件のパッケージがこの増加分のほぼすべてを占めている。IAMマーケットがなかったとすれば、パッケージ数は横ばい、資産総数および米国発行特許数は減少していたであろう(表2参照)。取引件数の推移を他の大手企業や防衛的アグリゲーターと比較した結果によれば、当社は、同数以上の仲介パッケージを受け取っているようであり、当社の数値が市場を反映している点に確信を持っている。興味深いのは、資産総数はパッケージ数にほぼ比例して増加しているのに対し、米国発行資産総数はそうでないことである。これは、国際的な資産を重視する姿勢が強まり始めていることを示しつつあるものの、大部分の提示では依然として米国発行資産が牽引的な要因になっているようである。

技術分野の分布

全体として、市場は、引き続き広範かつ多様な技術分野のパッケージを提示している。多様性が拡大し、パッケージ数が堅調な水準にあるため、ほとんどのハイテク分野の資産が入手可能である。当社は、パッケージを受け取ったとき、その資料を確認し、当社の技術分野の分類に従ってパッケージを区分している。この分類は、16の一般的な技術カテゴリーと107の下位カテゴリーという2段階で構成されている。図4に示されるように、一般カテゴリーの分布は依然としてソフトウェアに偏ってはいるが、それ以外の分野も拡大している。

他の種類のパッケージの増加は、航空宇宙や素材など、IAMマーケットにおける掲示が主な要因である。最後に、提示総数の増加にもかかわらず、ソーシャルネットワーク、広告、ビジネスプロセス・金融(いずれもソフトウェアの下位カテゴリー)など、アリス判決の影響を受ける一部技術分野では提示数が減少した。

特許仲介市場の焦点を視覚化する別の方法として図5のワードクラウドがある。そこでは、文字サイズによって、パッケージに付されたEOUで特定された注目度の高い企業、技術、製品が浮き彫りにされる。パッケージに対するEOUの影響については後述する。このワードクラウドを見ると、2016市場年度にパッケージが売買された注目度の高い分野を感覚的に捉えることができる。当然ながら、引き続きグーグル、アップル、マイクロソフトといった最大手技術系企業が、特許の売手に人気のターゲットとなっている。

図5.注目度の高い企業、技術、製品のワードクラウド

パッケージの規模

パッケージの規模の分布(図6)は昨年度と非常に類似している。ただし、明らかな例外が一つある。単一資産のパッケージの比率が大幅に上昇したことである。2015市場年度には、その比率が2014年度から約30%低下したが、2016年度にはIAMマーケットの影響で再び上昇した。その大半は所有者が売却のために提示したパッケージである。IAMマーケットを除くと、単一資産のパッケージは全体的に減少する。この単一資産のパッケージが原因で、2016年度の1パッケージ当たり平均資産数は15.34件から14.87件に減少した。それにもかかわらず、小規模なパッケージは市場性が高いため、引き続き明らかに市場全体の焦点となっている。

価格設定

買手や売手が比較可能なパッケージを見ることのできる本格的な公開市場が存在しないため、価格設定に関して様々な問題が生じている。適正価格、割引価格、あるべき取引とは何かを知ることは難しい。当社は、価格分析に際してこれらの問題を問い続けている。この分析は、クライアントが特許を売買するのを支援するためだけでなく、市場ベースの価格を提供するためにも利用される。平均的な特許の売却希望価格が分かれば、特定の特許またはパッケージの価格をモデル化することができる。追加的な利点として、この方法を使用すれば、割引キャッシュフローの分析や帰属ロイヤルティ(imputed royalty)の必要性を回避することもできる。

図6.パッケージの規模の分布頻度(資産全体)

表3.2016年度の市場における売却希望価格

売却希望価格

各データセットの最上位5%と 最下位5%のデータは除外

資産1件当たり

米国発行特許1件当たり

平均

197,320 ドル

271,440 ドル

中央値

150,000 ドル

192,500 ドル

最低

16,670 ドル

36,110 ドル

最高

750,000 ドル

100万ドル

標準偏差

177,400 ドル

217,530 ドル

データ数

431

416

市場価格データが入手可能になれば、市場の流動性創出に役立つと考えられる。例えば、初心者の売手が3件の特許資産について3,300万ドルの値を付けて我々のクライアントの一人に接触してきたとする。他のデータがないため、その売手は自分が妥当と思う数字を勝手に決めたのである。我々が年次マーケットレポートを一部送ったところ、彼はそれを使って、はるかに妥当な35万ドルという価格をパッケージに付け直した。この売手は売却希望価格を3,300万ドルから35万ドルに変えることができた。しかし、市場の成熟につれて、データの他の利用例も現れる。最近、取引の相手側となる2社が、同じ価格データを用いて、同一資産について2つの大幅に異なる価格を主張した。この事例では、データが価格について協議する有用な仕組みとなったわけである。

価格設定データから導き出せる主な傾向は、2015年度から2016年度にかけて売却希望価格が安定化したということである(表3参照)。資産1件当たりおよび米国発行特許1件当たりのいずれも、売却希望価格は無視できる程度にしか変化していない。資産1件当たりの平均価格は3.7%上昇したが、米国発行特許1件当たりの平均価格は0.8%下落した。標準偏差は、依然としてかなり高い値ながら、同様に低下した。売却希望価格の下落は止まった可能性がある。

図7は売却希望価格の分布を示している。データによれば、パッケージの価格は引き続き25万ドルから200万ドルの範囲に集中しており、パッケージ全体の65%がこの範囲に入る。この水準の案件では、ブローカーは堅実に手数料を稼ぐと同時に、購入が常に買手の予算内で行われるため、どの取引も予算全体を逼迫させることがない。

図7.パッケージの売却希望価格の分布(最上位5%と最下位5%を除外)

今年度も引き続き25万ドル未満の価格帯を別個に追跡した。この価格帯は、ブローカーにとって比較的利益率が低いという点で興味深い。これらのパッケージの比率は13%から18%に上昇した。ブローカーの手数料を25%と仮定すれば、当該パッケージについては最大62,500ドルが手数料として入る可能性がある。さらに、パッケージの成約率が全体的に低い(詳しくは後述)ことを考慮に入れると、ブローカーはコスト削減の方法を見つけ出してきたと言える。例えば、価格が25万ドル未満のパッケージでは、EOUが付属することはほとんどない。我々はクライアントへの助言として、この種のパッケージを購入するときは、その特許に関して重要な計画がない限り、デューデリジェンスや特許売買契約の交渉に費やす資源を縮小することを勧める。IAMマーケットには価格情報がないため、この市場のデータは実質的にこのデータセットから除外されている。

IAMマーケットのデータを除外すれば、パッケージの82%が価格ガイダンスを伴っていた。これは昨年度の84%および2014年度の83%とほぼ全く一致する比率である。価格設定は買手と売手のどちらにとっても期待水準を明確化すると考えられる。さらに、価格ガイダンス付きパッケージの28%が売却希望価格ぴったりの額を提示し、その率は昨年度の26%を上回った。価格ガイダンスのないパッケージは、これまでと同様、不利な結果に終わっており、成約率が市場を下回る。

明確な価格ガイダンスは買手の意思決定の助けとなる。ガイダンスがない場合、売手が市場の水準を十分理解していない可能性がうかがわれるという単純な理由から決定が下されない(つまり成約しない)リスクが高くなる。一方で、売却希望価格がより具体的になった場合、購入を見送る理由として価格を挙げるクライアントが増えることに我々は気付いた。これは売手と買手の双方にとって有益である。というのも、決して締結に至らないパッケージについてデューデリジェンスをしないで済むため、時間と費用の節約になるからである(詳しくは後述)。

パッケージの規模別の資産1件当たり価格

価格ガイダンスとパッケージに含まれる資産数の相互関係について分析した(図8と図9)。当然ながら、平均すれば、資産1件当たり価格は、パッケージの規模が大きくなるにつれ大幅に低下する(ほぼ40万ドルから5万ドル弱へ)。この結果は昨年度のデータと一致している。

ほとんどの場合、当社は、資産1件当たり価格を引き上げるために、時間をかけて主要特許を見つけ出して絞り込みを行い、それらをより小規模なパッケージにまとめることをクライアントに助言する。しかしながら、特定の状況では、またポートフォリオが大規模な場合、全体そのままのパッケージの方が多くの売却機会に恵まれる。上記の主要特許は高額になったとしても、それを取り出してしまうと、パッケージには多数の画一的な資産が残り、最終的に売却できない恐れがある。こうした場合は、価格が低下しても資産を大きくまとめて売却することでリターンが向上する可能性がある。この計算は依然として難しく、市場の最新の知識とその特定のポートフォリオに関する深い知識が役に立つ。

資産1件当たり価格とパッケージの売却希望価格を比較した結果、資産1件当たり価格は、売却希望価格が25万から200万ドルの価格帯では比較的一定であり、最低は180,000ドル、最高は234,000ドルであったことがわかった(図9)。400万ドルから1,000万ドルの価格帯では売却希望価格が幾分か増加(323,000ドル)したことが観察されたが、これは昨年度見られなかった特徴である。しかし、1,000万ドルから2,000万ドルの価格帯では、資産1件当たり価格が356,000ドルから257,000ドルに大幅に低下した。400万ドル以上の価格帯ではパッケージ数が限られているため、それらの売却希望価格について確実な結論を導き出すことは難しいであろう。しかしながら、売手がより合理的になっているとも考えられる。また、 400万ドルから1,000万ドルの価格帯の外れ値は、大規模な画一的なパッケージではなく、多数のEOUが付いた比較的小規模なパッケージが要因であると考えられる。25万ドル未満のパッケージでは従来と同様、資産1件当たり価格が低下しており、特許が高リスクまたは低価値であることがうかがわれる(例えば、無侵害、優先日が遅い、または失効寸前の特許)。

図9.パッケージの売却希望価格別の資産1件当たり売却希望価格

図8.パッケージの規模別の資産1件当たり価格

 

表4.EOU付きパッケージの資産1件当たり売却希望価格

 

特許使用証拠(EOU)付き 資産 - 最上位5%と最下位5%を除外 - 2016年度

EOUパッケージと一般市場との差異(%)

27%

平均

251,120ドル

中央値

166,670ドル

最低

19,610ドル

最高

925,000ドル

標準偏差

225,070ドル

データ数

200

技術カテゴリー別売却希望価格

図4に戻れば、これまでと同様、一部の技術カテゴリーは売却希望価格に対する強力な影響要因でとなっており、アリス判決にもかかわらず、ソフトウェアは依然としてもっとも高い価格を維持している。ソフトウェアの中でもクラウドコンピューティングは、資産1件当たり売却希望価格が最も高かった下位カテゴリーであるが、下位カテゴリーのエネルギーのパッケージの価格と比べると211%となっている。しかしながら、カテゴリー間の偏差は大幅に縮小した。2015年度の市場では、最高価格のハイテクカテゴリーは最低価格の322%であった。

アリス判決に影響される技術

インターネットコンピューティング関連の技術は、アリス判決の潜在的影響にもかかわらず、高水準の売却希望価格を維持した。また、アリス判決に影響されるパッケージは、依然としてかなり一貫した価格で提示されている。人々がそれらのパッケージの売却を試みるなかで、その提示額に減少は見られなかった。しかし、後述のように、アリス判決に影響される技術分野、特にフィンテックの成約率は低下した。

ブローカーの売却希望価格とEOUの影響

可能なら、特許売却パッケージにEOUを組み込むべきである。それに値する価格上乗せ(premium)が生じるからである。2016年度の市場におけるEOUによる価格上乗せの実績は約54,000ドル、率にして27%であった(表4)。2015年度の60,000ドル(34%)は下回ったものの、この下落は十分、価格の分散の範囲内にとどまる。図10および図11は、2015年度の市場で見られたように、EOUが提供された場合、その価格上乗せにより、資産1件当たり売却希望価格が明らかに押し上げられていることを示している。

図10.EOU付パッケージの売却希望価格の分布

図11.EOUのないパッケージの売却希望価格の分布

ブローカーもこの上乗せを認識したようであり、販売資料にEOUを組み込むことが増えている。IAMマーケット(所有者から売りに出されるパッケージが大幅に多い)を除外した場合、EOUが付属するパッケージの提供比率は37%から43%に上昇した。ブローカーは、EOUを含むパッケージの提供を準備するコストの一部に補填するため、引き続き売手に前払手数料を要求している。

主なデューデリジェンスのデータ

特許購入の可能性を検討する際に当社は、特許の概括的な特徴付けに関連して「低品質」という表現が使用されなくなるように努力している。特許市場に「がらくた」、「低品質」または「劣悪な」特許があるという言い方をよく耳にする。確かに、低品質であることに客観的に同意できる特許が一部に存在する。しかしながら、品質基準(例えば、権利行使可能性)のテストはコストがあまりに高いというだけの理由から、大半の特許でそうしたテストは全く行われていない。購入するときは、一定の目的をもってそうすべきであり、したがって、特定の文脈の中で、あるいは具体的なビジネスニーズを満たす用途について資産の価値を分析すべきである。訴訟に必要な特許は、将来の代替技術の選択に絡むリスクを低減するための特許よりはるかに高度なデューデリジェンス・テストを通過しなければならない。また、最初に購入する特許は、800回目に購入する特許とは異なるデューデリジェンス・テストに合格することが必要とされるであろう。最良の特許は訴訟に使えるが、大部分の特許はそれとは異なる用途を有している。これを理解していれば、特許購入プログラムの策定に役立てることができる。

著者はスタンフォード大学のマーク・レムリーと共同で、移転特許に基づく訴訟の結果を分析したが、その結果が近々公表される。この分析では、移転され、訴訟判決で扱われた米国の特許のデータセットを調べた。手始めの段階で得られた結果は、購入特許を訴訟で争っても勝訴できないという一部の最高法律顧問や最高知財法律顧問から聞いた一般常識に反するものであった。事業会社にとっては自社開発の特許ほどではないとしても、購入特許を訴訟で争って勝訴することはできるし、実際にも勝訴している。勝訴率は購入者の種類によって異なっており、その明細が公表された時点で内容全体を分析したうえで、それを利用して自社のために購入モデルを調整することをお勧めする。ここで注意しておきたいのは、先述のように訴訟は購入特許の用途の一つにすぎず、しかもその範囲がかなり狭いということである。

買手が特許を購入しようとする場合、そのビジネス用途は市場で入手可能なパッケージ・プールより狭い傾向がある。パッケージの大部分は、その品質とは無関係にビジネス用途に適合しないと思われる。別の言い方をすれば、あるパッケージのクレーム、先行技術、出願手続および適用される市場がすべて完璧であれば、それだけで買う気になるだろうか。ほとんど場合、答えは「ノー」である。しかしながら、その同じ資産が別の買手にとっては非常に有用であることが有り得る。買手の特定の用途に適合しないパッケージは直ちに考慮対象から外すべきである。そうすれば、品質のテストが不要になるためデューデリジェンス費用を節減することができる。これは、特許購入プログラムの費用削減に利用できる多くの手法の一つである。

我々のデータによれば、企業の特定のビジネスニーズに適合するのは、市場の特許全体のうちのごく一部に限られる。本レポートでは、特定の買手にとって価値が一部に集中する市場全体の価値の分布は、大半の企業の特許ポートフォリオと同様、対数正規分布に従うと考える。これは、スザンヌ・ハリソンが著書の「Edison in the Boardroom」で行った、企業の複数の特許ポートフォリオに関する分析を応用したものである。

価値が一部に集中するモデルを使用する場合、デューデリジェンスの資源をどのように配備すべきだろうか。図12(a)~(d)は、不適合のパッケージを素早く除外することの重要性を浮き彫りにする段階的なデューデリジェンス・プロセスを示している。

図12(a)~(d).特許購入のデューデリジェンスを順次行うことの重要性

表5.技術的な適合性が確認されたパッケージを見送る理由

見送りの理由

2016市場年度の調整後比率

2015市場年度の調整後比率

価格

24%

15%

実際の市場での採用が少なすぎる

21%

40%

EOUのマッピングが不適切

21%

20%

資産の残存耐用年数が短すぎる

15%

10%

先行技術が未解決

10%

10%

クライアント固有の購入基準

7%

1%

入札期日が近すぎる

3%

1%

審査手続に関する懸念が未解消

0%

3%

図12(a)は価値が対数正規分布する市場全体を示している。目的は、その1~2%を占める、購入すべき高価値の特許(黄色の部分)を特定することである。図12(b)に示された最初のデューデリジェンスのステップでは、一般技術への適合性の基準(例えば、ウェアラブル)についてパッケージをテストする。金色の領域はこのテストの対象となる市場の割合を示している。市場の大部分は直ちに除外される(白線で区切られた合格の側と不合格の側)。次のステップ(図12(c))は、記載技術がクライアントの特定の関心(例えば、心拍数モニター)に対応するものかどうかを調べることである。緑色の領域はこのテストが適用される市場の割合を示しており、やはり残る市場の大部分が除外される(合格の側と不合格の側)。この段階での質問は、「この特許が他の点で完璧であれば、果たしてそれを購入するか」ということである。この質問が適用された場合、70%で答えは「ノー」となっている(最初の2つのテストの不合格率)。

このプロセスは、多数のデューデリジェンスの段階にわたって続けることができる。図12(d)には、さらに2回のデューデリジェンスが実行された場合の4段階のプロセスの結果が示されている。その第一は、特許の残存期間、買値提示期日、価格設定など費用を要しないテストを行うものである。この場合も、市場の極めて小さな部分がテスト対象となる(青色の部分)。最後に、市場全体の数%のみを対象に費用のかかるデューデリジェンスを実施する(オレンジ色の部分)。

表5は、当社のクライアントが挙げた、パッケージを見送る具体的な理由を示している。図12(d)に即して言えば、これはパッケージのテスト結果として得られる分布中の青色と灰色の部分と一致する。価格が見送りの理由になった比率は24%に達し(以前は15%)、初めてこのカテゴリーがトップになった。これは、売却希望価格が安定化して交渉の余地が少なくなったという買手の認識を反映したものと考えられる。クライアントの一部は特に価格への関心を強めている。売却希望価格が重要性を増しており、価格に対し人々がこれまでと異なる対応を取るということを、ブローカーは想定しておくべきである。

クライアントが懸念すると見込まれる問題の中には、ほとんどパッケージの除外理由にならないものもある。例えば買値提示期日は、それが近すぎる場合、ブローカーはたいてい先延ばしする用意がある。過年度と同様、買手は購入プロセスの改善と体系化を進めており、その結果、パッケージが費用のかかるデューデリジェンスの対象となることは減少している。

売買

成約率は、前年度を下回った2015年度をさらに下回った。この低下は、NPEによる購入の減少、特許権者にとって望ましくない訴訟結果が続いていること、および大規模な特許戦争の全般的な沈静化に起因する可能性が高い。これは、仲介市場への新規参入者にとってかなり困難な事態であるが、成約率が全体的に急落したわけではない(図3参照)。さらに、前回のレポート以後になされた売却の多くは比較的古いパッケージが対象となっている(例えば、2013年暦年に提示された多数のパッケージが売却された)。この発見事項は図14に関連して後述する買値提示の推奨と一致する。すなわち、ビジネスニーズに対応する有望なパッケージは動きが速く、その後、追加的で小規模な売買が長くゆっくり続く。

図13.パッケージ提示後の年数別累積成約率

売買の分析について言えば、ここでは、売却を認定する方法として、米国特許商標庁(USPTO)の譲渡データベースを使用した(パッケージ内の1件以上の特許が売買・譲渡されていれば、当該パッケージが売却されたとして取り扱う)。売却日としては契約締結日を用いた。今回のデータは2016年5月31日までに受理されたパッケージ、および2016年8月21日までにUSPTOに登録された売買に限定されている。売買について検討するときは別のデータセットに切り替える。これには2,273件のパッケージが含まれており、うち441件が売却として認定され、暦年別に区分されている。このサンプルセットは、これまでのレポートで分析されたパッケージを含んでおり、最も古いパッケージは2009年に提示されている。

表6.2015年度に提示されたパッケージの規模別成約率

資産数

2015年度の提示の成約率

1

6%

2~5

6%

6~10

14%

11~25

20%

26~50

13%

51~100

10%

2015年度の成約率は現在10.4%である(2014年度の同一時点における成約率は18.4%、2013年度は14.9%)。2015年暦年の成約率を予測すると(図13)、12ヶ月が経過した時点でパッケージの約14%が売却されていると見込まれる。次に、2014年度に提示されたパッケージに比べ緩やかなペースの2015年度のパッケージの成約率に基づいて、今後2年間の成約率を予測した。2015年度に提示されたパッケージが翌年度以降売却されるペースの推定には、2012年度から2014年度に提示されたパッケージの成約率を使用した。この予想を2011年度、2013年度、2014年度の成約率と比較してみると、特許売却の成約率の低下傾向が明らかになる。

市場の方向性を予測することは難しい。過去数年の予測を振り返ると、2013年度提示のパッケージは最終的に当初予測の32%に達したが、それには2年を要した。これに対して2014年度の提示について予測している成約率29%はまだ達成されていない(現在24%)。グラフには示されていないが、2009年度のパッケージが到達した51%の成約率が依然最高水準となっており、売買がその成約率に戻る気配は見られない。

パッケージの規模別の売却

提示されたパッケージの規模に基づく成約率を分析した結果、表6に示されるように、11~25件の資産のパッケージが最大である(2015年度は6~10件の資産を有するパッケージが最大であった)。いずれかの資産が譲渡されればパッケージが売却されたとみなされており、こうした売却の認定方法が大規模なパッケージの売却認定に有利に作用する。買手による大規模なパッケージからの選り好み買い(cherry picking)は考慮されていない。しかし、買手が頻繁に選り好み買いを行っていたら51~100件の資産を有するレンジではもっと高い成約率となっていたはずであることから、こうした選り好み買いに反する証拠が示されたことになる。実際、101~200件の資産レンジ(表示外)は、選り好み買いのために成約率が高い。

受領日別の売却

また、買手がどの程度の期間内に買値を提示する必要があるかを推定するために、パッケージの売却までの期間を分析した。この分析では、買手が購入機会を逃さないようにするにはどの時点で決定を下す必要があるかが算定できるよう、実際に売却されたパッケージに焦点を合わせた。買手はますます洗練化され、体系的になっており、その結果、パッケージを検討・購入するスピードが引き続き速くなっている。図14は、2015年度の提示においては、売却の80%がパッケージの受領日から8ヶ月(11ヶ月から縮小)以内に生じたことを示している。また、パッケージの50%(30%から上昇)以上が最初の4ヶ月内に売却されていることから分かるように、一部の買手は極めて迅速に動くことができることも見て取れる。引き続き、迅速な意思決定が強みとなっている。

図14.累積成約率

興味深いのは、買手の洗練度の向上によって別の影響が生じた可能性が考えられることである。購入プログラムの自動化が進むにつれ、購入基準の変化に伴うパッケージの再検討が容易になる。これにより、比較的古いパッケージ、特に2013年度提示のパッケージが、過年度より多く売却されたことの説明がつく。今後、当初提示の時点で迅速な購入がなされ、それから2、3年後に第二波が来るというパターンが見られるようになるかもしれない。もっとも、この仮説の確証あるいは反証のための十分な証拠の入手には一定の時間を要するであろう。

EOUを伴う売却

今年度も、販売資料にEOUを含むパッケージの成約率が高いことが確認された。ブローカーのEOUは役に立たないと買手が言うのを時々耳にするが、データはこれを反証している。先述のように、EOUの提供により売却希望価格が27%上昇しただけでなく、売却実現の確率も上昇した。EOU付きのパッケージは、2015年度または2016年度に提示されたパッケージの売却件数中半分以上(54%)を占めていた。このデータセットにおけるEOU提供の比率が36%にすぎないことを考慮すると、EOUが利点となっているのは明らかだと言える。分かりやすく言えば、EOU付きのパッケージは売却できる可能性が平均より50%高いのに対し、EOUのないパッケージは28%低いということである。

図15.アリス判決に影響される成約率の差異(年度別)

アリス判決による売買への影響

我々は通常、暦年を用いて売買を検討しているが、アリス判決が2015市場年度の開始時期とほぼ一致することから、この分析では市場年度を使用した(図15)。そして、技術分野の107の下位カテゴリーをそれぞれアリス判決に影響されるか否かで区分した。影響されるとみなされたのは、大半のソフトウェア、ビジネスプロセス、ソーシャルネットワーク、広告を含む34の下位カテゴリーである。さらに、そのうち7つの技術下位カテゴリー(ビジネスプロセス、電子商取引、決済、金融商品取引および決済に関連する最低限のハードウェアに関わる項目)をフィンテック分類されるものとして特定した。

2013、2014、2015および2016市場年度(前年の6月1日から当年の5月31日まで)について、アリス判決に影響される分野の成約率と各年度の全体の成約率とを比較した。既述のとおり、2016市場年度については入手できたサンプル数が、信頼できる結論を導くには少なすぎた。しかしながら、フィンテックを除けば、アリス裁判に影響されるパッケージの成約率が上昇に転じた可能性がある。

図15が示すように、アリス判決前は、それに影響されるカテゴリーの成約率は市場全体を上回っていたが、判決後は低下した。この分析結果には、利用可能なデータの増加による変化が反映されている。2015市場年度に関する前回の分析では、アリス後も成約率が市場全体を上回っていた。

一方、フィンテックの特許のみについてみると、成約率はアリス後急落しているようにみえる(2015市場年度に比べ40%低下)。不思議なことに、フィンテックのパッケージの価格は遅行しており、急落した成約率に比べてそれほど下落していない。

売手

次に、2015年1月1日から2016年5月31日の間に受領したパッケージについて特許の売手を検討する(譲渡について最後に確認したのは2016年8月21日)。図16に示されるように、予想通り売却の大半は事業会社によるものであり、その比率は66%となっている(71%から低下)。今回低下した分は他の4つのカテゴリーにほぼ均等に分布していた。この売買データには相対売買が含まれていないが、仲介市場を扱う我々には、それを把握することはできない。

図16.2015~2016売却年における売手タイプの分布

この同じ期間における反復的売手についてみると、26の事業体が複数のパッケージを売却しており、その内訳は、事業会社が17社、防衛的アグリゲーターが5社、NPEが3社、投資家が1社であった。この売却は、パッケージの売却の36%、資産の売却の48%、米国発行特許の売却の50%を占めた。IVに関する記事で説明したように、クロスライセンス(あるいは移転時ライセンス)の保有により、継続的な売手から発生する特許へのエクスポージャーを大幅に低減することができる。反復的売手のリストは、どんなクロスライセンス戦略においても注視する必要がある(表7)。

買手

意外にも、事業会社が48%を占め、初めて最大の買手となった(34%から上昇)。NPEの購入は(42%から)34%に低下し、同様に防衛的アグリゲーターの購入も(21%から)今回は15%に低下した(図17)。IVの購入は(40件から)わずか13件のパッケージまで減少しており、これがNPEの低下の主因となった可能性がある。これはまた、IVのライセンシングと売却がどの程度成功しているのかという懸念につながっている。

図17.2015~2016売却年における買手タイプの分布

 

表7.反復的売手(2015~2016年に2件以上のパッケージを売却)

売手

アルカテル・ルーセント

アライド・セキュリティー・トラスト

ATT

BAEシステムズ・インク

ブリティッシュ・テレコム

カベオ

エリザベス・ダイヤー

エンパイヤーIP LLC

ハリス・コーポレーション

IBM

イメーション・コーポレーション

インテル

NEC

ネットソケット

ノキアソリューションズ&ネットワークス

パナソニック株式会社

ペットノートLLC

キネティック・リミテッド

ロックスター

ロヴィ・コーポレーション

TPラブ・インク

タイコエレクトロニクス

ベリサイン・インク

ベライゾン

ビデオマイニング・コーポレーション

ゼロックス/PARC

この期間中、123社の買手が202件のパッケージを購入し、28社の買手が複数のパッケージを購入した。反復的買手は売却されたパッケージの53%を購入した(表8)。上位3位までの買手(IV、RPXコーポレーション、AST)の購入は21%にとどまった(36%から低下)。さらに、RPXはIVに代わって最大の買手の座につき、パッケージの11%、資産の10%、米国発行特許の12%を購入した。

本分析の他の部分と同様、これらの数値には特許仲介市場のみが含まれ、相対売買は含まれていない。

訴訟および当事者系レビュー

売却されたパッケージ全体の10.2%は、提示日後、少なくとも1件の米国特許が訴訟に絡んでいた。今年度のデータセットは従来よりもかなり良くなっており、その比率は以前の報告よりかなり高くなっている。古いデータに基づくモデルの見直しを強く推奨したい。

ブローカーがパッケージを受領した後、資産がどのように使用されているかを確認するために、当社のデータベースに含まれるパッケージすべてを分析した。今年度は、米国の訴訟および当事者系レビューに関してより優れたデータソースを使用したため、その結果を前年度の分析と比較することが不可能になっている。2012~2016市場年度に受領されたパッケージに関するパッケージ・レベルの分析に焦点を合わせ、2016年10月現在で少なくとも1回は訴訟または当事者系レビューに絡んだパッケージを調べたところ、売却されたパッケージは、パッケージ全体よりも高い比率で訴訟や当事者系レビューに使用されていた(表9)。この表で、当事者系レビューについては、2014~2016市場年度に提示されたパッケージに絞っている。これは、米国発明法の完全施行後の状況を説明したかったためである。

表9によれば、購入された特許は、以前確認したときよりもはるかに高い頻度で訴訟または恐らくは非公開の主張(すべての当事者系レビューが訴訟につながるわけではない)に使用されている。米国特許についての分析を見ると、提示された米国特許の約1.2%が訴訟に絡んでいる。

表8.反復的買手(2015~2016年に2件以上のパッケージを購入)

買手

9051147カナダ・インク

アライアセンス・リミテッドLLC

アライド・セキュリティー・トラスト

北京小米移動軟件有限公司

カーロー・イノベーションズLLC

コムスコープEmeaリミテッド

ドーモ・インク

エンパイヤーIP LLC

フェイスブック・インク

フィナベーションズLLC

ジェムアルトSA

グーグル・インク

華為技術有限公司

インテレクチュアル・ディスカバリー・カンパニー・リミテッド

インテレクチュアル・ベンチャーズ

ナップ・インベストメント・カンパニー

リンクトイン・コーポレーション

マーキング・オブジェクト・バーチャライゼーション・ インテリジェンスLLC

マイクロソフト・テクノロジー・ライセンシングLLC

オープン・インベンション・ネットワークLLC

オプティマム・コミュニケーションズ・サービシズ・インク

パロアルトネットワークス

楽天株式会社

レッドハット・インク

RPXコーポレーション

台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・ カンパニー ・リミテッド

ツイッター・インク

ユニロック・ルクセンブルクSA

この新たなデータソースを使えば、売却されたパッケージが最初に訴訟に使用される時期をより正確に分析することができる(図18)。意外なことに、訴訟は購入から幾分遅れて提起されている。訴訟は、売却日から約4ヶ月経過後に本格的に始まり、最初の訴訟全体の約半数がほぼ1年後に提起されている。しかし、分布のすそは広く、売却から2年以上経過しても、訴訟された売却パッケージの約20%が、まだ最初の提訴に至っていない(このデータセットで売却から最初の提訴に至る期間が最も長いものは43ヶ月である)。

特許仲介市場に提示されたパッケージによる訴訟リスクに対応する戦略を策定する場合、どのパッケージが訴訟に使用されるかを理解していることが重要である。図19は、売却パッケージと非売却パッケージに起因する訴訟の比率を示している。このデータセットのパッケージはすべて、提示日以後訴訟に使用された米国発行特許を1件以上含んでいるが、提示後のすべての訴訟のうち56%が売却特許に起因している。これは、社内チームが果たす強固なリスク除去機能の重要性を浮き彫りにするものである。クロスライセンス、移転時ライセンス契約および防衛的アグリゲーターの会員加入を組み合わせることにより、そうした訴訟リスクを低減することができる。同様に、訴訟の残り44%は、1回も譲渡されなかった資産に基づいて提起されている。その原所有者は特許を売却できず、訴訟に踏み切ったのである。このことは、特許仲介市場の監視および防衛的購入が同等に有用であり得ることを示唆している。

市場全体の規模

今年度も仲介市場は縮小した。2015年6月1日から2016年5月31日までの実際の売買高は1億6,500万ドル(昨年度の2億3,300万ドルから減少)だったと推定される。

昨年のレポートでは、2016市場年度中に執行され、実際に観察された売買およびその売却希望価格を用いることにより分析を単純化する方法を採用したが、今回もこの方法を使用した。昨年度と同様、価格ガイダンスが提供されない場合は、資産1件当たり平均売却希望価格(例えば、2016市場年度の場合は197,000ドル)に資産数を乗じて予想売却希望価格を算定した。

2016市場年度には、118件の売却が特定され、売却希望価格の総額は2億4,200万ドルであった。同期間中の売却の一部がまだ登録されていないことは確かであり、その比率は約3%と推定されるため、売却希望価格と予想売却価格間の標準的な割引率35%を32%に引き下げた。その結果、2016市場年度の予想市場規模全体は1億6,500万ドルとなる。昨年度の分析では、2015年度の市場を2億3,300万ドルと推定した。したがって、市場は約30%縮小したことになる。

 

表9.パッケージにおける訴訟および当事者系レビューの関与頻度

  

訴訟に絡んだパッケージ

(2012~2016市場年度のパッケージ)

当事者系レビューに絡んだパッケージ

(2014~2016市場年度のパッケージ)

パッケージの種類

提示日前

提示日後

提示日前

提示日後

売却パッケージ

5.4%

10.2%

0%

3%

全パッケージ

3.8%

3.5%

0%

1.4%

図18.訴訟に使用された各パッケージの提示日から最初の提訴日までの月数の累積分布

提示後の訴訟活動

データの要約

   

2016年度の 実績要約

年間売買額

1億6,500万ドル

米国発行特許1件当たり売却希望価格

271,000ドル

特許資産1件当たり売却希望価格

197,000ドル

EOUによる売却希望価格の上乗せ

27%

パッケージの売却比率(cy)

21%

ブローカー職の被雇用者数

137人

売却パッケージの提訴率(tt)

10.2%

全パッケージの提訴率(tt)

3.5%

提示パッケージ数

772

 米国発行特許

6966

 特許資産

11478

パッケージ1件当たり資産数の平均

14.8

パッケージ1件当たり資産数の中央値

5

米国発行特許が10件以下の パッケージの比率

75%

 

 

  • すべてのデータは、特に注記された 場合を除き、2015年6月から2016年5月の市場年度のものである。

 

  • 暦年(cy) - 2015年暦年

 

  • 5月までの期間中の提示

 

平均的な手数料率である25%を用いれば、この市場におけるブローカーの収入は年間4,100万ドルである。ブローカー1人当たりの平均総賃金率(loaded labour rate)を年間30万ドルと推定して市場規模をバックテストし、137フルタイム相当量のブローカーという結果を得た。各仲介業者で3名のブローカーが働いていると仮定すれば、仲介業者数は約46社となる。我々のデータによれば仲介業者は73社であることから、仲介業者1社当たりのブローカー数がもっと少ないか、ブローカーがコンサルティングなど他の業務を行っていることが示唆される。さらに、各仲介業者は年間9件のパッケージを市場に提供している。しかしながら、我々のデータは、少数のブローカーが多数のパッケージを市場に提供し、大半は少数のパッケージしか提供していないことを示している。

機会および考察

我々は5年前、市場への情報提供のために特許仲介市場に関するこのレポートシリーズの執筆を始め、今後も続ける予定である(IAM第57号の「特許仲介市場に注目」、第63号の「2013年度特許仲介市場」、第69号の「2014年度特許仲介市場」、第75号の「2015年度特許仲介市場 - 急落か単なる踊り場か」)。

今年度の分析に基づく主な発見事項および要処理事項は次の通りである。

  • 仲介市場は1億6,500万ドルに縮小したが、依然として堅調で成長見込みがある。企業は、ニッチを埋め、主張に対抗するポートフォリオを構築し、潜在的なリスクコストに効果的に対応することができる。
  • IAMマーケットやIP3などの新たな調達源ができたことにより、利用可能な購入機会の状況が変わった。
  • データには逆風となる特許関連の判決の影響が現れており、NPEは減少したが消滅してはいない。売却特許および利用可能な特許による訴訟リスクが増す中、防衛的アグリゲーターの会員加入やリスクモデルを再評価すべきである。

特許市場への参加を目指す企業が増えており、市場の発展が続いている。企業は、市場データに合わせて調整した尺度を用いて自社の購入/売却プログラムの成功を定義すべきである。買手は、焦点を絞った調達および取得プロセスを通じて、高価値の特許をより効果的に特定するプロセスを効率化することができる(図12および関連する説明を参照)。さらに、買手は当社が提供する市場価格データを活用し、それを自社固有の評価モデルと組み合わせることができる。買手の期待は市場の効率化の進展に一役買っており、特許の調達源が増加・多様化し、EOUの提供が増え、価格ガイドラインがより明確になった。これらすべてが相まって、流動性が高まり、5年前より市場の透明性が大幅に改善した。

行動計画

特許を購入する場合は、

  • 購入のビジネスケースを作成し、解決しようとしている具体的な問題を特定する。
  • 購入プログラムのためにリターンをモデル化する。訴訟リスクに備えて既存モデルを調整する。
  • 特許の90%以上は自分のニーズに適合しないことを反映した購入作戦を準備する。早めにそうした特許を考慮外とすることは、コストの大幅削減になる(図12(a)~(d)および関連する説明を参照)。
  • 購入プログラムをできる限り実施可能なものにする。このことは次第に一般化しており、したがってすべての買手にとって重要性が高まっている。

プログラムのパラメータには以下のものが含まれる。

  • 日程表
  • 予算
  • 購入チームの権限と責任
  • 購入基準
  • 受入可能な特許パッケージの調達源のリスト
  • 優良な無認可企業のリストなど、特別な要件

以下は、望ましくないパッケージを迅速に排除するフェイルファスト(早めの除外)の選別プロセスである。

  • 興味深い市場や技術を特定するための基準をビジネスケースから抽出し、デューデリジェンスの必要性を確定する。
  • 市場、技術知識および法律面の多面的分析を実行し、いずれかの分野で不合格になったパッケージはそれ以上の検討を行わない。
  • 経験から学べるようにプログラムに関する基本情報を追跡する。

買値提示と購入に関する助言

  • 買値の上限を決定するために評価モデルを構築する。
  • デューデリジェンスは計画以上の時間を要することを想定する。
  • 投資家が関与する場合、投資家とのコンサルティング契約を追加することを検討する。
ケント・リチャードソンとエリック・オリバーは、米国のロスアルトスのROLグループの設立パートナー、マイケル・コスタは知的財産アナリスト。

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