ポートフォリオの縮小を進めるインテレクチュアル・ベンチャーズ

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インテレクチュアル・ベンチャーズが公表した2013年の資産と2016年の資産を比較することにより、同社の購入、売却および主張活動に関する結論を導き出し、いざという時の対応策を見いだすことができる。

2013年12月、インテレクチュアル・ベンチャーズ(IV)は特許収益化ポートフォリオの82%を占める33,000件の特許資産のリストを初めて公表した(2014年7月/8月発行IAM第66号「IVの特許ポートフォリオの内幕(What’s inside IV’s patent portfolio?)」参照)。我々は2016年1月に改めてこのリストを閲覧し、IVのポートフォリオに大きな変化があったこと、および同社が行ってきた活動内容を見いだした

リストの分析により、次のような重要な問題の答えが明らかとなった。

  • ポートフォリオ中、どの分野が拡大し、どの分野が縮小しているか。
  • IVは資産をどれだけ売却し、その資産は誰の手に渡ったか。
  • IVはどんな相手にどれだけの訴訟を提起したか。

なぜIVを分析するのか。それは、IVは最大の特許不実施主体(NPE)として、特許のライセンシングや購入、開発の分野で大きな影響力を有しているからである。他社は、この種のデータを利用してIVとの交渉に役立てたり自社の業務を比較評価したり、さらにはIVが目指す方向性をよりよく理解したりすることもできるであろう。

さらに、我々はこのデータの利用により、クライアントが、どんな点でIVから影響を受けやすいかについて理解し、同社とのライセンス交渉で事実に基づく主張を行い、類似したポートフォリオに対する自社のリスクを低減する長期計画を立てる際に支援することが可能となった。特に、我々のデータは、クロスライセンス、NPEへの移転時の自動発生(springing)ライセンス、およびマイクロプールによって、NPEの主張のリスクが大幅に低下することを示している。

事実に基づく我々の分析は、収益化ポートフォリオに関してIVから提供された情報を基礎としており、IVのビジネスモデルに対する意見の提示を意識的に避けている。本レポートの作成にあたっては、公表された資産リストを主に利用した。しかしながら、前回のレポートとは異なり、譲渡証検索(assignment search)によりデータを補足し、IVとも接触してデータの不明点について問い合わせた。そうした情報提供に関してはIVに感謝している。ただし、本レポートの分析や結論についてIVと意見交換することはなかった。

IVは、法人投資家の特許リスクの低減、および企業や個人発明者による発明の収益化の支援を公式の目的として2000年に設立された。同社は設立以降60億ドル以上の資金を調達したと報じられている。この資金の大半は、マイクロソフト、インテル、ソニー、ノキア、アップル、グーグル、ヤフー、アメリカン・エキスプレス、アドビ、SAP、NVIDIA、イーベイなど、ハイテク分野の法人投資家から拠出された。注目されるのは、グーグルがIVの第2、第3ファンドに投資しなかったことである。

2013年12月のIVの報告によれば、同社はそれまでに約55億ドルを調達し、うち約23億ドルを、主に発明投資ファンド(IIF)1/2の特許購入プログラムを通じて特許の購入と開発に支出し、残り22億ドルを業務や管理料に費やした。その途中で追加調達した5億ドルは、追加的な取得や業務、管理に使用された可能性が高く、あるいはIIF3に関して計画されている将来の取得に使われることが見込まれる。

IVは、収益の大半を製品生産やサービスの提供ではなく、自社のポートフォリオを他社へライセンシングすることによって得ている。IVは典型的なNPEなので ある。

本レポートの分析結果には意外なものがある一方、既存の見方を裏付けるものもある。要点として次のことを挙げる。

  • IVの第3ファンド(IIF3)は、少なくとも特許購入に関する限り、それ以前のファンドよりはるかに小規模と思われる。
  • IVは最初の2つのファンドから資産を売却しているが、売却先は他のNPEと見られる。
  • IVは、予想よりもはるかに短期間で資産を放棄している。我々は以前のレポートで、IIF1/2の50%が2021年までに失効すると予想した。現在では、資産の50%が2019年までに失効すると予想して いる。
  • IVとライセンス交渉を行う者にとって、発明科学ファンド(ISF)と発明開発ファンド(IDF)が引き続きライセンシングの見通しを複雑にしている。この2つのファンドは、IV内で他と異なる位置付けがなされており、所定の目的や権利関係が異なっている。ISFとIDFは取得基準が同じではなく、ライセンス基準も異なるようである。

図 1.IVのポートフォリオ - 公開部分と非公開部分

IVのファンドの概要

図1は、IVが購入または開発したと報告した特許資産 (約75,000件)、現在の資産収益化ポートフォリオ(約38,000件)および2016年に公表されたリスト中の資産(約35,000件)の関係を示している。我々は、IVの購入を分析するあたり、まず特許収益化ポートフォリオの内容を理解する必要があった。つまり、IVの現在の収益化ポートフォリオに含まれる38,000件の特許資産中、何件が投資や開発活動ではなく購入活動によって取得されたかが問題なのである。

図1の数値は、前回レポート以後のIVの購入、売却、処分に関するデータのほか、他のデータからの推定に基づいている。IVのウェブサイトには、一致しないが類似した数値が掲載されているが、これは2013年以降更新されていない。

図2を見ると、IVの収益化ポートフォリオはいくつかのファンド・カテゴリーに分散している。IIFは主にIVが購入した特許資産に相当する。分析の都合上、IIF1からIIF3を1つのファンドとしてまとめる。また、出願段階のもの、付与前の特許公報掲載のもの、および特許を含めて特許資産としている。IIF1/2の特許購入は何年も前に中止されている。前回レポート以後、少なくともIIF3の資金の一部が調達され、特許購入が開始されている。

図 2.IIF3の米国資産の譲渡登録件数の月別推移

ISFには、IVが自社開発した特許資産が含まれている。IDFには、IVが資金提供したR&Dによって創出された特許資産が含まれているが、IVは資金提供の見返りに、生み出されたいかなる特許資産のライセンス権も取得する。興味深いのは、IDF資産は大学とのライセンス取引の対象になる傾向が見られる点である。これら3つのファンド・グループは、収益化ポートフォリオ全体のそれぞれ約80%、10%、10%を占めている。ISFとIDFには、IVが容易に実施許諾できる特許とそうでない特許に関する制限があるため、交渉が複雑になる可能性がある。したがって、この2つのファンドには十分な注意を払うことを勧めたい。ISFとIDFはそれ自体興味深いが、分析の焦点はIIFに合わせる。それは、IVが費やす時間、資金および努力の大半がIIFに向けられているためである。IIFはまた、他企業にとって侵害リスクが最も高いポートフォリオでもあると考えられる。

IIFに焦点を合わせるため、直接IIFプログラムに帰属する収益化ポートフォリオの資産を特定する必要があった。図2に示されるように、IVの公表データ、譲渡証検索およびIVから提供されたファミリー情報を併用することにより、IIFには30,900件、ISFには2,900件、IDFには4,300件の資産があり、合計38,700件になると推定した。IVのファミリー規模はおよそ平均2.4資産であり、IVは約14,600件のファミリーを支配している。端数処理のため、列や行の合計が一致しない ことがある。

失効日の計算を単純化するため、存続期間を最初の優先日から20年と仮定し、期間延長や期間放棄は考慮に入れなかった。さらに、IVは失効資産をリストに掲載していないため、我々のデータは、2016年1月時点で有効な資産から成るIVのポートフォリオの状況を示している。IVは、概要を説明した文書で70,000件の特許資産を購入/開発したと述べている。我々の推定では75,000件に近い数字になるため、当該文書のデータは古いと考えられる。このことは、約36,000件の資産がもはや収益化ポートフォリオには含まれていないことを意味する。言い換えれば、IVが公表した収益化ポートフォリオには現在も有効な特許しか含まれていないことから、年ごとの分析には生存者バイアスが伴う。そのため、時期が早いほど、IVの購入活動に関する推定が困難になる。最後に、分析ではIVが直近(2016年1月)に公表したリストを使用したが、その日以降追加された 購入は考慮されていない。

表 1.2016年1月時点におけるIVのファンド別推定資産件数

ファンド名

収益化ポート フォリオ全体

IVの公表リスト上の収益化ポートフォリオ

米国の特許 および付与前公報

IVへの譲渡の 特定-IDFを除く

米国で購入したIIFのポート フォリオ-科学 ファンドを除く

IIF1/2(購入)

28,000

25,100

18,200

18,200

18,200

IIF3(購入)

2,900

2,700

1,800

1,800

1,800

ISF(自社開発)

3,600

3,600

2,300

2,300

0

IDF(大学との協力)

4,300

3,500

700

0

0

資産件数(概数)

38,700

34,900

23,000

22,300

20,000

IIF3 - IVの最新ファンド

IVの第3ファンド(IIF3)は厳しいスタートを切った。2014年4月、ロイターは、アップルとインテルはIIF3に投資せず、初期投資家はマイクロソフトとソニーだけになると報じた(www.reuters.com/article/us-microsoft-apple-patents-idUSBREA3A0R020140411)。我々は2014年7月に譲渡記録を分析し、IVがIIF3のために特許を購入していると報告した(www.richardsonoliver.com/news/2014/7/16/intellectual-ventures-is-buying-again)。その後、2015年4月には、アップルとインテルがIIF3に投資していると報じられた(www.iam-media.com/blog/detail.aspx?g=b106ad9b-330a-4b49-9f0a-697127dfda4e)。こうした状況全体からすれば、IIF3はIIF2ほど順調な滑り出しだったとは言えない。IIF2には企業以外の金融投資家も多かった。しかし、IIF2のリターンが低調と報じられたことから、IIF3では同様の投資家を見つけることが難しかった可能性がある。残るのは企業の戦略的投資家だけとなる。これらの企業は、IVが購入する特許のライセンス取得を望むと同時に、投資から利益を上げる可能性を追求する。IVを特許権主張者とみなす社会的に芳しくないイメージ(2011年7月22日に放送されたThis American Lifeの第441回「When Patents Attack」を参照)も、潜在的投資家層をさらに減少させる要因になったかもしれない。その結果、IVはIIF3の組成に必要な資本の調達に苦労し、その規模がIIF2よりはるかに小さくなった公算が大きい。

しかしながら、そうした厳しいスタートにもかかわらず、IVはIIF3のために約3,000件の特許を購入した。図2は、IIF3が実際に購入した米国資産の譲渡登録件数の月別推移を示している。ここには国際資産は含まれておらず、約3,000件というIIF3の収益化ポートフォリオ全体の規模に拡大する操作も行っていない。IVの購入は2013年12月に本格化した。例外的な取引(200件以上の資産の購入)を除けば、IVは1月当たり約31件の米国資産を購入している。今後も同様のペースで購入を続け、10年にわたって定期的に大規模な取引を行うと仮定した場合、IIF3は約13,600件の特許資産を取得すると予想される。失効を考慮すれば、ピーク時には有効資産が約11,000件になると見込まれる。これは、IIF1/2が取得したと推定される56,000件に比べると著しく少ない数値である。図3は、失効について調整した後のIIF3に関する予想を示している。

図 3.IIF3に関する予想(失効の推定を含む)

IVは、より小規模な資金プールで活動しているだけでなく、特許価格の高騰も懸念していると思われる。IVに関する過去の分析および年次市場分析によれば、IVは年間約1億5,000万ドルを市場に投入してきたと推定されるが、本来、それ以外の市場投入額が年間2億5,000万ドル程度であることからすれば、特許価格の 上昇が生じることも十分にあり得る。

IIF3のための現在のIVの購入意向

IVの購入意向が明らかになれば、IVが効果的な特許に該当すると考える基準を理解するのに役立ち、クライアントがIVのポートフォリオによる影響(または利得)を理解する助けとなり、IVのポートフォリオに関する今後の予測が可能になる。

図 4.IIF3が購入した技術

図4は、IIF3における特許の技術セクターと分野を示している。IVは依然として主に情報通信技術を重視している。我々は、セクターおよび分野に分けて特許を分析し、以前使用した技術カテゴリーに分類する方法を適用した。当然ながら、資産の大部分は電気工学セクターに集中している。このセクターはデジタル通信、半導体、視聴覚技術、ハードウェアおよびコンピュータ・ソフトウェアで構成される。ファイバー光学の関係者にとって重要なのは、IVがこのカテゴリーを重視しなくなったと思われることである。

購入時におけるIIF3の資産の存続期間

IVは明らかに、時間の経過した特許を選好している。IIF3の特許の大部分は、存続年数が6年から14年の時に購入されている(図5参照)。存続期間は、IVへの譲渡日と最初に主張された優先日間の差を年数として計算した。資産の存続期間は、購入者が購入の是非を決定する際に考慮する重要な特性の1つである。生存者バイアスを考慮に入れると、図5がやや左にずれることに注意されたい。つまり、実際には、購入時の残存期間がより長かったことが示唆される。しかしながら、IIF3は組成後間もないため、生存者バイアスの影響はさほど大きくないと見られる。存続年数がおよそ6~14年の範囲にある資産の購入を明確に選好していることからすると、IVは、特許の価値がほぼこの時期から現れ始めると見ていると言える。これは、我々がこれまで観察してきた事実であり、学術論文でも報告されてきた。優先日から8年が経過した技術は、市場で大規模に採用される見込みがあり、類似技術に対して競争力のあることが証明されており、十分成熟しているため先行 技術の主張に耐えられる可能性がより高い。

図 5.購入日における資産の存続期間

IVは引き続き電気工学セクターの資産を購入し、従来よりハードウェアや通信を重視すると見込まれる。

IIF3の購入資産のランキング

IVが購入しているIIF3の米国資産に対し、我々の自動ランキング・システムを適用した。そして、その結果を、IIF3の購入期間中に我々の広範なデータベース(ブローカー市場で売買された60,000件以上の特許で構成)に記載された米国資産のランキングと比較した。図6に示されるように、IVが購入した資産の方が、高ランキング資産の比率がはるかに高い。IVが高ランキング資産を購入していることは意外ではない。IIF1/2と比較しても、高ランキング資産の比率は高水準にある。IVは、このファンドについては潜在的価値の高い資産への 集中度をはるかに強めているように思われる。

IIF3は組成後間もないため、IIF1/2を分析した時とは異なり、取得後の集中的な継続活動に関するポートフォリオの分析は行わなかった。IVは、従来より精選しながら、取得後の開発を継続することが予想 される。

IIF3におけるIVの支出額

図 6.ブローカー市場全体の資産と比較したIIF3の資産のランキング

IVの最初の8年間の購入に関する公表データおよび散発的なコメントからすると、IVは引き続き、市場の最低水準付近で資産を購入していると思われる(以前は、資産1件当たり約50,000ドルを支出)。IVが、特許の市場価格の下落を捉えて現在30,000~45,000ドルで購入していると仮定した場合、合計8,700万~1億3,000万ドルが支出されていることになる。これは2年間の金額のため、年間では新たな資産に4,400万~6,500万ドルが支出されている。この金額は2008年のピーク(推定1億5,000万ドル)を大幅に下回っている。

IVへの売却者

図7は、IVへのIIF3の資産の上位売却者を示している。従来の分析結果と同様、上位売却の多くは困窮企業である。例えば、NXP、ノキア、ゼロックス、シリコンバレーバンク(その資産が、破綻企業の資産に対する質権行使により取得されたと仮定する)、富士電機、ソニーおよびスパンションはすべて、近年売上や利益が減少しているか、完全に消滅した企業である。NXPとアメリカン・エキスプレスによる売却資産は現在、IIF3の資産の50%を占めており、上位16位の売却者はその80%に達している。

我々のアドバイスはこれまでと同様、リスク低減のために、積極的なクロスライセンス、ライセンス・オン・トランスファー、およびASTやRPX、OIN、ユニファイド・パテンツなどの組織への参加を効果的な戦略に組み込むことである。これらの措置の中には、最低限の費用しかかからず、自身のポートフォリオへの影響も限定的なものもある。IVのポートフォリオによる全体的影響を低減するには、これらの戦略の検討が不可欠であることは、データから明瞭である。

図 7.IVにIIF3の資産を売却した上位企業

ポートフォリオ管理

IVが購入した資産をどのように扱っているかを見れば、同社の戦略について多くのことが明らかになる。IVは資産を第三者に売却し、放棄率を引き上げ、自身の国際特許へのエクスポージャーを削減している。ここでの分析にあたっては、主にIIF1~3のデータを用いている。

売却

上述のように、IVは保有特許を売却している。我々は、現在751件の特許が第三者の手に渡ったことを確認した。これらの特許の多くは、その後訴訟に使用される。残念ながら、IVのライセンスを取得していない企業にとって、このことが持つ意味は明瞭である。すなわち、ライセンスを取得していなければ多数のNPEの主張に直面するということである。とはいえ、新しい所有者が全部NPEというわけではない。ベライゾンやシスコもIVから特許を購入している。

ライセンスの所有企業や交渉中の企業は、自身が利害関係のある特許をIVが売却することを想定すべきである。IVが売却するすべての資産に対し、永続的ライセンス付与の条項を盛り込むことを強く推奨する。期間限定のライセンスを取得していると、IVがその特許の実施許諾権をもはや有していないことを知って大いに困惑することになりかねない。

図8はIVがこれまでに売却した資産の技術分野を示している。当然ながら、これらは、コンピュータ技術や電子商取引、通信など、IVが最も多くの資産を保有する分野でもある。

図 8.新所有者によるリスクプロファイル(技術分野別)

失効と放棄

前回レポート以後、我々は、1,437件のIIF1/2の資産が期限の到来(63%)または維持費の未払い(37%)により失効したと判断している。重要なことは、IVが予想よりも早く資産を放棄していることである。前回レポートでは、IIF1/2の50%が2021年までに失効すると予想していた。現在の予想では、2019年までに資産の50%が失効する。このことは、より小規模な資産基盤および恐らくはより低価値のライセンスを伴うライセンス・モデルへの変更が必要になることを意味する。企業は自社のモデルに、今後ライセンス料が低下することを織り込んで おくべきである。

図9は、IVが特許を放棄している技術分野を示している。放棄について次のような特徴が見られる。

図 9.IVの放棄 - もはやリスクではない

コンピュータ技術と電気通信では大量の放棄がなされている。このことは、これらの分野の現資産が十分であるか、ファミリーを十分開発したためそのパテントファミリーの他の特許を放棄できるとIVが感じていることを示唆するものである。

光学はIVにとって不成功だったと見られ、購入を 削減し、他よりもはるかに速いペースで放棄している。

一部のソフトウェアと金融技術の分野では、米国最高裁のアリス判決を受けて放棄が増加している可能性がある。

IIFのポートフォリオ全体の予想

IVの資産基盤全体の傾向や予測に目を向けることが、ライセンシングや更新の協議前に計画を立てるのに役立つ可能性がある。IIFの現在有効な資産数に着目すると、過去2年間に約1,000件の資産が純減している(IIF3向けの購入件数とIIF1/2の放棄および売却件数の差異)。IVの破綻のうわさを信じた場合に想定されるほど大規模ではないとしても、資産基盤の縮小は今後注視すべき重要な傾向である。

図 10.今後10年間のIIFファンドの予想(年末時点)

資産基盤の縮小傾向は、間もなくIIF1/2の古い資産が大量に失効するのに伴い一層明瞭になるであろう。図10は、今後10年のIIFの予想規模を示している。3つのファンドすべてにおける失効およびIIF1/2に比べ小規模なIIF3の購入が原因で、IVの有効資産基盤は約30,900件から約13,100件に縮小する。この予想には、IVが別のファンドを組成する可能性は織り込まれていない。これまでIVはほぼ5~6年おきに新ファンドを組成してきた。

国際資産の状況

IVは従来、米国資産を中心としてきており、低価格で入手可能な場合に国際資産を取得してきた。表2は、ファンド別に見た出願国の内訳を示している。全ファンドを併せると約14,600件のファミリーがあるが、うち1,158件には米国資産が一切含まれておらず、9,540件は米国資産のみから成っている。(このセクションではIVから直接提供されたデータセットに切り替える。そこには、IVの国際資産の保有の分析に役立つファミリー識別子が含まれている。このセクションのデータは、本レポートの他のデータとは直接比較できない。しかしながら、我々はファミリー分析を利用して他のデータを補足し、ポートフォリオ中の国際資産の比率やファンド規模を推定した。公表リストと同様、このデータセットも収益化ポートフォリオをすべて含んでいるわけではない。)

表 2.IVのポートフォリオの上位国内訳(ファンド別)

国・地域

IIF1/2

IIF3

ISF

IDF

不明 ファンド

米国

18,821

1,004

2,348

670

205

日本

1,490

12

114

1

2

英国

1,256

19

61

21

205

ドイツ

1,143

14

41

16

36

フランス

1,122

11

12

19

190

韓国

890

8

127

33

256

中国

860

13

203

44

280

台湾

596

8

5

20

198

欧州特許条約加盟国

405

16

140

1

14

特許協力条約加盟国

382

7

20

3

9

カナダ

178

10

0

28

231

インド

52

9

18

8

223

現在のところ、IIF3の購入では他のファンドに比べ米国の比率が極めて高い(89%対69%)。これは、少数の大規模な低価格の購入に、主として米国資産が含まれていることに起因する公算が大きい。今後、国際特許に焦点を移してその購入を増加させるかどうかに注意して、引き続きIVの購入を見守っていくつもりである。米国の特許環境が厳しいこと、IIF3の本部が欧州にあること、および欧州統一特許の可能性を踏まえると、IVはIIF3の国際資産の比率を高めることが予想される。

訴訟および特許審判部への請求

焦点を管理からライセンシングおよび主張に移せば、周知のように、IVは大量の実施許諾と訴訟を手掛けている。訴訟は、ライセンシング活動の代用物であると同時に、ライセンシング活動を著しく軽んじた結果でもあると考えられる。IVは、企業との非公開の協議で特許権を主張することに比べれば、訴訟に踏み切る頻度ははるかに少ないと思われる。下表の企業名や技術カテゴリーを見ると、IVがどんな分野でライセンシーとの交渉に苦労しているかの構図が浮かび上がってくる。ワイヤレス・サービスの提供業者から金融サービス、半導体、小売に至る様々なセクターで、IVは多数の企業と紛争している。これらの企業はすべて、IVからライセンス取得を持ちかけられ、その価格が高すぎるとして拒絶したものと思われる。

ポートフォリオ全体に対する比率からすれば、IVの訴訟や当事者系レビューは比較的わずかである。しかしながら、総数の点では大量になる。IVが現在公表しているライセンス可能な資産のリストを見ただけでも、120件の訴訟が資産取得後に米国で提起されている。これらの訴訟には、148件の独自の米国特許に関する575の主張が含まれている。これほど多くのセクターや技術にわたって、これほど多くの特許について、これほど 多数の訴訟を提起した組織は他にないと思われる。

表 3.IVが原告として提訴した頻度の高い相手企業

当事者

提訴件数

AT&T

9

シンギュラー

8

T-モバイル

7

スプリント・ネクステル

6

USセルラー

6

ネクステル

6

SBCインターネット・サービス

5

キヤノン

4

クリケット・コミュニケーションズ

4

ウェイポート

4

キャピタル・ワン

3

シマンテック

3

表3は、IVが最も多く提訴した相手方企業を示している。3回以上提訴された12社のうち9社が通信企業である。このことは、ワイヤレスやWiFiサービスの分野におけるIVのキャンペーンが厳しい逆風に直面し、訴訟のみが行き詰まりを打開できるとIVが感じたことを示すものである。また、この業界に対するIVのアプローチに 重大な問題があることも示唆している。

表 4.IVを相手方とする当事者系レビューの請求者

当事者

請求者となった頻度

インターナショナル・ビジネス・マシーン

23

エリクソン

19

オールド・リパブリック・インシュアランス

8

キヤノン

7

コマース・バンク

6

ファースト・ナショナル・バンク・オブ・オマハ

6

コンパス・バンク

6

グーグル

5

マーベル・セミコンダクター

5

BBVAコンパス・バンクシェアーズ

5

ファースト・ナショナル・バンク・オブ・ネブラスカ

5

東芝

4

モトローラ・モビリティ

3

ビットコ

3

グレート・ウェスト・カジュアルティ

3

ザイリンクス

2

ユニファイド・パテンツ

1

表 5.IVをを相手方とするビジネス方法特許レビューの請求者

当事者

請求者となった頻度

バンク・オブ・アメリカ

5

PNCバンク

5

ペイメンテック

2

JPモルガン・チェース

2

チェース・バンクUSA, NA

2

オールド・リパブリック・インシュアランス

2

グレート・ウェスト・カジュアルティ

1

ビットコ

1

モトローラ・モビリティ

1

グーグル

1

企業の方もIVに対抗して当事者系レビューやビジネス方法特許レビュー(covered business method review)を利用しているが、それは、資産がすでに法廷で争われている場合にほぼ限定される。IVは、42件の特許について80件の当事者系レビューで、また11件の特許について11件のビジネス方法特許レビューで防御に回っている。当事者系レビューおよびビジネス方法特許レビューの対象特許のうち、IVが提訴していなかったのは4件にすぎない。つまり、(複数の事案)の訴訟で主張されている148件の独自資産のうち44件で、少なくとも1つの当事者系レビューまたはビジネス方法特許レビューによって異議が申し立てられているのである。当然ながら、資産に関する主張がなされた事案が多ければ、特許審判部(PTAB)に異議申立てされる可能性もそれだけ高くなる。表4と表5は、当事者系レビューおよびビジネス方法特許レビューを申請した頻度の点で上位の企業を示している。表3を表4および表5と比較すると、企業に重なりのないことに気付く。例として表4のIBMを用いれば、IBMが当事者系レビューを請求したIVの特許は、IVがIBMに対して提訴した特許ではない。しかし、両社はこれまで訴訟で激しく争ってきた。恐らくは、IVはIBMに働きかけてきたが、今のところ提訴には踏み切っていないという状況が推測される。

表 6.IVの公表リストにありながら、IVが原告になっていない事案(2件以上)

当事者

提訴された 事案数

リンクトイン

3

キャピタル・ワン・ファイナンシャル

2

ウォルマート・ストアーズ

2

ブルーキャット・ネットワークス

2

フリースケール・セミコンダクタ

2

オービッツ

2

サブレントUSA

2

エコー・ブリッジ・エンタテインメント

2

ファイネム

2

MG DP

2

ウェル・ゴーUSA

2

RLJエンタテインメント

2

ザ・ワインスタイン

2

マインドギークUSA

2

プラチナム・ディスク

2

ノードストローム

2

ギャップ

2

120件の訴訟のうち48件はIV名で提起されていない。しかしながら、それら48件の特許は依然としてIVの公表リストに含まれている(IVがライセンシングに使用可能)。これらの訴訟は表3には含まれていない。IVが一定の特許について、その売却後も一定の実施許諾権を保持していることは間違いない(少なくとも一定期間は)。表6は、提起された訴訟のうち、その資産が第三者に譲渡されたと見られるにもかかわらず、IVがそれを収益化ポートフォリオの一部として報告しているものを示している。全体的に見ると、IVは、間接的な収益化のためにポートフォリオの一部を売却し、それによって、潜在的なライセンシーに対しライセンス取得を早めるよう圧力を高めていると思われる。

表 7.主要傾向の概要

概要

2016年1月

2013年12月

IVのポートフォリオの全体的規模

(2013年は公表、2016年は算定)

38,000件

40,000件

IIF1/2の特許の50%が失効する年

(IIF3を除く)

2019年

2021年

IVの購入資産の平均残存年数

11年

10年

年間平均購入資産件数(規模調整後)

(IIF3の数値には2件の大規模取引が含まれる)

899件

3,972件

年間平均購入費(推定)

5,500万ドル

1億700万ドル

ファンド全体の60%の資産のIVへの売却企業数

5社(IIF3)

100社(IIF1/2合算)

IVが提訴した特許件数

575件

352件

当事者系レビュー件数

(IVが防御側の場合)

80件

該当なし

ビジネス方法特許レビュー件数

(IVが防御側の場合)

11件

該当なし

リスクの評価

IVの収益化ポートフォリオの公表リストが引き続き利用可能なことにより、同社が60億ドル以上を特許の購入や開発に向けてどう投入したかに関する知見が得られる。資金調達が減少し、売却が進められ、放棄が増大しているため、今から5年後、10年後のIVのポートフォリオは大きく様変わりしていると見られる。規模が縮小し、高価値の資産への集中が進んでいるであろう。

IVへの売却者が一部に集中する状況が続くことを踏まえると、企業は、長期的なクロスライセンスやライセンス・オン・トランスファー、集団的防御によって、IVや類似したNPEの特許リスクを大幅に低減することができる。IIF3では、ごく少数の困窮企業のライセンスがポートフォリオの大部分を占めている。さらに、IVの売却活動が企業にとって新たなリスク源になっている。売却された資産のほとんどがNPEの手に渡る中で、IVはライセンスを取得させるべく企業に引き続き圧力を加えている。

我々は、IVのポートフォリオから影響を受けるリスクの診断を企業に推奨する。標準化した技術分野別に、企業の収益源とIVポートフォリオの特許失効日を比較することができる。これは、製品セグメントごとに時間経過に伴う特定のリスクを評価し、IVと交渉する事態が生じた場合、情報源として使用することができる。同様に、訴訟、当事者系レビューおよびビジネス方法特許レビューの当事者名は、企業が自身の業界における潜在的リスクをあらかじめ特定するのに役立ち 得る。

行動計画

IVと取引する企業またはIVの主張に直面している企業は以下のことを考慮すべきである。

  • 自社の競争相手が訴訟の表に含まれているか否かをチェックする。IVからまだ接触を受けていないとすれば、主張に備えることを推奨したい。
  • IVからの影響の受けやすさを分析する。まずIVからどんな影響を受けるかを判断した上で、ポートフォリオのその部分がいつ失効するかを調べる。
  • IVと取引する事態になった場合の主な取引条件を検討する(例えば、資産がIVの手から離れたことを条件とするライセンス・オン・トランスファー、または使用の証拠を提示された特許の永続的ライセンス)。
  • クロスライセンスまたは譲渡時に自動発生するライセンスの契約により将来のNPEのリスクを低減する。
  • 特許購入プログラムの基準を改善して、優先日から6~14年が経過した特許や分割出願が利用できる特許に重点を置くようにする。購入後、取得資産の特許開発計画を実施する。

筆者紹介 エリック・オリバーおよびケント・リチャードソンは米国カリフォルニア州ロスアルトスに拠点を置くROLグループのパートナー、マイケル・コスタは知的財産アナリスト

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