ブラジルが、関連する手続きの迅速化に向けた新たな生物多様性法を制定

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新たな生物多様性法はブラジルの豊かな遺伝資源へのアクセスを管理するものである。同法に基づき、遺伝資源やこれに関連する伝統的知識の向上およびそれらの持続可能な方法での利用の促進を目的とする利益配分国家基金が設立される。

2015年11月、ブラジルは生物多様性条約を受けて法律第13123/2015号を制定した。同法は、ブラジルの遺伝資源へのアクセス、これに関連する伝統的知識の保護とその知識へのアクセス、および生物多様性の保全と持続可能な利用のための利益配分を 規制することを目的としている。

同法は、これまで生物多様性分野の発展を妨げていた多くの側面が検討され、旧法に比べて大きく改善されている。さらに、ブラジル連邦憲法では、政府は国の遺伝財産の多様性と健全性を保全するとともに遺伝素材の研究機関および操作を監督しなければならない(憲法第225条)と定めており、同法はこの基本的な指針に従っている。

旧制度

旧法(暫定措置令第2,186/2001号)の規範的な内容は非常に厳格かつ制限的であり、また国の遺伝財産へのアクセスを求める人々のニーズにそぐわない部分があり、その結果、国としての技術的発展が妨げられてきた。こうした背景から、ブラジルは長い間、医薬品や化粧品などの新製品の技術開発のために生物多様性を資産として利用することを阻害する国とみなされてきた。

15年間実施されてきたこの制限的な法的枠組みは、国の発展に悪影響を及ぼした。国内の生物多様性に基づく研究を可能にし促進する法令がないため、ブラジルの一部の研究者は科学的知識を生み出すことができなかった。さらに、国際的な研究機関との重要な連携も失われた。現在では、新たな生物多様性法により国際機関との連携が著しく進展している。また同法は企業にのみ利益配分を要求し、研究者にはそれを免じている。

また上記の利益配分協定は、最終製品と生殖素材の経済的開発についてのみ、かつすべてのイノベーション活動が終わった後の段階で要求される。このことは基礎研究者に有利に働く。それは、通常、基礎研究者にとって経済的目的で生物多様性にアクセスすることが主な動機ではないからである。同法は、研究から得られた成果を規制することだけを目的としているため、現在では、科学的・技術的研究活動の開始に必要な プロセスが簡素化されている。

利益配分国家基金

この新モデルは、遺伝財産の利用に関連する1%を提供することを定めている。新法第24条によれば、起源が特定可能な伝統的知識へのアクセスにより、最終製品または生殖素材が生じる場合、この伝統的知識の提供者は、公正かつ衡平な形式で取り決められた利益配分協定により利益を収受する権利を有する。

同一の伝統的知識に関する他の保有者に対する利益配分は、利益配分国家基金を通じて常に金銭的方式で行われる。この場合、支払われる金額は、同法20条に定める金額、すなわち、経済的開発で得られる年間純売上高の1%相当(留保が行われる)または分野別協定で定義された金額の半分である。注目すべきは、同一の伝統的知識について必ず他にも保有者が存在すると想定されていることである。

利益配分国家基金は環境省と連結されており、遺伝資源やこれに関連する伝統的知識の価値向上およびそれらの持続可能な形での利用の促進を目的として いる。

同法第19条では、遺伝資源および関連する伝統的知識から生じる最終製品または素材の経済的開発から発生する利益の配分方法としては、金銭的および非金銭的方式の2種類が定められている。金銭的方式は利益配分国家基金への預託を通じて実行される。非金銭的方式による利益配分の例としては、生物多様性の持続可能な利用や保全を目的としたプロジェクト、技術移転、知財権による保護を伴わない製品提供、ライセンス付与、遺伝資源または関連する伝統的知識の保全および持続可能な利用に関連する問題に関する人材研修、ならびに公益プログラムにおける製品の無償配布が ある。

研究とイノベーションの促進

ブラジル上院科学技術委員会は、この新法によってもたらされる科学、技術およびイノベーション活動の進展として以下のようなことを挙げている。

• 従来のアクセス許可に代わる電子登録。

• 科学研究活動と生物資源探査(bioprospection)の区別がなくなる。

• 市場性のある製品や生殖素材が実際に実現された時点でのみ利益配分協定の必要性が生じる。

• 金銭的利益を利益配分国家基金に直接預託することを選択した場合、利益配分協定の締結を免除される。

• 第三者による遺伝資源または関連する伝統的知識へのアクセスから発生した最終製品、工程または生殖素材に関する何らかの形での知的財産権のライセンス付与、移転または使用許諾した場合、利益配分の義務を免除される。

• 零細企業と小企業は、利益配分の義務を免除 される。

• 遺伝資源へのアクセスから生じた工程のイノベー ションは今では利益配分の義務を免除される。

• 遺伝資源または関連する伝統的知識へのアクセスにより得られた最終製品や生殖素材に関する知財権が管轄機関から付与されるための要件が簡素化され、現在では登録もしくは許可だけですむ。

• 遺伝資源または関連する伝統的知識へのアクセスが科学研究のみを目的として行われる場合、対象となる規制活動に関する確約書を提出する必要はない。

• 遺伝資源および関連する伝統的知識へのアクセスから得られたイノベーションの経済的開発から生じる利益配分プロセスの確立がより明確化・簡素化され、取引費用や難しさが低減される。

• 遺伝資源および関連する伝統的知識に関する研究や技術開発の促進などを目的とする利益配分国家プログラムの策定。

• 最終製品の製造者のみに利益配分を要求し、中間段階の原材料サプライ・チェーンは除外する。

• 学界代表者をブラジルの遺伝財産管理委員会(CGEN)のメンバーに加える。

同法の施行によって確立されたこの新制度の主要目的の1つは、ブラジルの遺伝財産が絡む科学研究 活動や技術を促進することにある。

ブラジルの多様な生物群系は極めて豊富な植物相や動物相を反映している。同国が世界有数の生物多様性を有することは広く知られている。ブラジルはこうした豊かな生物多様性を持つため(地球上の種全体の20%以上が生息)、メガダイバース(生物多様性)友好国17カ国中最も重要な地位にある。こうした理由により、遺伝資源および関連する伝統的知識へのアクセスに関する官僚主義の低減に特に重点を置いた現代的な法令を導入することが極めて重要になる。

同法によれば、同国に存在する遺伝資源または関連する伝統的知識にアクセスし、当該アクセスから最終製品や生殖素材の研究や技術開発および経済的開発を行う場合、事前の登録、許可または通知が必要であり、また検査、制限および利益配分の対象となる。現在では手続きが簡素化されており、遺伝資源または関連する伝統的知識にアクセスする際に必要とされる手続きは、それに関連する活動を国家遺伝財産管理システム(SISGen)と呼ばれる電子データベースへの登録のみとなっている。これは、開発に関する事前許可を得る必要をなくして、遺伝資源または関連する伝統的知識へのアクセスに関連する手続きをすべて迅速化することを 意図したものである。

法律第13123/2015号第11条の規定では、策定された要件が適用される活動が網羅的な項目として明らかにされている。それらは次の通りである。(i) 遺伝財産または関連する伝統的知識へのアクセスに関連する活動、(ii) 遺伝財産のサンプルの国外への送付に関する活動、ならびに(iii) ブラジル領土内、大陸棚、領海内および排他的経済水域における生息域内の状況で見出される植物および動物種(家畜種を含む)のサンプルにおいて実行される、遺伝財産または関連する伝統的知識へのアクセスから生じる最終製品または生殖素材の経済的開発に関する活動、(iv) ブラジル領土内、大陸棚、領海内および排他的経済水域における生息域内で収集された後に生息域外の状況で保存されている植物、動物および微生物種のほか、在来種、地方種または外来種、(v) 現地適応種または外来種、(vi) 人間の行為によりブラジルに持ち込まれ、ブラジルの顕著な特徴となった野生個体群の種、およびブラジル領土、領海、排他的経済水域または大陸棚で収集され、生息環境 から分離された微生物。

注目されるのは、遺伝資源および関連する伝統的知識へのアクセスを外国人に認めることが禁止されていること(生物多様性法第11条1項)、および遺伝資源に関連するサンプルの国外送付が素材移転の条件書への署名に依拠すること(同2項)である。遺伝資源や関連する伝統的知識に関連する活動を展開する際は、事前登録が常に必要となる。

アグリビジネス

同法がブラジルのアグリビジネスに与える好影響について触れておくことが重要である。準備段階で極めて厳格なアクセス要件が強制的に適用されることがなくなり、その先のビジネスの実行可能性に関する確実性の閾が下がったため、経費が削減されると見込まれる。もう一つの重要な点は、農業活動に関わる遺伝資源または関連する伝統的知識へのアクセスから生じる製品の経済的開発による利益の配分が、生産チェーンの最後の輪(最終製品)のみに適用されるようになったことである。つまり、中間段階の製品は利益配分の対象とみなされない。新法のこの除外措置により、ある意味で経費削減がもたらされたため、業界は生産拡大を奨励されていると理解できる。

これらの改革はすべて大幅な経費削減につながり、新製品の開発に関する法的な確実性やインセンティブをもたらすため、農業分野の研究や技術開発が強化される。さらに同法は、利益配分に関するプロジェクトによる技術移転の促進や、遺伝資源または関連する伝統的知識の保全および持続可能な利用に関して人材への研修支援を拡充する傾向を通じて、イノベーションをもたらしている。

システムの能率化

イノベーションの創出を目的とする技術研究に関して言えば、この新たな法的枠組みにより、新製品を生み出す確実性が欠ける場合でも要求されていた当事者間の事前合意の必要性がなくなった。そのため取引コストが大幅に削減され、プロジェクトに関与する全員が、イノベーションの見通しの改善や配分される利益の増大による恩恵を受ける公算が大きい。

現行法によれば、国内の外来種のほか、食品、繊維、エネルギー、原材料およびその他の製品、副製品ならびに農産物、水産物および林産物の生産に関する経済活動は、利益配分を免除される。

注意すべきは、同法制定以前にCGENによって許可されていた利益配分プロジェクトは、その残存期間については効力が維持されることである。

利用者は、CGENによる登録が利用可能となった日から1年間、この新法の規定を遵守しなければならず、遵守しなかった場合、違反者はそこに定められたペナルティを課される。しかしながら、登録は依然として規則に左右される状況にある。2016年4月5日には規制令案が公表され、その市中協議が2016年5月2日に 終了した。

強調しておくべき重要な問題点は、この法律の規則制定の遅れに関係している。同法の規制令が公布されるまで、今年公表されたブラジルの在来遺伝資源が絡む研究すべてが違法となる。その理由は、同法によれば、研究者はそうした研究の公表前に研究データについて電子登録しなければならないとされているが、同法の規則が前提となるため、そのシステムがまだ存在していないからである。したがって、研究者は現在、その研究の継続に関して問題に直面している。最終的な政令が早く承認されることが望まれる。

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アンドレア・グランソン

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ルイス・レオナルドス・アンド・アドボガードスのパートナー。生物学者で、知的財産とイノベーションの分野で修士号を持つ弁護士。専門分野はバイオテクノロジー、製薬その他の関連科学における特許に関わる出願、訴訟および知財コンサル ティング。

タチアーナ・シェンク

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ルイス・レオナルドス・アンド・アドボガードスのパートナー。化学エンジニアで弁護士、環境化学で大学院の学位取得。専門分野は化学工学、バイオテクノロジー、製薬その他の関連科学および植物種に関する特許の出願および訴訟。

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