誕生間もない自動車セクターの特許市場

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テスラモーターズが、特許を誠実に行使する相手には特許権を行使しないと保証したとき、多くのウオッチャーは、同社が将来の収益化の機会を多数放棄したと感じた。しかしながら、自動車業界のサプライ・チェーンの特異性を考慮すると、現実はもっと複雑である。

日では、TVのスイッチを入れると、必ずと言ってよいほど自動車メーカーのコマーシャルが流れ、車内搭載WiFi(ビュイック)、ヘッドアップ・ディスプレー(フォルクスワーゲンの2016年型パサート)、危険予測型衝突回避システム(アウディ)、モバイル・オフィス(シボレーのピックアップ・トラック、シルバラード)などの技術的機能を大げさに宣伝する。これらの機能の中には、新しい車載ハードウェアを必要とするものもあるが、多くは、すでに車内に組み込まれた数十種の車載制御装置の1つまたは組み合わせによって利用可能となるソフトウェア上の機能にすぎない。これらの車載制御装置は、次のような車内の様々なシステムを管理している。

  • エンジン
  • 変速機
  • アンチロック・ブレーキ・システム
  • 走行制御装置
  • エアバッグ安全装置
  • エンターテイメント・システム
  • 空調装置
  • インストルメント・クラスタ(計器類)

一部の推計によれば、今日の自動車には最大1億行のソースコードのソフトウェアがインストールされている。こうした技術統合の成長に伴い、自動車分野の新特許への関心が高まっている。このパターンは重機メーカーにも当てはまる。例えば、キャタピラーの場合、2011年から2016年までの間にソフトウェア関連の技術ユニットで取得した特許の方が内燃機関や動力装置関連の技術ユニットで取得した特許よりも多かった。自動車メーカーは多くの科学分野の発明を統合しているものの、自動車分野の特許活動の直接的な件数は、概ね製薬、半導体、ソフトウェアなどの他セクターに次ぐ規模にある。もっとも、自動車分野の特許はその価値が低下傾向にある。

だからといって、自動車の特許が無価値というわけではない。自動車の特許に関する最も興味深い逸話の1つは(間欠式ワイパーを巡るフォードとクライスラーに対するロバート・カーンズの訴訟は別として)、1969年にゼネラル・モーターズがバンケル式ロータリー・エンジンの設計にライセンス料として5,000万ドルを支払ったことである。当時の5,000万ドルの当初ライセンス料は現在なら約3億1,100万ドルに相当する。これは、当初ライセンス料としては極めて高額であり、製薬や医療機器、一部の半導体セクターを除けば桁外れの水準である。では、自動車分野への関心の背後にはどんな要因があり、この分野の特許を巡る新たなゴールドラッシュは経済的に引き合うものだろうか。

自動車の製造

自動車にはどんな特許価値があるのかという問いに答えるには、まず自動車の構成要素について完全に理解しておく必要がある。主なコスト変動要因には原材料、労務費、管理費、宣伝費、R&Dがある(図1参照)。

図1.自動車生産・販売におけるすべての原価の全体的構成

原材料(例えば、鋼鉄、鉄、アルミ、プラスチックなど)は平均的な自動車の47%を占めているが、これらの品目にIP価値を配賦する機会はほとんどない。同じことは、直接人件費、物流、管理費、減価償却および宣伝費についても言えるであろう。特許権は通常、自動車のR&Dの要素に現れるが、R&Dが占める割合は全体の約6%である。しかしながら、このことは、自動車メーカーのシステム・レベルで存在する特定の知財の内容を考慮していない。したがって、原価配賦は、メーカーが特許権について支払い得る金額に直接影響するものの、高価値の機会が実際、自動車のどこに存在するかは、原価配賦そのものからわかるわけではない。

メリルリンチは長年、「誰が自動車を作るのか」というレポートで自動車の価値の源泉を追跡し、それに関するリサーチ・レポートを公表してきた(前回発行は2012年)。そこには、自動車のコスト・センターのシステム・タイプ別内訳が詳細に示されている。表1はこの詳細を要約したものである。

表1.自動車のコスト・センターのシステム・タイプ別内訳

コンポーネント・システム

1台当たり原価 (ドル)

構成比(%)

エンジン

$2,550

17.77%

車体・構造部材

$2,475

17.25%

電子機器・電装品

$1,805

12.58%

内装

$1,355

9.44%

伝動装置

$1,325

9.23%

アクセル、ドライブ・シャフトおよび部品

$850

5.92%

空調装置およびエンジン冷却

$735

5.12%

サスペンション

$500

3.48%

制動装置

$450

3.14%

ステアリング

$395

2.75%

ホイールおよびタイヤ

$400

2.79%

燃料装置

$365

2.54%

乗員保護装置

$365

2.54%

オーディオおよびテレマティクス

$335

2.33%

排気装置

$300

2.09%

ボディガラス

$145

1.01%

合計

$14,350

100%

表1のデータが明瞭に示すように、問題となる知的財産の価値はそれがどこにあるかに左右される。現在、自動車のコマーシャルに登場するハイテク機能はオーディオおよびテレマティクス・システムに集中する傾向が見られる(宣伝されている特定の機能の中には、電子機器・電装品に属するものもあるが、このグループにはライトスイッチ、ヘッドライト、ワイヤハーネスなどの品目も含まれている)。したがって、25万件以上の特許(例えば、移動体通信装置、GPS、音声認識システムなど)を含むオーディオおよびテレマティクス・システムがオーディオおよびテレマティクス装置内に存在する傾向があるとすれば、それらのシステム内の特許発明に経済的に配賦される金額合計は低くなる。しかしながら、これは原価が低いことを意味するわけではない。むしろ、自動車メーカーが当該発明の利用に対して支払う金額が過少である可能性がある。この点に関しては、自動車メーカーが一次サプライヤーに対して行使するコスト・レバレッジとの関連から説明することができる。つまり、一次サプライヤーは価格プレミアムを通じて当該特許に関連する権利から発生する経済価値を手にすることができないのである。わかりやすく言うなら、GMは一次サプライヤーのデルファイに対して、特許侵害でデルファイまたはGMを訴えている特許権者に支払うべき実施料を負担するよう要求することができるのである。デルファイは、外部の特許権者に支払う新たな実施料コストの会計処理を行うために、GMに販売する部品の価格を引き上げることはできない。最終的には、この取引の取決めで特許権者とデルファイは共に敗者となる。特許権者は自身のイノベーションから引き出し得る真の市場価格を実現することができず、デルファイは自社の利益を使って特許侵害の実施料と弁護士料を支払うことになるからである。結局、特許権者の価値は概ね、GMおよび公平な対価を支払うことなくGMの自動車を買う顧客に移転する。

自動車のバリュー・チェーンの問題

自動車業界における発明者/特許権者の公平性の問題を考える出発点はバリュー・チェーンである。そこでは、製造システム全体のコスト圧縮およびリスク移転が容赦なく行われる。市場の競争が極めて熾烈なため、メーカーはこうした容赦ないコスト圧力を受ける。このコスト圧力と、補償要求を通じた特許侵害の訴訟リスクを引き受けるようとするサプライヤーの姿勢が結び付いた場合、経済的制約がどこにあるかが明らかとなる。特許権者にとっては不幸なことに、一次サプライヤーやメーカーのレベルにまで到達できないと、業界の利益の分配を受けることが困難になるという影響を受けるのである。ある架空企業が熱電関連の新化学品を開発し、それが現在市場に出回っている他の化学品より効率的であったとする。この新化学品の最新の使い方として、メーカーは現在の中高級乗用車用シートヒーター・クーラーに採用する可能性がある。特許権者にとっての問題は、バリュー・チェーンには、原材料生産会社からメーカーまで非常に多くの企業が含まれていることである。図2は、自動車業界のバリュー・チェーンの全参加者を示した例である。

例えば、ジェンサームが温調シート(CCS)ユニットを約70ドルで販売すると仮定する。同社は、直接原価が売上の70.21%を占めると報告しており、つまり70ドルであれば約49.14ドルが直接原価となる計算である(この費用や他の費用の例は同社の報告書や規制当局への提出物に計上された数値に基づく)。各CCSユニットは、熱電モジュール、熱交換器、ブロワー電動機、電子制御モジュール、組立工数および配管など、いくつかの構成要素から成り立っている。さらに、熱電モジュールへの原価配賦は表2の一覧表に従うと仮定する。

図2温調シートのバリュー・チェーン

 

表2.温調シートの原価配賦

コンポーネント

直接費に占める比率

価額

マイクロ・ サーモモジュール

21.25%

$10.44

熱交換器

21.25%

$10.44

ブロワー電動機

21.25%

$10.44

電子制御モジュール

21.25%

$10.44

組立工数

10%

$4.91

配管

5%

$2.45

図3.温調シートのバリュー・チェーン - ジェンサームから特許権者まで

この配賦によれば、サーモモジュール費は約10.44ドルである。ジェンサームはこのサーモモジュールをフェローテックから購入している。フェローテックの直接原価は製品価格の73.8%であり、この場合は約7.70ドルとなる。カリフォルニア大学バークレー校およびローレンス・バークレー国立研究所のレポートでは、熱電モジュールの標準的な原価構造が示されている。それによると、内訳の原材料部分において熱電材料費が占める比率は17%である。モジュールの費用7.7ドルのうち約17%が原材料に関連しているわけである。したがって、モジュール費に含まれる原材料費は約1.30ドルとなる。フェローテックはこの原材料をある化学会社から購入している。この化学会社の直接原価は平均で約72%となっており、残る28%(約0.36ドル)が粗利益である。ライセンサー がこの粗利益の33.33%をライセンス料として受け取るとすれば、ジェンサームまでのバリュー・チェーン全体の約0.17%にあたる約0.12ドルを稼得することになる。図3では、ジェンサームから特許権者までの間で価値がどのように分配されているかが示されている。

特許権者がライセンス料として100万ドルを得るには、ジェンサームが800万個以上の製品を販売しなければならない。その上、ライセンシー(化学会社)が粗利益の33%を手放しても構わないと思うことが前提となる。

この例が示すように、この経済的仕組みは魅力的ではない。特に、特許権者が初期に熱電関連の新化学品の開発で何百万ドルも投資していた場合にはその思いが強くなる。また、市場がこの技術を受け入れたとしても、特許権者はバリュー・チェーンのずっと下側に位置するため、享受できる報賞の比率は非常に低い。この取引の利益を十分享受できるのは、メーカー(シートヒーター・クーラーについて多額のプレミアムを上乗せ)、ジョンソンコントロールズ(一体型シートを販売)、およびジェンサーム(CCSユニットを製造)である。バリュー・チェーンのそれ以外の参加者はすべて規模が小さい。

テスラの特許の謎

2014年6月、テスラのイーロン・マスクCEOは、テスラは同社の特許を誠実に使用する人に対しては攻撃的訴訟を提起しないとブログで発表した。ウォール街の人々はこれに苛立ち、ハーバード・ビジネス・レビュー誌はこれに関する記事さえ掲載した。経済的観点に立てば、特許権が適切に行使された場合、特許権者は特許発明の市場への供給を制限することが可能である。十分な需要があれば、次に特許権者は特許製品利用の価格を引き上げ、スキミング戦略を実行することができる。この基本的な経済的特性がイノベーションを支える営利面の基礎であり、発明が市場に魅力的な価値をもたらす場合、消費者が製品の実際の製造コスト以上の代金を支払わなければならない理由はそこにある。よくある市場の歪み(例えば、政府の介入)がなければ、このプロセスは非常に効率的に機能する。

テスラが保有ポートフォリから生み出せる経済価値は、通常、次の4つのカテゴリーのいずれかに該当 する。

  • 直接的活用 - その特許を具体化した製品を市場で販売することにより、ポートフォリオの価値を市場から直接生み出す。
  • 実施許諾 - ポートフォリオの使用を許諾された利用者が支払う実施料から価値を生み出す。
  • クロスライセンスの手段 - テスラは、自社に対して特許権を主張することを選択する可能性のある相手への実施料の支払いを回避するために、クロスライセンスの手段として特許を利用することによって価値を生み出す。この価値の源泉は、多くの場合、一定程度の設計の自由や経費削減をテスラにもたらす。
  • 阻止の価値 - 競争相手が競合製品を販売するのを阻止して自社製品の需要を高めることにより価値を生み出す。
図4.テスラモーターズの残存特許数の推移

特許ポートフォリオに関する限り、テスラは比較的若い企業で、図4の残存特許数の推移が示すように、保護期間が比較的長い。

図5.テスラモーターズの予想特許維持費用

 

残存特許の分析から明らかなように、テスラの特許は2026年ごろから失効が始まる。さらにテスラは既存特許を大切に保持しているようである。テスラは特許権を行使していないにもかかわらず、特許を継続的に維持しており、全期間にわたりそれが続いた場合、図5のデータが示す通り平均して年間数十万ドルもの費用がかかる。では、なぜマスク氏は特許開放のアプローチを取ったのか。

テスラの措置に対する当初の否定的な反応にもかかわらず、注意深く分析すると、マスク氏は当初一部で考えられていたほど会社に損害を与えていないことが明らかになった。実際、基本的な経済的仕組みからすれば、自動車に関連するテスラの特許ポートフォリオは比較的価値が低い可能性がある。マスク氏は、この措置は市場の成長加速を目的としていると述べたが、特許ポートフォリオの防御はテスラに損失しかもたらさないということも同様に真実である。

テスラの権利行使の経済性

テスラの特許ポートフォリオの権利行使に関する経済性を検討すると、そのポートフォリオが自動車業界の中でほとんど無価値である理由が浮き彫りになる。権利行使しても手間に見合う成果は得られず、プラスの経済的効果はあったとしてもごくわずかである。最初に、単純化した仮定を立てる。テスラが被告になったとする。同社の報告によれば、モデルSの四半期の売上台数は表3の 通りである。

表3のデータが示すように、過去の実績に基づけば、適用される市場規模は全体で約9万台である。テスラの訴訟の非経済性を証明するために、次のパラメータを考える。

  • 魅力的な知的財産は駆動ユニットにあり、これが最小の販売可能な特許実施ユニットをなす。
  • 駆動ユニットの原価は約15,000ドルである(www.greencarreports.com/news/1093713_tesla-model-s-drive-unit-replacements-how-big-a-problem/page-2参照)。
  • 係争中の仮説的な特許について駆動ユニットに配賦される価額は、15,000ドルの原価の10%、すなわち約1,500ドルである(自動車部品の価額の大部分は原材料で占められるため、ユニット中の知的財産の償却価額は、医薬品などの他の市場に比べ、比率が小さいと思われる)。
  • 実施料率は駆動ユニットの価額の3%である。
  • 実施料総額は駆動ユニット1個当たり45ドルとなる。
  • 利息を除く潜在的な名目損害賠償額は総額4,043,925ドルとなる(89,865台に1台当たり45ドルを乗じた金額)。

表3.2012年~2015年におけるテスラモーターズのモデルSの四半期販売台数

月数

公表販売台数

Q3-12

3

350

Q4-12

6

2,300

Q1-13

9

4,901

Q2-13

12

5,150

Q3-13

15

5,500

Q4-13

18

6,892

Q1-14

21

6,457

Q2-14

24

7,579

Q3-14

27

7,785

Q4-14

30

9,834

Q1-15

33

10,030

Q2-15

36

11,507

Q3-15

39

11,580

合計

 

89,865

この結果を実際の結果と照合すると、この楽観的なモデルよりもさらに経済性が悪化することが示唆される。過去数年間に判決が下された損害賠償額の中央値は約130万ドルなのに対し、この水準の審理に達するまでの費用は平均280万ドルであった(私の過去のレポート「An Inside Look at the Innovation Impairment Myth of Patent Reform(特許改革によるイノベーションの機能不全の神話の内実)」IAM、第74号、2015年11/12月を参照)。特許権者がテスラを提訴せざるを得なくなった場合、最初から権利行使の訴訟を提訴しなかった場合よりひどい結果になり得るのである。

さらに、特許権者が地方裁判所の判決を得るのに成功した場合でも、テスラは連邦控訴裁判所に上訴することができる。上訴プロセスでは訴訟に要する時間と費用がさらに増大するほか、抗告審判において地裁判決が変更または修正される事例が非常に多い。PwCの2015年特許訴訟調査によれば、上訴された場合、地裁判決中の52%の決定が変更または修正され、判決の約67%が全面的または部分的に修正され、判決の19%が全面的に覆された。全体として、上訴裁判所の判決で実質的に損害賠償を取り上げたのは18%だけであった。そのうち80%が何らかの形で損害賠償の判決を覆し、無効にし、あるいは差し戻した。したがって、たとえ損害賠償の部分が維持されたとしても、勝訴者が支払いを受けるまでに何年もかかる可能性がある。特許の機能が自動車の低価額部品であるとしても数値は改善しない。実際、ドケットナビゲーター(DocketNavigator)でテスラに対する訴訟を調べてみると、重要な事案はすべてテレマティクスのアプリケーションに関連している傾向があるが、これは、駆動ユニットなどの高価額のシステムとは 違い、自動車に付加する価値が低い。

要約すれば、テスラの特許の大部分が自動車製造にとって無価値であることから、マスク氏は、同社が受け取る設計の自由を除き、同社の有する特許権を行使しないことを意識的に決定した。しかしながら、テスラのこの決定は、大規模訴訟が起きた際にクロスライセンスの手段を失うことになるため、同社に間接的損害を与えた可能性がある。例えば、フォードがテスラを特許侵害で提訴した場合、テスラは特許権を行使しないことを意識的に選択したため、フォードにクロスライセンス契約の締結を強制する手段がない。その結果、テスラは特許侵害のために他社に実施料を支払わざるを得なくなり、利益率が圧迫される可能性がある。

最適の機会

偶然、本レポートを目にした人は、自動車業界の発明の経済的効力は比較的弱いと思うかもしれない。本レポートを読んだメーカーは、自動車に取り込まれた発明のライセンスを求める小規模な特許権者に対する隠し事を正当化するためにこの経済的特性を利用しようとするかもしれない。特許分野の多くの事項と同様、経済的特性は文脈によって変わる。特許から大規模に多額の収益(すなわち、数千万ドルないし数億ドル)を生み出すことを真剣に望む人は、特許を有する機能を組み込んだ製品を大規模に(すなわち、年間数千万個以上)生産しなければならず、しかも市場がその特許機能を要求していなければならない。その例として、アイフォンの工業デザイン、医薬品錠剤の組成物(composition of matter)、半導体などが挙げられる。

表4.米国における自動車メーカー別販売台数、2015年

自動車メーカー

2015年の販売台数

GM

3,082,366

フォード

2,603,082

トヨタ

2,499,313

クライスラー

2,200,834

アメリカン

1,586,551

日産

1,484,918

現代

761,710

起亜

625,818

スバル

582,675

メルセデス・ベンツ

372,977

フォルクスワーゲン

349,440

BMW

346,023

マツダ

319,184

アウディ

202,202

三菱

95,342

ランドローバー

70,582

ボルボ

70,046

ミニ

58,514

ポルシェ

51,756

フィアット

42,410

テスラ

23,650

ジャガー

14,466

マセラティ

11,700

スマート

7,484

ベントレー

2,686

フェラーリ

2,258

ランボルギーニ

1,009

ロールスロイス

840

アルファロメオ

663

自動車分野について言えば、高価値の特許発見の対象としては、行政上の義務化を伴う、ハイテクの部品が必要である、原材料の集中度や価格の変動性が低い、製造の利益率が高い、さらには交換の必要性がある、などの特性を備えたシステムが考えられる。今日の自動車に含まれる多くのシステムの中では、直接タイヤ空気圧監視システム(tyre pressure monitor system:TPMS)センサーが、収益化の機が熟した優れた例となる。TPMSセンサーは次のような特性を示すと いう点で魅力的である。

  • 行政上の義務化 - 1990年代後半、タイヤの不具合により250人以上が死亡し、3,000人以上が負傷した。こうした事故を減らすため、議会は2000年に「運送に係るリコール促進、説明義務および文書化に関する法律(Transportation Recall Enhancement, Accountability and Documentation Act)」を制定した。同法は、空気圧の低いタイヤについてドライバーに警告するTPMSセンサーを、重量が1万ポンド未満の乗用車すべてに取り付けることを義務付けたものである。2008モデル年度までに、新たに工場から出荷される重量1万ポンド未満の乗用車と軽量トラックすべてに、TPMSセンサーが取り付けられるようになった。2015年には米国で約1,750万台の自動車が販売された。自動車1台にOEM原価で1個当たり平均20ドルのセンサーが4個取り付けられるため、この義務化に伴う市場全体の潜在的規模は14億ドルに達する。
  • ハイテク部品 - TPMSセンサーは、厳しい物理的環境の中で正常かつ高い信頼性をもって作動する必要があるため、その作動パラメータには極限の精度が求められる。こうした装置は、ハイテク部品、長寿命の電池およびワイヤレス技術、中でもとりわけ適切に作動する性能に依存する。こうした分野は特許活動の機が熟していると言える。
  • 原材料の集中度の低さ - TPMSセンサーは小型のため、大量の重い、またはかさばる材料(例えば、鉄鋼、アルミ、希少金属)を必要としない。原材料は開発費のうち比較的小部分を占めるにすぎない。
  • 製造の利益率が高い可能性 - TPMSセンサーの相対的な単純性(すなわち、圧力トランスデューサー、アナログ・デジタルコンバータ、マイクロコントローラおよび無線通信モジュール)を踏まえると、センサーは製造の利益率が高い可能性がある。センサーの小売価格は1個当たり20ドルと安いが、製造原価はその範囲を大幅に下回ることが示唆される。
  • 交換の必要性 - TPMSセンサーは、電池が組み込まれた長寿命の消耗品である。その電池は利用者が保守できず、一定期間後に使用不能となり、交換が必要になる。その期間は通常、当初使用時点から7~10年である。したがって、追加的なTPMSセンサーに対し新たに発生する市場の潜在力および需要は、新車販売とはある程度切り離されており、価値を捉える追加的な可能性をイノベーターにもたらす。TPMSセンサーの交換に要するアフターサービス市場の平均費用は、Amazon.comによれば1個当たり20~40ドルである。センサーは自動車1台につき4個必要なため、7年から10年ごとに各自動車につき80~160ドルの交換費用が発生する。さらに、2016年から2017年にかけてアフターサービス市場で需要が急増する可能性がある(2008年の行政上の義務化から約7~10年経過しているため)。その需要額の推定においては、市場調査会社のIHSが2008年の販売台数として報告している1,320万台をベースとする。そのうち50%が今も走行しているとすれば、660万台の自動車用に2,640万個の交換センサーが必要となる。各自動車のセンサーの交換費用合計は80~160ドルであるため、アフターサービス市場のみの潜在的売上高は5億2、800万~10億5,000万ドルとなる。この金額が新車販売に伴うユニットの販売に上乗せされるのである。

アフターサービス市場の交換部品を含め、販売個数が現在の水準であれば、特許への投資および特許権行使は理に適っている。それは、センサー1個に配賦される実施料は0.05~0.20ドルと低水準ながら、この経済規模なら投資や権利行使の費用を十分回収できる見込みがあるからである。

表5.米国における上位20位の自動車モデルの販売台数、2015年

上位20位のモデル

2015年の販売台数

フォードFシリーズ・ ピックアップ・トラック

780,354

シボレー・ピックアップ・ トラック、シルバラード

600,544

ダッジラム・ピックアップ・ トラック

451,116

トヨタ・カムリ

429,355

トヨタ・カローラ/ マトリックス

363,332

ホンダ・アコード

355,557

ホンダCR-V

345,647

ホンダ・シビック

335,384

日産アルティマ

333,398

トヨタRAV4

315,412

フォード・エスケープ

306,492

フォード・フュージョン

300,170

日産ローグ

287,190

シボレー・エキノクス

277,589

フォード・エクスプローラー

249,251

GMCピックアップ・トラック、シエラ

224,139

ジープ・チェロキー

220,260

現代ソナタ

213,303

日産セントラ

203,509

ジープ・グランド・ チェロキー

195,958

次に、大きな価値をもたらす自動車の特許は、大規模な自動車の台数に対して適用される。この計算は単純である。その技術を採用する自動車が多いほど、マーケット・リーチおよびR&D費の償却額は大きくなる。米国市場の2015年の自動車生産台数を示した表4を見ていただきたい。

表4のデータが示唆するように、GMとフォードは、ジャガー、テスラなどの小規模ブランドより多数の自動車を出荷しているため、高価値の特許の売却やライセンシングの見込み顧客として、より有望である。さらに、価値はモデルによっても変わり得る。表5は、2015年の米国市場における上位20位の自動車モデルの生産データを示している。

表5のデータが示すように、販売台数も重要なポイントである。販売価格が自動車モデル1台当たり5ドルの小型装置を生産している場合、フォードのF150ピックアップ・トラックは販売台数がジープ・グランド・チェロキーのほぼ4倍であることから、F150に組み込まれる製品を販売する方が価値創出の点で有利である。データが示唆する通り、自動車に関しては適切な特性を備えた適切な製品が価値の高い結果をもたらし得る。

特許価値の再評価

自動車セクターでは技術が非常に重視されており、一般紙やその見出しでは技術面がよく取り上げられ、様々なメーカーでそれが差別化のポイントとされてきた。自動車セクターに知的財産を提供することへの関心は高いものの、現在のバリュー・チェーンを踏まえると、投資でプラスのリターンを上げるのはほとんどの特許権者にとって困難なことである。この事実は、テスラが意識的に特許ポートフォリオを開放したことによっても裏付けられる。開放という最終的な結果は、自動車市場全体の中で同社の特許ポートフォリオの権利行使の価値を評価した場合、意外なものではない。

自動車セクターの高価値の特許は、先端技術を駆使した高級車の少量生産メーカーに集中するわけではない。むしろ、最も高価値の資産は、生産量が最大規模のメーカーやモデル向けのものであり、しばしば原材料比率の低さや行政上の義務化を伴うことが好条件となる。特許権者は結局、メーカーや一次/二次サプライヤーとの直接取引によって価値を最大化できる可能性が高い。

行動計画

一部には、特許の高価値の収益化機会という点で自動車セクターを次の有望分野と見る向きがあった。しかしながら、業界の標準的なサプライ・チェーンを分析するとそうではない可能性が示唆される。特許権者や投資家は共に次のことを心がけるべきである。
  • 誇大宣伝の回避 - 自動車の特許は、注意深い検討および高価値の機会をもたらす発明の絞り込みを必要とする。
  • 経済性のモデル化 - 自動車の特許の多くは、権利行使の経済性が低いため低価値の可能性がある。
  • 規模の検討 - 少量生産のメーカーでは、優れた権利行使の経済性が期待できない可能性が高い。
  • バリュー・チェーンの上位の選択 - イノベーションの価値はメーカーや一次サプライヤーのレベルの方がより高い。下位のサプライヤーはバリュー・チェーンの一定部分を支配する市場力を持たない。
  • 保証された売上の追求 - 行政上の義務化に関連する発明(例えば、安全システムや燃料効率システム)を優先する。

筆者紹介 マイク・ペレグリノは米国インディアナ州インディアナポリスのペレグリノ・アンド・アソシエイツ(Pellegrino & Associates)の創業者で社長

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