暴落の立て直し

NPEにとって特許市場がこれほど厳しかったことはかつてなかったであろう。生き残るために、現在一部の企業はビジネスモデルを変化させているが、事態を好転させることができるかどうかはまだはっきりしない。

2011年の夏、アカシア・リサーチは絶頂期にあった。その年の9月、同社の株価は47ドル近くに達し、時価総額は17億5,000万ドルの最高額となった。2008年には同じ株が2ドルで取引されていたのに、である。アカシアの経営陣はこうした状況を利用しようと、特許不実施主体(NPE)にとっては方針転換とも見える取引に合意した。

2012年の初め、アカシアは経営不振の製品会社アダプティックスを買収し、200件を超える特許ポートフォリオを手に入れた。1億6,000万ドルという売値は今なら多くの者が顔をしかめるかもしれないが、2011年6月にノーテルの特許資産のオークションにロックスター・コンソーシアムが45億ドルという驚異的な金額で飛びついた後であり、当時の市場は活況であった。それに比べれば、良質のポートフォリオと思われるものに1億6,000万ドルを支払うことは法外には見えなかった。

アカシアは、資金への容易なアクセスと増え続ける資産ポートフォリオと業界では強気のプレーヤーという評判に悠々と構える経営チームに支えられて自信満々だった。2012年、NPE界の主が誰かは疑うべくもなかった。

今日、太陽降り注ぐ南カリフォルニアのアカシア本社から見える世界は大きく違っている。株価は暴落し、同社の時価総額は2億ドル前後で停滞している。最盛期にマイクロソフトとサムソンとの間でいち早く結んだ2件のライセンス取引が法廷で次々と敗れ去ると、アダプティックスのポートフォリオの収益化は期待外れとなった。2015年12月、テキサス州東部地区においてアカシアがアダプティックスの特許の1つが関連する訴訟に敗れた翌日、マシュー・ヴェラは3年間務めたCEOの座を降りた。傷口に塩を塗るように今年3月に、同社は、1億8,900万ドルでユニロックから買収オファーを受けた。昨年末時点でアカシアの銀行口座の残高は約1億4,500万ドルであったことを考えると、ユニロックの付け値は事実上、同社の資産を4,400万ドルと評価したものだった。アカシアの取締役会はオファーをすぐに却下したが、この打診は、アカシアがいかに没落したかをあからさまに示すものであった。

没落者たち

クリス・ドネガン、フレーザーバラ・コンサルティング主席

特許の価値を実現する方法が変わりつつある

エリック・スパンゲンバーグ
nXnパートナーズ CEO

NPEはもっと効果的にウォールストリートとコミュニケーションをとる必要がある

ジム・スキッペン、ウィーランCEO兼社長

今では低額の資本へのアクセスというのはほとんどのNPEにとって問題外である

冷え込むライセンス環境やいくつもの不利な判決に直面して、かつて誇った市場評価の崩落を経験しているNPEはアカシアに限らない。スマートフォンの着信音の販売からスタートしたフォーム・ホールディング(かつては旧称であるブリンゴとして知られていた)は、2012年3月にNPEへと転じ、株価は同年後半にはほぼ50ドルの最高値に達した。現在その額は約1ドル50セントに留まっているが、不利な結果に終わった2014年のグーグルとの訴訟や、中国の巨大テクノロジー企業ZTEを相手取った世界的な訴訟活動の末の2,150万ドルでの和解などの影響による傷を癒しつつある。

特許市場を片手間にしか見ていない者でも、従来のNEPのビジネスモデルは完全に崩壊したわけではないとはいえ、生命維持装置につながれている状態だということはわかる。NPEの特許入手方法は、完全買収や事業会社の私掠行為、或いは時には有機的創造によるものからは進化したかもしれないが、訴訟の力で知的財産のライセンス供与を行うという基本方針は変わら なかった。

そしてこれこそが問題なのである。なぜなら、判例法の発展や新たな発行後レビュー手続、さらには侵害を申し立てられた者たちが長期間抵抗すれば、多くのNPEは訴訟に勝つまでに現金を使い果たすと確信するようになったことが、米国のライセンス環境に根本的な変化をもたらしたからである。

NPEにとって唯一明らかなことは、これまで数年にわたって自分たちが行ってきたことをただ続けても、もはや上手くは行かないということだろう。彼らはビジネスモデルを進化させ、ライセンシング事業をルーツとする多角化も考えることが必要とされている。複雑化し、複数の司法域をまたがる侵害訴訟が増える中で鍛え抜かれた経営チームの豊富な経験を活かして収益化する方法を見つけなければならないだろう。しかし、NPEにその典型的な訴訟主導型戦略を断念させることは「言うは易し行うは難し」である。「経営陣に、力ずくで叩くだけが戦略ではないことを伝えるのはとても難しい」とフレーザーバラのクリス・ドネガンは認める。今日、NPEとして成功するには、全く新たなツールボックスが必要とされている。

世界はどう変わったか

今年3月に開催されたIAMの NPE会議において、ウィーランのジム・スキッペンは、このセクターの世界がいかに変わったかについて、おそらく最も説得力のある分析を行った。スキッペンは、2006年にウィーランの経営に参画してCEOとなる前は、モサイド・テクノロジーズ(現コンバーサント)におけるライセンシングの実績で定評を得た実直な経営者である。彼の手法はシンプルで、取引が交渉中であれば、十中八九得られないであろう損害賠償を狙って賭けにでるのではなく、交渉を受けるべきだというのである。

2000年代初頭のモサイドで、スキッペンと彼の同僚たちは、ライセンス・ビジネスにとって最善のアプローチを特定するために財務モデリングを行った。「私達は、成功報酬付き契約を利用するよりも自社の訴訟に資金を投じる方が成功する確率がずっと高いことから、そうする方がよかろうという結論に達しました」と言う。また、現金前払いで特許を購入することも、得られるライセンス収入の全額がNPEの手に入るため、合理的であると言える。

今日では同じモデリングから劇的に異なる結果が生まれるとスキッペンは説明する。「今は訴訟のリスクは回避できるなら回避したほうがよいのはもちろん、ポートフォリオを取得する場合は危険を分担できるならそうする方がはるかに好ましいことです」。これには、法律事務所との時間毎の請求を伴わない成功報酬付き取引やその他の取り決めが必要であり、特許を取得する場合は、現金の前払がほとんどないか全くない私掠取引がより多く必要とされることとなる。

さらに、環境の悪化に伴って、ライセンス・ビジネスのために利用できる資本が大きく減少した、と彼は続ける。「15、6年前、いや、ほんの5年前でさえ、[資金の]蛇口は開いていました。今はとにかく定額の資本さえも得られませんが、資本はどんなビジネスにも必要不可欠です。」

過去数年の間、ほとんどのNPEの株価が急落したという事実も不利に働いている。スフェリックスやインベンタジーなど、上場を継続するには株価を1ドル以上に維持することを義務付けているナスダックに留まるために、株式併合を余儀なくされた企業もある。「株価が上昇して経営が上手く行っていれば、銀行は関心を持って寄ってきます」とスキッペンは会議の出席者らに語った。「株価が下がれば見向きもしません。」

IAMの最近のNPE会議で市場について議論するゼネラル・パテント・コーポレーションのアレクサンダー・ポルトラック、ネットワーク-1のコーリー・ホロウィッツ、ミンツ・レビンのマイケル・ルノー、スフェリックスのアンソニー・ヘイズ、ウィーランのジム・スキッペン

NPEが公開会社としてまだどの程度意味を持つかという点は同セクターにおける大きな議論の1つで、株式非公開への動きは今後数年の主要なトレンドとなる可能性がある。アカシアの流星のような台頭が示したように、知財ビジネスが投資家の注目を集めたのはつい先ごろのことである。多くのNPEの収益が四半期ごとに激しく変動していても、超大型損害賠償への期待が株主たちを引き付けていた。「ウィーランでは収入がゼロでも7億ドルの評価がついたかと思えば、健全な収入があったにもかかわらず、ずっと低い評価しか得られないこともありました」とスキッペンは回顧する。

「投資家たちは、当事者系レビューで特許は無効との判決が出たり、地方裁判所での勝訴が連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)で覆されたりするリスクを負いつつ法廷での多額の支払いをあてにして賭けをすることはもうできないことに気づいている」

現金は王様

しかし今日では、投資家たちは、当事者系レビューで特許は無効との判決が出たり、地方裁判所での勝訴が連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)で覆されたりするリスクを負いつつ法廷での多額の支払いをあてにして賭けることはもうできないことに気づいている。投資家の態度の変化について、スフェリックスのCEO、アンソニー・ヘイズは、「2年前は『判決を見せれば報酬がもらえる』状況でしたが、今では『まずは銀行の金を見てから』と言われます。判決を現金化することはできない時代になったのです」と言う。

公開知財会社(PIPCO)が今直面している問題は、12~18ヶ月の短期戦から数年間続く長期戦へと訴訟が長引くようになってきたため、順守すべき高い透明性基準のおかげでその切迫した財政状況が誰の目にも明らかとなってしまうことである。その上、株価が下落したことによって、自社の時価総額のかなりの部分に相当することになる和解額を特許侵害で申し立てている相手に要求するのも難しい。「ライセンシーとなるべき相手は、『そんな額を支払わなければならない理由は?御社の時価総額の50%にもなる額ですよ』と言われてしまうだろう」と、今はフォーム・ホールディングスとなった旧ブリンゴの法務・知財最高責任者、デイビッド・コーエンは認める。

おそらく他のどのNPEの事例よりもブリンゴの最近の法廷での苦難が、訴訟環境がいかに厳しいものとなったかを示している。2014年夏、同社は、下級裁判所では勝訴しその特許の有効性を証明したにもかかわらず、CAFCでの控訴審では2対1の多数決でグーグルに敗訴した。

これと同時期、このNPEは、中国のテレコム大手のZTEを相手取り、複数の司法域にまたがる訴訟でも戦っていた。フォーム・ホールディングが契約違反でニューヨークの地方裁判所に提訴した後、(両者は最初のライセンス交渉の際に秘密保持契約を締結しており、フォーム・ホールディングはZTEがこれに違反したと主張していた)裁判所文書で相手方の作戦が明らかになった。以下に示すのは、この中国企業の知財弁護士が送ったメールの抜粋である:「米国の上場企業として、フォーム・ホールディングは株価を非常に重視する上、行動を起こすたびに必ず関連情報を配信します。我々は、当社に役立つ情報が発表されれば、その後当社の情報伝達活動を拡大して相手方の全体的イメージを攻撃し、彼らを悪名高き特許トロールと位置付けることも行います。それによって、彼らの特許の質は低下するでしょう。さらに、当社からライセンス料として得られるであろうと彼らが考える価格に対する心理的な期待値をさらに低下させることになるでしょう。」

両者は12月に和解し、フォーム・ホールディングは、係争特許に対するライセンスをZTEに付与する見返りとして、2,150万ドルを受け取った。

方針変更

フォーム・ホールディングその他の経験から、従来の訴訟主導型アプローチ中心に構築されたNPEの戦略は次第に困難になりつつあることが見て取れる。ではどう適応すべきなのか?複数のNPEは昨年からリスクを分散し、収入の流れを多様化して最終的には現在の環境の中で生き延びるために、自社のビジネスモデルの再考を始めた。

こうしたアプローチのほとんどは、NPEの収入は特許の収益化から生まれるという基本方針から外れるものではない。変わりつつあるのはこれをいかに、誰が行うかということである。

スフェリックスは3月、ICAPパテント・ブローカレッジ前CEOのディーン・ベッカーが設立した新しい収益化企業であるエクイタブルIPと契約を締結した。エクイタブルIPはこれに基づきスフェリックスのポートフォリオの一部の収益化を行うことになった。同NPEの資産のかなりの部分はかつてノーテルが所有していたものであり、ロックスターが45億ドルで取得したポートフォリオの一部であったことを考えると、これらは多くの点において相当価値のある特許とみなされるであろう。ヘイズにとって、エクイタブルIPを採用する動機はシンプルであった;「この取引はリスクを軽減してくれました。それだけのことです。」

投資界ではほとんどのNPEをリスクの高い賭けだとみなしている中、これは賢明な動きに見えるうえに、エクイタブルIPは、非公開会社としてこうした資産を公開市場の注視を逃れてライセンス供与することができる。しかし、突き詰めると、一部の特許の収益化の責任を移すだけでは、今日の信じ難いほど困難なライセンス環境の問題を回避することにはならない。

近年広く受け入れられるようになっている代替手段として、特許をスタートアップ企業への投資の形で利用し、NPEは見返りとしてその新企業の株式を受け取るという仕組みがある。GEがカナダにおいて当初そのような試みを行ったが、スフェリックスは、このモデルを試した最初のNPEの1社として、2014年初めにInnovate21と呼ばれるイニシアチブを開始した。まだここから取引には至っていないが、ヘイズにとってはこれは今も魅力的な選択肢である。「これは論理的進化です。」と彼は示唆する。「優れた特許はリサイクルして、スタートアップ企業や創業間もない(アーリーステージの)企業が実を結べるよう、役立てるべきです。」

これはウィーランがドミニオン・ハーバーと提携して模索してきたモデルでもある。昨年5月、ドミニオンは、スタートアップ企業への特許提供を専門とする知財銀行を開設した。今年前半、ウィーランは、資産のポートフォリオをこの銀行に譲渡すると発表した。「これは私達が大型ポートフォリオを有する大手NPEだからできることです」とスキッペンは説明する。加えて、初期の知財を備蓄できる機会は、新規企業にとって魅力的であるに違いない。「スタートアップ企業は、特許ポートフォリオを有する方が融資を受けられる可能性がずっと高くなります」と彼は付け加えた。

NPEセクターの衰亡 – 最高潮から谷底へ

  • 2011年9月 - アカシアの時価総額が20億ドル弱の最高額に達する。バーネットXなど他のNPEの市場評価も10億ドルを超えるが、市場はすぐに厳しい訴訟環境や新たなレビュー手続、米国における特許改革への不安による圧力を受けた。
  • 2012年9月 - 米国発明法の一環として新しい発行後レビューが発効する。当事者系レビューの人気が高まり、特許クレームが高い割合で無効とされたことから、米国における特許訴訟に重大な影響を与えた。NPEにとっては、この新たなレビューは訴訟プロセスを引き伸ばし、究極的には収益化までの期間が長期化することになった。
  • 2013年12月 - 米国発明法の発効から2年しか経っていないにも関わらず、下院でイノベーション法が可決され、さらなる特許改革が再び検討される。改革はその後上院で行き詰まり、法律が未承認の間、市場には 不透明感が残った。
  • 2014年6月 - 最高裁が特許適格性のある対象に関するアリス・コーポレーション対CLSバンク・インターナショナル事件においてその意見を公表する。同判決は、どのようなものが特許可能であるかについて広く疑問を投げ掛けるものと見られ、101条(米国特許法の特許適格性に関連する部分)に基づく無効の増加に油を注いだ。
  • 2015年12月 - アルカテル・ルーセントを相手取った地裁での訴訟にアカシアが敗れ、CEOのマシュー・ヴェラが辞任する。同社の株価は下落して4ドルを切った。
  • 2016年4月 - アンワイヤード・プラネットが、特許事業をオプティスUPに売却することを発表する。法廷での数々の勝訴にもかかわらず、同NPEは市場に対し、戦いを続けるためのリソースがないと告げた。

取引以上

最近の市場の混乱の中、ウィーラン自身も憂鬱な時を経験していたが、2015年はこのNPEにとって転換の年と見られるようになるかもしれない。昨年6月、同社はかつてキマンダが所有していた7,000件の付与および出願から成るポートフォリオを3,300万ドルで購入すると発表した。この資産は数年前から売りに出されていたが、既存ライセンスが重荷になり過ぎているとして数社の購入候補者に断られていた。しかし、取引成立後、ウィーランは直ちに、同社がすでにサムスンとライセンス契約を締結していたことを明らかにし、IAMの3月のイベントにおいてスキッペンは、この取引はすでにほぼ買収の元が取れていることを明かしたのだ。

キマンダとの取引後まもなく、ウィーランは引き続き、フリースケール・セミコンダクタ―との間で私掠取引を締結することになっており、最近NXPセミコンダクターズに買収されたこの米国企業から3,300件の特許を買収する予定であると発表した。

この2件の取引によりウィーランの知財武器庫には今や10,000件を超える特許が揃い、同社は資産の点で最大のNPEの1つと位置づけられるようになった。ところが同社は、最大400件の特許を台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)に売却すると共に同社に自社ポートフォリオの一部のライセンスを供与するなど、ポートフォリオの一部のスリム化も試みている。この取引は比較的単純なものであったが、スキッペンは、仲介的なブローカータイプの役割を果たすことは、NPEがその手法を多様化するもう一つの方法であると示唆している。2014年のアンワイヤード・プラネットによるレノボへの1億ドルのポートフォリオの売却や、インターデジタルが2012年に1,700件の特許をインテルに3億7,500万ドルで売却した件など、同様の 取引契約は他社も締結している。

ミンツ・レビン・コーン・フェリス・グロフスキー&ポペオの知財部長であるマイク・ルノーによると、この種の機会は限られているが、NPEに単純なライセンシングを超えた代替手段を与えるものであるという。「実施許諾に訴えることなく特許資産を活用する方法は複数あります」と彼は主張する。「例えば、特許カバレッジの乏しい会社を手厚い関連特許保護のあるポートフォリオと マッチングさせることができます。」

確かに、この種の取引には、適切な時に適切な資産を持って適切な場所にいるというある種の運が必要である。しかし、中には、自身の運を作り出すのに理想的な立場にあるNPEも存在する。彼らは特許市場について類まれな深い知識を有するため、現在の環境においてどの資産に価値があるかについて高い洞察力を 持っているのである。

「NPEは多くのデータを有しており、そこから多くの企業が所有する特許の実際の価値についての見識を得ているため、企業評価にこれを利用することが可能となっています」とドネガンは言う。「そうしたデータや知識が無駄になるリスクに晒されています。」

フォーム・ホールディングを例に挙げてみよう。ZTEを相手取った同社の活動は、英国、ブラジル、ルーマニアおよび中国その他の司法域での訴訟を伴う真にグローバルなものであった。それはまた、多くの人から世界の技術市場の主要プレーヤーとなるだろうと期待され、成長を続けるポートフォリオを持つ会社を相手取って行われた活動でもあった。ZTEとの和解後、フォーム・ホールディングは、中国の巨大企業の1社との戦い方についての見識を得たいと望む他の中国企業からアプローチされたとデイビッド・コーエンは言う。そうした専門知識を収入の流れに変えることができると彼は示唆するが、問題はどのように実行するのか、である。

経営チームの思考を純粋にライセンシング中心とするものからより多様な経営戦略へと変えていくのは決して簡単なことではない。そしてPIPCO(公開知財会社)の場合、これまでライセンス事業に投資してきたが、今後は知財収益化を業務とはしない会社に投資し続けるように株主をも説得しなければならない。この課題は、NPEが製品事業への進出を検討している場合に 最難関となる。

新CEOと一連の勝訴によってもアンワイヤード・プラネットの知財事業を救うことができなかったのはなぜか?

2013年初め、設立間もないアンワイヤード・プラネットがエリクソンとの私掠取引の合意を発表した。これによってスウェーデンの巨大テレコム企業が2,000件強の特許を同NPEに譲渡することになった時、同社はどんなライセンス企業にもまして成功への好位置にあるように見えた。同社は最先端のテクノロジー企業として生まれ、2012年にNPEへと転換する前は、モバイルインターネットを牽引する会社の1つと名乗っていた。

ところが、米国において一連の敗訴を被り、一握りのライセンス取引しか合意できなかったため、安定したライセンス収入を生むという野望は間もなく消滅した。2014年、同社は、資産ポートフォリオを1億ドルでレノボに売却した(またこの中国のテクノロジー会社に自社のポートフォリオに対するライセンスも供与した)。しかし、この1件の明らかに目立つイベン トの他は、意義のある利益を生み出すのに苦労していた。

2015年にアップルの前知財担当幹部のボリス・テクスラーを登用し、その後サムスンとファーウェイを相手取った欧州での数々の勝訴が続いた時には、事態は改善したように見えた。しかし相手方当事者が訴訟を引き延ばせば延ばすほど、アンワイヤードの現金準備金は蝕まれ、2016年4月、同社は、もう十分であり、特許事業を4,000万ドルでオプティスUPに売却すると発表したのである(オプティスは、エリクソンに対する未公表の支払を行うことにも合意した)。

本稿の締切時点で、この取引は6月か7月に完了する予定であったが、アンワイヤードはさらなる入札の対象となっている可能性もある。しかし、同社がオプティスのオファーを受諾したという事実は、このセクター全体の状態を雄 弁に語っている。この売却について詳しく説明する投資家らとの電話会談において、テクスラ ーは、多くのNPEが直面している難題を次のようにまとめた:「 残念ながら、私達の勝利は遅すぎましたし、会社が持続可能なライセンス事業を構築したいという至極当然の期待を持つには対価が高すぎました。当社の財源は、損害賠償や控訴に耐えて私達のチームが最終的勝利と考えるところに到達するには制約が多すぎることが明らかになりました。・・・欧州でのこのところの勝訴は、当社の知財ポートフォリオに内在する潜在的価値を確認するものでしたが、訴訟を通してその価値を解き放つためには単純に当社が保有する額を超えるものであることを示すものでもありました。当社のリソースは限られており、これ以上負債を増やすのは非常に厳しい状況です。」

全く異なるものへ

マラソン・パテント・グループの履歴を調べると、同社が高性能着色ガラスのために設立された子会社にとってふさわしい親会社であることを示すものはほとんどないことがわかる。しかし今年3月、このNPEは、HPから技術と2名の経営幹部を取得し、3Dナノカラーという、どんなガラス片にもかぶせることができ、スイッチを動かすだけで色が変えられるプラスチックフィルムを開発 する企業を設立したと発表した。

マラソンのCEOダグ・クロックソールにとって、この新子会社に対する同社の投資は比較的小さく、同社のリソースの幅を広げてくれるリスクの少ない機会を提供するものとなっている。彼は、着色ガラスが自分の得意分野ではないことをあっさり認めるが、彼のチームの経験は独特な形でスタートアップ企業への移管が可能だと示唆する。「私達が持つ知財の知識や評価眼により、私達は大抵のスタートアップ企業が辿る典型的な道とは異なる道を歩むことができます」とクロックソールは言う。「特許によって何が可能となり何をサポートできるかを知っているという事実が私達を真に際立たせるのですが、従来のベンチャーキャピタルによる資金調達からこれらを得ることは可能でしょうか?」しかし、3Dナノカラーが収益に貢献できるにはまだ数年が必要であり、多くのNPE経営幹部が経費節減のスローガンを唱える中、同社はまだしばらく損益の足を引っ張ることに なろう。

実際、ウィーランが年間300万から400万ドルかかっていたR&D事業から撤退した1つの理由が、支出抑制の必要性だった。ウィーランは昨年、必要な資金を集めることができればこの事業を独立事業としてスピンオフすることを模索していると発表した。しかし12月までには、これを支援する投資家はいないことが明らかとなり、同NPEはこれを打ち切る決定をしたのであった。「R&D事業によって私達は特許が得られましたが、特許の価値は全般的に下がり続けており、撤退して自分達で特許を見つける方が安く上がると感じたのです」とスキッペンは解説する。

当然ながら、より形ある事業を後押ししようという一部のNPEの試みに対して懐疑的な者もいる。「『ヨーロッパに行きなさい』とか『製品事業を始めなさい』等まるで万能薬のように言う人々がいますが、それは万能薬ではありません。製品事業を発展させるのであれば、ライセンス事業と密着した移行や関連が必要です。それらがなければ、単に古いアイデアをリサイクルしようとする遊びのようになってしまいます。」とドミニオン・ ハーバーのCEO、デイビッド・プライダムは主張する。

マラソンの3Dナノカラーとのタイアップとは対照的に、フォーム・ホールディングによる製品事業の買収は、少なくとも、同NPEのモバイル部門とのこれまでの関わりと何らかのつながりがある。昨年10月、同社はワイヤレス充電技術開発企業のフライチャージと、堅牢パソコンやタブレット、ハンドヘルドコンピューターのメーカーであるグループ・モバイルを買収した。両社の2014年の収益は合わせて700万ドル強であり、かなり小規模な 事業に留まる。

フォーム・ホールディングのコーエンは、この動きを説明するに当たって、製品事業の開発に関する複数のメリットを強調する。1つ目は、陪審員や裁判官の前で提示できる自社製品を持つことは、侵害訴訟における原告としての立場を強化することである。2つ目として、最も強い特許というのは、会社が購入したものではなく、自社で開発したものであるという点を彼は主張する。3つ目は、製品事業からのライセンス収益は、特許ライセンスのみの場合の事業の収益ほど不規則なものではないので、上場企業の四半期報告により適している。

「フォーム・ホールディングが追求できるチャンスはたくさんありますが、知財専業のビジネスモデルは終わっています」と彼は続けて言う。「私達は今、リスクを分散させ、この領域の深い知識を生かせる知財利用法を見つけようとしています。」

「環境は改善しつつあるかもしれないが、ライセンシングが再び上向き始める時まで営業可能でいられるための十分な資金が多くのNPEにまだ残されているかどうかは不明だ」

歩く屍

コーエンの主張は終末論的に聞こえるかもしれないが、株価の低迷や数々の敗訴、殺到する当事者系レビューにより長期となる収益化までの時間を見ると反論は難しい。これは、現在の姿のNPE全てが今後5年間で廃業するだろうと言っているのではない。例えばウィーランは、比較的少数の特許でかなりの収益を生み出しているネットワーク-1のようなスリムなプレーヤーらと共に生き残る可能性が高い。しかし他の多くが存在の危機に直面しているのは疑いようもない。

例えば、この4月にアンワイヤード・プラネットは、特許事業をオプティスUPに最大4,000万ドルで売却すると発表した。英国とドイツの法廷での数々の勝利にもかかわらず、アンワイヤードのCEOボリス・テクスラーは、訴訟に費用や時間がかかり、ライセンシーとなるべき相手が紛争を長引かせたことなどにより、同NPEは戦い続ける余裕がなくなったことを認めた。本稿の締切時点では6月の終わりか7月に成立する予定のこの取引はまだ成立しない可能性もあるが、収益化できる2,000件超のエリクソン由来の特許を持っていたにもかかわらず撤退するというアンワイヤードの決定は、このセクターの殊更暗い展望を示している。

「問題は、この資産クラスがひどいということではなく、このセクターは四半期単位で良好な視認性を必要とするパラダイムには合わないのだということを、誰もウォールストリートに伝えることができなかったことなのです」と、IPNavの創設者で現在はnXnパートナーズのトップのエリック・スパンゲンバーグは主張する。「環境は厳しい ― このセクターで働く誰もが今まで見たこともないほど厳しいのは確かですが、私は、そこにはまだ十分な価値があると考えています。」

同セクターにおいて、スパンゲンバーグほど劇的に退却した人はいない。本人の話によると、かつては、最大の侵害訴訟の件数を有する申立人の1人であったが、2013年の申立は2件のみに減り、現在の登録件数はたった1件となっている。また2012年には特許の購入も停止したが、市場は底を打ちつつあると感じており、最近は再び取得に乗り出しているという。

一部では、ここ数年間、特許権者から遠ざかっていた特許権の振り子がこれから戻ってきそうな兆しがある。特許権者や、特にNPEは、発行後レビューでクレームの分析を行う際に「最も広い合理的解釈」基準を用いるべきか否かに関し、コゾ・スピード・テクノロジー対リー事件の最高裁判決が重大な後押しとなる可能性がある。レビューによって多くのNPEの収益化までの時間が長期化するなど影響が非常に大きかったため、この訴訟は市場に相当な影響を持ち得ると示唆する投資家もいる。「コゾ事件はゲームの流れを変えると思います」と、民間投資家でアナリストのデイビッド・ホフは言う。「これまで、特許庁が非常に不合理な見方をした審判開始決定を多数読んできました。」

環境は改善しつつあるかもしれないが、ライセンシングが再び上向き始める時まで営業可能でいられるための十分な資金が多くのNPEにまだ残されているかどうかは不明だ。だからこそ、新しい収益の流れを開拓し、痛手を負ったビジネスモデルを修正することが、多くの場合、NPEの生き残りのために不可欠となる。「私は、ビジネスモデルについてだけは本当に否定的に見ています」、とドネガンは総括する。「特許には価値がありますが、その価値を実現する方法が変わりつつあるのです」。そして、それと共に取引の手段もまた変わりつつある。

行動計画

株価の下落圧力や厳しいライセンス環境により、多くのNPEは現在、いかに事業を多角化できるかの比較評価を行っている。

  • 他のライセンサーと契約してリスクを分散させたり、資産を売却して資金を調達したりする他に、NPEには同セクターに関する深い知識を活用するチャンスがある。
  • 一部のNPEは製造事業の買収を目指しているが、投資家たちがどの程度新しい機会を支持する用意があるかが極めて重要である。
  • 資本が充実しており今後数年を生き延びることのできるNPEには、市場が改善するにつれ利益が得られるようになる可能性が大いにある。

筆者紹介 リチャード・ロイドは、ワシントンDCに拠点を置くIAMの北米エディターである。

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