1回の訴えで、欧州全体の特許権行使が開始できる
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グローバリゼーションは多くの恩恵をもたらしたが、一方で偽造や侵害も容易になった。しかし、来年発効予定の単一効特許では、最大24のEU加盟国で行使可能な権利 ― 相互に連係する世界のための相互に連係する権利 ― が付与される。
今日のグローバル経済でのインターネットやソーシャルメディア、宣伝のおかげで、世界中の消費者は、どこで生産されたものかに関わらず製品を認知し、おびただしい数の製品が、グローバルに取引されている。このため、企業は今では、自国市場だけに向けて商品を生産するのではなく、グローバル化の機会に対する意識がますます高まっている。
商品は、例えばコンテナ船を使って世界中に輸送される。大規模な中心地に位置する空港や戦略的に位置づけられた港湾は、到来する貨物船や航空機にとって重要な国際ハブの役割を果たす。こうしたハブでは、貨物は再び積み込まれ、目的地別に再仕分けされて、世界各地の最終目的地へと運ばれる。そうした港湾や空港ハブは、地域市場への商品の入り口となる集権的拠点でもある。ハブに到来した商品は、積み荷から降ろされ、トラックや鉄道、内陸水路などを利用して国内や地域内で輸送される。
国際市場に焦点を当てている企業は、グローバル化した消費者市場から大きな恩恵を受けていることは明らかである。残念なことに、グローバル化の恩恵は偽造や侵害、並行輸入、特許を侵害する製品や半製品、原材料の取引といった活動に携わる者にも認識されており、分け前を得るために不法行為が行われている。
知財戦略:経営戦略の成功に不可欠
不公正な取引の脅威に打ち勝つには、厳密かつ国際的な知財権戦略が必要である。海外の重要市場を守るためには、行使可能な特許権が不可欠である。
欧州では、ドイツ、フランス、オランダといった経済的重要性の高い国で特許出願を行わなければならない。外国企業は、欧州特許(特許の束)での出願を選ぶことが多い。欧州特許は直接、または特許協力条約(PCT)に基づく国際出願の国内または地域の段階において出願することができる。多くの欧州諸国では、PCT出願に基づいて国内出願を行うことができるが、フランス、ベルギー、オランダなどいくつかの国では、この国内PCTルートは閉じられている。但し、オランダでは、このPCTルートの再開を巡って議論が行われている。これらの国々においては、パリ条約に基づく優先年内であれば、国内特許を要求することが可能で ある。
欧州特許は、付与後、特許権者が出願の対象としたEU加盟国において、国内特許となる。以下に概要を示すように、多くの場合、欧州特許(特許の束)では、有効化の対象としてドイツ、英国、ポーランド、イタリア、スペインまたはフランスといった国々に加え、オランダを選ぶことが推奨されている。オランダは製品にとって欧州への重要な玄関口となっているため、オランダでの特許保護の取得は、企業にとって侵害製品の欧州市場への侵入を防ぐ方法となる可能性がある。さらに、 オランダにおける商標保護も同様に重要であろう。
税関留置および押収措置の申請
特許や商標権に基づいて国境での留置を申請できることは、貴重な手段である。EU加盟諸国では、税関押収は、税関における知的財産権の権利行使に関するEU 規則(608/2013)を通じて行うことができる。
オランダのロッテルダム港は、EU最大の貨物港である。例えば、2014年のコンテナ貨物取扱量は126百万メトリックトンであった。さらに、アムステルダムのスキポール空港は、欧州で有数の貨物ハブの1つである。このことから、企業は、オランダで訴訟を1件起こすことにより、欧州における知的財産権の行使を一元的に開始することができる。スキポール空港やロッテルダム港において、侵害商品が欧州連合域内に入る時点でこれを阻止すれば、そうした商品がEU加盟国に入るのを効果的に防止できるのである。
オランダ税関は、企業が欧州連合域内での自社の商業的地位を守るための手助けをし、オランダ国内および欧州各国での特許権の権利行使を積極的に支援する意欲が高いことで知られている。ただし、企業がオランダ国内において行使可能な知的財産権(特許や商標など)を保有しており、かつ税関措置申請書を税関に提出していなければ、税関が役に立つことはできない。この申請書は、指定商品がオランダに入る時点で知的財産権が侵害されていると疑われる場合に、措置を講ずるよう税関に要請するものである。税関は職権によって行動することができるが、2014年、税関が執行した知的財産権の98.3%が税関の措置を要請する申請に関連するものであった。税関は全ての貨物を検査することはできないものの、権利者やその弁護士と協力して成功率を高めることができる。一旦侵害商品がオランダ国境で留置されると、当該商品の欧州各国への更なる流通は阻止される。税関措置の後は、本案の訴訟手続きが行われなければならない。侵害商品は、税関で止められなければ、ヨーロッパ各国に流通する可能性があり、その場合権利者は複数のEU加盟国内で訴訟手続きを始めなければならないかもしれず、時間も費用もかかる可能性がある。したがって、オランダでの税関措置は有効で、時間と費用の両方を節約することができるので ある。
ロッテルダム港とスキポール空港はオランダ国内では圧倒的な規模を誇る貨物ハブであるが、企業が一旦オランダ国内で行使可能な特許権を保有すれば、税関への申請が認められた場合、より小規模な空港や港を通ってオランダに入る商品も税関措置の対象となる。他にもオランダには、マーストリヒト・アーヘン空港、アイントホーフェン空港およびロッテルダム・ザ・ハーグ空港などの貨物空港があるが、小規模な港はデルフゼイル、エームスハーフェン、ハーリンゲン、デン・ヘルダー、アムステルダム、ザーンスタット、フェルセン・ベーフェルヴァイク、エイマイデン、スヘフェニンゲン、スキーダム、フラールディンゲン、マーススライス、ドルトレヒト、ムールデイクおよびフリシンゲンなどの各地にある。
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オランダの特許権が行使可能 | |||||
シナリオǂ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
EUの偽造防止規則に基づく国境留置手段がオランダ国内で利用可能 | + | + | + | + | ECJの2011年12月1日付決定(ECLI:EU:C:2011:796)に関連:「製造 フィクション」は認められない |
オランダで単一効特許が有効(2017年1月以降) | |||||
シナリオ | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
EUの偽造防止規則に基づく国境留置手段がオランダ国内で利用可能 | + | + | + | + | ECJの2011年12月1日付決定(ECLI:EU:C:2011:796)に関連:「製造 フィクション」は認められない |
オランダ国内で行使可能な特許権がない | |||||
シナリオǂ | 11 | 12 | |||
EUの偽造防止規則に基づく国境留置手段がオランダ国内で利用可能 | + | + | |||
ǂ 各シナリオ: • オランダで特許が有効 – 欧州連合域外から製品が到着(スキポール空港やロッテルダム港等):
1 例えば、オランダ市場で製品を販売することによりオランダ国内では特許を侵害(の提示)するが、オランダ国外の欧州市場(EU加盟国、非加盟国のいずれも)では販売しない場合 2 例えば、オランダ市場で製品を販売することによりオランダ国内で特許を侵害(の提示)し、同様の特許権を有する1つ以上のEU加盟国(ドイツ、ポーランド、イタリア等)に輸送する場合 3 例えば、オランダ市場で製品を販売することによりオランダ国内で特許を侵害(の提示)し、同様の特許権を有する非EU加盟国(スイス、ノルウェー、トルコ等)に輸送する場合 4 同様の特許権を有する1つ以上のEU加盟国(ドイツ、ポーランド、イタリア等)への輸送のみで、オランダ市場では製品を販売しない場合 5 同様の特許権を有する欧州内外の非EU加盟国(スイス、ノルウェー、トルコ、ブラジル等)への輸送のみで、オランダ市場では製品が販売されない場合
• オランダおよび他の25のEU加盟国で単一効特許が有効(2017年1月以降利用可能) – 欧州連合域外から製品が到着(スキポール空港やロッテルダム港等):
6 例えば、オランダ市場で製品を販売することによりオランダ国内では特許を侵害(の提示)するが、オランダ国外の欧州市場(EU加盟国、非加盟国のいずれも)では販売しない場合 7 例えば、オランダ市場で製品を販売することによりオランダ国内で特許を侵害(の提示)し、同様の特許権を有する1つ以上のEU加盟国(ドイツ、フランス等)に輸送する場合 8 例えば、オランダ市場で製品を販売することによりオランダ国内で特許を侵害(の提示)し、同様の(国内)特許権を有する非EU加盟国(スイス、ノルウェー、トルコ等)に輸送する場合 9 単一効特許が有効な1つ以上のEU加盟国(ドイツ、フランス等)への輸送のみで、オランダ市場では製品が販売されない場合 10 同様の(国内)特許権を有する非EU加盟欧州諸国やその他の国々(スイス、ノルウェー、トルコ、ブラジル等)への輸送のみで、オランダ市場では製品を販売しない場合
• オランダで行使可能な特許権がない – 欧州連合域外から製品が到着(スキポール空港やロッテルダム港等):
11 国内特許権が有効な1つ以上のEU加盟国(ドイツ、フランス等)へ輸送 12 (国内)特許権を有する非EU加盟欧州諸国やその他の国々(スイス、ノルウェー、トルコ、ブラジル等)への輸送のみ |
単一効特許は税関差押の実施に、さらに容易な道を開く
数十年にわたる議論の末、単一効特許が2017年にようやく発効する。単一効特許の保有者は、最大24のEU加盟国(ドイツ、ベルギー、フランス、オランダを含む)で行使可能な特許権を手にすることになる。基本的に、EUの上位経済圏に関しては、これによってより簡単な特許戦略を取ることが可能になる。単一効特許により、欧州における特許権行使や税関措置は、さらに 容易なものとなるだろう。
侵害商品引渡しのための押収
オランダにおいて特許権者または商標権者が有するもう一つの機会として、侵害商品を引渡しのために差し押さえるよう求める申請書を、管轄権のある地方裁判所の判事に提出するという手段がある。そうした依頼は通常、一方的に(即ち、侵害被疑者の審問なしに)処理される。侵害商品の引渡しのための押収は執行吏が実行し、侵害者の施設または侵害商品が置かれている可能性のあるあらゆる場所(倉庫等)で行われる。侵害商品の引渡しのための押収が行われたら、すぐに本案の 訴訟手続きが行われなければならない。
証拠押収
オランダでは、権利者は、侵害に関する証拠を守るために、侵害被疑者や第三者の下で証拠押収を行うことができる。証拠押収は通常、独立の特許弁理士や知財専門家の支援を受けて執行吏が実行する。差し押さえられた証拠は留置され、事後訴訟手続きにおいてアクセスを要求することができる。証拠押収は、他国での侵害の証拠を得るために、外国特許(欧州特許の外国部分等)に基づいて行うこともできる。
越境差止命令の利用可能性
オランダの法制度には、特許侵害に関する仮救済措置において越境措置が利用できるという利点がある。ハーグ地方裁判所の判事は、オランダ国内に居住する被告に対して越境仮差止(即ち、オランダ以外の他国も対象とする仮差止)を許可する権限を有する(ソルベー対ハネウェル、欧州司法裁判所(ECJ)2012年7月12日、C-616/10、ECLI:EU:C:2012:445)。これには、オランダ国内に本社を置く企業だけでなく、国際企業のオランダ現地法人も含まれる。判事は、外国法人に対しても越境差止を許可することができる。但し、オランダ国籍の侵害者が関与し、同一の侵害製品による複数加盟国の同一欧州特許(の国内部分)の侵害に関するものであることが条件とされている(ㇿディア対ジアクシン(嘉興)、ハーグ控訴裁判所、2015年11月24日、ECLI:NL:GHDHA:2015:3923)。判事は、欧州特許に基づいてだけではなく、米国や日本といった非欧州特許に基づく場合でも、越境差止を許可することができる(デラバル対ボーマチック、ハーグ地方裁判所判事、2012年12月7日、IEF 12106)。
コメント
オランダの法制度では、税関措置や押収、越境差止請求等、時間や費用を節約できる様々な方法が特許権者や商標権者に提供されている。こうした措置は、企業が欧州各地において自社の知的財産権を保護するための有益な手段を提供する。したがって、国際的に活動する企業は、こうした可能性を最大限享受するために、オランダにおいて特許権や商標権を確立すべきである。
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マリ・コーステンは、NLOの欧州特許弁理士で、医薬品および食品技術を専門としている。定期的に、オランダやベルギーの裁判所において、国際的な製薬会社を代理して特許訴訟に携わっている。多国籍製薬企業の支援の他に、国内のライフサイエンス企業の知財ポートフォリオの構築、維持、アウトライセンスを支援している。また、知財デューデリジェンスや新規株式公開において企業や投資家、弁護士事務所をサポートしている。ワーゲニンゲン大学で工業微生物学および製品開発を専攻して理学修士号(MSc)を取得した他、ナイメーヘンのラドバウド大学で法学修士号(LLM)を取得して いる。

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バート・オースティンは、知的財産、特許およびライフサイエンスの全ての分野を含む実務を担当している。これらの分野の法律について定期的に講義を行い、こうしたテーマについて著作や講演も多い。特許訴訟に豊富な経験を有し、特に医薬品、医療機器およびハイテク産業に重点を置いている。オランダ国内の各裁判所において特許事件を扱い、欧州特許庁での複数の異議申立にも関与している。また、特許戦略や特許出願および権利行使戦略の他、技術移転やライセンス付与といった取引関連事項についても助言を行っている。国内外の裁判所での(技術)訴訟や、国内外の仲裁にも経験が深い。これまで複数の国際仲裁を扱っており、また国際商業会議所の仲裁人を務めたこともある。

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ルード・ファン・デル・フェルデンは、ライフサイエンスや化学薬品、エレクトロニクス等、様々な技術分野の特許訴訟に豊富な経験を持つ。際立った業績として、越境実務に関する争点にはけりがついたと思われた欧州司法裁判所での判決が出されてから間もなく、特許裁判において越境差止命令を獲得したことが挙げられる。また、オランダ国内で押収された証拠を国外での侵害訴訟で利用するためのアクセスを認める重要な控訴裁判所の判決を得たこともある。訴訟業務に加え、特許戦略や特許出願および権利行使、ならびに取引関連事項に関する助言も行っている。