効率的な特許戦略の 実施
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トルコにおける新たな特許法の施行を目前に控え、知財権利者は今後変更される出願手続と権利行使の内容を鑑み、特許戦略を見直すべきである
20年以上施行されてきた特許と実用新案の保護に関する特許法第551号に換えて、知財法全体の中で新たな特許法を制定することになり、その施行を目前にした今、出願手続と権利行使の観点から、トルコで適用される効率的な特許戦略を再検討する必要がある。
PCTルートか、EPルートか?
まず、上記の特許法第551号が施行されていたこの十年の間にどのような進展があったか、最近の特許出願手続の状況を例に検討してみよう。トルコは2000年にEPC(欧州特許条約)に加盟して以来、トルコ国内に移行されたPCT(特許協力条約)出願の件数は2001年から2003年の間に急減しており、同時に加盟後十年の間にEP(欧州特許)有効化ルートを通じたトルコの特許出願件数は徐々に増加傾向を示している。
トルコの公用語による完全翻訳版(ロンドン協定は適用外であるため)の明細書とクレームをトルコ特許庁に提出する手続により、欧州特許付与の公示から3か月以内に、トルコ国内でも特許が付与されるが、これに加えて、欧州特許がEPO(欧州特許庁)の出願段階にある間でも、特許を保護する暫定的な体系が想定される。すなわち、トルコ語に翻訳されたクレームがトルコ特許公報で公示されるか、または発明の使用者に当該翻訳版が伝達される時点で、トルコでも欧州特許出願が国内出願と同じ権利を取得したものとみなされる体系である。これにより、知財権利者に、特許権の侵害を根拠として、裁判所に訴訟手続きを起こす権利が付与される。
PCTの国内移行ルートと比較して、EP有効化は一見すると、容易で安価な手続に見えるかもしれない。しかしEP有効化では、実用新案その他にまで拡大することは認められていないため、PCTルートのような柔軟性を備えていない。一方施行中の特許法第551号は、PCT出願に関して国際的調査の報告結果を踏まえて他の選択肢も出願者に提供している。例えば、PCT出願の実用新案出願への変更、通常の実体審査を含む特許出願手続以外に、実体審査を省いた特許出願(特許保護期間7年)への変更などである。
この件について、PCT出願の国内移行後、出願者はトルコの出願手続の間に有効な報告書として国際調査報告書を用いて作業を進めることになり、この間に、出願者は実体審査を省いた短い特許期間7年と、審査を行う完全な特許期間20年のいずれかを選択するよう要求される。国際特許出願に対して、PCT第2章の下で国際予備審査報告書が作成されている場合、完全な特許期間20年が唯一の選択肢となる。この場合、初回審査報告書としてIPER(国際予備審査方向)が考慮される。この審査プロセスは3段階から成り、国内特許出願が認められるか否かは、最終段階となる3段階目に必要に応じて提出される審査報告書に従いTPIにより決定される。
トルコの特許出願の審査プロセスにおけるもう一つの重要な進展は、「2 02 0ビジョン」において、T PIが特許協力条約の調査/審査機関としてWIPO(世界知的所有権機関)の承認を得るために最善を尽くすと決定し、TPI(トルコ特許庁)が独自にトルコ特許出願のための調査審査報告書の作成に着手したことである。適切な職務経歴とノウハウを持つ役員から成る複数の調査審査チームが編成され、その後数年のうちに、それらのチームはWIPOとEPOの複数のトレーニングプログラムに参加した。
したがって、TPIが別途公式に、出願者に対して20年以上トルコの特許出願の外部委託調査/審査シェアホルダーとして指定されていた調査/審査機関(オーストラリア、スウェーデン、デンマーク、またはロシアの特許庁)のいずれかを審査の目的で選択するよう通知しない限り、出願者は、所要の審査報告書を作成する機関としてトルコ特許庁を選択することが求められる。この実施は最近開始したばかりであるため、報告書の質は現時点で確認されていない。
最新の改訂特許法
2016年度中に予定通りに改訂特許法が施行された場合、特に「付与後の異議申立」の検討中に国内で作成される調査審査報告書の影響は、付与の段階だけでなく権利行使および有効性に対しても重要になることは明らかである。2016年度内に新しい特許法が施行される場合に見込まれる変化について、国内外のイノベーターの特許保護戦略に間違いなく影響を与える重要なテーマを以下に挙げる。
大学職員の発明システム
現在の規定によると、研究者がその研究職務内で行った発明は自由発明とみなされる。発明は、雇用者としての大学ではなく研究者に帰属していた。審議中の法案は、いわゆる教授の特権が除外される新たな規定を盛り込んでいる。すなわち、研究者(通常の学生と博士課程の学生を含む)がその職務の範囲内で行ったすべての発明は、特定の条件を満たせば、大学に帰属するとみなされる。
付与後の異議申立
新たな草案では、特許付与の公示から6か月以内に、第三者が同特許に対して異議申立を申請できるとした、欧州特許条約の流れに沿った付与後の異議申立の導入が提案されている。特許権者に対して異議申立がなされると、特許権者の意見陳述または特許出願の修正が要請される。異議申立と特許権者の意見および修正は、いずれも、発明の非特許性に関する決定を下す委員会(構成員については、現時点では定義されていない)により審査される。
バイオテクノロジー特許の導入
審議中の法案ではさらに、1998年7月6日の欧州議会および理事会のバイオテクノロジー発明の法的保護に関する指令98/44/ECへの準拠を目的として、特許保護の対象となるバイオテクノロジー分野の発明と、非特許事由および発明を修正している。バイオテクノロジー分野の発明の定義と出願手続期間中のそれらの発明の扱いについては、別の記事で議論する必要がある。
7年の特許システムの廃止
トルコの特許法案は、7年間の短期特許、20年間の完全な特許、および10年間の実用新案を規定し、保護の種類を複数の選択肢から選択できるようにしている。現在の法案では、短期特許期間である7年間の任意の時期に、特許権者自身または第三者が申請し、実体審査が実施されることを条件として、7年の特許あるいは実用新案を20年の完全な特許に移行することが許可される。この点は欧州特許の提案と異なる。第三者が他者の特許または実用新案の実体審査を申請するトルコでは、他者が審査費用を全額負担する必要がある。なぜなら、第三者が他者の短期特許または実用新案の実体審査を要求することの抑制になるからである。新しい制度の下では、実体審査の要求は義務化され、この審査を省略した場合、特許出願は撤回される。
実用新案システムの再適応
草案によると、以下に対して実用新案は認められない。
- バイオテクノロジー分野の発明
- 化学プロセスと同プロセスで得られる製品、および化学製品
- 製薬プロセスと同プロセスで得られる製品、および製薬製品
新草案では、実用新案の出願に対する義務的な新規性調査が導入され、これに対応して出願者が修正を申請する可能性が生じる。
特許権の効果的な活用という面では、保護または侵害を申し立てる目的だけでなく、資産形成という観点から、この十年間の経済発展に伴い、トルコの工業生産量が飛躍的に増加したことを指摘する向きがある。2015年の時点で、2,600万人以上の若く高学歴の意欲ある労働力を擁するトルコ経済は、今や、研究開発を革新的な製品やサービスとして開花させることを主な目標としている。現在の市場環境は、自身の発明から利益を得ようとする多くの特許権者を惹きつけている。したがって、登録可能、保護可能な特許権の存在は重要であるが、それ以上に、特許権が市場内で行使可能な状態にあることが、競争が激化する今後十年間でますます重要となる。本項では、特許権者がトルコで特許権を行使するための法的手段と環境について、簡潔に述べることにする。
特許の無効または侵害申立の紛争はすべて、専門の知財裁判所で聴取される。特許権法では、特許権者に以下の救済策を認めている。
民事手続:特許権者には、不正な製造、販売、販売申し入れ、使用、所持およびそれらを目的とした物品の輸入の停止を求める権利、損害賠償を求める権利、および民事手続の文脈内での中間的差止命令を求める権利が与えられる。
差止命令:トルコ民事訴訟法では、重大な/回復不可能な損害の直近の脅威がある場合に、特許権者に対して、民事手続期間中のいかなる時点でも中間差止命令を求める権利を認めている。侵害を停止するための迅速かつ効果的な手段として、法律では以下
を規定している。
中間差止命令は、その性質上、判決の有効性を完全に保証するものであり、特に以下を規定する。
- 特許権を侵害する行為の停止
- 国内で補償対象の損害に対する保護/保証を付帯することを命令する差止命令
この規定により、民事訴訟の終了時に判決が完全に行使されることを目的に、特許権者は、判決の有効性を保証するための中間的差止命令を要求することができる。権利保有者は、特許の不正な使用、特許を侵害する物品の販売、販売申し入れ、使用、所持、輸入/輸出を停止させる暫定的差止命令を要求できる。
特許権者は、裁判所を通じて、被告に対して、民事訴訟の期間中に損害賠償の担保として保証金の支払を要求することができる。一般的に、裁判所は実際には、暫定的差止命令については保守的な態度を示す傾向にあり、通常は、裁判所が指名する専門家または専門家の一団から報告書を入手するまで、差止命令を下すことを差し控える。こうしたやり方は、特許の迅速かつ効果的な行使を遅延させることになる。
損害賠償:想定される民事訴訟では、3種類の損害、すなわち重大な損害、倫理的損害、および特許の評判に悪影響を及ぼす利用に対する損害賠償を求めることができる。
主訴訟の前の証拠保全:主民事訴訟を開始する前に、侵害行為および/または証拠について判断するために知財裁判所で証拠保全を開始することができる。これは当事者の関与なしでも進められる手続であり、管轄の裁判所の自己裁量に応じて一方的に実施できる。
有効な暫定的差止命令を下すことが困難である場合、この種の手続は、権利侵害者の生産および販売能力(商業的記録から実際の能力を判断できることが多いため、これは非常に重要)を特定し、損害賠償額を効率的に計算できるという点で、有効に活用できる。またこの手続により、長期にわたる侵害訴訟に移行する前に和解交渉に持ち込める点も有利である。
税関措置:トルコは、1999年に関税法第4458号で国境対策を制定した。この法律と規制に基づき、税関は通常の通関手続の際に、知財権を侵害すると判断するか、または想定される物品の引渡しを職権により停止する権限が与えられている。
出願者が、通常のPCTまたはEPルート経由でトルコの特許を取得すると、常に特許保護の法的措置の行使が可能になり、特許権者は権利行使戦略を採用する前に、有利な戦いの場と法的手段を詳細に決定する必要がある。このため、特許権者は問題が法廷に持ち込まれる前に、紛争を解決するための最も適切な手段を用いることができ、決着までに長期間を要する特許訴訟を回避するという目標を達成できる。
我々の経験によれば、訴訟を最低限に抑え、できる限り意識を高める努力をすることで、より実効性のある結果が得られ、最終的に特許の不正な利用を回避するという意味で、市場を規制し律することができる。
トルコは、特に商標と不当な競争に関して、比較的豊富で安定した、かなり実際的な判例法を設けているが、特許関連の判例法は比較的少ないと言われている。しかし我々は、特許権を行使する上で、予測可能性と法的明確性の問題を改善する必要はあるものの、特許権者がこの国で効果的な特許保護プログラムを実施するための実行可能な手段があると考える。