TPP協定がマレーシアの 商標に与える影響
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マレーシアが他の11か国と、多国間の自由貿易協定であるTPP(環太平洋戦略的経済連携)協定に加盟することを受けて、本協定がマレーシアの商標に与える影響について詳述する。
7年間にわたる交渉(秘密交渉だったとするむきもある)の末、2015年10月5日、マレーシアは他の11か国(ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポール、オーストラリア、カナダ、日本、メキシコ、ペルー、米国、ベトナム)とともに、さまざまな経済政策に関連する多国間の自由貿易協定であるTPP(環太平洋戦略的経済連携)協定に合意した。
TPP協定は、物品の市場アクセス、貿易の技術的障害、政府調達から金融サービスまで、広範囲の政策を対象にしている。本稿の目的は、TPP協定の知的財産章(第18章)の条文にフォーカスを当て、既存のマレーシアの知財法、特に商標に与えるインパクトについて詳しく見ていくことにある。TPP協定第18.18条には、TPP締結国が最低限導入し実施すべき知財保護の内容が明記されている。全体として、マレーシアはすでにほとんどの要件を遵守しているが、TPP協定を国会承認することとなれば、いくぶん変更する余地がある。
商標登録が可能な標章
第18.18条では、いずれの締約国も、標章を視覚によって認知することができることを登録の条件として要求してはならず、また、商標を構成する標章が音もしくは匂いであるという理由のみで商標の登録を拒絶してはならない、と定めている。これによりTPP締約国は、これまでTRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)のもとでは却下できていた商標を登録する義務を負うこととなった。マレーシアでは1987年商標法(TMA)の3節(2)(a)に定める標章の使用を「標章の印刷物その他の視覚的表示による使用」と定義している。音や匂いの標章を視覚的に認知可能な方法で表示または使用することは不可能であるので、かかる法的定義は変更される必要がある。現在、新しい種類の商標登録を可能にするため、商標法(TMA)の改正が行われている。
団体商標および証明商標
TPP協定第18.19条は各締結国に、商標に団体商標及び証明商標を含めることを義務づけている。マレーシアTMAの56節では、証明商標については詳細に定めているが、国内の商標に関する法律において、団体商標についての定めは一切の記載が見られない。団体商標は、組織や結社、組合などを特定する標章として重要であり、これらの組織が定めた特定の文字の組み合わせを用いて、自らを特定する目的でその構成員だけが使うことができるものである。当然、マレーシアにはそのような組織が数多く存在している。
なお、同条文に、「締結国は、証明商標が保護されることを条件として、自国の法令に置いて証明商標を別の区分として取り扱う義務を負わない」とある。しかし同条文があるにせよ、マレーシア商標登録局(Malaysian Trade Marks Registry、以下「登録局」)は、標章の種類別に登録情報の詳細を提供する際、一定の区分を設けるべきである。現行では商標と証明商標とが同様に扱われており、登録証明書上でも見分けがつかない。これが、当該登録が「通常」の商標ではなく証明商標として登録されていることの識別を困難にしている。
周知商標
マレーシアはTM Aの特定の条文により、すでに自国外の周知商標を認識している。たとえば14節(1)(d)では、同一もしくはほぼ同等の標章が、他の名義人による同じ商品及びサービスとしてマレーシアで周知されている場合、当該標章の登録は認められないとしている。
商標が周知されているか否かを決定するに際し、TPP協定第18.22条では、いずれの締約国も、(i)当該商標が登録されていること、(ii)周知商標の一覧表に含まれていること、(iii)周知商標としてあらかじめ認定されていること、という条件が欠如しているだけを理由に、救済が拒否されてはならないとしている。周知商標に関するマレーシアの規定はすでにこの条文の精神にそったものとなっており、またパリ条約第6条の2も準用済みである。しかしながら、マレーシア商標規則(Trade Marks Regulation 2000)の規則13Bに定められている複数の考慮事項には再検討が必要かもしれない。というのも、TPP協定第18.22条の脚注では、どの締約国も、商標が自国において周知商標であるかどうかを決定するに当たり、当該商標の社会的評価について、関連する商品またはサービスを通常取り扱う公衆を越えて浸透していることを要求する必要はないとしているからだ。
商品およびサービスの分類
マレーシアは2007年以来、「標章の登録のための商品及びサービスの国際分類に関するニース協定」を採択している。しかし今後は、TPP協定条文第18.25条にも注意を払わなければならない。本条文では、商品またはサービスについて、ニース分類の同一の類に分類されているということを理由に、それらが互いに類似するものであると認めることができない、と定めている。登録局は先に登録された商標との類似性を指摘する前に、分類番号の類似性だけに頼るのではなく、出願内容の詳細を審査しなければならないということである。逆に、異なる類に分類されていることを理由に、それらが互いに類似するものではないと判断することはできない、とも定めている。これについては、登録局はこれまでも分類番号を越えた類似審査を熱心に実践している。
使用権の未記録
マレーシアでは、登録使用者もしくはライセンシーの記録については、TMA48節(1)に「しなければならない(shall)」ではなく、「してもよい(may)」という文言が使われていることから、これまで任意であると解釈されてきた。しかしながら、48節(5)の恩恵を受け、将来に標章の不使用による登録取り消し請求に対抗するためには、こうした記録を行うことが強く推奨されている。すなわち、登録使用権者による登録範囲内での商標の使用が、名義人による使用と見なされるのである。
TMAが定めるこのような条件付きの恩恵は、もはや不可能である。TPP協定第18.27条は、いずれの締約国も、当該使用権の記録を、商標についての権利の取得、維持または行使に関する手続きにおいて、使用権者による商標の使用を名義人による使用と見なすための条件とする場合には、使用権の記録を要求することができないことが規定されているからである。
マレーシアはTPP交渉に積極的な参加国であるが、現時点ではまだ公式締約国としてTPPを承認していない。2016年初頭には国会で審議される予定である。