改正民法に基づく 特許登録
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2013年と2014年にロシアは民法の大幅改正により知財制度を抜本的に見直した。本レポートでは、この改正がロシアにおける特許出願と権利行使に与える影響について取り上げる。
出願の補正に対する制限
20年以上にわたり、ロシアの特許法は、出願人が出願の係属中にいつでも請求項に変更を加えるのを自由に認めてきた。
第1378条の改正の制定に伴い、出願人が出願を補正できる可能性が大幅に制限されることになった。この改正では、出願人は拒絶理由通知に記載された審査官の照会に応答する場合に限り、請求項を含む出願資料を補正できるとする原則が導入された。したがって、出願人が自発的に補正を行う機会は、審査官が作成した情報調査報告書を受領した後の1回のみの提出に制限されることとなった。ロシア国内手続きに移行したPCT(特許協力条約)出願人については、 PCT第39条(1)(a)に基づく要件を満たした後1カ月以内に、PCT規則78.1により、ロシア特許庁に対して請求項、当初明細書および図面を補正する機会がもう一度与えられる。
実用新案の出願の場合、審査手続中に調査報告書が作成されることがないため、補正の機会がさらに制限される。つまり、補正の機会は、審査照会状への応答、および実用新案の出願がPCTのルートでロシアの国内手続きに入る際に、上記のPCTの条項に従う場合だけに限られる。
極めて柔軟に請求項補正書を提出することに慣れた出願人は、こうした制限的な変更に伴い、出願手続の最初から自身の従来の出願戦略を再検討することが必要となる。
注目すべきは、分割出願の実務は改正されなかったことである。分割出願は依然として、親出願の係属中いかなる時点でも行うことができ、また親出願資料に裏付けられたいかなる請求項も盛り込める。
認められない補正
発明または実用新案の出願の補正が、発明の要旨の変更であり、したがって当初の開示内容から大きく外れるために認められないと判断される場合については、新たに考慮されている。これは、当初開示された技術的結果に関連しない新たな結果を示す資料を出すことを禁止するためのものである。技術的結果は、発明のレベルを評価する審査の過程で精査され、また、特徴の組み合わせでその新規性が審査される実用新案については、そうした特徴を個々に分解するために用いられる。技術的結果の詳述を慎重に行わないと、発明あるいは実用新案の審査に不利に働く可能性がある。幸いなことに、特許の旧規定と新規定はいずれも、技術的結果が発明または実用新案の実施および利用の際に客観的に実証される限り、明細書に記載できる技術的結果の数を制限していない。この場合も、世界の主要な特許庁に提出するために作成される出願書類や、重要な結果をすべて示した詳細な開示資料のほとんどが、ロシア特許庁の審査においても、同様の技術的結果を提示するための十分な根拠となる。
開示要件の充足
世界の先進国の特許庁のプラクティスに従い、特許出願に関する新たな独立した要件が導入された(第1375条)。これにより、特許および実用新案の出願には、開示要件を満たしていることを示すことが求められるようになった。改正前は、開示要件を満たしているか否かは、審査官が発明の産業上の利用可能性について判断を下す際に検討する事項の一つだったが、この新法により、産業上の利用可能性から独立した別個の要件となった。
新しい特許法では、発明や実用新案の明細書において、当業者が発明や実用新案を実施できるだけの十分な内容を、当該発明や実用新案の要点を明示した請求項と共に開示しなければならないとして、要件が拡充された。出願の際にこの開示要件を満たすことができないと、審査中に出願が拒絶されるだけでなく、特許無効の理由となりうる。
開示要件の充足というこの新たな特許要件は、世界の先進国の特許庁における出願の要件と異ならない。したがって、こうした特許庁の要件に合わせて作成された出願書類は、ロシア特許庁の定める開示要件の審査を満たせるであろう。
公開、調査報告書および第三者による監視
従来と同様、ロシア特許庁は第1386条に基づき、出願日から18カ月が経過した時点で発明特許出願に関する情報を公開する。しかし、新法によれば、特許庁は情報調査に関する報告書を作成・送付すると同時に、出願書類と共にこの報告書も公開することになる。
出願書類および請求項に関して作成された調査報告書の公開により、誰もが当該発明の特許要件に関して自身の見解を特許庁に提出することができる。これらの見解は審査中に考慮されるが、新法は、その見解を提出した者に対して、審査手続の特別の権利(例えば、参加権)を付与していない。さらに、提出された見解は一切公開されず、見解についての考慮の結果も伝えられない。
実用新案の新たな単一性の要件
第1376条は、実用新案の請求項が単一の実用新案に関わるものであることを求めている、すなわち、複数の実用新案をまとめて一つの出願を行うことは認められなくなった。したがって、単一の実用新案を裏付ける一つの独立した請求項のみが許される。さらに、新たな特許庁規則では、実用新案出願における独立請求項には代替的な特徴を含めることができないことが明記されている。
実用新案の審査
2014年10月1日以前に提出された実用新案出願は実体審査の対象とはならず、出願書類が方式の要件を満たしていれば権利が付与された。新法第1390条は、実用新案特許出願に実体審査を義務付けた。これにより、方式審査に合格した後、特別な申し立てがなければ、実体審査が行われ、当該実用新案の開示要件の充足、新規性および産業上の利用可能性が審査される。
先行技術および実用新案特許出願について定める第1354条は、新規性を評価する際、世界中のあらゆる場所において、製品が使用され、販売されたことにより知られることになった、公に入手可能な情報のすべてを考慮しなくてはならないと明示している。以前は、実用新案の先行技術は、ロシア国外での使用または販売を通じてなされた開示の検索を含んでいなかった。そのため、外国企業がロシアの先行特許を持たずにロシア市場に参入しようとした場合、多くの外国企業がロシア国外ですでに生産している製品についてロシアで実用新案を出願して権利を取得したロシアの「トロール」から提訴された。今回、先行技術が世界中での使用を含むと定義した文言が追加されたことにより、この問題が是正された。
手続の期限
期限の計算に変更が加えられた。以前は、出願人が出願手続に関して行動をおこすことのできる期間は、情報や書類を特許庁から受理した時点から起算された。改正により、特許庁が情報や書類を送付した日がすべての期限の起算日とされた。ほぼすべての期限が1カ月先延ばし(拡大)されている。
- 出願の審査または実体審査中に出される特許庁の要求や、単一性要件を満たさないとの通知に対する応答の期限は3カ月(従来は2カ月)となった(ロシア民法第1384条および第1386条)。
- 特許出願に関して、局通知で引用された資料を特許庁に請求する期限は3カ月(従来は2カ月)となった(第1386条および1387条)。
- 特許出願に関して、拒絶通知に対する不服申立ての期限は7カ月(従来は6カ月)となった(第1387条)。
特許権の維持
実用新案特許の有効期間
実用新案特許の有効期間は、以前は出願日から10年に加え、3年の延長が可能とされていたが、出願日から10年間に限定された。新法第1363条は、過去に認められた実用新案特許について、特許期間の延長は認めていない。この改正は2015年1月1日に発効した。これより以前に認められた実用新案特許の期間延長を最後に、同日以降の延長は認められなくなる。
特許期間の延長
2015年1月1日までは、医薬品および農薬の特許を延長するには、当初付与された特許の国家発明登録簿に、新しい特許期間と延長される請求項を加えていた。2015年1月1日以降は、改正第1363条に従い、PTEは補足特許の形で認められることになり、当該補足特許は、販売承認を受けた製品を特徴付ける発明の特徴の組合せを含む請求項について与えられる。
発明特許から実用新案特許への変更
2014 年10月1日以降、発明特許の付与に対する無効審判請求の審理中に、特許所有者は、実用新案の有効期間が過ぎていなければ、第1398条(3)に基づき、発明特許から実用新案特許への変更を申請できるようなった。この変更申請は、対象物が実用新案の特許要件を満たせば認められる。変更後の実用新案特許の優先日および出願日は、無効となった発明特許の優先日や出願日と同一である。
知的財産権の使用
禁止となる譲渡
民法第1234条および第1235条により、事業者で費用・対価を支払わない独占的知財権の譲渡は禁止された。
ライセンス契約の登録
第1232条および第1369条によれば、譲渡の場合、登録された知財の対象物(発明、実用新案または工業意匠など)に関するライセンスまたは担保契約の実際の契約書の写しを提供するのではなく、その取引の事実関係の詳細を特許庁に登録するよう定めている。また、これらの条項は、特許庁に知らせるべき取引についての情報も特定している(契約の金銭的条件については開示の必要はなく、契約書の提出は任意であることに注意)。
特許権の行使
保護範囲
改正された第1358条では「均等論」に基づいて発明特許の侵害の事実に関する判定を下す場合、特徴の均等性は、侵害したとする日ではなく、特許の優先日までに公知のものになっている必要がある。
したがって、第三者に有利な形で利害のバランスが変わった。
この改正により、独立の請求項に記載されている実用新案の全特徴が製品の中に含まれている場合、当該実用新案特許がその製品の中で実施されていると認められることになった。こうした状況では、均等論はもはや適用されない。
実用新案に関しては均等論が適用されなくなっているため、出願人は、請求項を作成する際に、実用新案の広範な特徴を取り上げ、それに従ってなるべく多くの例を挙げ、開示要件をできる限り満たすよう、最大限包括的に、実施可能な形で記載することが望ましい。
特許侵害に関する新たな責任
第1406条の1により、特許侵害に関する追加的な制裁措置が新たに定められた。
特許権者は、他の法的措置(差止命令、損害賠償等)に加え、損害賠償請求を行う代わりに、1万~500万ルーブルの法定補償金(この金額は、裁判所が侵害の要因を考慮し、裁判所の裁量で決定)、または同様の状況において特許対象物を合法的に実施した場合に請求できるライセンス許諾料の2倍に相当する補償金を侵害者に請求することができる。