アフリカにおける 知財権の行使
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世界でのアフリカの経済的重要性の高まりに伴い、アフリカで事業を行う企業は、しばしば最も貴重な資産とされる知的財産の保護と権利行使に注意を払う必要がある。
はじめに
アフリカは世界で2番目に広い大陸で、54の独立国で構成されている。大陸の総人口は10億人以上で、世界人口の約14%を占めている。植民地であった経緯から、ケニア、ウガンダ、ナイジェリア、ガーナ、ザンビア、ジンバブエ、南アフリカなど、アフリカには英語圏の国がたくさんあり、これらの国は「コモン・ロー(英米法)諸国」と呼ばれることがある。これに関しては後ほど詳しく述べる。この大陸にはまた、フランス語圏の国も多くあり、それらの国は「シビル・ロー(大陸法)諸国」と呼ぶばれることがある。コンゴ民主共和国、カメルーン、コートジボワール、マリなどが該当する。
アフリカ経済の規模は2000年以来、3倍以上に拡大してきた。世界で急成長中の経済圏15地域のうち9地域がアフリカにある。国際通貨基金(IMF)による最新のアフリカの経済成長率は4.5%と予測されている。アフリカの成長のほとんどはコモディティによるものだが、消費も徐々に重要な役割を帯びるようになってきている。アフリカへの海外直接投資も増加中である。
アフリカで最も人口が多いナイジェリアでは、国内総生産(GDP)が5,100億米ドルを超え、アフリカ最大の経済国となっている。南アフリカのGDPはおよそ3,700億米ドルで、第2位の経済規模となっている。
アフリカにおける知財保護
アフリカの知財登録制度は、国内レベル・地域レベル・国際レベルという興味深い(そしておそらく紛らわしい)組み合わせでできている。
国内登録制度
アフリカのほとんどの国には、自国の登録制度が存在している。つまり、知的財産の所有者は、各国
で直接権利を登録することができる。しかしながら、OAPI地域登録制度に所属している国においては、国としての登録制度は存在していない。OAPI制度については次項で論じる。
地域登録制度
アフリカの知的財産に特有の特徴としては、2つの地域登録制度の存在がある。
アフリカ知的財産機関(OAPI)
最もよく知られた地域登録制度として、フランス語圏諸国の多くで採用されている。正式名称はフランス語でOrganisation Africaine de la Propriété Intellectuelle(アフリカ知的財産機関)といい、その略称であるOAPIで広く知られている。OAPIに所属しているのは次の国々である。
ベニン、ブルキナファソ、カメルーン、中央アフリカ共和国、チャド、コンゴ共和国、赤道ギニア、ガボン、ギニア、ギニアビサウ、コートジボワール、マリ、モーリタニア、ニジェール、セネガル、トーゴ、コモロ連合。
OAPIでは、特許、意匠、商標の登録が可能である。この制度の最も重要な特徴は、その単一性にある。つまり、一度申請をすれば自動的にOAPI全加盟国に適用されるのである。OAPI加盟国では各国が独自の知的財産制度を持っていないため、国内での登録を得ることはできない。OAPI制度は長年にわたり、うまく運営されてきている。ただし、OAPIが最近、国際的な商標登録制度(マドリッド・プロトコル)に加盟したことで注意すべき点がいくつかある。それについては後述する。
アフリカ広域知的財産機関(ARIPO)
もう1つの地域登録制度は、African Regional Intellectual Property Organisation(アフリカ広域知的財産機関)、通称A R IPOである。この制度は、多くの英語圏諸国で利用されており、加盟国は次のとおりである。
ボツワナ、ガンビア、ガーナ、ケニア、レソト、リベリア、マラウイ、モザンビーク、ナミビア、ルワンダ、サントメ・プリンシペ、シエラレオネ、スーダン、スワジランド、ウガンダ、タンザニア連合共和国、ザンビア、ジンバブエ
ARIPOでは特許、意匠、商標の保護が可能であるが、商標についてはARIPOに保護を登録している加盟国は半数に過ぎない。興味深い最近の動向としては、ARIPOが新種の植物を保護範囲に追加したことがある。
ARIPOがOAPIと異なる点は、ARIPOは単一の出願制度ではなく、指定国制度をとっているところにある。つまり、出願者は中央の事務局に出願書を提出した上で、保護を希望する国を指定するのである。出願費用は指定する国の数によって変わってくる。指定された国の各知的財産当局は12か月以内に自国領土内での保護の拒否決定を下すことができる。各加盟国は、国内登録の選択肢も提供している。
ARIPOは特許についてはうまく運営されているが、商標については十分に機能しているとはいえない。その理由の1つは、ARIPOの制度と加盟国の一部の商標登録制度との間に、手続き面で大きな違いがあることである。
もう1つの理由として、ARIPO加盟国の多くが、前述したコモン・ロー諸国であることがあげられる。コモン・ロー諸国の特徴は、国際条約が国の法律の一部となるためには、立法議会の承認が必要になることである。この点、批准され次第、国際条約が自動的に国内法にも適用されるシビル・ロー諸国とは対照的である。一部のARIPO加盟国では、ARIPO商標に関する取り決めを国内で立法化できていない。そのため、次に挙げる国々では、ARIPOの商標登録の有効性や権利行使に疑義がもたれている。
レソト、リベリア、マラウイ、ナミビア、スワジランド、タンザニア、ウガンダ
こうした課題があるため、ARIPOの商標登録に出願する企業はほとんどない。
国際登録制度
多くのアフリカ諸国では、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)、世界知的所有権機関(WIPO)、パリ条約、ベルヌ条約など、主要な国際知的財産協定に署名している。また、特許協力条約(PCT)に加盟している国も多く、PCT出願によりアフリカで発明を保護することが可能になっている。さらに、アフリカ諸国の多くが意匠の国際登録制度に関するハーグ制度にも加入している。しかしながら、最近最も話題になっている国際条約は、商標の国際登録に関するマドリッド・プロトコルである。
マドリッド・プロトコル
アフリカにおけるマドリッド・プロトコルの加盟国は次のとおりである。
アルジェリア、ボツワナ、エジプト、ガンビア、ガーナ、ケニア、レソト、リベリア、マダガスカル、モロッコ、モザンビーク、ナミビア、ルワンダ、サントメ・プリンシペ、シエラレオネ、スーダン、スワジランド、チュニジア、ザンビア、ジンバブエ
すなわち、マドリッド・プロトコル加盟国に拠点がある企業は、商標の国際登録制度を利用して、これら19か国のいずれかまたは全部で自社の商標を保護することができるということである。しかしながら、アフリカにおける国際商標登録には、深刻な問題もある。
マドリッド・プロトコルに加盟しているアフリカ諸国の中には、制度を適切に管理できず、制度が定める期限を遵守できていない国がある。その結果、こうした国では国際登録が自動的に有効とみなされてしまい、当該登録が将来異議を申し立てられる可能性がある。
ARIPOがそうであるように、コモン・ロー諸国に関しても懸念が存在する。つまり、国際商標登録制度に参加しているコモン・ロー諸国の中に、マドリッド・プロトコルを国内法に正式に取り入れていない国があるという問題である。結果的に、こうした国では国際登録が有効かつ行使可能であるのかについて疑義が生じることになっている。そうした状況にある国は次のとおりである。
リベリア、ナミビア、シエラレオネ、スワジランド、ザンビア、ジンバブエの他、ガーナとスーダンも一部該当
アフリカにおける国際商標登録制度の第3の問題は、OAPIに関連している。
OAPIでは最近、地域メンバーとしてマドリッド・プロトコルに署名した。これは、前述した19か国のマドリッド・プロトコル加盟国に加えて、商標権者は国際登録に際し、出願書面でOAPIを指定するだけで、17か国のOAPI加盟国での保護を受けられることを意味する。
しかしながら、OAPIが合法的にマドリッド・プロトコルに加盟したのか否かについての深刻な疑義が生じている。というのも、OAPI のマドリッド・プロトコル加入は、OAPI同盟の発足文書、いわゆる「バン
ギ協定」を改正することなく、機関の管理理事会の決議のみによって決定されたからである。多くの法曹関係者が、単なる決議によるOAPIのマドリッド・プロトコル加入は無効だと見ており、よって国際登録に際してOAPIを指定したとしてもその指定は無効であり、また権利行使可能ではないと考えている。この点をめぐっては、現在のところ激しい論争が展開されており、最終的に裁判所に持ち込まれる可能性が高い。事態がより明瞭になるまでは、国際登録を通じてOAPI諸国で権利を保護することにはリスクがあると考えられる。
こうしたさまざまな理由により、商標権者がアフリカで国際商標登録制度を利用する際には十分な注意が必要である。
最近の知財動向
アフリカで知的財産に関する法律が常時刷新されていることは望ましい動向であり、近年は多くの国での法改正を目にする機会が増えた。IT面での進歩が見られることも喜ばしく、ナイジェリアとARIPOがオンライン化を実施している。注目すべき最近の動向を紹介する。
エジプト
エジプト特許庁は日本特許庁(JPO)と、特許審査ハイウェイのパイロットプログラムに取り組むことで合意した。エジプトでの日本企業の特許付与手続きの迅速化を図る。日本企業は、日本で特許になりうるとJPOが判断した出願について、エジプトで出願中の当該特許審査の迅速化を請求できるようになる。
モロッコ
モロッコ法がこのほど改正され、特許出願の実体審査、商標出願の実体審査、意匠およびモデルの登録に関する規定が追加された。
また、モロッコの知的財産当局はこのほど、欧州特許庁(EPO)と協定を結び、欧州特許の認証を可能とすることでも合意した。これにより、欧州での特許出願時にモロッコを指定国とすること、あるいは欧州を指定地域とする特許協力条約(PCT)出願でモロッコを指定国とすることが可能となった。モロッコで認証された欧州特許は、モロッコ国内特許と同じ法的効力を持ち、モロッコ特許法の適用を受けることとなる。
南アフリカ
南アフリカ当局はこのほど、南アフリカの特許制度を、デポジット制から審査制に変更すると発表した。もっとも、この計画の実施までには時間がかかる見通しである。
当局は2015年には、著作権法の大幅な改正を提案している。変更点は多々あるが、最も重要なポイントは、同国の著作権法をデジタル時代に対応させることである。
セーシェル
このほど法改正が行われ、英国特許・欧州特許の再登録の廃止、セーシェルで利用可能な実用新案登録、立体商標などの独創的な商標登録についての規定が設けられた他、セーシェルで意匠保護が提供されるようになった。
チュニジア
モロッコと同様に、チュニジアは特許認証に関して欧州特許庁(EPO)と協定を結んだ。しかしながらチュニジアの場合には、これを議会が承認する必要がある。
知財権行使と偽造対策
アフリカでは偽造が特に大きな問題となっている。世界保健機関(WHO)では、アフリカの医薬品市場の約30%が偽造医薬品だと推計している。それゆえ、アフリカで新たに導入される知的財産法の多くで、偽造対策の強化が顕著であることは、特に驚くにはあたらない。以下に既存の対策を簡単にまとめている。
南アフリカ
南アフリカは、偽造への取り組みでアフリカをリードしてきた。偽造対策の法律は1997年に制定されている。
この法律は重要な実務的成果をあげている。商標権者に国家機関のリソースへのアクセス権を実質的に与えているため、貴重な証拠収集手段となっている。すなわち商標権者は警察や税関当局に対し、(空港、港湾を含む)偽造品の保管または入国が行われていると疑われる施設の捜査を要請し、商標侵害の民事訴訟で証拠品としてこれらの偽造品を押収することができる。法律はまた、偽造に対し、罰金や禁固刑を含む厳しい処罰規定も定めている。
アンゴラ
アンゴラでは先頃、大幅に著作権法の改正が行われた。権利行使の観点から、訴訟手続き中の権利侵害品の押収に関する規定、損害賠償に関する規定、権利侵害品の製造に使われた原材料や設備の破棄に関する規定などが設けられた。
ガーナ
ガーナでは最近商標法が改正された。権利行使の観点から興味深い点としては、様々な形態の国際商標侵害が刑事上の犯罪とされたことが挙げられる。
事件が特定の業界に関わる場合、かかる犯罪で起訴された者は、保釈を求めることも許されない。新法ではさらに、刑法犯罪の容疑により捜査中の場合は、裁判所が商品の没収および破棄を命じることができる。
ケニア
ケニアには、偽造対策のための独自の法律がある。同法では、知的財産権所有者に有利な法律上の推定が定められた。また、偽造対策局が新設され、商品の押収や留置について規定され、侵害者に対しては5年間の禁固を含むより厳しい刑罰が科されることとなった。ケニア当局はまた、官僚主義を断ち切り、法執行における連携を促すため、複数の知的財産関連機関を合併することを決めている。
モロッコ
モロッコでは2014年に知的財産法が改正された。新法は偽造品対策で複数の特別規定を打ち出している。たとえば、税関当局には同国で輸送途中の偽造品を留置する権限が付与された。侵害訴訟の裁判長には、商品を押収する権限が与えられた。そして侵害者には、これまでより長期間の収監および高額の罰金が科せられることになった。
タンザニア
タンザニアでは2008年に規制が成立し、偽造と海賊版対策に向けた重要な一歩として歓迎された。規制には、偽造対策のタスクフォースおよび主任検査官の任命、偽造品の留置および押収に関する権限、資産凍結命令、刑事訴追などが定められている。
ウガンダ
ウガンダ当局は偽造対策に関する具体的な法案を提出しているが、まだ施行されていない。規制はまだ公表されていないが、ウガンダの新しい「2014年産業財産法」が適用されている。興味深い特徴としては、PCTの国際出願とその国内段階への移行が認識されたこと、医薬品については2016年1月1日まで、もしくは後発開発途上国に長期に付与される可能性のある期間にわたって特許保護対象から除外されること、実用新案制度が導入されること、英国での工業意匠登録が自動的にウガンダにも適用される取り扱いが中止になったことなどがある。
ザンビア
ザンビアには知的財産法案が存在しているが、まだ施行されていない。この法案では、偽造に5年間の禁固刑を科す旨が定められている。また、偽造品を国境で押収する旨の規定もある。
結論
アフリカには包括的な知的財産権の保護が整備されてはいるものの、さまざまな制度が並立していること、および各制度が抱える問題のため、実際の登録は複雑になりがちである。ただ、アフリカではこれまでになく、権利行使が真剣に取り組まれるようになってきている。これは良いニュースである。すなわち、企業の持つ知的財産が、単に理論上の存在ではなくなったということを意味するからである。