知財現場の視点

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世界の知財市場は急速に変化している。このことは、世界の市場参加者の見解を記録したIAMの最新のベンチマーク調査結果にも反映されている。

1862.jpgIAMが2012年に前回のベンチマーク調査を実施して以降、知財を巡る状況は大きく変化している。米国では、米国発明法(America Invents Act)が採択・施行され、欧州では、EU統一特許と統一特許裁判所(UPC)に向けた進展が見られた。3年前、特許市場は活況を呈していたが、今日では、少なくとも米国においては、さほどではない。

しかし、様々な動向についての報告と同じくらい重要なのは、現在の動きに対する現場の人々の見解を捉えることである。そこでIAMは、読者が以下のような一連のテーマについてどのように考えているかを見いだすために、2015年2月中旬から3月下旬までの5週間にわたり調査を実施した。

知財の問題に対する企業全体の意識

NPE(特許不実施主体)と事業会社の関係

特許価値と評価

主要特許庁の実績

主要な訴訟地

統一EU特許システムの潜在的影響

米国の改革プロセス

知財価値の創出にとって最大の脅威

知財収益活動協調体制における立場の違いに応じて、読者の意見がどう異なるかを理解するため、それぞれ特定の層に対象を絞った3種類のテーラーメイドの調査票を作成した。1つは事業会社の知財ポートフォリオ管理者、次は特許不実施主体、3番目は特許事務所の弁護士を対象とするものだった。言うまでもなく、IAM読者の全員がこれらのカテゴリーに入るわけではないが、どこかで線引きする必要があった。

調査では650名以上から回答を得たが、その多くは上級職の地位にあった。すべての回答者に対し完全に秘密を守ることを保証した。以下では、多くの極めて興味深い調査結果を抽出し、次のようなカテゴリーに分けて述べる。

回答者内訳

知財管理

市場

品質と取得

訴訟

EU特許とUPC

米国の特許改革

脅威

上記の各分野で、事業会社の回答者からの回答を中心に取り上げ、それをNPEや特許事務所の回答者の回答と比較する。結果の中にはほぼ予想外と思われたものもあるが、知財市場に関する各人の意見は市場における各自の立場に著しく影響される、という結果はうなずけるものであろう。

視点がすべてである、ということを踏まえたうえで、本調査はIAMの読者層が対象となっている点にも留意していただきたい。IAMの読者は、知財に関する見解が平均以上に洗練されていると想定される。


回答者内訳

図1.役職(事業会社)

1238.jpg

図2.役職(NPE)

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図3.役職(特許事務所)

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図4.貴社の業種は?(事業会社)

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図5.所在地(事業会社)

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図6.所在地(NPE)

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図7.所在地(特許事務所)

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知財管理

調査対象者によれば、事業会社の知財管理者が直面する主な課題は、自身が管理する資産から利益を上げる方法を見いだすことである。そして、回答者の44%が、そのことへの圧力が増していると答えている。しかしながら、明るい材料は、企業経営者が厳しく要求する一方で支援も行っていると思われることである。すなわち、回答者の90%が、会社首脳陣が知的財産の価値と重要性を認識している、という点に「強く同意」または「同意」している。知財ポートフォリオの評価が知財戦略の根幹をなすと述べた回答者の50%が、そうした価値の証明が極めて重要であると答えている。しかし、回答者によれば、価値の証明によりあらゆる形で恩恵がもたらされ得るものの、正確な評価は困難であるという。回答者のほぼ半数が、業界標準があれば有用であると考える背景には、こうした理由があると思われる。

回答者のかなり多く(68%)が、会社首脳陣が知的財産に関連する戦略計画に積極的に関与しているという点に「強く同意」または「同意」している。しかし、こうした関与にもかかわらず、なすべきことが依然残されていると思われる。すなわち、知財戦略が会社の事業戦略に完全に整合していると考えるのは、調査対象者の13%にすぎない。とはいえ、両戦略が十分に整合していないとする回答はさらに少数(4%)である。確かにこれは、正しい方向の方策が引き続き講じられていることを示すものである。

図8.知財ポートフォリオの評価に関してどのようなご意見をお持ちですか?(選択肢の中から3つまで選んでください)(事業会社)

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表1.あなたの業務に影響する最も重要な知財の問題を3つ選んで順位付けしてください(1が最も重要)(事業会社)

 

加重平均

知的財産から利益を上げる方法の発見

1.71

所有する権利の管理

1.81

ポートフォリオの保護

1.9

経営幹部の支援不足

1.97

コスト管理

1.99

発明の追跡

2.02

保有する権利の執行

2.12

ライセンス供与の機会の評価

2.24

M&Aを踏まえた知財のデューデリジェンスの実施

2.28

人員配置

2.33

ライセンス取得の機会の評価

2.42

図9.当社の首脳陣は知的財産の価値と重要性を認識している(事業会社)

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図10.当社の首脳陣は知的財産に関連する戦略計画に積極的に関与している(事業会社)

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図11.知財部門に対して、会社の知財ポートフォリオの収益化を求める上級経営陣の圧力が強まっている(事業会社)

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図12.貴組織では、知財戦略と事業戦略はどの程度整合していますか?(事業会社)

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市場

知財市場は定着しているように思われる。企業回答者の56%がまだ特許を売却したことがないと述べているものの、今後売却するとは考えられないという回答は5%にすぎない。また、売却を行う企業の多くは、NPEへの売却を歓迎している。NPEの回答者の50%以上が、自身と取引する事業会社の数が増加していると答えている。同時に、44%は、企業と協力して特許権を執行することが以前より増えていることに「強く同意」または「同意」している。とはいえ、収益化プログラムでNPEと協力しているとする事業会社の回答者は18%にとどまる。ただし、この可能性を全く排除したのは7%にすぎない。

NPEの回答者の大部分および事業会社の回答者の多くは、過去12カ月間に特許の価格が下落したという点に同意している。また、米国の裁判所が下した判決という理由についても一致している。これは、アリス判決が影響を及ぼしているものと思われる(裏付けられてはいないが、2013年にも価格が下落したようである)。事業会社にとって、特許を購入する最重要の理由は、「業務の自由の確保」が突出しているものの、17%は収益機会にも目を向けている。そして、対象とすべき最も重要な国・地域としては、米国が第1位、ドイツがそれに次いでいる。

図13.貴社は特許を売却したことがありますか?(事業会社)

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図14.NPEに特許を売却したことがありますか?(事業会社)

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図15.企業と協力して特許権を執行することが以前より増えている(NPE)

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図16.NPEに特許を売却する知財所有企業の数が増えている(NPE)

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図17.貴組織は特許を購入したことがありますか?(事業会社)

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図18.これまで特許を購入したときの目的は何ですか?(事業会社)

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図19.価格に関して、以下のうちどの考えに近いですか?(事業会社)

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図20.価格に関して、以下のうちどの考えに近いですか?(NPE)

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表2.現在、特許の価格が下落していると考えている場合、その原因をどのように捉えていますか?(3つまで選んで順位付けしてください。1が最も重要)(事業会社)

 

加重平均

米国の裁判所が下した判決

1.58

市場における特許の提供の増大

1.91

米国発明法の施行

1.92

スマートフォン戦争の鎮静化

2.25

表3.現在、特許の価格が下落していると考えている場合、その原因をどのように捉えていますか?(3つまで選んで順位付けしてください。1が最も重要)(NPE)

 

加重平均

米国の裁判所が下した判決

1.52

米国発明法の施行

1.76

市場における特許の提供の増大

2.13

スマートフォン戦争の鎮静化

2.17

図21.特許を購入するときブローカーを利用しますか?(事業会社)

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図22.特許を購入するときブローカーを利用しますか?(NPE)

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図23.特許を処分するときブローカーを利用しますか?(NPE)

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表4.特許を購入するとき、どの国・地域を優先しますか?(3つまで選んで順位付けしてください。1が最も重要)(事業会社)

 

加重平均

米国

1.23

ドイツ

2.03

日本

2.17

中国

2.35

英国

2.41

韓国

2.55

フランス

2.75

表5.特許を購入するとき、どの国・地域を優先しますか?(3つまで選んで順位付けしてください。1が最も重要)(NPE)

 

加重平均

米国

1.18

ドイツ

1.95

英国

2.11

中国

2.43

日本

2.64

フランス

2.67

韓国

2.71

図24.特許ポートフォリオの収益化を図る際に、NPEと協力したことがありますか?(事業会社)

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品質と取得

特許品質に関しては、今回の3種類のすべての調査で欧州特許庁(EPO)が首位となった。IAMが実施した過去のベンチマーク調査と同様、EPOおよびEPO発行の特許に対する受け止め方はほとんどが肯定的である。すなわち、特許事務所の回答者の62%、事業会社の回答者の60%、NPEの回答者の56%が、EPOの特許を「優秀」または「極めて良好」と評価している。

第2位は日本特許庁(JPO)で、米国特許商標庁(USPTO)、韓国知的財産庁(KIPO)と続き、中国の国家知識産権局(SIPO)が最下位である。SIPOの実績に対する評価は比較的幅が大きかった。その提供内容は主に「まあまあ」か「優良」とみなされたものの、「問題あり」の回答の比率が全機関中最も高かった。ただし、この比率は回答者によって差がある。SIPO発行の特許を「問題あり」に分類した特許事務所の弁護士は6%にとどまった(ちなみに、USPTOの特許を「問題あり」と評価した比率も同等水準)のに対し、事業会社の回答者では16%と高くなる。SIPOとUSPTOにとって明るい材料は、回答者が両機関とも相当に改善したとみていることである。しかしながら、USPTOについては批判の数も多く、事業会社の回答者の12%、特許事務所の回答者の14%が、過去1年で状況が悪化したと述べている。

図25.貴社の特許取得に対するアプローチとして最もよく当てはまるのはどれですか?(3つまで選んでください)(事業会社)

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図26.クライアントの特許取得に対するアプローチとして最もよく当てはまるのはどれですか?(3つまで選んでください)(特許事務所)

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図27.特許品質全般に問題があると考えていますか?(特許事務所)

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図28.現在の特許品質に問題があると感じている場合、その主な要因は何だと考えていますか?(当てはまるものすべてを選んでください)(特許事務所)

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図29.貴事務所では、クライアントに代わり提出する特許出願の品質を改善するための取り組みを実施していますか?(特許事務所)

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表6.以下の政府機関が発行する特許の品質を評価してください(事業会社)

 

優秀

極めて良好

良好

まあまあ

問題あり

該当なし

欧州特許庁

19%

41%

21%

7%

3%

8%

日本特許庁

10%

25%

26%

13%

1%

27%

韓国知的財産庁

5%

11%

25%

15%

4%

40%

国家知識産権局(中国)

2%

10%

23%

21%

16%

29%

米国特許商標庁

9%

23%

35%

19%

9%

5%

表7.以下の政府機関が発行する特許の品質を評価してください(NPE)

 

優秀

極めて良好

良好

まあまあ

問題あり

該当なし

欧州特許庁

19%

37%

18%

10%

1%

15%

日本特許庁

13%

22%

27%

9%

5%

25%

韓国知的財産庁

3%

6%

31%

16%

5%

39%

国家知識産権局(中国)

2%

3%

19%

24%

11%

40%

米国特許商標庁

15%

10%

30%

25%

10%

11%

表8.以下の政府機関が発行する特許の品質を評価してください(特許事務所)

 

優秀

極めて良好

良好

まあまあ

問題あり

該当なし

欧州特許庁

15%

47%

25%

3%

0%

10%

日本特許庁

8%

25%

37%

8%

2%

21%

韓国知的財産庁

2%

18%

29%

18%

3%

31%

国家知識産権局(中国)

2%

12%

26%

25%

6%

30%

米国特許商標庁

7%

23%

39%

18%

6%

8%

表9.以下の政府機関が発行する特許の品質は過去1年にどう変化したと感じていますか?(事業会社)

 

改善した

変わらず

悪化した

該当なし

欧州特許庁

14%

69%

4%

14%

日本特許庁

6%

61%

2%

31%

韓国知的財産庁

11%

46%

2%

42%

国家知識産権局(中国)

25%

41%

3%

31%

米国特許商標庁

25%

53%

12%

10%

表10.以下の政府機関が発行する特許の品質は過去1年にどう変化したと感じていますか?(NPE)

 

改善した

変わらず

悪化した

該当なし

欧州特許庁

19%

60%

1%

19%

日本特許庁

10%

61%

2%

27%

韓国知的財産庁

15%

47%

0%

38%

国家知識産権局(中国)

23%

36%

2%

39%

米国特許商標庁

27%

53%

5%

14%

表11.以下の政府機関が発行する特許の品質は過去1年にどう変化したと感じていますか?(特許事務所)

 

改善した

変わらず

悪化した

該当なし

欧州特許庁

14%

66%

6%

14%

日本特許庁

9%

65%

1%

25%

韓国知的財産庁

9%

58%

1%

32%

国家知識産権局(中国)

22%

45%

3%

30%

米国特許商標庁

21%

53%

14%

11%

表12.以下の機関から受けるサービスを評価してください(事業会社)

 

優秀

極めて良好

良好

まあまあ

問題あり

該当なし

欧州特許庁

17%

28%

25%

11%

6%

14%

日本特許庁

4%

19%

25%

11%

4%

36%

韓国知的財産庁

4%

14%

20%

13%

4%

45%

国家知識産権局(中国)

3%

11%

25%

17%

7%

37%

米国特許商標庁

11%

20%

35%

19%

7%

8%

表13.以下の機関から受けるサービスを評価してください(NPE)

 

優秀

極めて良好

良好

まあまあ

問題あり

該当なし

欧州特許庁

11%

17%

31%

6%

3%

31%

日本特許庁

0%

10%

28%

8%

7%

47%

韓国知的財産庁

2%

7%

21%

14%

3%

53%

国家知識産権局(中国)

0%

5%

22%

9%

7%

57%

米国特許商標庁

7%

11%

25%

21%

10%

26%

表14.以下の機関から受けるサービスを評価してください(特許事務所)

 

優秀

極めて良好

良好

まあまあ

問題あり

該当なし

欧州特許庁

10%

36%

23%

11%

1%

19%

日本特許庁

5%

21%

27%

14%

3%

31%

韓国知的財産庁

3%

15%

27%

14%

2%

39%

国家知識産権局(中国)

2%

12%

31%

16%

3%

36%

米国特許商標庁

8%

26%

30%

14%

6%

16%


訴訟

これまで、経験則として広く知られてきたのは、大型の国際特許訴訟は米国で解決するのが最良であるということだった。しかし、今年の調査の回答からは、この見方が変わりつつある可能性がうかがわれる。それは、裁判地の選好に関する限り、今や米国が長年保ってきた地位にドイツが迫っているからである。米国の裁判制度を信頼する事業会社の回答者の方が多いが、ドイツとの差はわずかである(37%対35%)。一方、NPEの回答者は、41%対38%でドイツの方を選好している。特許事務所の弁護士は、35%対26%という差で米国を選好しているが、これは、回答者の多くが米国を本拠地としているという事実を反映している可能性がある。

完全性という点に関しては、3種類の回答者グループすべてで、米国が突出した1位となっている。しかし、特許事務所は米国の制度を最も信頼しているものの、その一方で、わずかな差ながら、ドイツが金額に見合った最良の価値を提供するとの見方を覆すまでには至っていない。しかしながら、NPEの幹部は、恐らく損害賠償が多額となる可能性を念頭において、この点に関し米国に票を投じている。また、企業の在籍者も米国をトップとしているが、これは、企業が原告だけでなく被告となる可能性があり、米国では侵害の告発を打ち負かす可能性が高いと感じているためと思われる。

もう1つ強調しておきたい点がある。NPEの回答者の69%は、告発された侵害者が訴訟を和解で解決しようとする可能性が以前より低下しているということに「強く同意」または「同意」している。このことは恐らく、裁判所がこれまで以上に多くの事案を審理する可能性が高いことを示唆するものと思われる。

図30.以下のうち、知財訴訟で金額に見合った最良の価値を提供する国はどこですか?(事業会社)

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図31.以下のうち、知財訴訟で金額に見合った最良の価値を提供する国はどこですか?(NPE)

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図32.以下のうち、知財訴訟で金額に見合った最良の価値を提供する国はどこですか?(特許事務所)

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図33.以下のうち、最も完全な訴訟制度を備えている国はどこですか?(事業会社)

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図34.以下のうち、最も完全な訴訟制度を備えている国はどこですか?(NPE)

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図35.以下のうち、最も完全な訴訟制度を備えている国はどこですか?(特許事務所)

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図36.以下のどの国の訴訟制度を最も信頼していますか?(事業会社)

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図37.以下のどの国の訴訟制度を最も信頼していますか?(NPE)

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図38.以下のどの国の訴訟制度を最も信頼していますか?(特許事務所)

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図39.貴社が経験するNPEによる権利侵害主張の件数は減少していますか?(事業会社)

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図40.告発された侵害者は以前に比べ訴訟の和解に応じようとしない(NPE)

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図41.どの国がNPEからの提訴に対して最も友好的ですか?(NPE)

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EU特許と統一特許裁判所

統一特許裁判所(UPC)は、今後2年内のいずれかの時点で活動を開始する可能性があるが、その発足は待ち望まれてはいないようである。この新制度に向けて「熱心に準備している」とする回答者は、事業会社では12%、特許事務所では11%にとどまる。一方で、「慎重に準備している」とする回答者はそれぞれ29%と35%である。特に投資家や企業経営者にとって懸念されるのは、この裁判所制度が、併せて5億人を優に超える人口を有する25以上の国に対して管轄権を持つ可能性があるにもかかわらず、事業会社の回答者の23%が、その検討を始めていない、あるいは聞いたことがないとさえ答えていることである。自社にとって欧州が重要でないとする回答者が4%にすぎないことからすれば、懸念は特に大きい。

同裁判所の潜在的影響という点に関しては、事業会社、特許事務所、NPEはいずれも、判断には時期尚早ということに同意している。しかし注目されるのは、その結果欧州が一段と重要な裁判地になるとする回答が、3グループのいずれでも2番目に多い(NPEでは3位と同数)点である。また、事業会社の回答者の15%が、UPCはNPEにとって特に魅力が大きいとみているのに対し、同様に感じるNPEの回答者は10%にとどまる点も注目に値する。同裁判所が判決を下すようになった段階で、これらの数値がどう変わるかについても興味深い。

図42.新たなEU統一特許に対して積極的に計画を立てていますか?(事業会社)

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図43.新たなEU統一特許に対して積極的に計画を立てていますか?(特許事務所)

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図44.統一特許裁判所制度についてどんな見解をお持ちですか?(3つまで選んでください)(事業会社)

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図45.統一特許裁判所制度についてどんな見解をお持ちですか?(3つまで選んでください)(NPE)

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図46.統一特許裁判所制度についてどんな見解をお持ちですか?(3つまで選んでください)(特許事務所)

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米国の特許改革

米国発明法は、2011年にオバマ大統領が署名し、法律として成立した。現在、同法は全関係者にとって存在感を増しており、事業会社の40%、NPEの62%が自身の知財戦略に大きな影響を与えたと述べている。事業会社の回答者は、米国発明法を受けて特許出願へのアプローチを見直したと答えている。最も多くの回答は、「同法を受けて現在企業の出願件数が減少している」というものだった。これに対し、3番目に多く選ばれた選択肢は、「企業の出願件数が増加している」というものだった。両者の間には、「新たな当事者系(inter partes)レビュー制度により悪影響を受けた」という回答が入った。NPEの回答者にとって最大の問題は、特許主張で成功するのがどれほど困難になったかということである。当事者系レビューの悪影響は3位となった。これに対し、法律事務所の回答者は、米国発明法の最も顕著な影響は、今やクライアントが当事者系レビューで享受している成功であると述べている。

恐らく意外と思われるのは、米国発明法後の環境に対しコメントしたNPEの第1位の回答が、「状況は以前とほぼ変わらない」というものだったことである。しかしながら第2位は、「NPEであることが、かつてないほど困難になった」という回答だった。また楽観的な視点としては、「現在新たな機会が現れつつある」というNPEの総意も見受けられた。更なる改革の必要性に関しては、事業会社の回答者は、特許事務所やNPCの回答者よりもはるかに積極的である。しかしすべてのカテゴリーで大部分の回答者は、現時点での変更拡大を望んでいないと述べている。

図47.米国発明法は貴社の知財戦略に大きな影響を与えましたか?(事業会社)

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図48.米国発明法は貴社の知財戦略に大きな影響を与えましたか?(NPE)

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図49.米国発明法は貴事務所の知財戦略に大きな影響を与えましたか?(特許事務所)

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表15.与えた場合、どの分野が影響を受けましたか?(上位3つを順番に選んでください)(事業会社)

 

加重平均

現在特許出願の数が減っている

1.47

新たな当事者系手続から悪影響を受けた

1.53

現在特許出願の数が増えている

1.63

新たな当事者系手続を利用することによって恩恵を受けた

1.75

出願件数に対する付与件数の比率が低下した

1.77

先願主義により国際的な特許戦略の調整がより容易になった

1.79

先願主義により特許戦略の管理がより困難になった

1.85

対象となるビジネス方法レビュー手続から悪影響を受けた

2

対象となるビジネス方法レビュー手続を利用することによって恩恵を受けた

2.17

付与後異議制度を利用することによって恩恵を受けた

2.42

付与後異議制度によって悪影響を受けた

2.67

表16.与えた場合、どの分野が影響を受けましたか?(上位3つを順番に選んでください)(NPE)

 

加重平均

特許主張での成功がより困難になった

1.48

先願主義により国際的な特許戦略の調整がより容易になった

1.57

新たな当事者系手続から悪影響を受けた

1.66

新たな当事者系手続を利用することによって恩恵を受けた

1.67

現在特許訴訟の数が増えている

1.88

対象となるビジネス方法レビュー手続を利用することによって恩恵を受けた

2

現在特許訴訟の数が減っている

2.08

付与後異議制度によって悪影響を受けた

2.2

先願主義により特許戦略の管理がより困難になった

2.25

対象となるビジネス方法レビュー手続から悪影響を受けた

2.33

出願件数に対する付与件数の比率が低下した

3

付与後異議制度を利用することによって恩恵を受けた

3

表17:与えた場合、どの分野が影響を受けましたか?(上位3つを順番に選んでください)(特許事務所)

 

加重平均

クライアントが新たな当事者系手続を利用することによって恩恵を受けた

1.5

出願件数に対する付与件数の比率が低下した

1.73

先願主義によりクライアントにとって国際的な特許戦略の調整がより容易になった

1.85

クライアントが新たな当事者系手続から悪影響を受けた

1.88

クライアントが対象となるビジネス方法レビュー手続から悪影響を受けた

1.88

現在クライアントの特許出願件数が減っている

1.93

クライアントが対象となるビジネス方法レビュー手続を利用することによって恩恵を受けた

2.06

現在クライアントの特許出願件数が増えている

2.08

先願主義によりクライアントにとって特許戦略の管理がより困難になった

2.18

クライアントが付与後異議制度によって悪影響を受けた

2.25

クライアントが付与後異議制度を利用することによって恩恵を受けた

2.29

図50.米国における更なる立法上の改革の必要性についてどのような見解をお持ちですか?(事業会社)

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図51.米国における更なる立法上の改革の必要性についてどのような見解をお持ちですか?(NPE)

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図52.米国における更なる立法上の改革の必要性についてどのような見解をお持ちですか?(特許事務所)

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表18.現在の米国におけるNPEを取り巻く事業環境をどのように分類しますか?(上位3つを順番に選んでください)(NPE)

 

加重平均

以前とほぼ変わらない

1

NPEであることがかつてないほど困難になった

1.28

新セクター出現の機会である

1.6

最近の裁判所の判決や法律制定がNPEに新たな機会をもたらした

2

今後活動するNPEは減少すると予想する

2.02

状況がはるかに困難になると予想する

2.05

分散化されたポートフォリオが一段と重要になる

2.36

NPEとの協力を目指す事業会社が増加する

2.38

特許権者に有利な方向に振り子が戻ると考える

2.56


脅威

事業会社の回答者によれば、現在、知財ポートフォリオにとって主な脅威は訴訟費用である。僅差で続くのはリソース不足であるが、これが今後さらに厳しい焦点となるのは間違いない。NPEにとっては、訴訟費用は恐らく報奨の期待によって相殺されるため、脅威のリスト上で順位が下になる。代わりに、NPEは、付与される特許の品質を第1位に挙げている。これは、NPEが収益化に注力し、品質の劣った資産ではライセンス取引や主張の成功が得られないことを認識していることから肯ける。

やや意外なのは、事業会社にとってのNPEの脅威、および特許事務所が認識する当該脅威が、今回の回答者のリストで最下位に近いことである。しかし、その背後には、両カテゴリーの回答者が概ねNPEの活動から影響を受けないセクターで業務を行っているという事実があると思われる。またNPE自身にとっても、反NPEの感情の認識は、NPEが直面する最も切迫した脅威からは程遠い。この原因としては、NPEの回答者が、自身が必ずしも一般的ではないという事実を甘受するようになったこと、さもなければ、知財業界全体でNPEのビジネスモデルの受け入れが進んだことが考えられる。

表19.現在の貴社の知財ポートフォリオにとっての脅威を、最大のものから順に3つ挙げてください(1が最大の脅威)(事業会社)

 

加重平均

訴訟費用

1.71

リソース不足

1.92

付与される特許の品質

1.99

取締役会の関心の欠如

2

特許適格性に対する制限の強化

2.02

世界の一部における特許軽視の感情

2.07

主要特許庁における処理の遅れ

2.09

NPE

2.1

特許価値の下落

2.14

表20.現在の貴社の知財活動にとっての脅威を、最大のものから順に3つ挙げてください(1が最大の脅威)(NPE)

 

加重平均

付与される特許の品質

1.4

世界の一部における特許軽視の感情

1.72

訴訟費用

1.88

特許適格性に対する制限の強化

1.93

反NPEの感情

1.95

特許価値の下落

2.25

リソース不足

2.35

表21.現在の貴事務所のクライアントの知財ポートフォリオにとっての脅威を、最大のものから順に3つ挙げてください(1が最大の脅威)(特許事務所)

 

加重平均

訴訟費用

1.76

リソース不足

1.77

世界の一部における特許軽視の感情

1.95

特許適格性に対する制限の強化

1.97

取締役会の関心の欠如

2.04

NPE

2.24

主要特許庁における処理の遅れ

2.27

特許価値の下落

2.34

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