ダブル・スタンダード

IEEEの新しい特許方針は、標準必須特許に関する実施許諾交渉に透明性をもたらす意図のものであった。ところが、新条件に基づく実施許諾は行わないと主張する一群の企業が現れたことで、むしろ分断が生じ、プロセスが偏っているとの非難が出てきた。

昨今の状況では見逃しがちだが、新技術の開発において知的財産が中心的役割を果たすには、緊密な協力関係が不可欠であった。あなたのスマートフォンがWi-FiルーターからWi-Fiルーターへとシームレスに移動し、かつては想像するのも難しかったスピードでダウンロードを行えるのは、市場に出てくるあまたの新発明を支える特許協定の功績によるものだ。

取り決めは簡単だ。米国電気電子技術者協会(IEEE)、欧州電気通信標準化機構(ETSI)、国際電気通信連合(ITU)のような団体が策定する技術標準規格に特許発明を提供する見返りとして、企業は自社の特許を公正、合理的かつ非差別的な(FRAND)条件または合理的かつ非差別的な(RAND)条件でライセンス可能とすることに合意する。共通の標準規格は売上を伸ばすので、誰もが、つまり特許技術を提供する企業と装置の製造によって当該規格を実施する実施者の双方が最終的に利益を得ることができる。このプロセスは常に円滑なわけではなく時折裁判が必要となることもあったが、結局これまでのところ取り決めは上手く機能してきた。

ところが、この友好協定に現在緊張が走り始めている。特に無線技術の開発に道を開いてきたIEEE標準規格協会(IEEE-SA)は2月、ライセンサーが標準必須特許(SEP)となる可能性のある自社の特許の提供に任意で合意する際の条件について、数々の変更を発表した。おそらく最も重大なのは、この新方針では特許権者による差止救済があまり使えなくなり、SEPの合理的ロイヤルティを決定する数式が変更されることである。

策定にかかった2年間、これらの変更は数多くの委員会の議題となり、幾多の利害関係者により精査され、米国司法省のゴーサインを受け、IEEE-SAの一連の投票によって承認され、IEEE理事会の最終承認を受けた。つまり広範な支持を確保したのである。しかし同時にこれらの変更は最初から物議を醸していた。

昨年末までの時点で無線界の大手2社、エリクソンとノキアが新方針の下での実施許諾には合意しない可能性が高いことをIEEEに伝えていた。2月に方針の変更が確認された直後には、無線技術の重要貢献者のもう1社であるクアルコムが、この方針に従うことはできないことを宣言した。1か月後、インターデジタルCEOのビル・メリットは、IEEEに宛てた書状とIAMブログへの投稿の中で、同社が新条件には合意せず「ケースバイケースで代わりの適切なライセンス保証」を提供すると発表した。

その後程なくエリクソンとノキアは当初の展望を実行に移し、クアルコムやインターデジタルと同様、新方針に基づく使用許諾を行わないグループに加わることを確認した。エリクソンの知財権商業化担当マネージャーのモニカ・マグヌソンは、「まるで、自宅の裏庭にプールを作ったら近所の人が皆そこでタダで泳ぐことに多数決で合意するようなものです」と述べている。

アップルやシスコ、インテル、マイクロソフト、サムスンのように変更の支持に回る企業もあり、新方針はハイテク界を分断し、技術標準規格の将来について疑問を投げかけている。モノのインターネット(IoT)が開発初期段階にあり、第5世代(5G)モバイル技術の実用化が見込まれる中、標準規格設定団体やライセンス市場にはそのような分裂の余裕はない。

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インテル法務および方針チーム標準規格グループディレクター、シンディ・ファーツ

「これはビジネスモデル対ビジネスモデルという話ではありません。これはFRANDをその意味に相応しいものにしようという話なのです」

変更のきっかけ

IEEEや他の主要な標準規格設定団体が特許実施許諾方針を変更するのはこれが初めてではない。2007年、IEEEは、約束できる最も制限的な実施許諾条件(最大ロイヤルティ料率など)を開示する選択肢を特許権者に与える新スキームを承認した。企業が標準規格の一部とみなしてもらいたい特許を持つ場合、その企業は、自社の発明について実施許諾を行ってもよいと考える条件を詳述した誓約書を提出する。IEEEの2007年の変更により、曖昧なことの多い交渉にある程度の透明性が加えられたが、個々の実施許諾契約内容を厳密に保護したがる企業の傾向を考えると、恐らく当然のことながら、こうした変更は定着しなかった。

ところが標準規格設定団体は、広く認知されている実施許諾条件の曖昧さの問題に対応するようにとの政府機関や一部の企業からの圧力にますますさらされるようになった。彼らが問題として主張したのは、SEPの保有者が実施許諾条件を盾に、実施者を効果的に脅すことのできるパテント・ホールドアップと累積するロイヤルティの脅威、つまり1装置に関するライセンス料の支払が莫大なために負担が大きすぎて実施できなくなるリスクであった。この論争の他方側に属する企業側は、そのような脅威は幻想であると主張した。

2012年10月、米国司法省の司法次官補代理レナータ・ヘッセは、ITUの電気通信標準規格グループが開いた特許円卓会議において短いスピーチを行ったが、これがIEEE-SAが行動を起こすきっかけとなった。「昼食前のSSOに関する6つの『小さな』提案」と題して、将来のSEP購入者が合意された実施許諾の契約事項に拘束されることや差止救済の利用を制限すること、FRAND/RAND実施許諾条件を決定する取引費用の低減を試みることなど、標準規格機関が検討すべき一連の変更を提示するものであった。

結びの言葉として、ヘッセは、「この機会をきっかけに、FRAND/RAND契約の範囲について困難な事後解釈が必要となるような一部の不明瞭な点を取り除くことは、標準規格の恩恵を受ける全ての企業の利益になるものと思われます。既存の知的財産方針を明確化または修正することにより、みなさんが設定する標準規格が今後もイノベーションへの意欲を促進し続けることになるでしょう。」と宣言した。

こうした声は、2013年初頭、欧州委員会競争総局のチーフエコノミスト、カイ-ウヴェ・キューン、米国司法省反トラスト局の前チーフエコノミスト、フィオナ・スコット・モートンおよび連邦取引委員会経済局長のハワード・シェランスキーが、コンペティション・ポリシー・インターナショナルのアンティトラスト・クロニクルに発表された論文において標準規格設定団体に行動を起こすよう促したことで強まった。同氏らは、「私達は、FRAND/RAND実施許諾プロセスの明確化により強くコミットすることが、ホールドアップ問題の緩和、訴訟費用の低減、イノベーションの加速に大いに役に立つと考えている」と書いたのである。

図1. 絶対にノー:クアルコム、エリクソン、ノキア、インターデジタルの米国特許保有数

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出所:IPO, MDB Capital Group

図は各企業が保有する米国特許を示す。標準必須特許(SEP)だけでなく米国における全ての特許数を表す。四大大手が依然として米国市場での影響力が大きいことがわかる。

検討のプロセス

IEEE-SAはこれに注目し、その特許委員会の2013年3月会合においてヘッセの提案を検討する特別グループが結成され、実施許諾条件の改訂プロセスを開始した。1年以上かけて、この新設グループの一連の会合において特許方針の変更が提案され、フィードバックが求められ、利害関係者からの意見が検討された。

ところが、このプロセスは最初から論議を呼ぶものとなり、批判者は交渉へのインプット不足について不満を表していた。「記録を見れば誰でもこれが不透明で公正を欠いたプロセスであったことがわかると思います」とメリットは主張する。

2013年8月の会合の後に特許委員会に提出した意見書において、エリクソンの知財および競争担当ディレクターのディナ・カーライは、同スウェーデン企業の懸念を表明している。同氏は、エリクソンなどのIEEE会員は、特別グループの設置計画について事前に通知を受けず、3月の会合に出席していた者のみが参加を認められたと主張した。「エリクソンや他の多数の会員に対しこのプロセスに平等に参加する機会を認めないことは、IEEEの主張する中立性に合致しません」と同氏は述べている。これに対しIEEE SAは、プロセスは全く透明であり、IEEEの関係会員全てに委員会への参加を認めることは「プロセスの速度を落とすばかり」であろうと主張した。

エリクソンは結局、2014年初めに標準規格アドバイザーのグレン・パーソンズが加わった際、同グループに代表者を送り込んだが、その頃にはもう時遅しだったとマグヌソンは断言する。「コメント提出の頃にオープンなプロセスがあり、その後一定のコメントを排除する決定を行うための議論がありましたが私達はそこにはいませんでした。私達は参加を認められませんでした。彼らは小さなグループ内に留めることを望み、このプロセスを掌握していたのは実施者達だったのです。」

マグヌソンのコメントは、クアルコムやインターデジタルの不満とも重なるもので、この2社も、このプロセスは特許実施許諾が最終収益に大きく寄与する会社側に不利に偏ったものだったと主張する。一方、IBMのIPカウンセルのマーク・サンディ・ブロックは、彼がこうした変更の一部において明確な偏りだとみなす点を明らかにしている。「挙げられたコメントの一部は、実施者側のひとひねりが加えられてから実行されました」と同氏は主張する。ブロックは、IBMはまだ新方針に基づいて実施許諾を行うかどうか決めていないと述べたうえで、次のように付け加えた:「IEEEは、多くの重要課題について、実質的に効果的ではあるもののバランスを欠いた方法で対処したと思います。」

冷たい反応

しかしプロセスへの不満に対して、議論のもう一方側の対応は冷ややかだ。「こうした課題についてはIEEE内で十分に議論が尽くされました」とシスコの 反トラスト兼競争担当シニアディレクターの ギル・オハナは断言し、「IEEE理事やIEEE-SAの標準規格理事会との間で広範囲にわたるコメントや会議、議論が行われましたから、私は特定の企業がプロセスから締め出されたという議論には共感しません。実質的な意見の相違をプロセスが偏っていたという議論にすり替えようとしているのだと思います」と述べている。

インテルの法務および政策チームの標準規格グループ・ディレクターのシンディ・ファーツは、「ご覧になっているのは非常に声の大きな少数派なので、こうした変更への反対者が実際よりもたくさんいるように見えるのです」と付け加える。ファーツは、こうした変更が、インテルが苦戦しているスマートフォンチップ技術セクターにおけるクアルコムの優勢を損なうよう設計されているとの主張もはねつける。「これはビジネスモデル対ビジネスモデルという話ではありません。これは、FRANDをその意味に相応しいものにしようという話なのです」と同氏は言う。

2014年6月までに、特別グループの投票メンバーがマイクロソフト、ヒューレット・パッカード、アルカテル・ルーセント、エリクソン、ならびにIEEE-SAの2007年の変更の執筆に密接に係わった旧レックスマークおよびIBM役員から集められた。変更を承認し、IEEE-SAの標準規格理事会での審査へと送るこの投票は、アルカテル・ルーセントの社員とエリクソンのパーソンズが変更案に反対票を投じ、3対2という予想通りの投票結果となった。

この改訂方針は、引き続き同プロセスの次の段階において圧倒的な支持を受け、2014年8月にIEEE-SAの標準規格理事会、12月にIEEE-SA理事会、そして最後に今年2月にIEEE理事会の賛成多数を得た。米司法省の反トラスト局も、IEEE-SAの弁護士に宛てたビジネス・レビュー・レターにおいて競争の観点から異議はない旨を確認し、これにゴーサインを出した。レターには、「本省は、この改訂が実施許諾の交渉を円滑化し、ホールドアップやロイヤルティの累積を緩和し、標準規格への採用に向けた技術間の競争を促進することにより、競争面でも消費者にとっても利益をもたらす可能性があると結論づける」と書かれていた。

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インターデジタル、プレジデント兼CEO、ビル・メリット

「ライセンスの世界に20年いますが、交渉において『FRANDの意味を知らない』と言った人は一人もいません」

新方針

IEEE-SAの方針の変更は、かなり定着していた実施許諾条件の広範な改革を意味している。新方針の下で実施許諾を行おうとするSEP寄与者は、これからは、実施許諾を求める全ての者が自身の特許を利用できるようにすることに任意で合意する。ライセンサーは、自身もライセンシーの特許にアクセスできる相互実施許諾の取り決めを要求することもできる。特許権者がSEPを売却する場合、購入者は既に合意された実施許諾条件に拘束される。

多くの者にとって、これらは妥当な条件に見えるだろう。しかし、論争の多くは新方針のたった2つの規定に集中している。差止救済の有効性と、ロイヤルティ支払の計算ベースに関するものである。

アメリカでは、2006年に最高裁判所がイーベイ対メルク・エクスチェンジの判決を下して以来、差止の利用可能性の低下が特許判例法における特徴的な傾向の1つとなっている。他のいくつかの法域(おそらくドイツが最も顕著である) においては引き続き差止が認められているが、少なくとも世界最大の特許市場においては、その数は急落している。

IEEEの新方針によって、これからは、SEPを提供する者にとって世界的に差止を確保することはさらに困難となる。新条件の下では、標準規格に寄与することを目指す特許権者は、「実施者が第一次再審理を含む審判に参加しないかまたは審判の結果に従わない場合を除き、1法域においてそうした必須特許クレームに関する禁止命令を求めてはならず、またこれを執行しようとしてはならないこと」に合意しなければならない。

これは事実上、余程あくどいライセンシーの行動がない限り、差止は選択肢からなくなるということで、この動きは当然ながら激しい議論を引き起こした。交渉する意思を示している企業を市場から排除すると脅すことは、公正または合理的とはみなされないかもしれない。しかし、差止の脅威が、少なくとも複数管轄権にまたがる複雑な訴訟なしには最早存在しないとなると、特許権者から重要な武器が取り上げられることになる。特許権者の胸中では、潜在的ライセンシーはひどく不当な条件をもって交渉に臨むことが可能となり、実施許諾の交渉は歪んだものとなる。「速度制限がなく、時々車を取り締まる警察がいなければ、高速道路は大惨事となるでしょう」とメリットは皮肉る。

相手側は、アメリカでは差止救済は衰退したものの、他の場所では利用が可能なため、ライセンサーは司法権の裁定取引の機会が与えられていると反論するだろう。「抜け目のないライセンス企業は、1つ2つの重要な地理的地域において差止の脅しを使い、これを利用して自分達に有利な条件での世界的な和解に持ち込みます」とシスコのオハナは説明し、「これを一挙に阻止する唯一の方法は、標準規格設定団体が自らの方針を解釈して『そんなことはしてはならない、或いは一定の限定的条件のもとでしかしてはならない』と言うことです」と続けた。

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シスコ、反トラスト兼競争担当シニアディレクター、ギル・オハナ

「私は特定の企業がプロセスから締め出されたという議論には共感しません」

論争の中心

この差止救済に関する論争は、「公正」で「合理的」とは何を意味するのかという質問の核心に触れるものである。同様の論争は、IEEE-SAが提案しているSEPにとって合理的なロイヤルティ構成要素についても展開している。新方針の下では、特許がIEEE標準規格に採用されることから生じる価値をこれに含めてはならない。さらに、ロイヤルティの決定では、装置全体の価値を考慮に入れるのではなく、当該特許がその一部をなす販売可能な最小コンポーネントに対するSEPの価値を考慮しなければならない。

したがって、SEPの提供者は装置毎に数%のロイヤルティを得ることを希望するかもしれないが、新IEEE条件に基づいて実施許諾する者は、その金額のほんの一部しか支払われない可能性に直面するのである。当然ながら、新条件を拒絶した企業は、この改訂された数式に怒りを示している。「新方針は、報酬がそんなに乏しいならば新技術を提供することが経営上無意味となる程にまでSEPの価値を下げるリスクを犯しています」とマグヌソンは主張する。

「ノキアは、新しいIEEE特許方針は、将来的に、企業が自社の特許をIEEE標準規格に基づいて実施許諾しようとするインセンティブを削ぐものだと考えています」とこのフィンランド企業の広報担当者は話している。

変更一覧

IEEE標準規格協会が行った主要な変更は以下の通りである:

• 禁止命令 – 交渉する意思のあるライセンシーに対して差止は利用できない。特許権者が差止できる可能性をさらに低下させる。

• 制限 – 標準必須特許(SEP)の購入者は既存の使用許諾契約事項に拘束される。

• 合理的料率 – SEPロイヤルティの価額から、IEEE標準規格への採用によって特許が得る価値が除外される。IEEE標準規格に寄与する者が得られる可能性のあるライセンス料が減少する。

• 相互実施許諾 – SEPのライセンサーは、ライセンシーに相互実施許諾を求めることができる。

• 希望者 –SEPの保有者は、実施許諾を求める全ての者に対する実施許諾に合意する。

訴訟事件

新方針の支持者にとって、最近の一連の訴訟事件は、FRANDライセンシングの問題を浮き彫りにするものであった。代表的なケースとして、モトローラ・モビリティが開発し、現在はグーグルが所有する特許に関するモトローラとマイクロソフトの紛争が挙げられる。モトローラが年間約40億ドルのロイヤルティを要求したのに対し、ワシントン州の地方裁判所判事が異なる判断をし、180万ドルという支払額を算定したものである。

SEPの実施許諾は崩壊したと主張するものにとって、これはちょっとした有名事件となった。現在イェール大学の教授になっているスコット・モートンは、「真のFRAND料率が180万ドルである場合、ライセンサーが2000万ドルから出発して500万ドルを得ることを期待するのは想像に難くないことです」と述べ 「しかし40億ドルから出発するとはただ仰天します」と付け加えた。

しかし、インテル・デジタルのメリットは、これらの事件は単発的な出来事で、ライセンス市場が若干壊れているということの証明にはならないと主張する。「ライセンスの世界に20年いますが、交渉において『FRANDの意味を知らない』と言った人は一人もいません」と同氏は述べ、「我々の条件が公正でなければ、当社の技術は受け入れてもらえないでしょう」と結んだ。

今後の道筋

少数派ではあるが重要なSEP寄与者グループが新方針に反対したままであるため、IEEE SAとの間で膠着状態が生じている。3月、同標準規格団体は、その個々のワーキンググループ(どの技術を標準規格に採用するかを決定するエンジニアの委員会)に対して指針を発行し、標準規格への採用の検討対象となる特許を提供する企業が認められた誓約書を提出しない場合は「代替技術を検討してもよいでしょう」と告げた。

また加えて、「認められた[誓約書]がない状態で必須特許クレームが主張されることによって市場での実施が妨げられると判断されれば、」IEEE-SAの標準規格理事会は「承認済みの標準規格を撤回する権利を留保する」とした。今も展開中の802.11ahと呼ばれるIEEEの最新のWi-Fi標準規格は、新方針にとって早期の試金石となっている。

IEEEは、この件について既に出している公式見解と短い声明以外にこの記事のために追加コメントを出すことを拒否している。声明は、「私達は、普遍的な利用を達成でき、市場で広範に採用され得る標準規格の策定に努力しています」と述べ、「この作業はしっかりしたガバナンスなしには不可能です。IEEEは、ガバナンス文書の整備のための明確で包括的かつ公正なプロセスを確立しています」と続けている。

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エリクソン、知財権商業化担当マネージャー、モニカ・マグヌソン、

「まるで自宅の裏庭にプールを作って近所の人全員にそこでタダで泳いでもらうようなものです」

しかし、変更に反対する者は、そもそも変更が行われた理由について今も不可解に思っている。「Wi-Fiの発達速度は十分ではなかったのでしょうか?」とメリットは問いかけ、「私は技術がこれほど速く発達するのを見たことがありません」と続けた。そして、その手柄の大きな部分は、おそらくWi-Fi標準規格の先駆者であるIEEEのものである。しかし、クアルコムその他が将来の技術開発への寄与から遮断されれば、他の標準規格設定団体が機会を伺うだろうか?例えば、携帯電話標準規格の策定に先鞭をつけた3GPPがWi-Fiの先導者になろうとする可能性はないか?新しい5Gスマートフォンにおける携帯電話とWi-Fi技術の更なるコンバージェンスが進む中、標準規格の統合は筋が通っていよう。

批判者にとって、携帯電話業界がロイヤルティ累積の犠牲になったという主張は馬鹿げたものだ。一般的な携帯電話機には10ドルから20ドルの累積が積まれている可能性があるが、これはウィルマ―・ヘイルの2人の弁護士とインテルの社内弁護士による2014年の論文の中で主張されている120ドルよりずっと少ない。

おそらく、最終的な試金石は、IEEE SAの実施許諾に対する新しいアプローチが根付くにつれてスマートフォンの原価が下がるかどうかであろう。内輪話において、一部には、アップルが突然クアルコムや他のチップ仕入先から有利な取引条件を得られるようになるためにiPhone6の価格が下がるだろうとの見通しを一蹴する者もいるが、影響は必ずしも市場の最上位機種ではなく、世界レベルで評価すべきだと主張する者もいる。

「将来のワクワクする話の1つは、スマートフォンが世界中に普及するということですが、そうなるためにはスマートフォンはもっとずっと安くならなければならず、こうしたFRAND料率が合理的であることが重要となるのです」とスコット・モートンはコメントしている。

注目すべきことに、IEEE SAが変更を行う中、中国政府は国内スマートフォン・ライセンス市場に目を向けていた。今年初め、国家発展改革委員会は、中国の独占禁止法に違反したかどでクアルコムに9億7500万ドルの罰金を科し、この米企業が現地メーカー製の電話(中国国内で製造した装置のみ)に課すことのできるロイヤルティを減額したと発表した。韓国の独占禁止当局も、この巨大チップメーカーを現在調査中であることを認めた。

4Gおよび最終的には5Gスマートフォン技術の世界的な普及が今後10年の重要な進展の1つとなることは間違いない。IEEEと中国の例が判断の基準になるとすれば、進歩に対する実施許諾条件は非常に違った様相となってくるかもしれない。スマートフォン市場を超えて、モノのインターネットも相互接続性の広がりを見込んでおり、改革されたライセンス制度はここにこそ最大の影響を及ぼすとスコット・モートンは予測している。

「最大の変化が見られるのは650ドルのiPhoneではないと思います。それは、道路のセンサーやあなたの冷蔵庫のセンサー、つまりチップが高額過ぎるとビジネスモデルが意味をなさないようなこの種の通信技術だと思います」と同氏は言う。こうしたチップを製造し、実施許諾し、利益を得ようとする企業間の競争は、確かに注視する価値があるだろう。

行動計画

IEEEにおける最近の特許を巡る動向について調べる者は、次のようないくつかの重要ポイントを心に留めておくべきである:

IEEEの新しい特許方針は、Wi-Fiを含む複数分野においてライセンス制度を根本的に変えた。

こうした変更は一連の多数決で承認されたが、そのプロセスには最初から批判が付きまとった。

新条件の下では実施許諾を行わないことを示唆している企業がいくつかある中、IEEE SAはこれが将来の技術発展にどう影響するかを判断しなければならない。

リチャード・ロイドは、ワシントンDCに拠点を置くIAMの北米エディターである。

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