量から質へ:付与後レビューの進化

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米国発明法によって設けられた特許審判部は、米国における過剰な訴訟費用に歯止めをかけ、特許の質を高めるために、2012年9月に設立された。設立以降の進展を見ておく。

現代のアメリカ経済の成功は、技術革新の生産的サイクルに基づいている。サービス型・知識集約型経済への移行は、アメリカを経済大国として際立たせ、その世界的・地政学的地位に大きく貢献した。同様に、将来の成功は強力な知財権保護を備えた技術革新の文化を育て続けることにかかっており、その中核にあるのが米国特許制度である。大部分が特許で構成される無形資産が経済成長の中核を占めることから、こうした資産の確かな強度と質が非常に重要である。

こうした目的において、議会は2012年、米国特許制度の約60年ぶりの大改革となる米国特許法改正(Leahy-Smith America Invents Act)を施行した。この改革は、「特許の質を高め、不要で非生産的な訴訟費用に歯止めをかける効率化かつ合理化された特許制度を確立するために」設計された。議会が特定した2つの中核的要素である特許の質と訴訟費用は、関係者がこの新たな法制に適応するに当たって依然として中心課題であり、議会はさらなる改革の検討を続けている。

特許の質を高め訴訟費用を削減するには、2つの面において措置を講じなければならない。長期的には、特許の質は審査期間中の出願審査プロセスの改革に左右される。しかし、短期的には、制度内には既にかなりの数の質の低い特許が存在する。付与後の特許の有効性を検証する主な方法は、従来訴訟であったが、これは高価で時間のかかるプロセスで、法律制度にも技術改革にも負担がかかる。この短期的なニーズに対応するために、同法は、数々の新たな発行後審判手続きを監督する特許審判部(PTAB)を創設した。

PTABが監督する新たな付与後レビュー・プロセスは、その実施後、特に当事者系レビューにおいて、着実に利用が増えてきている。この傾向は特許制度全体にとって重大な意味を持ち、その影響は既に業務において認められる。

なぜPTABか?

1990年代初頭以降、アメリカで開始される特許訴訟の件数は着実に増え続け、2010年からさらに大きく急増し始めた(図1参照)。この傾向は複数の要因が組み合わさって生じた。付与された特許の件数そのものの増加は、少なくともその根本原因の一部である。1980年代を通して、特許は、年間約60,000件のペースで付与され、1989年には合計付与特許件数102,533件で最高となった。2013年末までに、合計付与特許件数は302,948件にまで増加した。このため、他の要素が全て不変であったとしても、付随する訴訟件数には、これに比例した一定数の自然増があると予想される。

しかしながら、付与される特許の件数の増加だけではこうした傾向を説明するに十分ではない。2000年以降、比較的未成熟だったアメリカの知財市場はその真価を発揮し始め、健全な知財取引市場となる第一歩を踏み出した。様々な業種の様々な企業が、社内で開発した発明に根ざしたものであれ他企業から買収した保有資産であれ、その特許を利用することにより貴重な知的財産をより上手く活用することを模索し始めた。事業会社も特許不実施主体(NPE)も、実施料や侵害に対する損害賠償を求めて訴訟を起こし始めた。一部の業種では激しい特許バトルが出現し、特に目立ったのがいわゆる「スマートフォン戦争」であった。こうした現行の紛争により、各社が自社の知財権の確立や擁護を試みるようになったため、訴訟率が上昇することとなった。

図1. アメリカの裁判所で開始された知的財産に関する訴訟件数と特許発行件数との比較

年度

特許訴訟件数

特許発行件数

1993

1,553

107,331

1994

1,617

113,267

1995

1,723

114,241

1996

1,840

116,875

1997

2,112

122,975

1998

2,218

154,577

1999

2,318

159,161

2000

2,484

182,218

2001

2,520

187,817

2002

2,700

177,311

2003

2,814

189,590

2004

3,075

187,169

2005

2,720

165,483

2006

2,830

183,187

2007

2,896

184,376

2008

2,909

182,556

2009

2,792

190,122

2010

3,301

233,127

2011

4,015

244,430

2012

5,189

270,258

2013

6,497

290,083

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特許訴訟件数の出典: Judicial Business of the US Courts – supplemental tables, September 30 2013, www.uscourts.gov/Statistics/JudicialBusiness/2013.aspx

特許発行件数の出典: USPTO Performance and Accountability Reports, www.uspto.gov/web/offices/ac/ido/oeip/taf/ann_rpt_intermed.htm

図1は政府会計年度ベースのデータに基づく。

裁判所制度にかかる負担に対する懸念が、議会による改革の試みに拍車をかけた。米国発明法に関する下院報告書において、委員会は次のように述べ、訴訟と特許の質の両方をその決定における主要な要素として強調した:「我が国の特許法の近代化の必要性は、裁判所においても表れている。最高裁判所は、第109回議会の開始以降に審理した特許関連訴訟のうちの6件において、連邦巡回区控訴裁判所の判決を覆した・・。裁判所の判決は、特許の質を高め、特許の有効性の判定をより効率的に行う方向へと動いている。こうした判決は、疑問符のつく特許の取得が簡単に行われ過ぎており、これに対する異議申立が難しすぎるという意見が増えていることを反映している。」こうした問題を考慮に入れて、最終改革法案は、「訴訟に代わるタイムリーで費用効果の高い手段を創設するために」、新設PTABの下での付与後レビュー制度の基礎を築いた。

図2. 当事者系レビューの申立

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出典: USPTO当事者系レビュー統計 - www.uspto.gov/ip/boards/bpai/stats/aia_statistics_01-22-2015.pdf

図2は政府会計年度ベースのデータに基づく。

PTABの実施と成長

設立後2年半足らずのPTABはまだ比較的新しい機関であるが、この短い期間においてさえ、いくつかの興味深い傾向が見られる。PTABは、以下を含む複数の新しいタイプの審判手続きを行う権限を与えられている:

• 当事者系レビュー

• 付与後レビュー

• ビジネス方法特許の異議申立

• 冒認手続

当事者系レビューの申立が圧倒的にもっとも普及していることが判明している。申立の件数は、最初の6ヶ月は月平均25件と比較的ゆっくりとスタートを切ったが、すぐに急増した(図2参照)。パテクシアのデータベースによると、2012年9月16日から2015年1月31日までの間に米国発明法の申立は合計2,702件あったが、そのうち2,399件(88.8%)が当事者系レビューであった。残りはビジネス方法特許の異議申立が291件、冒認手続が8件、付与後レビューが4件であった(図3参照)。

図3. タイプ別PTAB手続

タイプ

申立件数

 当事者系レビュー

2,399

 ビジネス方法特許の異議申立

291

 付与後レビュー

4

 冒認手続

8

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出典: USPTO当事者系レビュー統計 - www.uspto.gov/ip/boards/bpai/stats/aia_statistics_01-22-2015.pdf

被告に対する特許の無効化の試みにおいて、当事者系レビューは費用を抑えることができ、比較的容易な手順であることを被告が認識するに従い、この制度は急速に成熟した。この結果、当事者系レビューの実際の申立件数は、米国特許商標庁(USPTO)が発表した当初の予想を大きく上回った(図4参照)。

図4.当事者系レビュー申立の予測件数と実数

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申立予測件数出典:USPTO 報告書 “Changes to Implement Inter Partes Review Proceedings, Post-Grant Review Proceedings, and Transitional Program for Covered Business Method Patents; Final Rule” – www.uspto.gov/sites/default/files/aia_implementation/fr_specific_trial.pdf

申立件数データ出典:USPTO 当事者系レビュー統計 – www.uspto.gov/ip/boards/bpai/stats/aia_statistics_01-22-2015.pdf

図4は政府会計年度ベースのデータに基づく。

一部の業種では、合計申立件数の割合も高くなっている。例えば電気・コンピューター業界は、図5に示す通り、2014年1月から現在までの全ての申立の半数を超えている。

図5. USPTO パテント・テクノロジー・センター(TC)毎のPTAB申立件数

タイプ

申立件数

 電気・コンピューター(TC2100、2400、2600、2800)

940

 機械・ビジネス手法(TC3600、3700)

356

 化学(TC1700)

120

 バイオ・医薬品(TC 1600)

139

 デザイン(TC2900)

3

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手法 出典: USPTO 当事者系レビュー統計 – www.uspto.gov/ip/boards/bpai/stats/aia_statistics_01-22-2015.pdf

データ出典:パテクシアの当事者系レビュー・データベース- www.patexia.com/ip-research/lawsuits

法廷自体と関連当事者の双方の成熟度の高まりもデータで示されている。時間が経つにつれ、「申立で争われているクレームのうち少なくとも1件については申立人が勝訴するであろう合理的可能性」に基づいたPTABの審判開始率は、当初2013年の87%という高い水準から低下している(表1参照)。

表1. PTAB訴訟開始率

年度

審理開始

棄却

審理開始の割合

2013

167

26

87%

2014

557

193

75%

2015(年度途中)

252

97

77%

出典: USPTO当事者系レビュー統計 - www.uspto.gov/ip/boards/bpai/stats/aia_statistics_01-22-2015.pdf

入手可能なデータによると、無効化率は40%から50%の間で比較的安定した状態が続いている。アナリストの中には、利用率が上昇しPTABが進化してきたことから、法廷で争われるクレームの無効化率が下落したと示唆する者もあるが、我々の入手可能なデータからは、この主張は統計的に有意な形では立証されない。

訴訟率への影響

米国発明法とこれに関連する付与後レビュー・プロセスは、従来型の訴訟の負担を軽減するよう設計されたが、特定の要因が問題を複雑にしているかもしれない。2012年以降見られた訴訟のさらなる増加の一部は、1件の訴訟に複数被告を併合することを同法自身が制限していることにより、2011年には1件で足りていた事案について複数訴訟が提起される結果となっていることに起因する可能性があるのである。

特許訴訟に代わる、又はこれとの組み合わせによる付与後レビュー手続の利用は人気が高まっている。当事者系レビューやその他の付与後レビューの選択肢が訴訟の直接的代替手段として進められる場合もあり、これによって全体的な訴訟率の低下が見込まれるが、これらの手段が同時に進められる場合もある。一部の企業では、差し迫った訴訟の通知を受けた場合に、先制措置として当事者系レビュー申立を行うことを検討し始めていた。

最近の最高裁判所での訴訟、特にアリス(Alice)対CLSバンク・インターナショナル訴訟を踏まえ、新たな追加アプローチが進展している。ソフトウェアに関わる事案など特定タイプの訴訟に広く利用される選択肢の一つとしてのアプローチで、訴訟が提起されるとすぐにビジネス方法特許の異議申立または第101条の申請を行い、その後、侵害主張書の発行やそれ以上に進めば当事者系レビューの申立を行うというものである。知財弁護士にとっては、訴訟と並行して使われる様々な付与後レビューの手法が、証拠開示手続費用や法廷で費やされる時間の削減に役立っている。

しかし、付与後レビューによって当事者が訴訟を回避できる機会が生じ、その結果、アリスのような他の要因と併せて、2013年以降に訴訟率が20%下落するという現象につながったと考えられている。図6は、2014年6月のアリス判決直後の第3・第4四半期に生じた大幅な減少を明らかにしている。

図6. 2013年と2014年のアメリカ特許訴訟件数の比較

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出典: パテクシアの特許訴訟データベース – www.patexia.com/ip-research/lawsuits

図6は暦年ベースのデータに基づく。

当事者系レビュー対従来型の訴訟

従来型訴訟の補完又は代替手段としての当事者系レビューの人気が高まっていることから、この2つの違いや、単独又は組み合わせで利用する場合のそれぞれの費用と便益についてある程度考察しておくことが重要である。基準面においては、当事者系レビューを申立するか訴訟を提起するかの決定の背後にある動機の点で違いがあることが多い。訴訟は、伝統的に、特許権者が侵害に対する補償や更なる侵害を防止するための差止命令を求めて提起するものである。これに対して、当事者系レビューは一般に、金銭的補償を得る目的ではなく、被告に対する特許の無効化の可能性を期待して開始されるもので、より防御機構的なものとなっている。

費用はもう一つの重要ファクターである。当事者系レビューは従来型の特許訴訟より大幅に費用が抑えられる。米国知的財産法協会のデータによると、対象額が100万ドルから2,500万ドルの間にある平均的特許訴訟では、証拠開示手続終了までに約170万ドルの費用がかかり、公判終了までとなると、これが280万ドルに上昇する。このため、知財弁護士らは証拠開示手続費用を削減するために、ビジネス方法特許の異議申立てや当事者系レビューの申立を行うなど侵害訴訟弁護に付与後レビューを組み込んできた。これによって訴訟を早期結審に持ち込み地方裁判所で費やす時間を削減することも期待できる。PTABの審判プロセスを全て辿ったとしても、当事者系レビューにかかる費用は、それでも従来型の訴訟と比べてかなり低くなる。我々の調査によると、不服申立なしの当事者系レビューの合計費用は、平均で約35万ドルである。不服申立があれば、金額は約50万ドルに増加する。表2に費用の内訳を示す。

表2. 当事者系レビューの費用

 

最低

最高

平均

不服申立なしの場合の弁護士費用合計

$125,000

$500,000

$250,000

不服申立なしの場合の合計

$175,000

$600,000

$350,000

不服申立ありの場合の合計

$200,000

$900,000

$500,000

出典:パテクシア、弁護士事務所の調査

他の学者らは、当事者系レビューと従来型の法廷においては、特許権者が直面する規則や前提事項に大きな違いがあることを指摘してきた。当事者系レビューでは規則が異議申立人に有利に組まれていると主張する者もいる。地方裁判所では、異議申立人が逆の証明をしない限り有効性が推定される。ところがPTABでは有効性の推定は行われず、当該特許とそのクレームが全面的に再審査され、有効性および適正な範囲が決定される。異議申立人は証拠基準を満たすだけでよい。その結果、従来型の訴訟では、当初の審査官の分析が正しかったと推定されるため、既に検討済みの技術が証拠として提出されることは滅多にない。ところが当事者系レビューでは、当初審査官に却下された検討済みの技術が再提出されることがよくあり、結果において重要な役割を果たし得るのである。

当事者系レビューと連邦裁判所における有効性判断についてのもう一つの違いは、クレームの解釈方法にある。連邦裁判所では、クレームの解釈は文脈に依存しており概してやや狭いが、「最も広い合理的解釈」が用いられる当事者系レビューの基準と比較すると大抵はるかに狭い。

またもう一つの重要な違いは、誰が事案の決定を行うかという点である。従来型の訴訟において、裁判官は法律の専門家であるが、必ずしも技術や手元の特許対象物の専門家ではない。陪審員が判断を行う訴訟事案もあるが、これは特許の専門家で構成されるものではない。一方、当事者系レビューは、非常に専門的な内容やクレーム数、参考資料点数の多い訴訟を扱う専門知識を持った特許審判官の委員団が審理を行う。

表3. 当事者系レビューと特許訴訟の比較

 

当事者系レビュー

訴訟

費用

不服申立なしの場合で平均$35万未満

証拠開示手続終了までで$170万、公判終了までで$280万

決定者

特許審判官

専門技術背景を持たない裁判官や陪審員

証拠基準

有効性の推定なし「証拠の優越性による特許不可」

有効性の推定あり「明確かつ説得力ある証拠」

目標

主張予防のための無効化

侵害に対する金銭賠償または差止め

申立人

特許権者以外の当事者

特許権者またはその代理人

係争特許数

単一の特許

1つ以上の特許

出典:パテクシア、弁護士事務所の調査

時間も重要な要素である。当事者系レビューは比較的迅速に行われる。米国発明法の定める指針によると、USPTOは、6ヶ月以内に事案について判断を下し、開始後1年以内に最終判決書を出さなければならない(但し、例外的な場合は6ヶ月の延長が可能である)。延長された場合でも、プロセス全体が2年を超えることはできない。従来型法廷での特許訴訟にはこのような保証はないため、長期にわたる審判や不服申立プロセスが往々にして続きかねない。

とは言え、当事者系レビューが適さない場合もある。例えば、問題が純粋に侵害に対する損害賠償である場合である。同様に、徹底した有効性調査が完了していて先行技術や無効理由が見つからない場合は、PTABでの訴訟手続は妥当ではなく、地方裁判所での従来型訴訟が唯一の適切な法廷である。表3は、当事者系レビューと訴訟の 差別化要因をまとめ、比較している。

「知財制度の将来にとってのPTAB特許レビュー・プロセスの重要性は、様々な業界リーダー達が付与後レビューの手続きを自社のビジネスモデルに組み込んでいることからも窺える。」

当事者系レビューに基づく新たなアプローチ

知財制度の将来にとってのPTAB特許レビュー・プロセスの重要性は、様々な業界リーダー達が付与後レビューの手続きを自社のビジネスモデルに組み込んでいることからも窺える。過去10年間に特許市場が成熟し、有効性や侵害紛争の解決のために訴訟となるケースが増えるにつれ、多数の新たなモデルが発達してきた。RPXやアライド・セキュリティ・トラストといったパテント・アグリゲーター(特許集積業者)は、訴訟防御を1つの事業体が行い、その利益を複数の利害関係者と分かち合うことができるという考えに基づいている。1件のポートフォリオが多数の当事者の主張の対象となる場合、各被告にとって訴訟費用が高いことが、リソース共有の利益増大につながっている。このため、パテント・アグリゲーターは、比較的未成熟な市場において、防御リソースを共同利用する方法として成功してきた。

パテント・アグリゲーターは、重要な役割を担い続けている。付与後レビュー、特に当事者系レビューの重要さが増すにつれ、特許訴訟防護の周辺で成長した各企業は、自然の成り行きに従い、当事者系レビューをビジネスモデルに加えながら適応を続けてきた。この新戦略を巧みに利用している会社の1例がRPXである。RPXは、その加入式モデルを通じて、既存会員の利益となる当事者系レビューの申立を行い、真の利害関係者として行動してきた。こうした会社は、複数の利害関係者がいる場合に得られる相乗効果を上手く利用している。

この領域には、特許品質イニシアチブを行うクリアリング・ハウス等、当事者系レビューを金融サービス・セクターにおける特許の質向上に利用する別タイプの組織も進出している。ユニファイド・パテンツも同様のアプローチを追求し、当事者系レビューを特定対象物領域において主張される可能性のある特許無効化の試みにおいて利用している。ヘッジファンドのヘイマン・キャピタル・マネジメントも最近、当事者系レビューを利用して多数の医薬品特許の取得を目指す意図を発表した。パテクシアもこの領域に進出している。事案毎をベースとして会員のために有効性分析を実施し、当事者系レビューの申立を行えるよう、同社のクラウドソーシング・デューデリジェンス・プラットフォームを拡張している。

こうして様々なビジネスモデルからの当事者系レビューへの注目が集まり、利用が拡大し続けていることは、PTABが知財業界に継続的な影響を及ぼしていることの表れである。それは、全体的な特許の質が向上し、長期的安定性の増したより成熟した知財制度への進歩も示唆しているのかもしれない。

利害関係者に対する影響

米国発明法の結果導入された制度変更は、アメリカの特許制度に対し、永続的で実質的な影響を与え続けるだろう。しかしその影響、費用および便益は、全ての利害関係者に平等に影響するものではない。

多くのアナリストが、当事者系レビューは従来型の訴訟よりも申立人に有利な法廷となることを示唆している。このことは、自らに対し主張されている特許の有効性次第で結果が決まる事案の被告にとって有利である。ひいては、特許権者にはより大きな負担が課される。このため、当事者系レビューは、特許不実施主体(NPE)やその他の特許主張主体を相手に防御を行う事業会社にとって強力なツールとなる。当事者系レビューの申立件数が上位にあるアップルやグーグル、サムスン等は、当事者系レビューの申立を通常プロセスの一環とし始めており、警告状を受け取ったり新規案件が提起されたりすると頻繁に申立書を提出している(図7参照)。ところが、すべての特許権者にとって、マイナスとなる要素もいくらか存在する。たとえ小規模な発明家であっても、特許権者は自らの特許権の防御がより困難な状況に直面することになる。

図7. 2014年の当事者系レビュー申立件数上位10社

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出典:パテクシアの当事者レビュー・データベース – www.patexia.com/ip-research/lawsuits

図7 は2014年(暦年)のデータに基づく。

あらゆる制度と同様、PTABも悪用される可能性がある。従来型の訴訟は、特許権者は高額な訴訟を行うと脅して和解を引き出すことが可能であった。当事者系レビュー制度もそうした不当な利用を免れるものではなく、マスコミでは既に「PTAB荒らし」の出現が警告されている。特許権者に近づき、当事者系レビューを申立て、貴重な特許の無効化やその範囲の縮小を試みると言って脅す企業や個人の小さなグループが出現し始めている。その目的は、当事者系レビューの費用や自社の重要特許の1つが無効化された場合の収益損失リスクを恐れる特許権者から示談を引き出すことである。

PTABがそのプロセスを洗練させるにつれて、申立人や被告も当事者系レビューに関する戦略において、より抜け目なくなってきている。米国発明法以前は、特許権者は1度に1件または少数の特許の実施許諾を行うことが多かった。ところが、企業は、当事者系レビューの普及拡大が続くにつれて、特許技術の利用を望む者にとっては該当する特許について当事者系レビューの申立を行って問題の資産の無効化を試みる方が、実施料を支払うよりも容易であるということを認識するようになった。その結果、特許権者の多くが、特許ごとではなく、より大きなポートフォリオの実施許諾を行い始めている。特許の件数がはるかに多い場合、一つ一つに当事者系レビューの申立を行えば費用が不合理に高くなるためである。ところがこれは、自身の発明を大きなポートフォリオの一部として提供する選択肢を持たず、1件の無効化によって大きな影響を受ける小規模特許権者においては問題を引き起こす可能性がある。特許権は、発明者に自身の発明や社会への貢献から利益を得る権利を与えるために付与される。現在の傾向が行き過ぎて、無効化のリスクに加えて時間や金銭のかかる当事者系レビューに直面する可能性を高めることになり、発明者が侵害者を追求することがリスキーになってしまうと、制度が技術革新意欲をそいでしまう危険がある。

業界では、特許買収に先立つ徹底したデューデリジェンスに対する需要の高まりも見られる。第三者有効性分析は、特許権を主張する予定の保有企業にとって、当事者系レビューによりその資産が簡単に無効化されることはないというある程度の確信を得るために人気の選択肢となっている。

問題の核心

アメリカの特許市場は流動的である。知財取引市場は成熟しつつあるが、過去10年間高い訴訟率が続いている。議会による改革が行われてから5年足らずの現在、さらなる改革が議論されているということは、安定からは程遠いものであることを示している。特許市場が長期的に安定すれば、継続的な経済的成功への道が開かれるだろう。革新的アイデアの建設的な実施許諾と交換のプロセスにより、発明者とこうした発明に基づく新製品の実施を望む者が相互に利益を得られるようになる。両者は、問題の資産の有効性や価値について合理的な確信をもって取引を完了することができるようになり、訴訟や和解費用への恐れに基づいて意思決定をするのではなく、侵害や市場の成長に基づき適正な補償を受けることとなるだろう。

この問題の核心は特許の質である。制度が成熟する一方、USPTOの付与後レビュー手続 は、従来型の訴訟に代わるものとして、またこれと組み合わせるものとして、既に制度内に存在する質の低い特許の問題を解決するための有効なメカニズムを提供する。しかし、発行されるべきではなかった特許や範囲が広すぎる特許を排除することは戦いの一部に過ぎない。こうした問題に対応する一方で、USPTOは、年間30万件を超えるペースで発行される新規特許について、既発特許と同じ様な弱点だらけのものとはしないよう保証する必要がある。こうした流れにおいて、発行前審査プロセスに関する取組の継続が非常に重要である。

特許の質を全般的に向上させるような特許出願審査の改善は、広範囲に利益をもたらす。特許の質が向上すれば、PTABと訴訟の両方において無効化率が低下することが期待できる。この結果、両制度にかかる費用や負担が下がり、利害関係者も通常の資産取引を行うより裁判に訴えるという動機が減少する。こうした調整により政府や納税者のリソースに対する負荷は下がり、別のところに割り当てることが可能になる。有効性に対する異議申立リスクが常につきまとうことのない明確な資産評価によって、特許市場の安定性は高まるだろう。

USPTOは、発行前期間の有効利用のための新たなベストプラクティスを積極的に追求してきた。特に、同法の施行以来改正され合衆国法典第35編第122条(e)(35 USC §122(e))に記載される発行前期間中の第三者による情報提供の機会の効果的利用に焦点を合わせている。USPTOは、2014年に2度の円卓会議を開き、審査官自身の負担を軽減しながら特許出願をより綿密に審査するためのクラウドソーシングの統合にについて調査した。さらに、ホワイトハウスは、USPTOでクラウドソーシング・イニシアチブを担当する大統領イノベーション・フェローとしてクリストファー・ウォンを任命したところである。

こうした努力を補完して、米国商務省知的財産担当副次官兼USPTO副長官のミシェル・リーは、2015年1月、新たなUSPTO特許品質イニシアチブを発表した。このプログラムは、以下の3手法のアプローチを採用する:

• 卓越した出願手続サービス

• 卓越した顧客サービス

• 卓越した特許品質

このイニシアチブには、世界の他の特許庁のベストプラクティスの綿密な分析や、ビッグデータをより上手く統合することが含まれる。リーは、特許の質の問題を監督する専任ポジションも設け、ヴァレンシア・マーティン-ウォーレスを特許品質担当副局長に任命した。

短期的には、知財制度においては、付与後レビュー利用の増加が継続することを前提に考えなければならない。しかし、中長期的には、質の高い新規特許が発行され、既に制度内に存在する質の低い特許は無効化される割合が増加するため、訴訟とPTAB手続の両方が減少することが期待される。長期的減少に先立つこの短期的増加は、新たなビジネスモデルが付与後レビューを組み込むことによる増加によって拍車がかかるが、これらが確立された制度の通常プロセスとして落ち着くにつれ、安定化するだろう。

さらに、業界は、当事者系レビューやその他の付与後レビュー手続の新たな活用が見られることを予期すべきである。例えば技術の実施許諾を検討する企業は、これを無効化して無償で技術を利用できないか確認するために、当該特許をまず当事者系レビューにかけることを選択するかもしれない。特許がレビューに耐えれば、ライセンサーは、当該技術が実際に価値のある資産であることを実証したことになる。

特許の質に対する信頼が高まると、このような創造的利用すらいずれは減るだろう。そうなれば、注目は、内部で行われるにせよ第三者によるものにせよ、強力な有効性審査プロセスへとシフトする。厳格な発行前特許審査に対する期待が定着すれば、焦点は付与後の有効性分析から発行前プロセスへと移るだろう。有効性の確認は、特許性について考えるイノベーターがそもそも出願の根拠があるかどうかを決定するに当たって、またはUSPTO自身が出願審査を行うにあたって、最重要事項となる。

こうした合理的な動きが進展すれば、アメリカ国内における知的財産の成熟した取引市場の勃興につながる。こうした市場は、知財リソースの効率的な配分を可能とし、知的資産の安定性や価値も保証されるだろう。保有特許の評価額は、多くの企業にとって市場価値の中核的部分であり続けるであろうが、資産の有効性や価値に関する確実性や透明性が増せば、合理的な経営上の意思決定が行えるようになり、アメリカは、長期的な制度の安定に向けて前進することができる。

行動計画

特許制度が直面する中心的課題は、特許の質、および、法的拘束力のある特許プールの中に質の低い特許が現在存在していることである。特許権者であれ発明者であれ、または訴訟に関与する者であれ、特許の有効性がカギである。

ポートフォリオの買収や実施許諾契約を最終決定する前に、問題となる一切の資産について必ず十分な有効性分析が行われるようにすること。

訴訟の脅威がある場合は、脅威の実態について判断するためにまずは主張されている資産の有効性分析を行い、それから進め方を決定すること。

自身の特許を他者に実施許諾することを検討する場合は、無効化に至るような付与後レビューに直面しないよう、必ず自身の資産を徹底的に審査してもらうようにすること。

特許出願を行う場合は、後に資産が無効化されるリスクを減らすために、徹底した新規性評価を実施すること。

議会によって特定された通り、市場が直面する2つ目の重要課題が訴訟費用である。しかし、費用を抑えるために取ることのできる戦略的アプローチがいくつかある。特に、訴訟の提起を検討するかまたは訴訟に直面した場合は、まず当事者系レビューと訴訟の間で異なる特徴を見極めてから、どの手段または複数手段の組み合わせを利用するか決定すること。

ぺドラム・サメニはカリフォルニア、ロサンゼルスのパテクシアの社長兼CEOである。

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本記事の調査および執筆に対するゾーイ・ボリンジャーの貢献ならびにデータサポートにおけるアンディ・チューの支援に感謝の意を表したい。

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