16 Sep
2016

マレーシアにおける特許と工業意匠の動向

2015年は立法面では静かな年だったものの、環太平洋パートナーシップ協定の準備や知的財産公社の非公式対話セッションの開始など、特許や工業意匠が絡む実務面では展開が見られた。

特許

出願手続き

マレーシアの特許の法制面では、4年以上前から特許法や規則の改正は行われておらず、2015年も静かな年だった。

しかしながら、マレーシア知的財産公社(MyIPO)が四半期ごとに業界関係者との非公式対話セッションを主催することを約束するなど、実務面では活発な動きが見られる。こうした非公式対話セッションの着想は2015年1月にマレーシア知的財産協会(MIPA)が検討し、MyIPOがこれに即座に賛同したことから、シャムシア・カマルディン長官の管理下で実務的な問題の解決に向けてより前向きなアプローチが採用されることになった。関係者から提起された実務的問題は、対話の前にMIPAが編集し、これをMyIPOに提出する。そして対話の時点で、MyIPOの職員が優先順位に従い、それらの問題を効率的に処理していく。

この対話によってもたらされた注目すべき特許実務の変更は、PCT(特許協力条約)に基づく国内段階の登録や自発的な分割出願に関係している。

国内段階の登録に関して言えば、英語版の明細書がWIPO(世界知的所有権機関)の国際事務局から提供されている場合、印刷した明細書の提出は不要であることにMyIPOは同意した。

MyIPOはまた、現行実務を変更して、出願に関して最初に受け取った審査報告書が承認(Clear)報告書(許可通知)である場合、親出願の許可後に自発的に分割出願を行うことを認めることにも同意した。このことは、MyIPOが当該出願に対する特許付与を許可後少なくとも3カ月繰り延べることによってなされる。特許法の下では、自発的な分割出願の通常の期限は最初の審査報告書の送付日から3カ月後であり、親出願がまだ審理中である場合に限り分割出願が認められる。マレーシアでは、特許出願を行うと許可後極めて短期間で自動的に付与へと進行する。

MyIPOが現在検討している次回の変更には、代理人指定様式(委任状)提出の規定や、入れ子型分割出願に関する方針、分割出願の実体審査の請求要件などの変更が含まれる。現行の特許規則(MyIPOの実務)では、分割出願について請求できる実体審査の種類は、親出願と同一のものに制限されているように思われる。実務家は長年、分割出願について請求できる審査の種類に制限を設けるべきではないと感じてきた。分割出願は独立の特許出願として取り扱われなければならず、親出願の事案とは独立に処理することを認められるべきであることから、明らかに、親出願について請求された審査の種類に基づいて分割出願に制限を設けることはできない。マレーシアの特許法は、審査の請求に際して通常実体審査と修正実体審査という2つの選択肢を定めている。通常実体審査では審査の全プロセスが実施され、MyIPOは、対応する関連出願の調査・審査結果を補助的に利用しながら自らの調査と審査を行う。修正実体審査では簡素化された審査プロセスが実施され、マレーシアの出願の明細書を修正して、対応する関連取得特許について認められた明細書を採用する。

統計データ

世界的な景気低迷にもかかわらず、マレーシアの特許出願件数は2014年と2015年も前年比で引き続き堅調な伸びを示し、2016年第1四半期の実績もこの好調な傾向が続くことを示唆している。

しかしながら懸念されるのは、2015年には過去4年間で初めてマレーシアの個人と企業による出願件数が減少したことである。このことは、まず間違いなく2015年4月1日から物品・サービス税(GST)が導入された直接の結果であろう。

環太平洋パートナーシップ(TPP)協定

MyIPOは昨年も、2014年に始まった実体審査の迅速なペースを維持した。その結果、2015年に付与された特許件数は5%以上増加した。

MyIPOのこの努力は環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の施行を予期したものである。マレーシアは、知的財産の問題に向けられたTPP第18章の規定の大半をすでに遵守している。しかしながら、18章の一部条項の施行には現行法の改正が必要になる。そうした改正は、例えば、特許庁の遅延に起因する特許期間の修正のほか、特許出願書の公開や特許出願手続書類の公表に関係している。

特許庁による不合理な遅延があった場合に特許の保護期間を修正できるようにするには、マレーシア特許法の改正が必要である。TPP第18章によれば、遅延は、出願後5年以上の期間または審査請求後3年以上の期間のうちいずれか長い方の経過と定義される。ただし、出願人に責任がある遅延は除外される。出願人に起因する遅延として解釈される可能性がある行為の例を挙げれば、実体審査の請求(および/または実体審査請求に関わる情報や文書の提出)の延期申請、期間延長の請求、PCTの国内段階に入るための回復申請、自発的な補正の提出、自発的な分割出願の提出などがある。

特許情報・書類の公表について言えば、現在、特許法第34条が極めて限定的な情報や文書を有料で公衆の閲覧に供すべきことを定めている。TPP第18章を遵守するには、第34条を改正して、調査・審査結果や出願人からの連絡文書を含む出願手続書類の公表を可能にするとともに、早期公開の請求を出願人に認める規定を導入する必要がある。

他の開発途上国と同じようにマレーシアでも、TPPが施行された場合、特許の保護期間、試験データの保護、および特許リンケージ制度の確立などの点で、医薬品特許に特に大きな影響がある。

新薬の販売承認が遅延した場合、医薬品の特許期間が延長可能になる可能性がある。また、臨床データについては5年間、生物製剤についてはさらに長期の8年間の独占期間が認められる。注目されるのは、5年間と8年間の独占期間が適用されるのは、製薬会社が、他国で製品の販売承認を最初に取得した日から18カ月以内にマレーシアで販売承認の取得プロセスを開始した場合に限られる、という例外規定がマレーシア政府の交渉により盛り込まれたことである。

さらに、TPP第18章を遵守するために、マレーシアで初めて特許リンケージ制度が立法化されることになる。この規定の下では、新発医薬品のサプライヤーのデータを伴う医薬品の販売承認が申請され、かつその製品がマレーシアの特許によって保護されている場合、マレーシアの保健省医薬品管理局(NPCB)の執行機関である薬品管理機関(DCA)は、特許権者にそれを通知して訴訟を提起できるようにする義務を負う。

ほとんどの場合、TPP第18章の「医薬品条項」を遵守するために制定法を改正する必要はない。しかし、第18章の関連条項を遵守できるようにするために、DCAによる行政面の変更が必要となる。

訴訟

2015年第4四半期に連邦裁判所は、注目すべき特許事件、すなわち、SKBシャッターズ・マニファクチャリング Sdn Bhd 対ソン・コン・シャッター・インダストリーズ Sdn Bhd アンド・エイナー(SKB Shutters Manufacturing Sdn Bhd v Seng Kong Shutter Industries Sdn Bhd & Anor)([2015] 6 MLJ)事件において判決を下した。

連邦裁判所は様々な裁判所の審理を経てきた特許侵害事案の経緯を受けてSKBシャッターズ事件の判決を下した。高等法廷は、巻き上げシャッターに関するSKBのマレーシアの特許は有効で、侵害を受けたと判示した。上訴を受けた上訴法廷は、下級審はクレームの有効性の評価にあたり誤ったテストを適用したと判示した。高等法廷は特許権者の製品と先行技術を比較したが、正しいテストは特許のクレームと先行技術を比較することだった。上訴法廷は、特許の独立クレーム(クレーム1と11)は無効であるとした上で、無効なクレームの侵害はあり得ないとする確立した原理に従った。よって、上訴は成功した。この特許は無効であり侵害されていない、とする判決が下された。重要なことは、上訴法廷は高等法廷と同様、それら以外の従属クレームのいずれについても有効性の判断を示さなかったことで ある。

そのため、いかなる従属クレームも、親クレームである独立クレームの有効性と完全に命運を共にするものとして取り扱うべきなのか、それとも個々の従属クレームはそれ自体、そこに含まれ、他から参照される特徴の組み合わせによって構成される独立クレームとして取り扱うべきなのか、という問題が連邦裁判所に上訴 され審理されることになった。

残念ながら、連邦裁判所は前者のアプローチを取り、従属クレームは、それを修正して、クレームの地位を他に依存しない独立クレームへと高めることによってのみ救うことができると示唆した。さらに、特許法第79A条(3)項の規定により、訴訟係属中はMyIPOに申請してそうした修正を追求することはできないとの判断を示した。第79A条は、一定の条件下における取得後の特許修正を定めている。しかしながら、79A条(3)項に基づく重要な制限があり、特許の有効性が争われる可能性のある裁判手続きが係属している場合は、その特許の修正は一切認められない。

特許法第56条(3)項は、無効化の根拠を特定のクレームまたはクレームの特定の一部に限定して適用することを認めるとともに、裁判所は、それに対応する、問題のクレームの制限という形でかかるクレームまたはクレームの一部を無効と宣言できると定めている。明らかに同項は、部分的無効性を救済し、有効と判断された範囲内で特許権を行使するための手段を提供することを意図したものである。しかしながら、SKBの判決における連邦裁判所のアプローチは、これよりはるかに制限的である。こうした展開は、特許権を行使し、または少なくともその有効性を防御しようとする特許権者にとって深く懸念される事態である。いずれは特許法の改正により、特許法のこの欠陥を是正し、訴訟対象となる特許の取得後の修正に対するもっと柔軟な方法を提供することが望ましい。

工業意匠

2013年7月に大幅改正により2013年(改正)工業意匠法が制定されてから新たな法律改正は行われて いない。

2015年にはマレーシアの工業意匠出願件数は2年連続で減少した。今年第1四半期にMyIPOに提出された意匠出願件数からすると、この減少傾向は今後も続くと予想される。外国からの意匠出願件数は増加しているにもかかわらず、マレーシア企業による意匠出願件数は顕著に減少している。国内出願人による特許出願の減少と同様、国内の意匠出願の減少は昨年のGSTの 施行に原因があることはまず間違いない。

また昨年は、登録にまで至った意匠出願件数も30%以上減少した。これは、MyIPOの工業意匠部門が、形式的要件の遵守について意匠出願を審査する際に採用した従来以上に厳格なスタンスの副産物であると思われる。例えば、同部門は、物品の命名や表示などの問題のほか新規性の陳述書や権利放棄の文言に対して いくぶん杓子定規なアプローチを取った。

さらに、マレーシア工業意匠法には実体審査の規定がないにもかかわらず、グラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)の登録可能性、機能や方法によってのみ決定付けられる特徴、または構造の原理などの問題に関連する実体的な異議を含む拒絶通知の発行が、最近これまで以上に頻繁に行われている。

実務家および意匠権者は、こうした懸念すべき審査傾向が単なる一時的な逸脱で終わり、マレーシアの工業意匠の成長を抑制しかねない、MyIPOの工業意匠部門の永続的な変化の予兆でないことを共に祈っている。

ヘンリー・ゴー・アンド・カンパニー (Henry Goh & Co Sdn Bhd)

House of Henry Goh

217 Jalan Imbi

55100 Kuala Lumpur

Malaysia

電話 +603 2118 8688

ファックス +603 2118 8777

ホームページ www.henrygoh.com

ウーン・イェン・イェン

事業開発マネジャー兼 特許マネジャー [email protected]

ウーン・イェン・イェンはマレーシアの特許、工業意匠および商標弁理士。ロンドン大学で法学修士号、マレーシア大学で微生物学の優等学位を取得。マレーシアの特許法および特許実務に関する社内研修を含め、特許業務を監督している。マレーシアにおける出願の明細書作成と出願手続きに加え、外国における特許出願の提出と手続き、および有効性、侵害、特許性に関する鑑定意見業務に多くの経験を有する。「IAM特許1000 - 世界をリードする特許実務家」では、推薦できる特許出願手続き専門家として紹介されている。また特許出願手続きだけでなく、特許戦略とカウンセリング、鑑定意見、実施許諾、保護と訴訟、および異議申立の分野でも、「マネージメント・インテレクチュアル・プロパティ誌」から最も優秀な知財実務者として高く評価されている。

デイブ・A・ワイアット

エグゼクティブ・ディレクター特許・工業意匠責任者 [email protected]

デイブ・ワイアットはマレーシアの特許、工業意匠および商標弁理士。ヘンリー・ゴーに入社する前はロンドンとミュンヘンの大手特許事務所でクライアント業務に従事。その期間に、英国の公認特許弁理士および欧州特許弁理士の資格を取得。マレーシア特許弁理士試験の準備のために特許実務とドラフティングの講師も務める。その総合的な社内教育により、ヘンリー・ゴーで12名のマレーシア特許弁理士が誕生するという成果を上げた。2006年以降、マレーシア高等法廷に専門家証人として出廷している。「IAM特許1000 - 世界をリードする特許実務家」からは定評ある特許出願業務の実務者として、また「マネージメント・インテレクチュアル・プロパティ誌」からは、最も優秀な知財実務者として紹介された。