17 Nov
2015

マレーシアにおける特許出願手続の迅速化の方法

マレーシアのようなグローバル化した発展途上経済国では、知的財産がますます事業成長に不可欠な起爆剤となっている。マレーシアでは過去10年、特許出願件数が着実に増加しているが、これは同国の知財業界が成長し発展している証である。マレーシアの特許出願手続は現在、書類提出から付与までに平均3~4年を要する。この時間の多くは長期にわたる審査プロセスに費やされる。確実な特許権保護を求める多くの特許出願人にとって、出願手続に長期間を要することは望ましくない。動きが速く、急速に変化する今日の市場では、企業や個人にとって確実に生き残るために競争相手に対する競争優位を確保することがどうしても欠かせない。忍耐は大切な美徳と教えられるが、特許権保護の確保にとっては、忍耐は通用しない要件であろう。

しかしながら、悲観的な見通しだけではない。

マレーシアには、出願人が出願手続の迅速化に活用できる以下の選択肢がある。

特許審査ハイウェイ(PPH)制度

早期審査制度

修正実体審査制度

これらの選択肢は、それぞれ異なる要件を満たすことが条件となるが、最短期間での特許権保護の確保に関心のある出願人に重要な利点をもたらすものである。

特許審査ハイウェイ制度

特許審査ハイウェイ制度(Patent Prosecution Highway:以下「PPH制度」)は、マレーシア知的財産公社(MyIPO)と、マレーシアにおける特許出願手続を迅速化するプラットフォームの提供を求める日本特許庁(JPO)間の取り組みである。PPH制度では、出願人は、日本出願またはJPOで有利な審査を受けられる国際特許条約(PCT)出願に基づき、それに対応する出願についてMyIPOに対し早期審査を請求できる。通常の審査コースを経る出願の場合、審査が比較的順調に進んだとして、審査請求から特許取得までの期間は平均2~3年以内である。出願手続中に複数の異議が申し立てられた場合、期間が大幅に延びる可能性がある。

PPH制度では、審査期間が4~5カ月以内へと大幅に短縮される。つまり、同制度を使って最初の書類提出と同時に審査請求とPPHの請求を行った場合、4~5カ月以内に特許を取得できる可能性がある。

PPH制度は、大幅な期間短縮に加え、極めて魅力的な恩恵を出願人にもたらす。PPH制度では公的手数料をMyIPOに支払う必要がない。

PPH制度を利用するには以下の条件を充足していなければならない。

マレーシアでの出願とJPOによって審査される日本出願またはPCT出願が対応していること。これは、出願または共通のPCT出願間の優先性によって定義される。

日本出願またはPCT出願のクレームのうち1つ以上がJPOによって特許可能とされていること。

PPHに基づきマレーシアで審査請求する出願のクレームが、かかる特許可能なクレームと十分に対応していること。

MyIPOに対し通常の審査請求がすでになされているか、PPHの請求と同時になされること。

審査請求がすでになされている場合、MyIPOがその審査をまだ開始していないこと。

早期審査制度

早期審査制度(Expedited Examination Program)の下では、提出された早期審査請求が認められた場合、MyIPOは、出願の審査の順番を繰り上げる。マレーシアでは通常、出願特許は提出日順に審査される。早期審査請求が認められると、その出願は正規の順番を飛び越えて早期審査コースに従って審査される。

通常コースの審査を受ける出願は、最初の審査報告書の発行までに普通最大1年を要する。早期審査制度の下では、最初の審査報告書の発行までの期間がわずか1カ月と大幅に短縮される。出願人は、3週間以内に最初の審査報告書に応答しなければならない。この期限内に応答しなかった場合、出願は早期コースから通常コースに戻される。

この制度に基づく早期コースの審査を受けるには、出願人は1つ以上の所定の理由を充足し、高額な正規手数料を支払わなければならない。またその出願は公衆の閲覧にも供しなければならない。早期審査の請求理由は以下の通りである。

国または公の利益

潜在的に侵害していることを示す証拠、または侵害に関する手続が継続中である証拠

登録が、政府または登録官が認定する機関から助成金を得るための条件であること

その発明が既に商品化されていること、または出願人が請求する早期審査請求の2年以内にそうする予定であること

発明が環境の質またはエネルギー資源の保全を高める環境保全技術に関連していること

その他合理的な理由

修正実体審査

修正実体審査(Modified Substantive Examination)は多くの場合、早期審査の選択肢のように厳格な要件や高額な正規手数料を伴うことなく、早期コースの特許出願手続よりもコスト効率に優れた選択肢となる。この選択肢では、修正審査の請求日から6~12カ月以内の特許取得が見込まれる。この選択肢の場合、選択された取得済み特許に依拠することにより、通常、新規性および進歩性の特許性要件が充足されているとみなされるため、審査報告書を受け取ることは異例と考えられる。こうした理由で、特許付与の決定を示す終了報告書を受け取るまでの期間が短くなる。

この選択肢を利用するには、出願人は、オーストラリア、英国、米国、日本、韓国のいずれかにおいて、または欧州特許条約に基づいて特許を取得していなければならない。さらに、選択した取得済み特許に一致するよう明細書を修正することも要求される。

修正審査請求では、選択した取得済み特許の明細書の証明付正謄本のほか、特許が英語でない場合は認証された英訳を添付しなければならない。言うまでもなく、修正審査請求と併せて、マレーシアの明細書を、選択した取得済み特許に一致させるために必要な修正書の提出も要求される。

マレーシアで利用可能な上記選択肢は、すべての特許出願人に魅力的な恩恵をもたらす。フランシス・ベーコンの言葉を借りれば、「賢者はチャンスを見つけるよりも、自ら多くのチャンスを創り出す」。まさにそうした機会が、上記選択肢の形で差し出されている。それを捉える人は賢明とみなされるであろう。

ブダペスト条約 - 遂にマレーシアも受諾?

「特許手続上の微生物の寄託の国際承認に関するブダペスト条約(1980年9月26日改正)」の締約国は現在79カ国である。同条約の受諾はパリ条約の加盟国に認められている。

生物材料(微生物を含む)の寄託は、実施可能な程度の開示という特許付与の要件を充足するために不可欠である。開示の不十分性はマレーシアの特許が無効となる潜在的理由の1つである。一般に、文章記述のみにより、生物材料の使用に向けた発明またはその使用を必要とする発明を十分に開示することは不可能である。通常、これに対応するため、材料の試料が国際寄託当局(IDA)に寄託される。同条約の加盟国はすべて、任意のIDAへの寄託を認め、特許の目的上それで十分であるとして取り扱っている。

本レポート執筆時点で、マレーシアはまだブダペスト条約を受諾していない。過去数年、同条約の受諾は、米国が自由貿易協定や環太平洋連携協定など進行中の貿易交渉で提起してきた、多くの知的財産権保護の主要問題の1つだった。しかしながら、国内の市民社会団体は、そうした知財権保護の問題を含む、様々な「超えてはならない一線」の問題でマレーシアが譲歩することに反対するロビー活動を続けてきた。

マレーシアのブダペスト条約受諾には賛否両論がある。

現在、マレーシアの特許法には生物材料の寄託を定めた規定は存在しない。マレーシアの特許出願が生物材料の使用を必要とする場合、宣誓書の作成を出願人に要求することがマレーシア知的財産公社(MyIPO)の現行実務となっている。この宣誓書は、出願人が材料の試料を求めるあらゆる請求者にその試料を提供するか、あるいは、すでに寄託されている場合は、当局が請求者に試料を与えることを承諾する宣誓書を請求者に提供することを確約するものである。特許審査官は往々にしてこの要件を過度に広義に解釈し、その結果、生物材料が実際にクレーム発明の実施に必要か否かにかかわらず、明細書でその材料に触れただけで宣誓書が要求されることもあった。

マレーシアが待ち続けてきたブダペスト条約の受諾を示唆するものとみられる特許法の改正はすでに提案されており、議会で可決されることが予想されている。

生物材料の寄託に関しては、明確な法律規定が定められてきた。直接的なパリ条約出願および非パリ条約出願については、寄託が提出日の要件となり、出願の提出日前に国内寄託当局(NDA)または国際寄託当局(IDA)のいずれかに寄託できる。この規定は、PCT出願に由来する国内段階の出願には適用されない。

生物工学的発明、生物材料、遺伝子組換え生物材料、本質的に生物学的な方法、微生物学的方法、微生物および遺伝子組換え微生物などの定義も提案されている。この定義案は、欧州特許条約(EPC2000)、特にEPC規則27~29、および「生物工学的発明に関する欧州連合指令」(EU指令98/44/EC)に定められた定義に沿ったものである。

生物工学的発明に関する実体的事項については欧州特許庁のアプローチを採用するのがMyIPOの実務ではあるものの、特定の種類のクレームを許可するか否かは、個々の審査官の解釈に大きく依存する。現在のところ、マレーシアで微生物/核酸/生物材料に関して許可されるクレーム範囲の水準について確言することは困難である。これは、MyIPOが指針をほとんど、あるいは全く示していない上、そうしたクレームの有効性(または範囲)がマレーシア高等裁判所で争われたこともないためである。

上記の生物学用語について法的な定義が導入されるのに伴い、それらが明瞭になり、クレームの範囲と有効性に関する解釈がより確実になることが望まれる。法的な定義の提案は、ブダペスト条約の受諾と相まって、いくつかの点で出願人に恩恵をもたらす可能性がある。

例えば、DNAやアミノ酸配列に言及する際、寄託材料に依拠できることがある。配列決定の誤りは珍しいことではなく、DNAまたはアミノ酸配列の不正確な開示を引き起こしかねない。このような状況で、例えば、寄託された菌株を出発材として記述したプロダクト・バイ・プロセス・クレームによって誤りを「是正」するために寄託材料に依拠することは、出願人にとって有益であろう。

また出願人は、より広範なクレームの文言のための出発点として寄託材料に依拠できるであろう。寄託された微生物菌株に向けられたクレームは、突然変異生成の教示および潜在的変異株の特性が開示された場合、変異株を対象とすると解釈される可能性がある。さらに出願人は、特許性(進歩性または開示の十分性)を防御するために寄託材料に依拠することも可能となるであろう。

ブダペスト条約では義務付けられていないものの、マレーシアが国際寄託当局(IDA)を設立すれば、国内のみならず近隣ASEAN諸国の発明者にとって出願費用が大幅に低下するため有益であろう。現在、国内や域内の発明者は、高額の費用で生物材料を外国のIDAに寄託することを余儀なくされている。IDAの設立については、政府と国内研究機関・大学間の話し合いが2007年6月から続いている。世界知的所有権機関(WIPO)からIDAとしての承認を受けるために、国内研究機関や大学が保有する既存施設を選定することが見込まれている。

最終的にマレーシアのIDAが設立されるか否かにかかわらず、ブダペスト条約の受諾はそれ自体、国内の発明者や中小企業にとって好ましい展開となり得る。同条約は、なされた寄託が適法な寄託の要件を充足する場合、その真正性(および寄託日)を認証することを定めている。知財権の保護を求めるための経済的資力が不十分なことの多い国内の発明者や中小企業は、所有権の主張のためにそうした寄託に依拠できる。EPC規則31(1)(d)は、出願人は、以前寄託された生物材料に関する特許を有効に出願するためには、その前に寄託者の無条件かつ撤回不能の承諾を得ることが必要である旨を定めているが、これに類似した規定がマレーシアの特許法に盛り込まれれば、適法な寄託が生物材料の無権限の特許取得を防ぐ手段となり得る。

他方、ブダペスト条約の受諾は、生物多様性保全条約(以下「CBD条約」)の加盟国としてマレーシアが負う責任の障害となる可能性がある。実体審査手続において伝統的知識および遺伝資源文書を正式に認める規定は、マレーシアの第一次特許法改正には盛り込まれないと予想されるものの、二次以降の改正内容として提案されている。当該規定は、審査中に情報に基づく事前同意の証拠および原産地証明書を提出することを要求しており、伝統的知識と遺伝資源は調査の目的上、関連する先行技術と認められることになる。しかしながら、ブダペスト条約に基づいてなされる生物材料の寄託に関する厳格な秘密性は、アクセスや利益分配を目的とするCBD条約の遺伝資源の開示要件を実施する際にデータ収集の妨げとなり、その結果、信頼性をもって遺伝資源の乱用を特定することに支障が生じ、貴重な生物材料およびマレーシアの自然の生物資源に関するそうした乱用を互恵的に解決する見込みが困難になる可能性が十分ある。

結論

現在、マレーシアにおけるブダペスト条約の規定の導入の行方、およびそれが国内の特許業界とマレーシアの生物相の継承に与え得る正負の影響については、予想できるように、相当の不確実性がある。MyIPOは改正特許法案の施行規則をまだ公表していないが、その規則が、不確実性をさらに広げるのではなく、状況の明確化に資することが期待される。

ヘンリー・ゴー・アンド・カンパニー(Henry Goh & Co Sdn Bhd)

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ウーン・イェン・イェン(Oon Yen Yen)

特許マネジャー

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ウーン・イェン・イェンは、ヘンリー・ゴーの事業開発マネジャー兼特許マネジャーとして、マレーシアの特許法および特許実務に関する社内研修を含め、特許業務を監督している。マレーシアにおける出願の明細書作成と出願手続きに加え、外国の特許出願の提出と手続きに多くの経験を有する。日常的に新規性調査の結果に関しクライアントに助言を行うとともに、有効性、侵害、特許性に関する意見を提供し、インテレクチュアル・アセット・マネージメント(IAM)誌の「特許1000 - 世界をリードする特許実務家」において専門家の一人として推薦されている。またマネージメント・インテレクチュアル・プロパティ誌の知財ハンドブックの中でも、特許の出願手続きに加え、特許戦略とカウンセリング、意見、実施許諾、保護と訴訟、および異議申立の分野でもマレーシアの知財スターとして表彰されている。

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アルビン・ボイ

(Alvin Boey)

特許出願代理人

[email protected]

www.henrygoh.com

アルビン・ボイは、マレーシアの特許、工業意匠、商標の登録弁理士で、専門は機械発明の分野であり、モナシュ大学で機械工学の優等学位学士号を取得している。知財保護に関する国内外のクライアントへの助言、特許性、自由実施および侵害予防(FTO)調査に関する意見書の作成、特許明細書の作成、ならびに国内外の特許・工業意匠に係る出願手続の監督などの業務を専門とし、知財のワークショップやセミナーで頻繁に講演を行っている。アジア弁理士協会(APAA)会員。