28 Nov
2017

マレーシアにおけるライフサイエンス特許の保護:医薬用途クレームの執行

MyIPOによる特許法の解釈と適用は、欧州特許条約に含まれるバイオテクノロジー発明に関する規定およびバイオテクノロジー発明の法的保護に関するEUガイドラインに概ね準拠している。

定の発明の主題は、特許法第13条(1)項に定める特許性の除外対象となる。他の多くの主要特許管轄区域と同様、マレーシアでも除外項目の大半はライフサイエンスに関連している。第13条(1)項はとりわけ下記の発明の主題を特許性の除外対象としている。

「(a) 発見および科学理論

(b) 植物もしくは動物の変種、または植物もしくは動物の生産のための本質的な生物学的方法・・・

(d) 手術または治療による人体または動物体の処置方法、および人体または動物体の診断方法」

MyIPOの立場

マレーシア知的財産公社(MyIPO)による第13条(1)項(a)号および(b)号の解釈と適用は、2000年欧州特許条約(EPC)に含まれるバイオテクノロジー発明に関する規定およびバイオテクノロジー発明の法的保護に関するEUガイドライン(EU指令98/44/EC)に概ね準拠している。

発見に関しては(第13条(1)項(a)号に規定)、マレーシアでは新種の発見について特許権保護を取得することはできないものの、新種から取得された抽出物の組成や製剤に向けたクレームについては、その組成や抽出物が特許要件を満たす場合、MyIPOはこれを受理している。

第13条(1)項(b)号では、人工の生存微生物のほか,微生物学的方法および当該方法による製品が例外扱いされている。また欧州連合とほぼ同様、マレーシアでも、2004年新植物種保護法(Protection of New Plant Varieties Act)(2008年10月施行)により新植物種に対する独自の権利(sui generis)に基づく保護制度が定められた。動物種に関するMyIPOの第13条(1)項(b)号の解釈と適用はEPCおよびEU指令98/44/ECと同じである、と業界観測筋は指摘している。

処置と診断

薬品・医療セクターにとって興味深いのは、第13条(1)項(a)号および(b)号と同様、MyIPOが、処置・診断方法に対する第13条(1)項(d)号の解釈と適用にあたりEPCのガイドラインに準拠していることである。MyIPOの特許審査ガイドライン第IV章3.5項(2011年10月)には、同号の適用範囲内にあるとみなされ、したがって特許権保護の対象外となる発明の主題、および同号の適用範囲外とみなされる(すなわち、許容可能な)発明の主題の解釈に関する詳しい説明がある。

第13条(1)項(d)号は手術または治療による処置方法のみを除外している。したがって、治療の性質を持たない処置方法は特許権保護の対象から除外されない。そうした方法には美容方法(例えば、髪のパーマ、ウェーブ、ストレートパーマなど、美容を目的とする人体への物質の塗布)や成長促進のために人体や動物体に施す方法(例えば、商業生産高の増大方法)などが含まれる。

またMyIPOは、人体や動物体の特性の測定または記録方法も、それが基本的に生物学的特性ではなく技術的特性を持ち、工業的応用が可能な場合には、特許権保護の対象になると考えている。例えば、様々な診断走査方法、あるいは義肢や歯列矯正用の人口装具の製作を目的とする人体や動物体の測定方法は、特許権保護の対象から除外されない。

さらに、生存人体や動物体の診断方法であっても、それが、中間結果のみを生み出す情報の取得を伴い、それだけでは処置の決定を下すことができない場合には、特許権保護の対象になる。

第13条(1)項(d)号に基づいて除外されるには、処置または診断方法は生存人体や動物体に対して実行されることが条件となる。人体や動物体の体液や組織を摘出する処置は、それが人体や動物体に戻されない場合には特許権保護の対象外にはならない(すなわち、インビトロ法は許容されるのに対し、インビボ法は除外される)。

欧州特許庁(EPO)と同様、MyIPOも、「治療による処置」とは人体や動物体の疾患や障害の治療を意味するという見解を取っている。したがってMyIPOは、予防方法(例えば、免疫方法)は特許権保護の対象外になると捉えている。

当然、EPCにより、処置または診断方法において使用するための製品や器具は、マレーシアでも特許権保護の対象外にはならない(例えば、外科、治療または診断装置に対するクレームは許容される)。こうした考え方に従えば、人体や動物体の処置または診断方法において使用するための物質または組成物に対するクレームも同様に特許性を有する。

伝統的な処置方法のクレームはマレーシアでは許容されないものの、MyIPOが特定の目的限定的な製品、方法及び用途のクレーム(すなわち、 第一または第二医薬用途のクレーム)の特許付与を認めていることからすれば、そうした発明の主題に対する特許権保護の取得が依然として可能である。

物質の保護

既知の物質または組成物が過去に手術、治療または診断における用途(第一医薬用途)について開示されていない場合、かかる物質または組成物の新規用途の保護が特許法第14条(4)項に明示的に定められている。この同じ物質または組成物は、それ以後、その種の他のいかなる用途についても特許を取得することはできない。この形式に従ってクレームされる物質または組成物の保護は、それらが特定の用途のために提示またはパッケージ化される場合に限定される。

MyIPOは、用途に関連した製品のクレーム(purpose-related product claim)について次のような形式を受け入れることを示唆した。

  • 「疾患Yの治療方法において使用するための物質X」
  • 「疾患Yを治療する方法における物質X」
  • 「疾患Yの治療方法における物質X」

これは、用途に関連した製品のクレームは「使用するため(for use)」という表現を組み入れ、「疾患Yの治療方法において使用するための物質X」という形式を取らなければならないとする、当該クレームに関するEPOのガイダンス(EPOガイダンス7.1.2)と異なっている。

しかしながら、既知の物質または組成物の二次的な治療用途(すなわち、第二医薬用途)に対するクレームについては、特許法に明確な規定がない。MyIPOは、EPOの実務に従い、かかるクレームを認めることにした。高等裁判所は最近の事案(Merck Sharp & Dohme Corp対Hovid Bhd事件)で、当該クレームがマレーシアで特許取得可能であるとする判決を下した。MyIPOは、EPOや英国知的財産庁(UKIPO)と同様、二次医薬用途に係る次のようなクレーム形式を実務上受け入れている。

  • 「疾患Yの治療方法において使用するための物質X」
  • 「疾患Yの治療に向けた医薬の製造のための物質Xの使用」

言い換えれば、MyIPOは、第二医薬用途について目的限定的な方法の(すなわち、スイスタイプ)クレームと目的限定的な製品の(すなわち、EPCタイプ)クレームの両方を受け入れている。しかしながら、これは進化中の特許法分野であり、第二医薬用途に対するスイスタイプクレームの有効性(および執行可能性)に関する今後の欧州の決定次第では、MyIPOが立場を変える可能性がある。

スイスタイプクレームとEPCタイプクレーム

最近の欧州の判例法によって確立されたように、第二医薬用途に関するスイスタイプクレームとEPCタイプクレームは範囲が同じではない。後者の方が前者よりも範囲が広い。MyIPOはこの解釈を是認し、実務上、単一のクレームの組および単一のパテントファミリー内の同一の発明の主題についてスイスタイプとEPCタイプの両クレームを認めることにした。スイスタイプおよびEPCタイプクレームの技術的特徴は、特許法第26条に定義される一般的発明概念を構成する(すなわち、発明の単一性の欠如の問題が発生しない)ことから、両タイプのクレームが単一のクレームの組において許容される。両タイプのクレームは範囲が異なるため、ダブルパテントの問題も発生しないことから、同一のパテントファミリーにおいても受入可能である。

出願で複数の二次的な治療用途が同時に開示された場合、MyIPOは、単一のクレームの組における異なる用途に向けられたスイスタイプまたはEPCタイプの第二医薬用途クレームも認めることにした。ただし、それらが第26条に定める一般的発明概念を構成することが条件となる。

上述のように、EPCタイプクレームの範囲はスイスタイプクレームよりも広いことから、マレーシア特許の付与後補正を考慮する際に問題が発生する可能性がある。特許法第79A条(2)項は、明細書にそれまで開示されていなかった新しい発明の主題の挿入(すなわち、主題の追加)または付与時に認められた保護範囲の拡大が、補正によって生じないことを条件として、付与後補正を許容している。言い換えれば、付与後にスイスタイプクレーム(狭い範囲)からEPCタイプクレーム(広い範囲)に補正しようとする試みは認められないのに対し、EPCタイプクレームからスイスタイプクレームへの補正は認められる。そのため、欧州と同様、マレーシアのライフサイエンス特許の出願人は、特許出願で認められるクレーム範囲を厳密に検討するとともに、もし範囲変更を望むのであれば、付与前に自発補正を行うことを強く推奨される。

特許法は、特許出願が係属中の間はどんな時でも自発補正できることを定めており、MyIPOもこれを受け入れている。従来、MyIPOは、特許出願が許可された場合、自発補正との関係でもはや係属中に当たらないとする判断を一貫して示してきた(すなわち、許可後に提出された補正は受け入れられず、許可後にどんな追加補正が提出されても、許可されたクレームについて特許が付与される)。しかしながら最近、MyIPOはこのスタンスを幾分緩め、最初に発行される審査報告書が終了報告書(許可通知)である出願については、許可後2カ月以内の自発補正を受け入れるようになった。

またMyIPOは、スイスタイプクレームにおける投薬および投与プロトコルは、新規性、進歩性および産業上の利用可能性という標準的な特許要件を満たしている限り受入可能であることを最近肯定した。これは、スイスタイプクレームに投薬および投与プロトコルの記述がある場合、当該クレームは治療方法として解釈される(すなわち、第13条(1)項(d)号の定義に該当する)という従来のスタンスとは対照的である。

それにもかかわらず、今のところ第一または第二医薬用途クレームがマレーシアの裁判所で審理された事例はほとんどない。そのため、当該クレームの有効性に関して確立された国内の判例は限定的にとどまる。マレーシアにおける特許訴訟の歴史や最近の傾向からすれば、実体法に関わる事案がいずれマレーシアで提訴された場合、知財高等裁判所は、欧州や英国の判例を指針とする可能性が高い。

欧州や英国で確立された判例によれば、EPCタイプクレームは、表示に関して全面的な製品保護を提供するのに対し、スイスタイプクレームでは、クレームに記載された製造方法および当該方法の結果として直接取得される製品のみが保護される。マレーシアでも、方法クレームの範囲は、クレームに記載された方法および当該方法により直接取得される製品で構成されると特許法第36条(3)項(b)号に定められていることから、同じシナリオが当てはまる。

侵害

注意すべきは、特許法は直接侵害のみを定めており、間接または寄与侵害に関する規定がないことである。したがって、ほとんどのジェネリック製造活動は通常マレーシア国外で行われていることから、スイスタイプクレームの特許権者は、クレームされた方法によって直接取得される製品に関する直接侵害のみを主張できる。

こうした状況にあって、スイスタイプクレームの直接侵害の主張が困難に直面する場合がある。実際の製造活動はマレーシア国外で行われることから、直接侵害の主張に関して残された唯一の選択肢は、特許付与された製品の適用最終用途に関してクレームされた方法によって直接取得された製品の使用、販売または供給を主張することであると思われる。この場合でも、特許権者にとって様々な不確実性が残る。今日の大半の特許薬は複数の治療適用を有している。侵害の意図者は、適応外使用または特許対象外の用途を口実にして特許薬の販売または販売の申込みができるであろうことは想像に難くない。結局、欧州の類似事案において確立されたように、直接侵害の主張が成功するのは、最終使用者による製品の究極的な使用目的が特許対象の治療用途であることを侵害者が知っていたか、合理的に予想できた場合に限られる。他の障害としては、直接侵害に関する請求で成功するには、その医薬品の発売日、不適切な処方を防ぐために講じた措置、事件関係者の役割といった事案関連の状況を評価・証明する必要があることを挙げられる。

それにもかかわらずマレーシアでは、特許権者の独占権の中に、特許製品または特許方法によって直接取得された製品の独占的な輸入権が含まれており(第36条(3)項(a)号)、その結果、直接侵害を主張する更なる手段が提供されている。

以上を考慮した場合、マレーシアではスイスタイプの第二医薬用途の文言の使用によってしか発明をクレームできないとすれば、そうした発明についてマレーシアの特許保護を取得する価値があるだろうか。上述の不確実性にもかかわらず、答えはまず間違いなくイエスである。その主な理由は、第36条(3)項(a)号という重要な規定の存在、およびマレーシアが東南アジアでは数少ない専門の知財高等裁判所を有する国の1つであるという事実にある。

コメント

近年、東南アジアの製薬業は様々な理由から急成長している。その市場は人口が多い上、拡大傾向にあり、経済は着実に成長し(世界的な景気減速にもかかわらず)、糖尿病、肥満、心血管疾患などの慢性疾患の罹患率が上昇している。さらに、同地域の数カ国の政府は国民皆保険制度の提供に取り組んでおり、それに伴い域内のジェネリック医薬品市場が拡大している。ジェネリック製薬という点で特に注目すべき同地域の有望市場はタイとベトナムである。残念ながら、それらの国々(および同地域)では、規制の枠組みの整備がジェネリック製薬の成長率に追いついていない。

それにもかかわらず、抗がん剤の有力な国際的製薬会社は、隣国(ベトナム)で製薬を行ったが、その医薬品がマレーシアに輸入されたという理由に基づき、製薬方法を対象とするマレーシアの特許権を行使できた。その先発医薬品メーカーは、東南アジアの3カ国(シンガポール、マレーシア、インドネシア)で製法特許を保有していたが、マレーシアで訴訟を提起した。この決定の背後には、マレーシアで急成長しているジェネリック市場、特許法における輸入の条項、安定した専門知財高等裁判所の存在などの要因があったものと思われる。

ところで、MyIPOは近々、バイオテクノロジーの発明に関する特許審査ガイドラインを初めて公表する予定である。提案されるガイドラインは、EPC、EU指令98/44/ECおよびUKIPOの医療発明審査ガイドライン(2016年4月)に類似したものになると見込まれ、時期的に待望の特許法改正と併せて実施される可能性が高い。この改正では、(とりわけ)バイオテクノロジー用語の定義、第三者の参加、異議申立手続などが導入されると見られる。こうした展開は、マレーシアにおけるバイオテクノロジー特許、特に医薬用途クレームを含む特許の出願手続や解釈を巡る現在の不透明性の解消に寄与するだろう。

イェン・イェン・ウーン

(Yen Yen Oon)

特許マネジャー

ヘンリー・ゴーの特許マネジャーとして社内研修・教育を含め、特許業務を監督。ロンドン大学で法学修士号、マレーシア大学で微生物学の優等学位を取得。ライフサイエンスの特許を専門とする、マレーシアの特許、工業意匠、商標の登録弁理士。出願の明細書作成と出願手続きに関する助言には定評があり、特許性、侵害、業務の自由および有効性に関する意見は、クライアントの意思決定において重要な役割を果たしてきた。頻繁にワークショップを開催し、特許実務、特許のクレーム範囲の解釈、特許検索について発言。IAM誌の「特許1000」において推薦できる専門家として紹介され、マネージング・インテレクチュアル・プロパティ誌からマレーシアの知財スターとして表彰されている。

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