28 Nov
2017

M&Aにおける知財資源の統合

M&Aを予定している企業にとって、統合後の知財資源の構築に関する綿密な計画とそのタイムリーな実行が将来の事業の成功と円滑な経営に不可欠である。

M&A(合併・買収)は、事業サイクルにおいて不可欠な要素である。企業は、新市場への進出による事業の成長や、他の組織との経営統合を通じた何らかのシナジー(相乗効果)の実現を求めている。二つの企業が地理的に隣接していようと、大洋によって隔てられていようと、あるいは一方の企業が業界大手で、もう一方がスタートアップ企業であろうと、経営の統合にあたっては、それぞれの取引に固有の検討事項が存在する。特許ポートフォリオが関わる場合、両社の知財部門の統合にどう対処するかについて決定すべきことは多い。知財部門はそれぞれの異なる優先順位があり、独自の原則に基づいて全社的な知財戦略を運用し、相補的あるいは完全な違いを持つ特許ポートフォリオを有しているからである。二つの知財文化の融合は、ポートフォリオの規模、グローバル化、技術分野の重複、知財グループの地理的な近さといった要因によって、容易なこともあれば複雑なこともある。

合併しようとする企業は、統合後の知財資源をどのように構築するかについて重要な決定を下さなければならない。一方の企業が優位な知財ポジションを有していれば、その企業のグループが統合後の事業の知財活動と戦略の管理を継続する可能性が高くなる。しかし、両社がほぼ同格として結合する場合、誰が知的財産をコントロールするかという問題は、一筋縄ではいかなくなる。つまり、各事業部門がそれぞれのポートフォリオに対する支配権を維持するべきなのだろうか?それとも、中央の知財組織の下で知的財産を統合・管理すべきなのだろうか?事業部門の間にある程度の技術の重複が存在する場合、事業部門別の管理と中央管理には、ポートフォリオ管理プロセスと特許ライフサイクルの各段階、すなわち創出、維持、利用の段階ごとに、それぞれ異なるメリットとデメリットがある。

ポートフォリオ管理プロセス

知財創出は、研究開発によるイノベーションと事業の優先順位に左右される。中央集権型の組織では、あらゆる取り組みはトップから命じられ、事業部門へと割り振られていく。この場合、事業部門は原則として、会社の全体的な戦略的ビジョンに基づいて製品・サービスを開発する。知財創造における特許出願手続きの段階では、特許開発を担う各事業分ではなく、中央の知財組織に責任が置かれる場合がある。中央管理アプローチを用いた場合、特許の質やその他の測定指標を全社的に標準化することができる。また、中央の知財組織は、企業の中核ビジョンを推し進める戦略的な特許出願に注力するために、アイデア提出や特許出願のための情報開示の承認において、より慎重な姿勢を取ると思われることから、コスト節減も実現されるだろう。一方、事業部門が独自の戦略的ビジョンと製品ロードマップを打ち出す独立性をある程度与えられている場合、特許ポートフォリオを構築する独自の知財グループも設けていることがある。その責任を中央の知財組織に戻そうとすると、アイデアの優先順位付けやポートフォリオ構築のためのリソースの配分において何らかの不均衡が生じかねない。

知財維持には通常、市場や技術の変化とともに成長し、成熟する特許ポートフォリオの管理が含まれる。維持活動には、価値の高い資産の洗い出し、価値の低い資産の除去、ポートフォリオの不足部分の特定などが含まれる。大規模なポートフォリオの維持には高い費用がかかることは、よく知られるところである。中央の知財組織は、さまざまな知財資産の事業全体にかかわる重要性に優先順位をつけ、資産を失効させたり(維持費と年金の節約のため)、投資に対して何らかのリターンを得る目的で、いくつかの資産を組み合わせて売却処分をするなど、コスト節減が実現できる。中央の知財組織は、独立して活動している事業部門では見逃しがちなポートフォリオの不足部分を見つけやすい立場にある。そのような不足が、どれか一つの事業部門だけに存在するのではなく、ポートフォリオ全体の強化が見込まれるような領域にある場合は、特にその傾向がある。こうした場合の解決策としては、イノベーションを通じてそれらの不足を埋める方向に研究開発を進め、それによって特許出願を増やすか、あるいは外部から新しい特許資産を取得することが考えられる。さらに、知的財産の中央管理では、ポートフォリオ全体における余分な重複を突き止めやすくなるため、同じ製品や技術をカバーする複数の特許のうち、強いものを残し、弱いものを除去することによって、ここでもコスト節減を図ることができる。一方、創出のように、事業部門が独立性をもって活動している場合、その知財機能は同じ理由から中央の組織ではなく各事業部門の内部に置かれるべきである。そうすれば他の事業部門が何を行っているかを考慮する必要もなく、最も価値のある資産と、自身の領域において不足している部分を容易に突き止められるようになる。

検討すべきもう一つの問題である知財利用には通常、訴訟と主張、ライセンスとクロスライセンスに関する交渉などにおける攻撃あるいは防御を目的としたポートフォリオの使用が含まれる。また、特許の売却といった他の収益化活動も含まれる。中央管理の下では、会社の全体的な権利を守るために知的財産を複数の事業部門にわたって使うことができる。中央管理で特許資産をプールすることにより、ライセンス交渉においてより強い影響力を発揮したり、訴訟の際の防御を固めたりすることが可能となる。また、中央の知財組織の設置は、収益源として知的財産を利用することでポートフォリオの価値を最大限に生かす、より統一した戦略を実行することも可能にする。事業部門は、自分たちにとっての競争相手(事業部門ごとに異なることもある)を重視するきらいがあり、間接的な収益機会を見逃したり過小評価したりしかねない。しかし、中央の知財組織であれば、そうした競争相手にとらわれずに最初のライセンシーのプールを拡大し、全体的な視点から見なければ分からないような、従来にない機会を組み込むことに努めるであろう。中央管理で考えられるマイナス面の一つは、裁判において、事業部門が単独で権利行使した特許権が、その主張とは異なる形で解釈された場合に、特許の価値が失われかねないことである。クロスライセンスの交渉においても似たような欠点があげられる。こういったライセンス交渉の場において事業部門は、選択したターゲットに対し知財資産の活用を自身でコントロールできるほどの影響力がない可能性がある。同様に、中央管理のメリットは、事業部門がポートフォリオ全体の価値にとって不利となるような行動を取らないようにすることにある。

知財資源の統合

ここで再び、統合後の知財資源をどう構築すべきかを考えてみると、サービスもしくは技術の重複がほとんど存在しない状態で事業拠点の拡大や新しい事業領域への進出を図るために合併する場合、新会社の二つの事業部門を別々に活動させた方が理にかなっているといえる。中央の知財組織はコスト節減という形で知財維持に有利に働く一方、ポートフォリオ管理における知的財産の創出と利用の側面は、個々の事業部門で管理した方が強固になりやすい。各事業部門は、イノベーションを推進するために独自の研究開発チームを設けていることが多く、特許を統合ポートフォリオで運用しても、その製品ラインの防御や共通の特許ライセンシング・プールの構築におけるシナジーはほとんどないと考えられる。

より興味深い複雑な状況は、世界的に非常に強力な知的財産の基盤を持っている二つの企業が事業を結合する場合である。それぞれの側が統合後の会社に多数の特許をもたらす。知財組織の構造も、全社的な知財戦略もそれぞれ異なるであろう。事業をどのように結合するか、企業戦略をどういう方向に持っていくのか、そして資産を最も効果的かつ効率的に扱うにはどうすべきかについて、いくつかの厳しい選択を下さなければならない。最適な組織構造は、製品分野の重複の程度によって大きく変わる。事業部門が明確に分離されていて、技術の重複がほとんどない場合は、各事業部門に引き続きそれぞれの知的財産を管理させた方が理にかなう。何らかの地域的特徴がある場合は、特にそうである。たとえば、製品が特定の地域市場向けに開発されており、他の地域に移して展開することが想定されていない場合がこれにあたる。中央集権的な意思決定者を置いたり、グローバル方針の遵守を求めたりすると、個々の地域において知的財産を十分に開発し利用するための柔軟性が奪われかねない。

一方、技術の重複が大きい場合、別々の知財グループを置くと、ポートフォリオの最も効果的な利用を妨げるおそれが生じる。これは、異なる国の企業同士が非常に似通った製品ラインとサービスを持つ事業を合併する場合に当てはまる。この場合、地域ごとに知財グループが置かれることが多いが、各グループに独立して活動させると効率が悪くなり、コストが上昇する。地域グループの間の協力を促し、イノベーションと収益化戦略のための堅固な方向性を与えるためには、一元化された知財戦略が必要となる。

混合アプローチを検討する

中央管理と事業部門別管理の双方から最も価値あるメリットを引き出すために、混合モデルの導入を選択する企業もあると思われる。混合型の状況では、指導役となる中央の全社的な知財グループと、事業部門別あるいは地域別の知財グループが併存する。この概念はさまざまな形態を取りうるが、基本的に、一部の機能は中央グループ内で管理するのが一番うまくいく一方、別の機能は地域別あるいは事業部門別の知財グループにゆだねた方が効果的に管理できるという考えに基づいている。どのような体制を取るにせよ、中央の指導部とグループとの間、そしてあらゆる事業部門またはグループの間にオープンで頻繁なコミュニケーションがあること、そしてそれらのグループが円滑に調和して活動できるように、それぞれの役割が明確に定義されていることが不可欠となる。

特許出願を検討する

M&A後の最初の数週間において見逃されやすいもう一つの要素は、出願中の特許に関する計画を立てることである。これは特に、ポートフォリオに関してグローバルな対策が必要な場合である。たとえば、各関連会社がそれぞれの地域で非常に重要な知的財産を出願中であり、統合後の会社が営業することになる他の地域においても知的財産の保護を受けることが選択できるならば、その知的財産が統合後の会社に大きな価値をもたらす場合がある。別の国・地域に特許出願を移行させるための条件、そして何より、特許出願の移行が可能な期限については、厳しい規定が存在する。この期限はたいてい最初の出願提出日によって決まるため、合併日の前とはいかないまでも、ただちになされるべきである。手短に説明すると、出願には二通りの方法がある。

  • パリ条約を通じて行う場合、ある国で通常の国内出願として提出された特許出願は、当初の出願提出日から1年以内であれば他の国でも、その国の通常の国内出願として提出することができる。
  • 特許協力条約(PCT)を通じて行う場合、特許出願は現地国でPCT出願として提出することができる。出願者は30カ月以内に、どの国でその出願の審査プロセスの開始を希望するかを指定しなければならない。

こうした時間的制約により、各ポートフォリオの出願の総合的な検討に時間がかかりすぎると、他の重要な地域の新製品や予定している製品について、受けられる可能性のある特許保護を失うことになりかねない。中央の知財組織は、特許出願の移行を活用する方法を検討するのに、はるかに有利な立場にある。知的財産が地域の事業部門によって管理されている場合、他の地域の事業部門からはどの知的財産が利用可能なのか、あるいは製品の開発と展開に関するグローバル戦略がどうなっているのかを知る立場にないことが多い。

どこで、どのように出願を提出するかということに加え、ポートフォリオの実行戦略も考慮しなければならない。事業部門が互いに本質的に異なるとしたら、各事業部門が新製品と競争相手からの保護という点で現在と将来のニーズに最も適した形でその特許ポートフォリオを形成することが不可欠となるかもしれない。しかし、事業部門がより地域に基づいた形で編成されており、地域の事業部門の間で製品の重複が大きい場合、できる限り多くの製品販売国で保護が得られるようにポートフォリオを構築するには、中央管理アプローチの方が有用となる。また、全く同一の製品や類似の製品について複数の事業部門が別々の出願申請をするという労力の重複が生じない点で、コスト節減にも役立つ。先述したように、一つの国で特許出願を提出した後、適切なルートを経由し追加出願することで、製品に対する保護や技術を別の国に移転することができる。

単一の解決策はない

知財グループと特許ポートフォリオの統合にあたっては検討すべき問題が数多く存在するため、すべてのM&A状況に当てはまる単一の解決策はない。各企業は、関連する要因をもれなく検討し、新会社の統合後のリソースと特許資産を管理する最善の方法を決定しなければならない。綿密な知財戦略の有用性を過小評価したまま、後で対処しようと考えてM&Aに踏み切ると、予想していたよりはるかに大きなコストと労力が必要となったり、ポートフォリオの統合から期待した投資リターンが得られなかったりする。事業資産として特許は非常に重要であり、したがって綿密な戦略は新しい会社の長期的な成功と繁栄にとって極めて有用であるため、徹底的な検討と戦略の策定を優先すべきである。

エドワード・アーラッカー (Edward Ehrlacher)

米国IPサービス担当 バイスプレジデント

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エドワード・アーラッカーは、米国パテントエージェントであり、顧客との緊密な連携を通じて特許取得と特許出願開発の両面から顧客が知財ポジションを強化できるようにサポートしている。特許マイニング手法と技術評価、市場分析を組み合わせた特許分析を用いて、顧客の保有特許の向上を支援してきた。発明者の創案の特許を取得するために発明者と緊密に連携し、また、顧客の事業目的と合致した新しいアイデアを開発することによって、戦略的な特許ポートフォリオを構築している。TechPatsに入社する前は、半導体・フォトニクス業界でプロセス開発エンジニアを務めていた。

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