28 Nov
2017

INPIの新しい章の始まり

ブラジルでは、ミシェル・テメル大統領就任(2003年の労働者党の勝利以後初めての政権交代)1周年を迎えようとする中、知財業界には多くの祝福すべき出来事が起こっている。

働者党のジルマ・ルセフ大統領が弾劾された後の2016年8月に就任したテメル大統領は、開発商工省(MDIC)大臣にブラジルの弁護士で政治家のマルコス・ペレイラ氏を任命した。ぺレイラ大臣は、ブラジル特許庁(INPI)が長年抱える問題を抜本的に是正する画期的な政策を積極的に、次々と決定している。

新たな特許審査ガイドライン草案

INPIが抱える主な問題は特許審査における莫大なバックログであり、根本的な問題解決に向けてMDICおよびINPIは2017年7月31日付の連邦政府官報にて、本草案の公布日までに出願された特許出願、または国内移行された出願、審査請求待ちの係属中出願に関して得られる簡易手続きについてパブリックコメントを告示した。

告示された内容は、「MDICとINPIはこれまでバックログ是正策を実施し、新たに687名の特許審査官を雇用してある程度効果は見られたものの、今後8年でバックログの抜本的な解消策にはならないと判断し、よりブラジルへ出願する者の利益を最優先に考慮し、要件を満たす出願に対して「簡易手続き」つまり、本草案の公布日から90日以内で特許許可と査定する。」に対するパプリックコメントを募集するというものである。

ガイドライン案に定められた要件を満たす出願は、INPI発行の公報に許可通知が公開される。出願人は対応や請求を行う必要はなく、オプトアウトする場合のみその旨を表明するだけでよい。ガイドライン草案の第3条に規定されているとおり、特許出願の許可通知は、簡易手続の受入通知から90日以内に公開される。しかしながら、当の受入通知の公開の期限は定められていない。

ガイドライン草案の第1条は、分割出願、追加出願証明書および医薬品の製品および製剤工程に関連する出願は簡易手続に該当しないことを定めている。また、簡易手続を定めた法律の公布日以降に提出された出願は、このプログラムから除外され、さらに、たとえ第3条に定める90日の許可公開の期限内に提出された場合でも、第三者の所見が提出された出願も除外される。

ガイドライン草案の第2条は、出願が簡易手続許可プログラム案の適用を受けるには、下記の所定の条件を満たしていなければならないと定めている。

  • 特許出願または国内段階移行の申請が、簡易手続を定めた法律の公布日前にINPIに提出されていること
  • 簡易手続を定めた法律の公布日から30日以内に特許出願が公開されているか、早期公開の申請がなされていること
  • 簡易手続を定めた法律の公布日から30日以内に出願の審査請求がなされること
  • 支払うべき年次手数料が全額、期限通りに納付されていること
  • 当該出願に関して、ブラジル特許法(法律番号第9,279/96号)第35条の規定に基づく拒絶理由通知が発行されていないこと(すなわち、すでに審査官の実体審査の対象となり、1回以上の拒絶理由通知が出された出願は適用外となる)

ガイドライン草案の第4条は、出願人からの申請により特許出願がこのプログラムから除外されることを定めている。出願人は、第3条に定める90日の期限内にオプトアウト申請を行わなければならない。

ガイドライン草案の第5条は、国内段階への移行において公開または通知されるとおり、承認されるものであることを定めている。

技術移転に関する問題

ブラジルは今でも知財関連契約をINPIに登録する制度として維持している。これは、1970年代の輸入代替政策から引き継がれているものである。現行の産業財産法第211条には、「技術移転、フランチャイズが絡む契約および類似契約が第三者に関して効力を有するためには、INPIに登録されていなければならない」と定めている。

ブラジルで登録可能な契約のうち、INPIは知財関連契約を次の5つのカテゴリーに分類している。

  • 商標の使用(ライセンス)(「UM」)
  • 特許、実用新案または工業意匠の利用(ライセンス)(「EP」)
  • ノウハウを含む技術供与(「FT」)
  • ブラジル・フランチャイズ法(8955/94)に基づくフランチャイズ契約(「FRANQUIA」)
  • 科学・技術支援(「SAT」)

INPIはこれらのカテゴリーが二つ以上複合することも認めている。

著作権ライセンス契約や一部の技術契約など他の知財関連契約はINPI登録の対象にはならない。

INPIへの契約登録は、知財関連契約が契約当事者間で有効であるための条件ではないものの、第三者に対する対抗要件にもなる。すべての契約がINPIへの登録を義務づけているわけではないが、次の場合は登録が義務となる。

  • 海外からの支払送金 - ブラジルは厳しい為替管理規制を導入しており、その規定により、特許ライセンス、商標ライセンス、技術供与、技術支援およびフランチャイジングの対価として何等かの支払金(商標や特許ライセンスのほか技術移転に係るロイヤルティなど)をブラジルから海外の第三者に送金するには、ブラジル中央銀行(BACEN)の電子システムへの登録が義務付けられている。BACENの規則によれば、事前に知財関連契約をINPIに登録していることがBACENへの登録の前提条件である。
  • 課税控除の可能性 - ブラジル税法規によれば、ブラジルのライセンシーは法人税の算定にあたり支払ったロイヤルティを課税控除の対象とするには、関連する知財ライセンスをINPIに登録していることが前提条件になる。つまり、税務当局は、個々の知財関連契約がINPIに登録された後にのみ支払われたロイヤルティの課税控除を受け入れる。
  • 第三者に対する効力 - また、第三者に対して契約を有効にするためにも、知財ライセンスをINPIに登録していることが必要になる。さらにライセンシーが、実施許諾された知的財産に絡む請求を受けた場合に契約の定めに基づいてブラジル裁判所でライセンサーを代理する権利を取得するにも、INPIへの登録が必要とされる

知財関連契約の登録に関する過去からの問題は、成文化された規定に基づいて登録を承認するのではなく、INPIが受け入れやすい実務や基準に基づいた特定の要件に準拠した契約が提出された場合に限り、INPIの登録が認められるという点にある。INPIは、契約内容に関する実質的な審査を行い、契約の自由に対する幾つかの制限を適用してきたが、これらすべてに対して厳しい批判がなされてきた。

INPIの実務の最新動向

INPIの実務における他の動向に加え、過去1年、知財関連契約の分野における好ましい展開に向けた多くの機会が浮上した。

2016年7月15日、INPIは、利用者が契約に関する申請や文書提出をオンラインで行うことを可能にする「e Contratos(電子契約)」システムに関する決議第170号を公布した。この決議がもたらす改革の一つは、文書の原本の写しの提出が可能になることであり、原本証明コピーの取得および費用が不要になる(ただし、INPIが具体的に要求した場合を除く)。今後、企業と代理の弁護士は、INPIが原本の証明を要求した場合に備え、提出した文書の原本を保管する義務を負う。

2016年9月23日、INPIは事務管理を最適化し、業務展開を改善するために新組織構造を定める命令第8.854号を公布した。この新構造に伴う関連措置の一つとして、契約要覧の廃止、および知財関連契約の登録担当機関である技術契約総合調整局(General Coordination of Technology Contracts)がINPI長官の下に置かれると決定されたことが挙げられる。

さらに2017年4月12日、INPIは、技術移転契約の登録に関する新手続を導入する決議第70/2017号を公布した。この新手続は官僚的な手順を簡素化し、INPIの介入を制限することによって透明性を高めることを目的としている。同日開催された公式行事の中でペレイラ大臣は次のように宣言した。「この新決議はINPIの役割に対する現代的な最新の捉え方をもたらすものであり、その役割は登録という公式の行政行為に限定され、契約目的の適法性の検証のみを目的とする」

同決議は、明示的にINPIの役割を登録に限定してはいないものの、INPIが今後は、契約の価額や支払方法に関して当事者の独立性に介入しないことを示唆している。同決議第13条には、契約登録証明書は他の情報と並んで「宣言された契約額」や「宣言された支払方式」を反映したものとなると記載されている。この意味で、同決議ではINPIは財政、税務または外国資本法に基づく契約の分析を行わないことを示している(第13条XI項)。

それにもかかわらず、課税控除やロイヤルティの送金については、INPIへの知財関連契約の登録が依然として義務的であることを明記しておく必要がある。INPIがどの程度契約内容を分析するかは今のところ不明であるが、登録証明書には次の文言が記載されることになる。「INPIは、財政の観点からも、資金の海外送金に適用される法令の面からも、本契約を分析しない」

手続に関する決議第70/2017号の主な変更点は、説明文書(explanatory letter)の提示が不要となり、両契約当事者の登録様式の提出が必要となったことである。同決議は、INPIの決定書の交付に係る30日の期間(登録のために契約書を提示した日から起算)、およびINPIから提起される可能性のある拒絶理由通知に対して出願人の遵守に係る60日の期間を据え置いた。

決議第70/2017号は2017年7月1日に発効した。INPIは、新システムをさらに微調整するために決議第199/2017号を公布し、技術移転契約の審査に関するガイドラインを導入した。2017年7月7日に発効した同決議は、産業財産権のライセンスの審査・登録、ならびに集積回路の回路配置、技術移転およびフランチャイズ契約の登録の事務管理手続に関するガイドラインを定めたものである。

決議第199/2017号は一連の手続で構成されており、INPIの審査を受けるために提出された契約に適用される登録上の許容要件および形式的要件に関連してINPIが暗黙のうちに採用してきた上記ルールの一部を成文化している。この新決議は多くの問題に対処している。以下に例を示す。

  • INPIの公式手数料の支払いおよび支払証明書の提出
  • 外国で作成された文書に関する法的手続および各文書のポルトガル語翻訳
  • ブラジルで締結された契約書に立会人2名が署名する必要性
  • 契約書の全ページに署名する義務
  • 企業データの最新記録をINPIのデータベースに保管する必要性(記録は最長2年間有効)
  • 契約登録の要請における説明書の任意提出

INPIは技術移転契約の内容に関して次の点の分析を行う。

  • 契約目的が、第211条に定める技術移転の法的定義に適合しているか。
  • 対象知財権の出願の状況
  • 契約条件が対象知財権の有効性の条件に一致しているか
  • ライセンスまたはサブライセンス契約の独占性の根拠
  • ブラジル・フランチャイズ法第2条における法的定義に定めるフランチャイズの目的

この新決議では、ノウハウ契約は、契約終了時に技術の利用が終了するライセンスを関与させることができないとするINPIの理解が維持されているように思われる。決議第199/2017号第4条は、ノウハウのライセンスに言及することなく登録可能な契約タイプを列挙している。INPIに相談したところ、新決議は、第8条に規定される「技術供与」または「技術情報取得」契約のみを目的に制定されているように思われる。これは、ノウハウは実施許諾の対象にできないとするINPIの理解が継続されているものである。

注目すべきは、新決議の下では、ノウハウ移転契約の最大期間がもはや5年に限定されず、(正当な理由があれば)さらに5年間の延長が可能になると考えられることである。契約当事者は契約の有効期間を自由に定めることができる。しかしながら主な注意点は、決議第199/2017号では、同じ当事者が同じ目的で締結した追加的ノウハウ移転契約または関連技術・科学支援契約の提出が認められないことが明示的に定められていることである(第12条VI項(a)号および第12条VIII項(a)号)。実務上、これは当該契約の更新を禁止するものである。

出願に関連するライセンスに対するロイヤルティを禁止する実務は維持されている。商標、特許または集積回路の回路配置の出願に関与する契約を登録のために提出することは可能である。しかし、発行される各登録証明書には、契約価額やロイヤルティ料を定める欄に「なし」と表示されている。当事者は、関連する知財権の取得に成功した場合、合意された金額が反映されるように証明書の修正を要請しなければならない(第14条IV項)。

INPIは、知財契約の登録にあたり今後は税務規則を考慮に入れないため、支払い目的に対する1~5%の制限が撤廃されたかどうかは不明である。さしあたりの印象では、これに伴い、両当事者は独立企業原則やブラジル中央銀行規則を尊重しながら、契約に基づき外国の当事者に報酬を支払うことに自由に合意できるようである。ただし、課税控除の制限は依然として変わらない。

最近の制度変更にもかかわらず、ブラジルの知財関連契約の登録制度に存在する問題がすべて解決されたとは言えない状況である。しかしながら、ブラジルで技術を取り扱う知財所有者や企業は、最新動向を踏まえて、ブラジルで締結している自身の既存契約を再検討し、その修正が可能または有益かどうか(例えば、ブラジル国外への潜在的なロイヤルティ支払額を増やすためにロイヤルティ料率を変更できるかどうか)を検証することが望ましい。

ホベルト・カラペト (Roberto Carapeto)

弁護士

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ホベルト・カラペトは、Licks特許法律事務所の東京事務所の弁護士である。弁護士および研究者として豊富な経験を有し、総合法律事務所や知財専門法律事務所で知財関連の諸問題を取り扱ってきた。特許訴訟、偽造防止対策、不当競争などの広範な法務問題を専門としている。また、国際企業のために技術移転、知財権の出願、ライセンシングも取り扱う。

アジア企業の助言に豊富な経験を有する。早稲田大学で法学修士号を取得。また、日本技術貿易株式会社の客員研究員として経験を積んだ。現在は、早稲田大学の知的財産法制研究所のリサーチコラボレータを務めている。

オット・リックス (Otto Licks)

パートナー

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オット・リックスは、Licks特許法律事務所の創業者兼パートナーとして20年以上の経験を有している。事実審・上訴審の専門家として確固たる評価を得ており、知的財産、規制および食品・製薬業などの分野で、とりわけ医薬品、バイオテクノロジー、電気通信、エレクトロニクス、医療機器、情報技術関連のクライアントに助言を行っている。クライアントと協力して、国際特許・営業秘密の問題、不当競争、規制遵守、偽装表示、データパッケージの独占性、特許審査およびキイタム訴訟(私人による政府代理訴訟)が絡む事案を解決している。法執行という点に関して広範な国際的クライアントおよび豊富な経験を有し、ブラジル政府、規制機関および権利の私的裁定に対応している。

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