16 Sep
2016

復調

中国では最近活発な取引が見られるものの、特許単独で多額のロイヤルティ収入を生み出すことは引き続き困難な状況である。しかし、適切な技術やノウハウを有する者にとっての将来は好機に満ちているようだ。

当社のライセンシング問題は、突き詰めると全て中国に端を発している。中国企業がライセンスを受けなかったり、出荷量を過少申告したりすれば、当社のライセンシーの誰もが苦情を言う ― 元フォー チュン500社ライセンス供与担当役員

れまで活発な動きをみせていた中国のライセンス市場は、その重要性にもかかわらず、ここ数年ちょっとした小休止を経験してきた。しかし、複数の主要優良企業が関係する最近の大型特許ライセンス取引のニュースは、中国規制当局がクアルコムの特許ライセンス慣行の調査を終了してから1年、またインターデジタルに関する捜査の停止から2年近くを経て、市場が今再び目覚めようとしていることを示唆している。

クアルコムに科された多額の罰金や、インターデジタル騒動(米国の役員や従業員は逮捕される恐れがあったとのことである)の後遺症からも、中国においてライセンス取引を積極的に進めようとしている事業会社と特許不実施主体(NPE)がいずれも波風を立てようとしない理由が部分的に説明できる。この警戒感漂う状況において今ライセンサーとなるには、自社が現地企業の提携先として潜在的価値があることを納得させる力量があるかどうかにかっていることを意味する。「ムチ」よりも「アメ」が勝っていることを今まで以上に証明している時はない。

一方逆に、国内企業のIP戦略はますます高度化している。真のグローバル企業と国内市場に集中する企業との間には大きな格差が存在するが、前者の多くは今ではしっかりした自社研究開発機能や立派な特許ポートフォリオを持つようになっている。こうした会社の特許の大量購入に対する関心は今でも高いものの、次第に海外における自社シェアの拡大といった、ライセンス契約が生み出す双方にとってのプラス効果を評価するようになっている。自社特許をどう活用するのが最善であるかを考えるにつれ、彼らは次第に自分達がこうした取引の相手方の立場に立っていることに気が付くだろう。

高まる機運

2015年11月から2016年2月にかけて、クアルコムは、ZTE(中興通訊)、TCL(通訊科技)、奇酷、シャオミ(小米)、レノボなど、中国の主要スマートフォン・メーカーのほとんどをカバーする一連の標準必須特許(SEP)のライセンス取引を発表した。このサンディエゴ企業は同取引の金銭面での条件は開示しなかったが、中国の価格設定監視機関と同社の2015年2月の和解の一環として作成された「是正計画」の条件に沿った内容であると述べた。中国国家発展改革委員会(NDRC)は、正味販売価格の65%を実施料の基準として用い、第3世代(3G)機器では5%、第4世代(4G)機器では3.5%を実施料率とすることを求めていた。

こうした契約は、中国との交渉が期待していたほど進んでいないことを明かしていたクアルコムに安堵をもたらすだろう。11月の投資家電話会議で述べたコメントの中で、同社が直面していた強硬戦術が明らかにされていた。デレク・アベール社長は、「一部のライセンシーは恐らく少し攻めの交渉スタンスを取っていて、交渉期間中の支払を保留し始めています」と述べた上で、「自信はあります。彼らは、自分達に実施料の支払義務があることを理解しており、契約が締結され次第、支払うことに同意しています。但しその時期が不確定なのです」と付け加えた。今では主要ライセンスの契約締結が完了したことにより、遅延しているこうした支払をクアルコムが受領することにはなっているが、それまでの間、この不足収益について投資家に説明しなければならなかったことは、取引完了に対するプレッシャーを増大 させたであろう。

事業会社とNPEの双方に対して中国のライセンス関連事項を扱うデチャート(Dechert LLP)のパートナーであるルイス・ホーは、クアルコムやエリクソン(1月にファーウェイとの既存クロスライセンスを延長)が締結した周知の契約の他、かなりの数のNPE活動が水面下で 進んでいると報告する。

しかし、SEPの領域外ではNDRCの指導待ちで保留となっていた交渉は少なくなっており、活動の顕著な増加は見られなかった。SEPのライセンス供与を行っていないIBMのアジア太平洋IPライセンス部門長である スティーブ・ジョロフは、IAMに対し、調査は議論に上ってはいたものの、交渉を妨げるには至らなかったと話し、「一部の中国企業は調査を私達にとって不利になるように利用して何らかの制限を適用する機会を探していましたが、ただそういう機会はありませんでした」と述べた。ジョロフは、ライセンス活動は、近年でも、中国の技術セクターの規模の割にはかなり低い水準に留まっていると示唆する。

成長

クアルコムはアナリストとの収支報告会議の中で同社が直面した引き伸ばし作戦について遺憾の意を表明していたが、それは決して中国固有の現象について述べたものではなかった。そしてこの点においてさえ、中国企業は高度化しつつあることを、特許権者らは認めている。「5年前の遅延作戦は、ドアを閉めて会うことを拒否するというものでしたが、新しい戦術は、会合を延期したり過剰な文書や無関係な文書を要求するなど、他国企業に匹敵するレベルになっています」と香港のパテントプール管理会社シズベルの代表取締役であるロイ・ チェンは言う。

ジョロフは、契約を先送りしたいという願望が交渉相手の典型的な動機付け要因となっていることを認め、「相手方当事者の主な目的は、取引がもたらし得る潜在的価値を理解することではなく、取引の回避であることがよくあります。取引を回避するのは容易であるため、たとえこちらが多くの価値を相手に提供できる場合でも取引が不可能となることがあります」と言う。

しかし、中国企業は自社事業を海外で大きくしたいと考えており、彼らは徐々に海外市場で営業する自由を確保するための成熟したIP機能の整備を進めている。この傾向は、売り手やブローカーだけではなく、ライセンサーにも可能性を広げつつある。「ヨーロッパや他の先進国市場で特許の権利行使を行いたければ、そうした市場で重要なビジネスを展開している企業とライセンスについて交渉することが必要となります」とチェンは言う。グローバルな会社と国内事業のみを重視している会社との違いははっきりしている。「私達の成功は、中国国外でビジネスを行っている会社との間によるものです」とジョロフは認める。「彼らは既にIPから価値を得ているか、その方法を学ぶ姿勢があるかのどちらか です。」

トランスパシフィックIPのガイ・プルークス会長兼CEOによると、締結される取引増加の背後には、単にSEPに関する方針が明確になったこと以上のものがあるという。「多くの場合、企業には守るべき大きな市場シェアがあり、また今やファーウェイやシャオミ(小米)、オッポ(欧珀)といった企業の間には非常に激しい競争があり、こうした企業はサムスンやアップルのような企業とも戦っているのです。そうしたプレッシャーが、ライセンス供与の行われ方という点で、真に変化の推進力と なっています」

知財チームが海外で自由に営業活動を行う権限を確保している場合でさえ、ライセンス契約は非常に難しい。「特許を購入する会社はまだたくさんありますが、ライセンスを受けてもらうのは常に難しい交渉になります」とプルークスは続ける。時に中国企業は、ライセンス契約は拒否する一方で、特許の一式購入を申し入れてくる場合がある。多くは、主として国内のライバル会社について心配しており、特定市場からライバルを締め出すために独占的知的財産権の取得を望んでいる。所有権の単純なメリットと比べて抽象的なライセンスの価値は、知財の世界に不慣れな面々にはわかりにくいこともある。「成熟度の低い企業は、クロスライセンシングから何が得られるのかを理解していません」とジョロフは認める。「彼らに複数の特許を侵害していることを示せたとしても、彼らはそこから十分な対価を得ているとは受け取らないのです。」

しかし、より成熟した研究開発や特許ポートフォリオを持つ少数の選り抜きの中国企業にとっては、積極的にクロスライセンスを求め、中国国外での市場シェアを増やすための機は熟している。「ライセンシーが確実に価値を理解し、ライセンサーが受容可能な収益を得られるようにするという点では、中国での交渉は常に厳しいものです」とプルークスは言う。「しかし、数年前のような割高な特許の価値評価はなくなっており、中国企業にとって今はいろいろな意味で一歩踏み出すのにちょうどよい時期だといえます。」

穏やかに、穏やかに

図1.知的財産の使用に対する中国の支払額

図2.知的財産の使用に対する中国の受取額

インターデジタルの捜査中に見られた身柄拘束もあり得た厄介な状況や、NDRCがクアルコムに科した落涙ものの9億7,500万ドルの罰金にもかかわらず、大手ライセンシング各社は、中国で下されたこうした規制上の判断によって同業界の地盤は強固になったと主張する。クアルコムの経営幹部は、1度罰金を科せられたにもかかわらず、SEPに関する方針が明確になったことによって、中国の巨大な標準特許実施者のエコシステムからより多くの収益を集めることができるようになるだろうと常に 主張している。

近年アジアで非常に活発に活動している別のSEP所有者であるエリクソンは、この判決の最も重要なポイントは、変化がなかった箇所だと示唆する。特許戦略およびポートフォリオ管理担当副社長のグスタフ・ブリスマークは、クアルコムの判決では、端末機器の販売価格が適切な実施料の基準として認められたことにより、「それまで疑問があった範囲も含めて端末機器における現行の業界のライセンスに関する水準は正当であることが明確になりました」と言う。「つまりここには変更がありません。現行の業界慣行が確認されただけです」と彼は付け加えた。

エリクソンの見方によると、この判決のもう一つの重要な特徴は、これが中国市場に限られているという点である。ブリスマークは言葉を続ける。「救済の適用が中国国内での使用向けに中国メーカーが販売した機器に限られていることは、中国の政府機関は中国領土外に範囲が及ぶ可能性のある救済を採用しないよう意識していることを示しています。」

表1.中国の国家知財戦略の予想指標 ― 2014年~2020年

2013年

2015年

2020年

財産権の実施料およびフランチャイズ料による輸出収入(単位:億ドル)

13.6

20

80

チェンは、判決後、SEPライセンシングを取り巻く規制はより明確となり、将来この傾向はさらに強まるはずであるという見解に賛成している。但し、「SEPの世界では、完全に明確になるということはまずありえないでしょう」。チェンはさらに中国当局は徐々にライセンサーの立場に近い観点を持つようになる可能性がある、と続けた。「政府は、以前はこうした問題を完全にライセンシーの観点から見ていました。しかし今や中国企業は大型ポートフォリオを有し、次第にこれを収益化しようと考えるようになっていますから、政府はライセンス交渉において双方の利害を考慮に入れた、よりバランスのとれたアプローチを取りたいと考えるようになるでしょう。」

図3.中国国家知識産権局(SIPO)に記録された発明特許ライセンス活動*

*データには、新規特許ライセンス契約、既存契約の変更および特許ライセンス契約の解除が 含まれている。

しかし、中国での知財保護強化に向けた進展―直近では昨年の知財専門裁判所の創設を通した動き―にとって、ライセンス戦略として注目を集める侵害訴訟を起こすことはリスキーな作戦であるという点で意見は一致している。事業会社は、新たに独禁法捜査を招く可能性があることによって中国におけるライセンス以外のビジネスが危険にさらされることを警戒している。「我々は中国ではまだこうしたタイプの訴訟については実績がないため、よくわからないことが多いのです」とチェンは言う。「大手企業の中には、周囲を見回しつつ、今こそ中国で訴訟に持ち込む適切な時期ではないかと考えている企業があることは確かですが、誰もその一番手にはなりたくないのです。」

NPEも必ずしも危険を冒したいとは考えていない。ホーは、過去に彼らの代理で訴訟を起こしたことはあるものの、NPEの顧客が最も嫌がることは、注目を浴びるようなキャンペーンであると言う。「私の助言は、常に目立たぬようにする、ということです。訴訟を起こして中国からライセンスの実施料収益を得ようとする従来のモデルは過去のものです。望ましい戦略は、地元の企業や教育機関と協力し、研究開発や知財保護におけるビジネスパートナーとして見られるようになることです。」

しかし、ビジネスの観点から双方にとって筋が通っている提案書を持ち込む需要に際限はない、とプルークスは主張する。中国市場では良いビジネスができる、と。「中国の当事者たちは必要以上に支払う気はありませんが、自社のリスク分野が保護されることを望んでいます」と彼は説明する。「該当技術についてきちんと説明し、何故ライセンス契約を結ばなければならないかについて話し、最初から道理にかなったアプローチを取る必要があるのです。」

図4.2015年~2016年の中国における特許ライセンスの動向(抜粋)

特許だけでは不十分

訴訟を第一とする戦略は、よくて非生産的、悪くすると生存を危うくすることにもなるという事実はライセンス供与を見込む者にとっては鞭より飴の方が重要ということを意味する。特許のみの取引は成立し難いため、ライセンサー、特にNPEは中国のパートナー候補に何を提供できるかについて創意工夫を凝らす必要がある。

純粋な特許ライセンス契約と比べてより広範な商業契約の出現は必ずしも新しいことではないし、中国に限られる話でもない。ブリスマークは指摘する。「ライセンス契約条件は、その名前が示す通り常に現金を超えた対価や条件を伴うものでした。可能性は無限にあり、二者間の交渉においては、当事者は自分達の目的に最も有効な取り決めを行います」。ところが2つの理由から、この傾向はおそらく中国においてはより顕著となる。1つ目の理由は、目立った特許訴訟がないため訴訟の恐れ自体が取引を推進する上であまり有効な方法ではないということである。2つ目は、中国企業は特許の点だけではなく一般的な研究開発能力という点でも追いつこうと努力しており、大手テクノロジー企業には技術移転や知識移転の方法で彼らの気を引く手段がたく さんあるという点である。

「中国では、単独型のクロスライセンスはあっても少数です」とジョロフは言う。「私達は特許ライセンスに加えて、特許の譲渡や技術ライセンス、共同開発契約、ソースコード・ライセンスの移転など、他の契約も取りまとめて行います」大抵の中国企業においては知財戦略は経営幹部からの指示で動くものではないため、単純な現金とライセンスの交換よりも幅広い技術協力を伴う取引を組み立てる方が、知財チームは役員会からの承認を得やすいのである。「中国企業に特許を売るにせよ、その製品ライン拡張の手助けをするにせよ、多くのものが盛り込まれていた方が、彼らはイエスと言い易くなるのです」とジョロフは説明する。

適応するNPE

現在の環境は、NPEにとって特に難しい状況となっている。特許の実施という面では目立たずにいることを望みつつ取引も成立させようとするなら、自分達は単なる特許権の主張者ではなく、中国企業が自社の提供製品や知財戦略を改善するのに役立つ付随的な技術の専門知識の源泉でもあることを、ライセンシーに納得してもらう必要がある。

「数千万から億単位の金額の取引に関して私達が関与している主な協議は全て、重要な特許ポートフォリオだけでなく、技術移転や製品への応用に関するものです」

プルークスは、NPEも事業会社も、飴と鞭のアプローチを用いて地元中国企業との提携も含む様々なモデルを用いながら、中国で上手くライセンシングのキャンペーンを行っていると見ている。しかしプルークスは、推進できる協力方法の選択肢をより多く持つ事業会社の方が有利であることを示唆する。「非事業会社の方が難しくなります。」と彼は続ける。「数千万から億単位の金額の取引に関して私達が関与している主な協議は全て、重要な特許ポートフォリオだけでなく技術移転や製品への応用に関するものです。」

中国企業の自社特許の収益化への関心が高まる中、知財ノウハウ自体がNPEからの効果的なソフト・アプローチの基礎となり得るとホーは言う。「クライアントであるNPEの中には、単に中国企業にライセンスを供与したり特許を売ったりするだけではなく、実施料やクロスライセンスに関する競合他社との交渉方法について助言する等、こうした資産を利用してその価値を最大化する方法についての指導を行っているところもあります。」

加えて、一般に「中国企業が強力な知財ポートフォリオを持つ協力できるパートナーを探していることをNPEは知っているので、ケンカ腰ではなく友好的なアプローチを取っています」と言う。一例として示されたのが、25社にのぼる中国の「ユニコーン」企業(評価額が10億ドルを超えるベンチャー企業)である。こうした目まぐるしい中で頂点の評価を維持することは、中国国外を含めて一貫した有望な成長を意味することになるが、それにはこうした企業の多くが有していない知的財産が必要である。ホーは、未熟であることが多いそうした企業の知財チームではなく、役員会メンバーであるベンチャーキャピタリストを通してアプローチする方法を好む。「会社を支援する投資家たちに、企業価値を最大化するためにはその知財ポートフォリオを強化する必要がある点について納得してもらう必要があります」。会社が新たな市場に進出し、それによって投資家への約束を守るのに特許ライセンスがいかに役に立つかを示すことができれば、NPEは単に成功している新興企業からお金を吸い上げたいだけだという考えを一掃するのに大いに役立つ。「こうした企業の多くは大規模な知財部門がありませんし、その経営上層部は知財に関する専門知識がなかったり、自社の企業価値に確信を持っていなかったりします」とホーは警告する。「ですから、適切なアングルを見つけ、彼らが取引を行う理由を見出すことができるよう手助けする必要があります。」

結局のところ、NPEと事業会社の両方にとって中国での成功へのレシピであると思われる目立たない協力的アプローチは、ライセンス市場と中国の知財業界双方の長期的な健全さにとっても最善であると思われる。「訴訟がないことがライセンス市場の成長の足かせになっているかどうかはわかりません」とプルークスは思いを巡らす。「特許とは、結局のところ技術であり、技術移転の協議や取引が増えることは知財一般にとって、また特に中国におけるその成長にとって好ましいことです。」

 

合弁事業

中国で特許から収入を得る場合、より広範な商業取引の一環として技術移転や知識移転が伴うことが多い。中国で事業を営む大企業は、国営や民営の中国企業と合弁関係を有することが多い。

その最新の例が、サーバーチップの開発を目的とする貴州省政府とクアルコムの間で2億8,000万ドルを投じて設立された合弁事業である。クアルコムはこの合弁会社を通じて自社チップを販売する計画であるが、自社の技術のライセンス供与を行い新製品の共同開発を進めることも計画している。クアルコムは、NDRCによる調査が行われていた間も、半導体企業のSMICとの提携や中国の新規事業への1億5,000万ドルの提供といった約束を通して、中国における現地企業との提携を継続して進めていた。

こうした関係が特許ライセンス事業に何か直接的な影響を及ぼすかどうかについて、クアルコムの上級副社長兼ゼネラルマネージャーのアナンド・チャンドラセカールは次のように述べている:「中国は非常に大きな市場です。何らかの波及効果があるか、ですか?それはわかりません。しかし、ハロー効果があれば素晴らしいこと ですから、それを受けたいものです」。

合弁事業を行う場合、外国企業側は自社の財産的技術や営業秘密が確実に保護されるよう、多くのデューデリジェンスを行う必要がある。デチャートのパートナー、ルイス・ホーは、NPEや他の顧客に対し、合弁事業モデルについては熟考するよう警告している。「私はこの仕組みについてはかなり悲観的に見ています。というのも、このモデルでは一定のビジネス上の意思決定や営業秘密に関するコントロールがある程度失われることになるからです。これを採用するなら、それなりの覚悟が必要となります」。しかし、大企業にとって、例えば規制当局との和解などの一定の状況においてはこれが必要な場合があることも認めている。

外国の大企業にとって、政府とつながりのある会社との合弁事業は、中国で営業活動を行うためには不可避なコストであるといえる。知財の観点からは注意を要するとはいえ、一方で、特許収入によって推進されるビジネスが中国の技術部門の発展に役立ち得ることを示しつつ、中国の知財環境の進化においてプラスの役割を果たしていく可能性も考えられる。

コンプライアンスの懸念

クアルコムが未解決だった中国での主な取引を成立させることができたという事実はもちろん心強いことではあるが、経営幹部らは、悪魔は細部に宿ることを明らかにしている。同社の中国事業の収益が成功を裏付けるか期待外れとなるかは、契約書に何が書かれているかということだけではなく、それがどのように実行されるかにかかっている。同社は、中国でのライセンス許諾機器の売上の過少申告についてかねてより不満を述べており、中国のOEMが世界市場全体でシェアを拡大すれば将来収益にマイナスの影響を与えることになるかもしれないとまで言っている。

ギャップを数字で表すと、同社の直近の収支報告会議において「私達が世界全体での機器の売上として示した数字と申告された機器の売上の差を見ると、2015年には9%、つまり250億ドルでした」とアベールはアナリスト達に伝えている。その主な原因として挙げられたのが次の3点である:まだライセンス許諾されていない機器の売上、交渉戦略として実施料が保留とされていたライセンス許諾機器の売上分、そしてライセンシーによる過少申告である。同社が主要企業との間で締結した契約数が増えたことにより、最初の2つのカテゴリーの実施料は今後次第に把握されるようになるであろうが、「それによってコンプライアンスの問題だけが残ることになりますが、これについてはまだ努力が必要です」とアベールは言う。

クアルコムは、販売されたチップの数量を評価し、申告される機器の売上と比較することができるという羨ましい立場にあるが、これは全てのライセンサーに可能なことではない。ホーは、この懸念は中国固有のものではないものの、実施主体・不実施主体いずれの顧客にとっても、最終ユニットの実施料を回収する際の主要な懸念であると指摘する。「私達は一般に、ライセンサーが工場や帳簿の検査を行うことができるよう契約に沢山の監査権を織り込もうとします。これは通常非常に異論の多い条項だと言わざるを得ませんが、これを強く主張するようにしています」。多くのライセンサーは、検証に使える広範な生の売上データを開示する定期的な詳しい実施料報告書を要求する。政府データや民間市場調査といった外部の情報源によっても出荷量を明らかにすることができる。「中国の環境も他と何ら変わりません。契約無視を防止するためにきちんと準備し、綿密に活動を監視する必要があるということです。」とホーは警告する。

もちろん、このことは、一般的な執行救済の多くが基本的に対象外である場合にライセンス市場はどのように機能するのかという問題を再び提起する。クアルコムは、中国に関して次のように述べている:「私達は、誠実に交渉を行わず、実施料について過少に申告したり迅速な契約締結を拒む一部のOEMに対しては、契約を執行しその他の措置を講じる準備があります。」ホーは、中国のライセンシーとの紛争をどう解決するかという問題は今なお存在する大きな問題だと言う。「法廷闘争では実施料率など契約条件の秘密は保たれません。私は今も、香港またはシンガポールでの仲裁が、中国企業とアメリカ企業の双方が受け入れ可能な最善の妥協案だと考えています」。香港は、契約の準拠法と言う点でも妥協候補となることが多いことが付言された。

立場の逆転

一方、ファーウェイやZTE(中興通訊)など特許を豊富に持つ中国の大企業の発展は、中国企業が次第に特許取引から収益を得る側になるだろうことを示唆している。ブリスマークは、中国企業が既に第3世代パートナーシップ・プロジェクト(3GPP)携帯電話規格への主要な技術貢献者に含まれていることを指摘し、「私達は、中国企業をライセンサー側として見ることが増える でしょう」と予測する。

1つには、資金調達に知的財産を利用する等、既に収益化の形を有している知的財産を商業化するための道をもっと見つけるよう中国政府から企業に対してかけられている圧力がある。しかし、これは自己達成的現象になりつつもあるとプルークスは言う。「商業化、収益化に対する願望は、CFOレベルでの動きとなっています。彼らは何らかのリターンを得ることができるのかどうかを知りたいと考えているのです。バイオ技術や医療機器のような業界では、こうしたことは既に起こりつつあります」。プルークスは、中国企業は期待できる収益を評価して欲しいと考えているため、トランスパシフィックが行っている価値評価では、中国企業からのものがかつてなく多くなっていると加えた。

この収益化への関心の高まりは、外国の特許権者にとっても良い兆候である。というのも、ライセンスの交渉に前向きであることが積極的な収益化推進者に不可欠な要素だからである。「私は、中国の大手特許保有企業が自社ポートフォリオから収益をあげようとする姿を是非見たいものです。」とジョロフは言う。「そうしたタイプの会社こそが、成熟した合理的な話し合いができる相手となります。彼らは与えるものと得るもののバランス感覚を理解しているからです」。

シズベルの最高ライセンス供与責任者であるベン・ブーネは、ある時点で、「中国企業は、単に特許を保有することにはほとんど価値がないことに気づき、その自衛目的での利用を超えて動き出すであろう」と信じている。シズベルが初めてロング・ターム・エボリューション(LTE)プールを組成するための特許を求めて呼びかけた時、中国電信科学技術研究院は、米国やヨーロッパの知財権者がどのようにして自社の特許から収益を生むことを可能にしたかに大きな関心を示した。現在、同社は、このプールに参加する唯一の中国の特許権者である。「私達は、もちろん、より多くのライセンサーとしての中国企業と協力したいと考えています」とブーネは言う。「特許プールは大きければ大きいほど良いわけですから。」

もちろん、中国企業が集団的に特許ライセンス界の強力プレーヤーになるような真の立場の逆転はまだずっと先のことである。ホーは、こうした状況は短期的に外国のライセンス会社に素晴らしい展望が提供されることになると考えている。ひとたび中国がNPEやその他特許専門企業に相当する自前の成熟した機能を備えてしまえば、アウトサイダーが入れる隙間はなくなってしまうかもしれない。「欧米のNPEにとっては、今後5年間が中国における絶好の時期となります」と結論付ける。「成長しつつある数々の中国企業は、そのビジネスモデルを転換して国際企業となるためには、まだそうしたNPEの手助けや支援が必要なのです。」

行動計画

中国のライセンス市場は、同国の技術経済の規模の割にはまだ小さいが、このことは、特許のライセンス供与を目指す事業会社にもNPEにも、見出すべき価値がないということを意味するものではない。この分野の熟練者達は、現実的な取引を導くために以下の秘訣があることを示唆している。
  • ソフトなアプローチを取ること。訴訟や規制環境の不確実性だけではなく、海外でビジネスを行う中国企業は、これまで以上に多くの利用可能な手段を持っている。ライセンサーは、双方にとって経営上意義のある取引による建設的なアプローチを取る方がずっと成功しやすい。
  • 純粋な特許取引は成立しない。技術移転であれノウハウの交換であれ、或いは共同開発契約であれ、単なる知的財産権と現金の取引以上のものを含める方が、相手方の同意を得るのが格段に容易となる。
  • 投資家にアプローチすること。中国には、価値は高いが若くて、まだ実質的な全社的知財機能が発達していない新興技術企業が数多く存在している。役員会のメンバーであるベンチャーキャピタリストを探し出し、海外へ進出したり高い企業価値を正当化するために、自社の特許ポジションを強化することがいかに不可欠であるかを説明すること。
  • 相手に合わせて取引を仕立てること。過度に広範な取引は中国企業には敬遠される。むしろ、自社の最大のリスク分野を特定し、的を絞った費用対効果の高いやり方でこれに対処したいと考えている。 説明し、教育する。中国企業は自社独自の収益化プログラムの開発に注力するようになってきている。取引においては、外国企業の特許戦略に関する専門知識が、相手方に引き換えとして提供できる最重要事項の1つであることも多い。
  • コンプライアンス状況を監視する。実施料の過少申告は中国固有の問題ではないが、最近の注目度が高くなっている。契約交渉においては、監査権に最も議論が集中することが多い。

筆者紹介 ジェイコブ・シンドラーは 、香港に拠点を置くIAMのアジア太平洋編集長 である。